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俺の転生チート《超成長》がどう考えても壊れている ~楽するために努力していたら故郷が発展していきます~  作者: MIYA
第3章 都会の仕事には近道がない

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第18話 剣の勝負は仕事の勝ち負けと違うらしい

「同じ農園の依頼が、二枚あるぞ」

 ギルドの掲示板で依頼票を見比べていた俺は、思わず首を傾(かし)げた。

 どちらも南西門の外にある共同農園の害獣駆除。場所も仕事内容もほとんど同じなのに、片方は東側の畑、もう片方は西側の畑と書かれている。

「広い農園なんじゃない?」

 ミレアが横から覗(のぞ)き込んだ。

「だったら一件にまとめた方が早くないか?」

「昨日、三件まとめて一日働いた人が何か言ってる」

「……あれは想定外の仕事が多かっただけだ」

 結局、二人で東側の依頼票を取った。

 農園なら地形も読みやすいし、畑ネズミや角ウサギの対処はハルディンで何度も経験している。傷が治りきっていない今でも、罠を中心にすれば無理なく働けるはずだ。

 ところが、受付へ向かおうとしたところで、隣から別の手が伸びてきた。

 西側の依頼票が掲示板から外される。

「そちらを受けるんですか?」

 声を掛けられて振り向くと、背の高い青年が立っていた。

 きっちり整えた服の上に軽い防具を着け、背には両手剣。立ち姿からして、俺が知っている農家の剣術とは違う。

 隣には女性が一人。

 落ち着いた服装で、小さな帳面と筆記具を持っている。

「ああ。東側の方を受けるつもりだ」

「そうですか。では、私たちは西側を」

 青年は一度だけ俺の依頼票へ目を向けた。

「同じ農園なら現地で顔を合わせるでしょう。私はヴァルト・アーレンスです」

「俺はトウマ。こっちはミレア」

「あたしの紹介くらい自分でできるって」

 ミレアが俺を押しのけた。

「よろしく。そっちは二人?」

「はい。カミラと申します」

 女性は軽く頭を下げた。

 受付に並ぶと、先にヴァルトたちの登録札が確認される。

「アーレンス隊ですね。ヴァルトさんはEランク。今回の依頼はFランクから受注可能ですが、問題ありませんか?」

「ありません。農園の被害を止めるのが仕事ですから」

 Eランク。

 俺たちより一つ上だ。

 横を見ると、ヴァルトは依頼票の期限と条件を確認している。カミラは受付職員の説明を聞きながら、帳面へ手早く書き込んでいた。

 ……なるほど。

 いかにも強そうな剣士に、記録係らしい相棒。

 これはあれだな。

 冒険を始めて少し進んだところで登場する、ライバルパーティーというやつだ。

「何笑ってんの?」

「いや、とうとう来たなと思って」

「何が?」

「ライバルイベント」

「……あんた、依頼票をちゃんと読んだ?」

 読んだとも。

 むしろ、こんなに分かりやすいイベントはない。

    *

 農園へ着くと、依頼人の男が畑の間を案内してくれた。

 朝から作業していたらしく、袖(そで)には土が付き、指の節は固くなっている。畝の向こうには若い苗が並んでいたが、何列かは葉を食いちぎられていた。

「昨夜も入られたんだ。角ウサギだと思う。東も西もやられてる」

「侵入口は分かっていますか?」

 尋ねると、男は首を振った。

「見回りはしてるんだがな。柵(さく)の壊れたところも、ついでに見てくれると助かる」

「分かりました」

 俺が答えるより先に、ヴァルトが畑へ目を向けた。

 苗の間で何かが動いている。

「まず害獣を処理します。カミラ、右側を頼む」

「承知しました、ヴァルト様」

