↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の転生チート《超成長》がどう考えても壊れている ~楽するために努力していたら故郷が発展していきます~  作者: MIYA
第3章 都会の仕事には近道がない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/33

第21話 迷宮の入口は荷物を運んでも開かない

「迷宮の中へ入る許可は、荷物を運んでも付かないんですか?」

「付きません」

 受付の女性に即答された。北西迷宮管理所への補給依頼はFランクでも受けられる。終われば正式依頼は十件。迷宮の入口も見られるなら、お得な仕事だ。

「入口から少し覗(のぞ)くだけでも?」

「見学は依頼に含まれません。担当は管理所までの運搬です」

「分かってますって。中には入りませんよ」

「今、入る許可を聞いてたよね」

 ミレアに依頼票を取り上げられた。欄外(らんがい)には『受領印のある納品書を持ち帰ること』と書かれている。迷宮を目前にして書類仕事か。前世のゲームなら、もっと派手な音が鳴ったはずなんだが。

    *

 ギルド裏の倉庫へ行くと、担当の男が小さな手押し車を用意していた。その横に木箱が四つと麻袋が二つ。乾燥食、灯り用の油、包帯、消毒用の薬液、記録用の紙束をまとめた荷物らしい。

「箱は開けないでください。ここで数と封を確かめます」

 男は荷札を指で追い、木箱を一つずつ確かめる。麻袋の口には封印紐(ふういんひも)が結ばれていて、どれも切れていなかった。

「木箱四、麻袋二。受領先で同じ数を確かめてもらってください。印をもらった紙をギルドへ戻すまでが依頼です」

「荷物を届けるだけじゃ終わらないんですか?」

「紙がなければ、誰に渡したかも分からないでしょう」

 もっともだ。ハルディンの野菜の受け渡しとは違う。荷物が多ければ紙も必要か。

 試しに手押し車の取っ手を持つと、左前腕に力が入った。痛むほどではないが、坂道でこれを続けるのは避けたい。

「平らなところは俺が押す。坂は交代しよう」

「分かった。あたしも左肩はまだ重いの嫌だから、二人で様子を見ながらね」

 ミレアは荷台の縄(なわ)を確認した。積み荷を安定させるため、出発前に結び目を締め直す。そこまで済ませてから手押し車を動かした。

 北西門を出ると、道はゆるい上りになった。空の採集籠を背負って出ていく者もいれば、泥の付いた靴で戻ってくる者もいる。武器を持つ冒険者の間を、物資を運ぶ車が何台も通っていた。

「魔法鞄(まほうかばん)があったら、これ全部持って歩けるのにな」

「その鞄(かばん)を買うお金で、何回運搬を頼めると思う?」

「買うんじゃなくて拾うんだって」

「迷宮の外で見つけたら落とし物でしょ」

「中身を確認して持ち主を――」

「先に管理所へ届けなさい」

 拾ってもいない鞄(かばん)の返却方法を決められてしまった。

 坂の途中で、荷台から小さく木の擦れる音がした。振り返ると、一番上の木箱が後ろへずれている。縄(なわ)は緩んでいないが、箱同士の間に隙間(すきま)ができていた。

「止めよう。これ以上上る前に直す」

 車輪が動かないよう道端の平らな場所へ寄せた。箱を持ち上げようとするとミレアが手を止める。

「左腕。大丈夫?」

「少しずらすだけだよ。……いや、二人でやろう」

 重い箱を荷台の前側へ寄せ、麻袋を間の隙間(すきま)へ収める。荷札と封印紐(ふういんひも)を傷めないよう位置を確かめ、結び目を締め直した。さらに手持ちの短い予備縄(なわ)を箱に回し、横へずれないよう固定する。

