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俺の転生チート《超成長》がどう考えても壊れている ~楽するために努力していたら故郷が発展していきます~  作者: MIYA
第3章 都会の仕事には近道がない

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第19話 十件の依頼は昇格への切符じゃなかった

「八件目ですね」

 受付の男が農園の完了票に印を押し、俺たちの登録札へ記録を付けた。昨日まで七件だったから、これで八件。ちゃんと仕事をした分だけ数字が増えるのは気分がいい。

「じゃあ、あと二件でEランクか!」

「件数だけなら、です」

 男は報酬の袋を渡してくれたものの、それ以上は何も言わなかった。妙な言い方が気になって聞き返そうとしたが、後ろの列が動き始めている。昇格については明日、改めて相談することにした。

 帰り道でミレアは、さっき受け取った完了票をもう一度見ていた。

「農園の人、柵を見つけたことまで書いてくれてるね」

「次の依頼で探す手間が減るからな。自分のためにもなる」

「……それ、受付でも言えばよかったのに」

「言ったら追加の仕事を頼まれそうだろ」

 ミレアは票を畳み、俺に返した。

    *

「またそこ見てる」

 翌朝、ギルドの掲示板の前で立ち止まっていたら、背後からミレアに袖(そで)を引かれた。

「見るだけなら無料だろ」

「昨日もそう言ってた」

 目の前に並んでいるのは北西迷宮の依頼票だった。苔(こけ)の採集、岩甲虫の背甲、管理所への物資運搬。仕事はそれぞれ違うのに、受注条件は見事に同じだ。

 Eランク以上。

「迷宮だぞ。地下に道が続いてて、昔の道具が出ることもあるらしい」

「知ってる。宿でも聞いた」

「昔、小さいけど空間収納の鞄(かばん)が見つかったんだってさ」

「その話、三回目。今も出るとは限らないんでしょ」

 以前、受付の近くで冒険者が話していた内容だ。どこの階層で見つかったかも曖昧で、本人が拾ったわけでもない。だから確かな情報とは言えないが、魔法鞄の値札を思い出すと無視できなかった。

「自力で拾えば買わなくて済む」

「拾えるまでに使うお金は?」

「そこは……先にEになってから考えよう」

「今から考えて」

 まったく厳しい相棒だ。それでも迷宮へ入るにはランクが必要らしい。昨日の受付の言い方も気になるし、先に昇格条件を聞いておくことにした。

    *

「十件以上が条件の一つです」

 昇格相談窓口の男は登録札を確かめてからそう言った。

「一つ?」

「一つです」

 棚から薄い板札が出てきた。机に置かれたそこには、細かな字で条件が並んでいる。

 正式依頼十件以上。三種類以上の依頼経験。直近五件で重大な失敗なし。重大な規則違反なし。成功率はおおむね八割以上。

 さらに危険の判断、依頼人への対応、報告ができること、と続いていた。

「最後に昇格確認の依頼を別に受けてもらいます」

「十件目がそれじゃないんですか?」

「別です」

「じゃあ最低でも十一件じゃないか」

「件数だけ数えるなら、そうなります」

 俺は板札を裏返した。何も書いていない。ひっくり返せばお得な条件があるかと思ったのに、そんな都合のいい話はなかった。

「ハルディンじゃ十件って聞いたぞ」

「十件やれば必ず昇格、とは聞いてないんじゃない?」

 ミレアに言われて記憶をたどる。そういえば『十件が目安』とは聞いたが、その先を確かめていなかった。ゲームだって、レベルだけ上げれば進めるとは限らない。面倒な解放条件が別にあるものだ。