 カミラは帳面を閉じ、杖を手に取った。

 ヴァルトが歩き出す。

 俺たちも東側の畑へ向かったが、すぐに西側から鋭い物音が聞こえた。

 振り返る。

 角ウサギが一匹、畝を飛び越えて逃げようとしていた。その進路をカミラの氷魔法が塞(ふさ)ぐ。地面から伸びた氷は低く、苗を傷つけていない。

 進む方向を失った角ウサギが横へ跳ねた。

 そこへヴァルトが踏み込む。

 両手剣が一度だけ振られた。

 角ウサギは逃げきれなかった。

「……速っ」

 つい声が出た。

 ヴァルトは剣を引き、すぐ次の獲物を探している。

 無駄な動きがない。

 しかも、大きな剣を振ったのに、周りの苗がほとんど傷ついていない。

「すごいね、あれ」

 ミレアも足を止めていた。

「ああ。Eランクって、あんなに違うのか」

「剣の腕も相当だと思う」

 次に現れた角ウサギも、ヴァルトとカミラの連携で逃げ道を失った。

 また一瞬で勝負が終わる。

 カミラは倒した場所を確かめ、帳面へ何かを書き込んでいた。

 ……強い。

 俺の剣じゃ、あんな真似はできないだろう。

 そもそも今は左腕に負担をかけたくないし、剣の間合いにも慣れ直している途中だ。

「トウマ、こっちもいるよ」

 ミレアの声に振り返る。

 東側の畑で、苗が揺れていた。

    *

「追うなよ。端へ回ってくれ」

「分かってる」

 ミレアは腰を低くし、角ウサギの逃げ道を見て回り込んだ。

 俺は地面へ目を向ける。

 畑の畝(うね)の間には、小さな足跡がいくつも残っていた。苗の食べられた場所と足跡の向きから、角ウサギがどこへ逃げようとしているかは何となく分かる。

 網を広げ、通りそうな場所へ構える。

 ミレアが短く声を上げた。

「そっち行くよ!」

 角ウサギが飛び出した。

 予想した場所より少し外側を通る。

「うわっ!」

 慌てて網を動かすが、届かない。

 角ウサギは俺の横をすり抜け、畝の向こうへ消えた。

「……外した」

「だから、もうちょい端だって」

「今のは分かった。次は大丈夫」

「一回逃がしてから言うな!」

 西側では、もう剣を収める音がしていた。

 早すぎる。

 ヴァルトたちが終わるまでに、こっちは一匹も捕まえていない。

 思わず腰の剣へ手を伸ばしかけたが、途中でやめた。

 無理に追えば苗を踏む。

 それに、傷が治りきっていない状態で無茶をしても、あとで自分が困るだけだ。

「ミレア、さっき逃げた方へ回れるか?」

「追い込む?」

「いや。今度は俺が先に待つ」

 畝の端でしゃがみ込み、足跡の向きを確かめる。

 何度か通っているらしく、草が倒れて細い道ができていた。

 その先へ網を置き、邪魔にならない位置で身を低くする。

 ミレアは反対側からゆっくり近づき、角ウサギがこちらへ向くように位置を取った。

 慌てて動けば、また違う方向へ逃げる。

 だから、じっと待った。

 しばらくして、葉の間から角ウサギが顔を出した。

 耳が動く。

 こちらには気づいていない。

 ミレアが足を一歩動かすと、角ウサギは驚いて走り出した。

 今度は予想どおりの道を通る。

「よし!」

 網が上から落ち、角ウサギの身体を包んだ。

 逃げようと暴れるが、ミレアが右手で網の端を押さえる。

 俺も反対側を閉じ、足を傷つけないように押さえた。

「捕まえた!」

「やっと一匹ね」

 ミレアは息を吐いた。

 西側の畑を見れば、ヴァルトたちはもう作業を終えて依頼人へ報告している。

 ……負けた。

 戦闘の速さでは、勝負にならなかった。

 ただ、角ウサギを捕まえた場所を見て、少し引っかかった。

 足跡が畑の外へ続いている。

 しかも一つだけではない。

「……ちょっと待て」

「どうしたの?」

「こいつら、どこから入ってきたんだ?」