「最初からこうしておけばよかったね」

「荷物の種類は分かってたけど、坂でどう動くかまでは考えてなかった」

「地図には坂が書いてあったのに?」

「……正確には、坂があることしか考えてなかった」

 ミレアが笑った。前回の護衛では荷車の横を歩くだけで済んだのに、今回は自分で荷を動かさなきゃいけない。

    *

 道端の案内板が増え始めた。

 北西迷宮管理所。入場記録。素材持ち込み口。負傷者搬送路《ふしょうしゃはんそうろ》。最後の札だけ、文字がやけに大きい。

「あれじゃない?」

 ミレアが前を指した。低い石造りの建物が並び、その向こうの斜面(しゃめん)に大きな穴が開いている。穴の縁は石で補強され、手前には柵(さく)と受付台が置かれていた。

 これが北西迷宮か。

 巨大な扉も光る門もない。武器を持った人たちが、むき出しの山肌へ次々と入っていく。

「もうちょっと近くで――」

「止まって! 通路を空けて!」

 鋭い声が響いた。俺たちに向けた声ではない。

 入口から二人の冒険者が出てきていた。一人はもう一人の肩を支え、ほとんど引きずるように歩いている。支えられた男のズボンは膝下(ひざした)まで赤く染まっていた。

「担架(たんか)を! 治療箱も持ってきて!」

 管理所の職員が駆けていく。俺とミレアはすぐ手押し車を通路の端へ寄せ、車輪が動かないよう押さえた。

「第一層だ! 曲がり角に二匹いた!」

「歩かせないで。そこへ座らせて!」

 付き添いの冒険者が息を切らして説明し、別の職員が手早く指示を出した。包帯の入った箱が運ばれていく。その箱の印を見て、手押し車の荷札が頭に浮かんだ。

 同じ印だ。俺たちの木箱にも『治療用品』と書いてある。

「トウマ、先に届けよう」

「ああ」

 さっきまで見たかった入口を通り過ぎ、管理所の受領窓口へ向かった。

「ルーヴェルのギルドから補給物資です。木箱四つ、麻袋二つ。納品書もあります」

 職員は紙を受け取り、荷札と封を確かめた。負傷者の騒ぎで急いでいる様子だったが、一つずつ数える手は止めない。

「四と二、間違いなし。治療用品の箱はこっちへ」

 担当者は箱の封を確かめ、俺が結んだ予備の縄(なわ)を外して返してくれた。治療用品の箱は別の職員に渡され、建物の奥へ運ばれていく。

「ちょうど減っていたところだ。助かった」

 決められた荷物を運んだだけだ。それでも箱の行き先が分かると、さっき聞こえた叫び声が耳から離れなくなった。

「受領印を押す。紙を折らずに持ち帰ってくれ」

 紙を受け取り、市内地図の間に挟んだ。ここでなくしたら、荷物を全部運んだ意味がなくなる。

    *

「少しだけ入口を見てもいいですか?」

 仕事を終えたあと、管理所の職員に尋ねた。中には入れないのは分かっている。せめて掲示板の注意書きくらいは見たい。

「立入禁止の線を越えないなら構わない。ただし搬送路は塞がないこと」

 近くの壁には第一層の注意事項が掲示されていた。西寄りの区画で岩甲虫が増えていること、通行を止めている道があること、地図と現場の指示を確認すること。

「Eランクになったら、あそこへ入れるんですよね?」

「基本はな。入場記録を付けて、地図を確認してからだ。許可されていない道には入れない」

「宝箱を見つけたら?」

「まず管理規則だ」

 また書類か。まあ、盗まれた物と見分けが付かないのも困るし、仕方ない。

 入口の脇では、別の冒険者たちが泥を落としていた。一人が岩甲虫の背甲を抱え、隣では腹が減ったと騒いでいる。無事に帰った人もいるらしい。

「行きたい?」

 ミレアは入口を見ていた。

「行きたい。あの中に魔法鞄(まほうかばん)があるかもしれないからな」

「さっきの怪我を見ても?」

「見たから、準備する。包帯も帰り道も、使うときに初めて考えるんじゃ遅いだろ」

「……なら、あたしも入る前にいろいろ確かめたい」

 ミレアは掲示板の端へ移り、閉鎖されている通路の札を読み始めた。俺も後ろから確かめる。青い札と赤い札の違いは覚えておいた方がよさそうだ。

 しばらく見ていたら、ミレアが腕を引いた。

「ねえ。受領印をギルドへ返すまでが依頼でしょ」

「……あっ」

 また書類のことを忘れていた。

    *

 空になった手押し車は、帰りの坂で軽かった。行きに苦労した箱のずれも、今は心配しなくていい。

「魔法鞄(まほうかばん)があれば、往復とも楽なのにな」

「さっきの怪我を見て、最初に出てくる感想がそれ?」

「もちろん持って帰る包帯も増やす。鞄(かばん)があれば運べるし」

「そういう話じゃないんだけど……」

 ミレアが呆れていたが、俺は少し本気だった。ハルディンには治療師が常駐していない。怪我人を運ぶ道も、薬の置き場所も、迷宮の管理所ほど整ってはいない。

 いつか村にも人が集まるようになったら、救護のための道と備品を用意した方がいいだろう。そうすれば俺が怪我をしたときも、遠くまで治療師を呼びに走らずに済む。

 ギルドへ戻ると、倉庫担当に手押し車を返した。受領印のある納品書は受付へ提出する。

「北西迷宮管理所への補給。確認しました。正式依頼は十件ですね」

 職員が帳簿に印を押した。報酬袋と二人分の登録札を受け取る。

「十件! じゃあ、昇格の確認依頼を――」

「審査の申し込みからです。確認依頼はそのあとになります」

「今すぐ申し込めます?」

「記録の確認は受け付けられます。ただ、必要な判断をできるかどうかは件数だけでは分かりませんから」

 ここでも順番があった。仕方ない。迷宮で荷物を忘れて逃げるくらいなら、地上で仕事を重ねておく方がいい。

 登録札をしまいながら掲示板へ目を向ける。Eランク専用の依頼より手前に、市街地の仕事が一枚増えていた。

『排水路の詰まり調査』

「……ミレア。あの仕事、魔物を倒すより楽そうじゃないか?」

「その依頼票、下に『臭気あり』って書いてるよ」

 俺は手を伸ばしかけたまま止まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。