 隣の窓口で椅子(いす)が鳴った。

「十五件だぞ! 十五件も終わらせたんだ!」

 革の前掛けを着けた男が、机に依頼完了票を並べていた。受付の女性は票を一つずつ見ている。

「運搬が十四件、倉庫整理が一件です。依頼の種類が足りません」

「野菜も鉄板も運んだ! 荷物が違うだろ!」

「品物が違っても運搬は運搬です」

「鉄板と野菜を一緒にするなよ!」

 言いたいことは分かる。鉄板を運ぶのと野菜を運ぶのでは、重さも気の使い方も違うはずだ。でもギルドの分類が同じなら、板札の条件を満たすことにはならない。

「数を先に増やそうとして、種類が足りなくなる方もいるんです」

 相談窓口の男が小声で言った。

「それ、向こうに聞こえますよ」

「聞かせてるんだ!」

 隣の男から声が飛んできた。本人も分かっていて、まだ納得できないらしい。

「俺たちの記録は大丈夫ですか?」

「確認しましょう」

 受付の男が帳簿を開いた。ハルディンの仕事も含めて、依頼の種類と結果をたどっていく。

「捕獲、駆除、採集、調査……分類は十分です。直近の記録も、今のところ昇格相談に支障はありません。ただし審査を受けるのは、規定数を満たしてからです」

「よし。今は八件だから、あと二件!」

「十件は申請を検討するための条件です。自動昇格ではありませんよ」

「分かってます。その次に確認依頼ですね」

「ええ。危険判断や報告の仕方も、そこで確認します」

 昨日の農園で捕まえた角ウサギは一匹だけだったが、柵(さく)の破損も調べて依頼人には喜ばれた。ああいう仕事が評価されるなら、戦闘ばかりやる必要はない。

「じゃあ、共有猟場で捕まえた七匹も記録に――」

「正式依頼として受けていない狩りは、件数に含まれません」

 先回りされた。ちょっとくらい期待したのに。

 窓口を離れる前に、迷宮の札についても尋ねてみた。

「Eになったら、すぐ迷宮へ入れます?」

「第一層は基本的にEランク以上です。ただし入場記録と地図の確認が必要です。管理所の指示にも従ってください」

「宝箱を見つけたら?」

「管理規則に従ってください」

「魔法鞄が出たら?」

「迷宮に注文しておいてください」

 俺が返事に困っていると、ミレアが背中を向けて肩を揺らしていた。

    *

「あと二件なら、危ない討伐をまとめて受ければ……」

「さっき何を聞いてたの?」

 依頼板へ戻る途中で、ミレアに遮られた。言われてみれば、十件目までに失敗したら余計に遠回りになる。今の俺たちには怪我だって残っている。

 昨日ヴァルトが見せた剣の速さを思い出した。あの調子で魔物を倒せれば簡単なんだろうが、今の俺が真似をしたら、剣より先に左腕が悲鳴を上げる。

「これ、どう?」

 ミレアが白枠の依頼板から一枚抜いた。

 共同農園への運搬護衛。南西門から農園まで資材を積んだ荷車一台に付き添い、無事に届ける仕事だ。道を大きく外れないこと。荷物と荷引き魔物の安全を優先すること。魔物を発見しても、追跡は依頼外。

「またあの農園か」

「道は分かってるでしょ。荷車について行くだけなら、今のあんたの腕でもできそうじゃん」

「魔物が来たら、いつまでも座ってられないぞ」

「だから、どう守るか先に考えるの」

 依頼票の最後を読み直す。追跡は依頼外。荷車を置いて魔物を倒しに行ったら、戻ったときには運ぶべき荷物がなくなっているかもしれない。

「……追いかけた方が強くなれる気はするんだけどな」

「荷車を守った方が依頼は終わるよ」

「それもそうか」

 仕事を無事に終わらせれば、報酬が出る。報酬が出ればハルディンの資金も増える。早く楽をしたい俺にとっては、魔物一匹より荷車一台の方が大事だ。

 受注窓口へ票を運ぶと、さっきの前掛けの男がまだ近くにいた。

「おい若いの。それ、護衛だな?」

「はい」

「護衛は運搬とは別分類だからな! ちゃんと覚えとけよ!」

「ありがとうございます!」

「俺も先に知りたかったんだよ!」

 受付の女性が一度だけ目を閉じ、受注印を押した。

 これで九件目になる予定の仕事を一つ確保した。あとは無事にやり遂げるだけだ。昨日の農園で描いた道の図を取り出してみると、南西門から畑までの曲がり角も覚えていた。

「護衛対象から離れない。寄り道しない。魔物を追わない」

 忘れないよう、依頼票の控えの裏へ書き足す。受付の女性が目を留め、短く頷いた。

「準備は十分ですね」

 俺は面倒なやり直しを防ぎたいだけだったのだが、どうやら準備熱心な新人だと思われたらしい。

 ミレアが横から手を伸ばし、最後に一行付け加えた。

『トウマが先に走り出したら止める』

「お前、それは護衛の仕事じゃないだろ」

「ほら、もう一個増えたね」

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