 網の中の角ウサギを、ミレアが鞄(かばん)から出した縄で安全に押さえる。

 俺は足跡の続きを追った。

 畝の外側を回り、草の倒れた場所を辿(たど)る。

 やがて、柵(さく)の根元へ出た。

「あった」

 横木の一本が外れかけている。

 下の土も削られ、角ウサギが通れるだけの隙間ができていた。

 その外側には、草の折れた細い獣道(けものみち)が続いている。

「ここから入ってきてたのか」

 ミレアも近づき、柵(さく)を確かめた。

「横木、腐ってるね。押したら外れそう」

「触らない方がいい。完全に外れたらもっと入りやすくなる」

 位置を覚えるため、地図の余白へ簡単な図を描いた。

 畑の端からどれくらい歩いたか、どの柵(さく)が傷んでいるか、外側の道がどこへ続いているか。

 こんなもの、普通のゲームなら地図に最初から印が付いているはずだ。

 ただ、ここでは誰も付けてくれない。

「何してんの?」

「次に同じ依頼を受けたとき、探す時間を減らせるだろ」

「次も来るつもりなの?」

「楽に稼げる場所は覚えておきたいからな」

「……あんたらしいね」

 ミレアは呆れたように笑った。

    *

「そんな場所があったのか」

 依頼人は図を見て、すぐに農園の端へ歩き出した。

 俺たちもついていく。

 壊れかけた横木を確かめると、男は柵(さく)の内側へしゃがみ込んだ。

「こりゃ駄目だ。また入られるな」

「外側にも獣道(けものみち)が続いてます。ここを直さないと、別の角ウサギが来ると思います」

「そうだな。今日のうちに修理の手配をしないと」

 男は腰を上げ、俺の図をもう一度見た。

「助かったよ。何度追い払っても入ってくるから、困ってたんだ」

「次から探す場所が分かれば、仕事も早く終わりますから」

「次の依頼のことまで考えてくれるのか。若いのにしっかりしてるな」

 ……いや、俺が楽をしたいだけなんだけど。

 もっとも、依頼人が困らなくなるなら、それに越したことはない。

 農園の入口へ戻ると、ヴァルトたちが待っていた。

「そちらも終わりましたか?」

「ああ。時間はかかったけど、角ウサギは捕まえた」

 ヴァルトは静かに頷(うなず)いた。

「こちらは討伐を終えました。農園内の確認も済んでいます」

 カミラが帳面を開き、記録を依頼人へ見せる。

 場所、数、倒した順番。

 きっちり書き込まれている。

「早かったな。助かったよ」

 依頼人はヴァルトたちへ礼を言い、それから俺の図を取り出した。

「それと、東側の二人には柵(さく)の壊れた場所まで見つけてもらった。あそこを直さなきゃ、明日もまた入られるところだった」

 ヴァルトの眉が少し動いた。

「柵(さく)ですか?」

「ああ。最初に言っただろ。壊れたところも見てくれると助かるって」

「……依頼票の内容は害獣駆除でしたので」

「それはそうだがな。もちろん、あんたたちの仕事も早くて助かったよ」

 依頼人はカミラの帳面を受け取り、確認する。

「ただ、農園にとっては、次に入られないことも大事なんだ。そっちまで教えてくれたのはありがたい」

 それぞれの仕事を確かめたあと、男は依頼確認の書類へ評価を書き込んだ。

 ヴァルトたちには、討伐を速く正確に終えたと記す。

 俺たちの方には、害獣の捕獲に加え、侵入経路と柵(さく)の破損箇所を特定したと書いてくれた。

「次に何かあったら、また頼みたいね」

 俺へ向けられた言葉に、思わず顔が上がる。

「本当ですか?」

「ああ。次はもっと早く済みそうだ」

 それは素晴らしい。

 仕事が早く終われば、その分だけ休む時間が増える。

 俺が喜んでいる横で、ヴァルトは何も言わずに書類を見ていた。

 カミラが一歩近づく。

