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俺の転生チート《超成長》がどう考えても壊れている ~楽するために努力していたら故郷が発展していきます~  作者: MIYA
第3章 都会の仕事には近道がない

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第20話 護衛依頼は魔物を倒さなくても終わるらしい

「そいつに近づきすぎるなよ。角で鞄を引っかけるからな」

 南西門の外で荷車を確かめていた俺は、御者の男に声を掛けられた。振り返ると、灰色の体毛に短い角を生やした荷引き魔物が、俺の鞄の紐を鼻先で押している。

「……人の荷物を食おうとするのか?」

「食わん。引っ張るだけだ」

「それも困るんですけど」

 紐を引き寄せると、荷引き魔物は興味を失ったように道端の草を食べ始めた。御者は慣れた手つきで首の革具を直し、俺たちの登録札を確かめる。

「冒険者の二人だな。俺はロッソだ。農園まで半日もかからんが、途中の草地には気をつけろ。最近ジャッカルが出る」

「草原ジャッカルですか。何匹くらい?」

「数えに行く仕事じゃない」

 初対面なのに、もう注意された。

 荷台には木箱と麻袋、それから細長い鉄材が積まれている。先日の農園で壊れた柵の話をしたから、修理用の材料も混ざっているのかもしれない。

「中身、確認しなくていいんですか?」

「積む前に済ませた。荷札もある。お前らは荷を動かさず、車から離れずに守ってくれ」

 ロッソは荷台の後ろを叩いた。

「これを積んだまま届けられりゃ俺は文句ない。魔物を何匹倒したって、農園じゃ飯にならんからな」

「なるほど」

 実に分かりやすい。

 俺たちは荷車の左右に分かれて歩き始めた。ミレアが右、俺が左。道の様子を確かめながら進み、互いに見えない側を補うつもりだ。

 これが終われば正式依頼は九件。次で十件に届く。

 その先には昇格確認依頼がある。迷宮への入場条件を満たせば、高い魔法鞄を買わずに済む道が開けるかもしれない。

 そう考えると、歩く足にも力が入った。

「トウマ、前」

「ん?」

 ミレアの声に顔を上げると、道の真ん中に深い窪(くぼ)みがあった。

 慌てて避けた直後、荷車の片輪が沈んで大きく揺れる。

「おい、護衛が先に転ぶなよ」

 御者台からロッソが笑った。

「転んでません!」

「もう一歩だったな」

「ミレアまで言うなよ!」

 荷車は無事だった。ロッソは一度止めて積み荷の縄を確かめ、問題がないと見ると再び歩き始める。

 ……まずは足元からちゃんと見よう。

    *

 南西門から離れるにつれ、畑の数が減っていった。

 街道の左右には背の低い草が広がり、ところどころに灌木(かんぼく)が生えている。見通しは悪くないが、木の陰に身を伏せれば小型の魔物なら隠れられそうだ。

 荷車の車輪が乾いた土を踏む音を聞きながら、草の揺れを確かめる。

 先に異変を見つけたのはミレアだった。

「右。何かいる」

 短い声に、俺も顔を向けた。

 灌木の間で灰茶色の背中が動いている。細長い脚と尖った耳。草原ジャッカルだ。

 一匹だけ見えるが、ほかにも潜んでいる可能性はある。

「ロッソさん、右にジャッカルです。止めますか?」

「急には止めるな。荷引きが驚く」

 ロッソが手綱を引き、少しずつ速度を落とした。

 荷引き魔物はまだ落ち着いている。ジャッカルもすぐには近づかず、こちらと一定の距離を保ったまま並んで歩いていた。

「追い払った方がいい?」

 ミレアの右手が短剣へ伸びる。

「まだ待とう。寄ってこなければ、そのまま進める」

「……左にもいる」

 視線を動かすと、反対側の草が不自然に揺れた。

 こっちを挟むつもりらしい。

 右の一匹は少し離れている。駆け寄れば剣の間合いまで詰められるかもしれない。

 そう考えた直後、そいつが街道から遠ざかるように走った。

 思わず足を踏み出しかける。

「トウマ!」

 ミレアの声で止まった。

 左側の草むらから、別のジャッカルが荷車に近づいている。

 ……なるほど。

 俺が右を追えば、荷車の守りが薄くなる。

「何してんの! 戻って!」

「分かってる!」

 荷車の左後方へ戻り、腰の剣を確かめた。

