↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の転生チート《超成長》がどう考えても壊れている ~楽するために努力していたら故郷が発展していきます~  作者: MIYA
第3章 都会の仕事には近道がない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/33

第23話 昇格確認は剣を抜かない

「討伐証明の袋は、今回は必要ありません」


 ギルドの職員にそう言われ、差し出しかけた手を引っ込めた。


 昇格確認依頼の朝、渡されたのは地図と二人分の人相書きだった。いや、人相書きというほど詳しくもない。年齢や服装、持っていた道具が書いてあるだけだ。


 一人は四十代の男性。採集歴が長く、北西の林道には何度も入っているらしい。


 もう一人はミーナという若い女性。二人で薬草と樹皮を採りに出たまま、昨日の夕方になっても帰ってこなかった。宿にも戻っていない。


「試験だからって、特別な場所へ行くわけじゃないんですね」


 俺が言うと、職員は地図の一角を指で押さえた。


「困っている人の場所は、試験に合わせて決まりませんから」


「……ごもっともです」


 どうやら昇格用の専用イベントではなく、本物の捜索依頼らしい。


 依頼票には、発見を最優先とある。怪我人がいた場合は状態を確かめ、無理に動かさないこと。危険が大きければ救援を求めること。


「二人とも見つけたら合格ですか?」


「現場で何を確認し、どう判断したかも見ます。結果だけで判断する依頼ではありません」


「つまり、敵を倒しても加点にはならない?」


「敵が出るとは限りませんよ」


 職員はそれ以上説明せず、地図を差し出した。


 そりゃそうか。行方不明者が二人もいるのに、敵が出る前提で考えるのはおかしい。


「範囲、結構広いね」


 ミレアが地図を広げ、指で林道をたどった。


「ああ。でも、最後に見られた場所から順番に探せばいい」


「二手に分かれる?」


「最初は一緒に行こう。何があったか分からないし」


 ミレアは頷(うなず)き、道具を確かめた。短剣、縄、水筒。俺も同じように装備を見直す。


 腰の片手剣は修理してからまだ刃先に違和感がある。左前腕の傷も閉じたとはいえ、無茶な力仕事をする気にはなれない。


 できれば剣を使わずに終わらせたい。


 その方が怪我もしないし、早く昇格して迷宮へ行ける。


    *


 北西門からしばらく進み、迷宮管理所へ向かう道の途中で林道へ入った。


 昨日通った道とは違い、人の行き来が少ない。木の根が地面を横切り、道の端には低い草が生えている。


「ここだね」


 ミレアが立ち止まった。


 林道脇の低木に、枝の折れた跡があった。足元の土には靴跡が残っている。


 しゃがんで確かめると、形の違う跡が二種類あった。一つは幅が広く、踵(かかと)の外側がよく減っている。もう一つはそれより小さい。


「二人分かな」


「可能性はある。でも昨日のものかどうかまでは分からない」


「雨は降ってないし、形も残ってるね」


「ああ。しばらく追ってみよう」


 足跡の近くには、採集籠(かご)を背負って通ったのか、枝が横へ押し分けられた跡もあった。


 その先で細い樹皮を一本見つける。さらに進むと、草が広い範囲で倒れていた。


「ここで何かしたのかな」


 ミレアが草をかき分けた。


 土の上に丸い跡が二つある。採集籠(かご)を下ろしたようにも見えるが、それだけでは休憩したのか荷物を整理したのか判断できない。


「道を間違えたなら、ここで地図を見たかもしれない」


「でも、経験のある人が一緒なんでしょ?」


「そうなんだよな」


 その先で足跡が分かれていた。


 広い靴跡は林道沿いに続いている。小さい方は右側の斜面(しゃめん)へ向かっていた。


「別行動したのかな」


「採集ならありえる。でも、いつ分かれたかは分からない」


 右へ進んだ人が戻った跡は、ここからでは確認できない。


「どっちを先に探す?」


 ミレアが聞いてきた。


 俺は林道側の広い靴跡を見た。


「こっち。経験のある人が無事なら、まず道へ戻ろうとすると思う」


「じゃあ、そっちから」


 ミレアは少し迷っていたが、最後には俺の隣へ戻った。


    *


 歩き始めて十分ほどたったころ、ミレアが突然足を止めた。


「……待って」


 耳が前へ向いている。


「何か聞こえた?」


 返事はなかった。


 俺も息を止めた。葉が擦れる音と、遠くで鳥が鳴く声しか聞こえない。


「声……かな」


「どっち?」


「左。たぶん」


 ミレアの視線の先には緩い下り斜面(しゃめん)があった。林道から少し外れているものの、木々の間から下の様子は見えそうだ。


「行ってみよう。ただし、道から離れすぎない」


「分かってる」


 斜面へ下りる前に戻り道の木と石の位置を覚え、見失わないよう目印を付けた。


 途中でもう一度声が聞こえた。


「おーい!」


 今度は俺にも分かった。ひどくかすれているが、人の声だ。


「います! ギルドから捜索に来ました!」


 返事があった。


 その方向へ進むと、倒木のそばに男が座り込んでいた。右脚を前へ伸ばし、背中を幹(みき)へ預けている。