「ヴァルト様。依頼人の追加のご希望は、私の記録にも残っております」

「……ああ」

「次からは、討伐後に確認する時間も必要かと」

 ヴァルトは短く息を吐いた。

「そうですね。そこは私の判断が足りませんでした」

 すぐに言い返さないあたり、やっぱり真面目な人らしい。

 戦闘では完敗だったが、仕事では一つ勝てた。

 ゲームなら、これでライバルの好感度が上がるところだろう。

    *

 農園からの帰り道、ヴァルトたちと並んで歩くことになった。

「君たちはFランクでしたね」

 ヴァルトがこちらを見た。

「ああ。ルーヴェルへ来たばかりなんだ」

「そうですか。それにしては、依頼人への対応に慣れているようですね」

「ハルディンで畑の仕事をよくやってたからな」

「なるほど。農家の経験ですか」

 ヴァルトは納得(なっとく)したように頷いた。

「侵入経路を調べる発想は、私には足りませんでした。参考にさせてもらいます」

 おお。

 ライバルキャラから評価された。

「まあ、俺には《超成長》があるからな!」

「……何ですか、それは」

「転生したときに女神からもらったチートだよ。訓練でも仕事でも、やればやるほど強くなれるんだ」

 ヴァルトの足が止まった。

「女神から、もらった?」

「そう。だから経験を積むほど得するんだよ。今日だって柵(さく)を見つけたし、そういう積み重ねが大事なんだ」

 隣でミレアが小さくため息をついた。

「またその話……」

 ヴァルトは俺の顔をまっすぐ見ていた。

「君は、自分がしてきた努力を、その女神とやらのおかげだと言うんですか」

「まあ、チートがあるからこそ努力しないともったいないんだよ」

「……そうですか」

 声が低くなった。

 今までの丁寧な口調は変わらない。けれど、何かが違う。

「君は、農園で足跡を調べたでしょう。畑仕事の経験があるから、獣道(けものみち)を見つけられた。そうではありませんか」

「それはそうだけど」

「では、それは君が積んできた経験です」

「でも、その経験をもっと活かせるのが《超成長》で――」

「違います」

 ヴァルトの言葉が、俺の声を遮った。

 カミラが顔を上げる。

「ヴァルト様」

「……すみません」

 いったん息を整えたものの、ヴァルトは視線を外さなかった。

「私は、才能の差だけで努力を片づける言葉が嫌いです。君の話は、その逆をしているように聞こえる」

「逆?」

「努力の成果を、最初から与えられたものの手柄にしている」

 胸元で拳が握られる。

 それから、ヴァルトは初めて敬語を捨てた。

「お前にチートなんてない。お前の強さは、お前が積んだものだ。女神の手柄にするな」

 ……おお。

 これは本格的なライバルイベントだ。

 こちらの力を認めたくない相手が、真正面から否定してくる。

 しかも、あれだけ剣が強い相手だ。今後何度も戦うことになるのかもしれない。

 ちょっと楽しみになってきた。

「そうか。お前には見えないもんな」

 ヴァルトの表情が固まった。

 ミレアが隣で顔を覆う。

「トウマ……」

 カミラは何か言おうとして、結局黙った。

 ヴァルトはしばらく俺を見つめていたが、やがて静かに言った。

「……君とは、もう一度話す必要がありそうですね」

 口調は元に戻っていた。

 ただ、その目はさっきまでよりずっと鋭い。

 俺は思わず笑った。

 どうやらルーヴェルでは、依頼のほかにも面白いイベントが待っているらしい。

 その横でミレアがぼそりと呟いた。

「……あんた、今の完全に喧嘩売ったからね」

 えっ。

 向こうからライバルイベントを始めてきたんじゃないのか?ち負けと違うらしい

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