 追いかけて倒すのは難しくないかもしれない。しかし、その間に荷引き魔物を襲われたら依頼は失敗だ。

 最初から条件に書いてあった。

 追跡は依頼外。

 どうやら今回は、敵を倒して終わりというゲームの常識が通用しないらしい。

「ロッソさん、何か大きな音を出せるものはありますか?」

「音?」

「近づかせないために使いたいんです」

 ロッソは荷引き魔物を一度見てから、荷台の脇に吊った金属桶を指さした。

「水くみ用だ。へこませるなよ」

「十分です」

「それと何度も鳴らすな。こいつが驚く」

 荷引き魔物を顎で示されたので、頷いて桶を外した。

 鞘に収めたままの剣を手に取り、金属桶を一度だけ叩く。

 カァン、と甲高い音が草地へ響いた。

 荷引き魔物の耳がぴくりと動く。ロッソが手綱を短く持ち直したのを見て、俺は二度目をやめた。

 左側のジャッカルも足を止めている。

「効いたみたいだね」

「まだ逃げてないけどな」

 桶を荷車へ戻す。

 ジャッカルはしばらくこちらを見ていたが、やがて身を低くした。

 ミレアが短剣を抜き、荷車の左側へ回る。

「追い込む?」

「いや。近づいたところを押し返そう」

「了解」

 俺は街道脇の乾いた土へ目を向けた。

 今日の風は弱い。なら、少し手を加えれば使える。

「《ブリーズ》」

 風が足元の砂と枯れ草を巻き上げ、ジャッカルの正面へ流れていく。

 顔に砂を受けたジャッカルが頭を振った。

 その隙にミレアが前へ出る。

 といっても、飛びかかる距離までは近づかない。荷車を背にしたまま短剣を構え、地面を強く蹴った。

「来るなら来な!」

 猫耳を伏せ、尻尾を大きく振る。

 ジャッカルは一瞬だけ身構えたが、すぐに一歩下がった。

 よし。

 これなら追わなくても離れてくれる。

 ところが、右側にいた一匹が再び走り始めた。

 今度は荷車の後ろへ回り込んでいく。

「後ろだ!」

 ロッソが声を上げる。

 振り返ると、灌木の陰からさらに別のジャッカルが現れた。

 さっきから見えていた連中だけじゃないらしい。

 荷引き魔物はすでに後方を気にしている。ロッソは手綱を持ち直し、逃げ出さないよう声を掛けていた。

 俺は荷車の後ろへ回った。

 ジャッカルとの距離を確かめる。

 このまま飛びかかってきたら、剣で受けるしかない。ただし左腕の傷は閉じたばかりだ。無理な受け方をすれば、また悪くする。

 剣を抜き、右手で低く構えた。

 ジャッカルが一歩進む。

 こちらも半歩だけ位置を変え、荷車へ向かう道を塞ぐ。

 しばらく睨み合った。

 向こうは俺の横を抜けたいらしいが、思ったように隙間ができない。大きく回れば荷車から遠ざかってしまう。

 最初に動いたのはジャッカルだった。

 頭を低くしたまま横へ退き、草むらの中へ消える。

 左右の気配も少しずつ遠ざかっていった。

「……行った?」

 ミレアが短剣を下げた。

「まだ分からない。戻ってくるかもしれない」

「よし。しばらくはそのまま警戒してくれ」

 ロッソが荷引き魔物の首を撫でる。

 落ち着いたのを確かめてから、ゆっくり荷車を動かした。

 草原ジャッカルの姿が見えなくなっても、俺たちは荷車の左右から離れなかった。

 倒した魔物は一匹もいない。

 それでも、荷引き魔物は怪我をせず、積み荷も無事だった。

 ……こういう経験でも《超成長》は働くんだろうか。

 今のところ、俺自身はまったく強くなった気がしないんだけど。

    *

「おう、来たか!」

 共同農園へ着くと、受け取り担当の男が荷台を覗き込んだ。

 ロッソは荷引き魔物を落ち着かせ、荷台の縄を解き始める。

 木箱を一つずつ下ろし、麻袋と鉄材の数を確かめてもらう。俺たちも手伝おうとしたが、重いものは運ばなくていいと言われた。

「怪我してるんだろ。受け取りはこっちでやる」

「ありがとうございます」

「その代わり、荷札の確認を頼めるか?」

「はい」

 俺は荷札を読み上げ、ミレアが受け取り担当の帳面と照らし合わせた。

 木箱も麻袋も数が合っている。

 細長い鉄材も、曲がったものや抜けたものはなかった。

「全部そろってるな。助かったよ」

 受け取り担当が荷札へ印を押す。

 ロッソは俺たちの依頼票を受け取り、報告欄へ短く書き込んだ。

『討伐なし。積み荷の損害なし。道中で草原ジャッカル複数。追跡せず護衛継続』

 ……それだけ?