 少し離れた場所には採集籠(かご)が転がっていた。


「冒険者か……」


「はい。二人を探しに来ました。もう一人はどこですか?」


「ミーナが……上へ」


 男は道の方を指そうとしたが、途中で手を下ろした。


 足元を見る。右足首のあたりが大きく腫(は)れ、靴も脱げていた。血は見えないが、歩ける状態には思えなかった。


「足、どうしたんです?」


「昨日、下りるときに滑った。立とうとしたんだが、無理だった」


「今は動かさない方がよさそうですね」


 ミレアが周囲を確かめながら尋ねた。


「ミーナはいつ離れたの?」


「日が落ちる前だ。俺が歩けないから、道へ戻って助けを呼んでくるって……」


「戻ってきてない?」


 男は首を横に振った。


「夜になってから、声も聞いてない」


 俺は依頼票の注意書きを思い出した。


 負傷者を無理に動かさないこと。危険がある場合は救援を呼ぶこと。


 ここから林道まで上り坂がある。男を二人で担いで戻るのは無理があった。途中で足を滑らせれば、怪我人が増えるだけだ。


「救援を呼びましょう。この足では無理に歩かない方がいいです」


「俺よりミーナを……あの子は一人で行ったんだ」


「両方探します」


 答えたところで、どう動くか迷った。


 俺が救援を呼びに戻れば、男とミレアをここへ残すことになる。二人でミーナを探しに行けば、男は一人になる。かといって別々の方向へ散ったら、今度は俺たちが迷うかもしれない。


 ゲームなら仲間を待機させて探索範囲を広げたいところだが、ここには便利な位置表示もない。


「トウマ」


 ミレアが顔を上げた。


「右が気になる」


「右?」


 見たところ、林道へ戻る途中に曲がった木が立っているだけだ。


「足跡があるのか?」


「違う」


「何か聞こえた?」


「それも……違うと思う」


 自分でも説明できないらしく、ミレアは眉を寄せた。


 今までにも似たことはあった。後ろから魔物が近づいてきたときや、倉庫で石歯トカゲを見つけたときだ。


 名前を付けるなら《超感覚》だろうか。


 ……いや、今それを言ったら怒られるな。


「どの辺りが気になる?」


「あの曲がった木の向こう」


 指さした場所は近い。男のいる位置から、ある程度は見渡せる。


 俺は水筒を取り出し、男に渡した。


「少し飲んでください。足は動かさないで」


「……助かる」


 上着を丸めて足の横へ置き、男が無理に起き上がらないよう伝える。腫れた部分を強く縛るのはやめた。


「俺はここに残ります。ミレア、曲がった木まで見に行けるか?」


「うん」


「見える範囲を外れそうなら声をかけてくれ。何もなかったら戻って」


「子供扱いしないで」


「昇格確認中だから慎重にしてるんだって」


「普段からしてよ」


 言い返せなかった。


    *


 ミレアが斜面を上り、曲がった木へ近づいていく。


 数歩進んだところで足を止め、しゃがみ込んだ。


「トウマ、これ!」


 枝に薄茶色の布切れが結ばれていた。端は手で裂いたように不ぞろいで、風が吹くたび細く揺れている。


 男が身を起こしかけた。


「ミーナのだ。首に巻いてた布と同じ色だ!」


「動かないでください!」


 慌てて止めた。


 ミレアは布切れに触れず、その先を確かめた。


「あっちにもある!」


 少し離れた低木にも同じ色の布が結ばれている。さらに奥を見ると、もう一枚。


 目印が右へ続いていた。


「ミーナが付けたんだな」


 男は何度も頷(うなず)いた。


「助けを呼びに行く前に、布を裂いて印を残すって言ってた。あの子なら……」


 そこで言葉が途切れた。


「だったら、まだ追えます」


 俺はミレアへ声をかけた。


「曲がった木から先は、見えなくなるなら戻って。無理に追わなくていい!」


「分かってる!」


 返事が返る。


 ミレアは二枚目の布へ進み、そこでまたしゃがんだ。


「ここから下りになってる。足元、少し崩れてるかも!」


「気をつけろよ!」


 ミレアは手を上げ、慎重に足場を確かめてから進んだ。


 俺は男のそばに落ちていた白い石を三つ拾い、林道へ戻る方向に並べた。救援を呼びに行くなら、同じ場所へ戻れるようにしておきたい。


「そんなことまで考えてくれるのか」


 男が石を見て言った。


「また道を間違えたら、探し直しになるので」


「……ありがとな」


 石をもう一度並べ直す。林道から見つけやすい場所に目印を残すのも、ここへ人を連れて戻るためだ。


 昇格確認だから、てっきり強い魔物と戦うのだと思っていた。


 実際には、動けない人を守りながら、もう一人を探している。救援をどう呼ぶかも考えなきゃいけない。


 剣はまだ一度も抜いていない。


 その方がありがたいんだが、どうもこの試験は思っていたより頭を使う。


「トウマ!」


 ミレアの声がした。


「三枚目、見つけた! まだ先に続いてる!」


 俺は顔を上げた。


 曲がった木の向こうで、ミレアが右手を高く上げていた。


 布の目印は、林のさらに奥へ続いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。