「ロッソさん、もう少し何か書けませんか?」

「何をだ?」

「ほら、機転を利かせて追い払ったとか」

「桶を叩いたと書くか?」

「それは別にいいです」

 隣でミレアが吹き出した。

 ロッソは笑いながら最後に一行を書き足した。

『護衛対象から離れず、判断に問題なし』

「これでいいか?」

「十分です!」

「最初からそれが欲しかったんだろ」

 ……ばれていた。

 受け取り担当は報告欄を読み、俺たちの方を見た。

「討伐なしでも、荷が無事ならこっちは助かるよ。ジャッカルを追いかけて荷車を放り出される方が困る」

「やっぱりそうですよね」

「そうだとも。畑で使う材料は決まった日に届かないと作業が止まるからな」

 男は荷台の鉄材を指した。

「今日届かなかったら、明日の柵の修理ができないところだった」

 なるほど。

 もし魔物を追いかけて荷車から離れていたら、農園の修理まで遅らせていたかもしれない。

 俺は荷台を見直した。

 ハルディンにも荷車は通るが、道が悪くて遅れることがある。今日みたいな魔物の危険まで重なれば、宿屋に客が来ないのも無理はない。

 故郷に人を集めるなら、道を整えて、荷物がちゃんと届くようにする必要がありそうだ。

 ……結局、楽して暮らすためには街道のことまで考えなきゃいけないのか。

 前世の町って、本当に便利だったんだな。

    *

 帰りは空になった荷車に乗せてもらえた。

 ロッソが「どうせ戻るからな」と言ってくれたので、ありがたく甘えることにした。報酬の一部というわけではないが、歩かずに済むなら十分な得だ。

 荷台へ座り、鞄(かばん)を横へ置く。

 ミレアも隣へ腰を下ろした。

「疲れた?」

「少しな。でも、今日は思ったより楽だった」

「途中でジャッカルに囲まれたのに?」

「戦わずに済んだだろ。剣もほとんど使ってないし、帰りは荷車に乗れる」

「……あんた、本当に楽したいだけなんだね」

「何を今さら」

 草地へ差しかかったところで、遠くの丘に灰色の影が見えた。

 ジャッカルだ。

 向こうもこちらを見ていたが、近づいてはこない。

「倒さなくても終わるんだね」

 ミレアがぽつりと言った。

「護衛だからな」

「不満じゃない?」

「いや。むしろ、これで金がもらえるならいい仕事だ」

 倒せば魔石や素材が手に入ったかもしれないが、今回は荷車を守っただけで十分だ。

 それに、桶の使い方も覚えた。

「次からは威嚇用の桶を持っていけば――」

「買わないでよ」

「まだ買うとは言ってないだろ!」

「じゃあ何するつもりだったの?」

「……買う前に値段だけ見る」

「それ、絶対買うやつじゃん!」

 御者台からロッソの笑い声が聞こえた。

 ルーヴェルへ戻ったころには、もう夕方だった。

 ギルドの報告窓口で受領印の付いた依頼票を渡し、道中の出来事を説明する。

 職員はロッソの書いた報告欄を確認すると、討伐数のところで一度だけ顔を上げた。

「草原ジャッカルは追わなかったんですね」

「はい。荷車から離れないことが条件だったので」

「結構です。護衛対象の安全を優先できています」

 職員は帳簿へ記録を書き込み、登録札を返してくれた。

 これで正式依頼は九件。

 あと一件で、十件の条件を満たせる。

 もっとも、そのあとに昇格確認依頼があるから、まだEランクになれるわけじゃない。

「……次の依頼、どうする?」

 登録札をしまいながらミレアが聞いてきた。

「できれば今日みたいな仕事がいいな。歩く距離が短くて、危険が少なくて、それでいて報酬が――」

「そんな都合のいい依頼が残ってると思う?」

「探すだけなら無料だろ」

 掲示板へ向き直ったところで、ミレアが俺の背中を押した。

「今日は帰って休むの!」

「まだ夕方だぞ!」

「朝から働いたでしょ!」

 依頼板から遠ざかりながら、俺は明日見るべき場所だけ目に焼きつけておいた。

 北西迷宮の関連依頼が並ぶ、あの一角だ。

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