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俺の転生チート《超成長》がどう考えても壊れている ~楽するために努力していたら故郷が発展していきます~  作者: MIYA
第3章 都会の仕事には近道がない

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第17話 魔道具の工夫は魔石を付ければ済むはずだ

「もう一匹いるのか?」


 床下から聞こえた音に、倉庫番が思わず足を引いた。


「分かんない。さっきのが移動しただけかもしれないし」


 ミレアは床板の隙間を見つめていた。ただ、音が止まってからは、それ以上何も分からないようだった。


 俺も耳を澄ませてみたが、聞こえてくるのは建物の外を通る荷車の音ばかりだ。


「とりあえず、石歯トカゲがいることは確認できました。床下のどこまで動けるかは分かりませんけど」


「……それで依頼は終わりか?」


「原因を調べる仕事でしたから。床を外すなら、持ち主の許可が必要でしょう?」


 倉庫番は床板を見下ろし、しばらく考えてから頷(うなず)いた。


「持ち主に話す。今日は荷を奥へ入れないようにしておくよ」


 俺たちは袋の傷と床板の穴の位置を確かめ、確認できたことだけをギルドへ持ち帰った。


 報告書に書いたのは、石歯トカゲを一匹目撃したことと、床下の別の位置からも音がしたこと。個体数は「未確認」とした。


 勝手に二匹と決めつければ、あとで余計な騒ぎになる。


 受付の職員は報告書に目を通し、俺たちへ顔を上げた。


「床板は外していないんですね?」


「はい。持ち主の許可が必要だと言われたので」


「分かりました。調査依頼として受理します。駆除が必要なら、倉庫側と相談して別途手配することになります」


 最後の控えに完了印が押された。


 銀葉草と貸し籠(かご)の報告も済ませ、ようやく三件分の仕事が片づく。


 報酬は合計三千二百リル。


 悪くない。


 ただし、三件まとめれば早く終わるはずだった俺の計画は、朝から夕方まできっちり働く結果に終わった。


「明日は一件ずつにしたら?」


「いや、今日は初回だったからな。次はもっと上手くやれる」


「反省してる?」


「もちろん。だから明日もまとめて――」


「してないじゃん」


    *


 翌朝、冒険者ギルドの掲示板で一枚の依頼票が目に留まった。


「魔道具工房の作業補助、二名。部品整理、清掃、運搬……」


 最後の一行を読んで、思わず声が止まる。


「『壊した場合は必ず申告すること』か」


「それ、あんた向けじゃない?」


 横から覗(のぞ)き込んだミレアが笑った。


「俺は壊すつもりで仕事を受けたりしない」


「昨日、倉庫の床板を外そうとした人が言う?」


「あれは許可を取ろうとしただけだろ!」


 そもそも、この依頼に興味を持ったのは報酬の額ではない。


 魔道具工房である。


 魔石を使った道具を作ったり、直したりする場所だ。前世の便利な暮らしを再現するなら、役に立つ仕組みが見つかるかもしれない。


 ハルディンには魔道具を専門に扱う職人がほとんどいない。ボルドは腕のいい鍛冶師(かじし)だが、魔石を使った仕組みとなれば専門外だ。


「工房の中を見られるんだぞ。何かいいものが見つかるかもしれない」


「触るなって言われると思うけど」


「見るだけなら問題ない」


「目で分解しそう」


 ……こいつ、俺のことを何だと思ってるんだ。


「で、あんたは受けるの?」


「ああ。二人募集だから一緒にどうだ?」


「いいよ。あたしも魔道具って気になるし」


 ミレアは依頼票を受け取り、受付へ歩き出した。


 俺も後を追う。


    *


 工房の看板には、火花を散らす歯車(はぐるま)と杖(つえ)が描かれていた。


 扉を開けると、金属を削(けず)る音より先に、焦げたような匂いが鼻へ飛び込んでくる。


 壁一面の棚(たな)には大小の箱が並び、作業台には見慣れない工具や細い金属線が広がっていた。


「依頼で来ました!」


「そこに札を置いて。靴の泥を落として。奥の赤線より先には勝手に入らない」


 顔を上げずに答えたのは、作業台の向こうにいる女だった。


 黒に近い紫色(むらさきいろ)の髪を後ろでまとめ、額(ひたい)の左右から短い角が伸びている。


 魔人だ。


 肘(ひじ)まで袖(そで)を捲(まく)り、手のひらほどの金属箱を細い工具で開けていた。


「ネイラ。ここの主よ。二人の名前は?」


「トウマです」


「あたしはミレア」


「分かった。トウマは右の棚(たな)、ミレアは左。箱の番号と中身が合っているか確認して。違うものがあったら、勝手に直さず箱ごと私へ持ってきなさい」


「番号順に並べ直せばいいんですか?」


 ネイラの工具が止まった。


「……番号順に並んでいたものを、前の手伝いが大きさ順に直して帰ったのよ」


「なるほど」


「善意だったらしいわ」


 声が少し低くなった。


 これ以上は聞かない方がよさそうだ。


 指定された棚(たな)へ向かい、箱を一つずつ調べ始めた。


 中には小さな留め具、薄い金属板、魔力を通す細い線、用途の分からない輪っかが入っている。


 俺が想像していた光る魔法陣や謎の装置は見当たらない。


 ……地味だな。


 だが、部品を調べているうちに面白くなってきた。


 同じ形に見える留め具でも穴の位置が違う。金属線は太さだけでなく、曲げたときの戻り方にも差があった。


 試しに一本持ち上げると、背後から声が飛ぶ。


「それは青い箱」


「えっ、同じ銀色ですけど?」


「曲げてみなさい」


 指先で軽く曲げると、金属線は元の形へ戻った。


「じゃあ、こっちは?」


 渡された別の線を曲げてみる。


 今度は曲がったままだ。


「見た目だけで分けない。用途が違うんだから」


「なるほど。勉強になります」


「感心する前に戻しなさい」


 俺は慌てて線を箱へ戻した。


 隣の棚(たな)では、ミレアが黙々と作業を進めている。


 札を読んで中身を確かめ、違う部品を見つければ箱ごとネイラへ持っていく。


 俺より明らかに早い。


「お前、こういう仕事も得意なんだな」


「得意っていうか、書いてあるとおりにやってるだけだけど」


「もっと途中で飽(あ)きるかと思ってた」


「報酬が出る仕事で、飽きたから帰るわけないでしょ」


 正論だった。


 ミレアは俺に一言返すと、また箱の番号を確かめ始めた。


 こいつが俺よりレベルが高いのも、こういう積み重ねを見れば納得できる。


 ……もちろん、《超成長》のパーティー補正が効いている可能性も残っているけどな。


「……何か変なこと考えてない?」


「いや、何でもない」


「なら手を動かして」


 言われなくてもやってます。


    *


 昼前になると、ネイラが奥から木箱を一つ運んできた。


「次の仕事。これは回収品から外した魔石よ」


 中には指先ほどの魔石が二十個ほど入っている。


 どれも弱い光を帯びていたが、明るさにはかなり差があった。


「表面を拭(ふ)いて仕分けなさい。割れていないものは右の布。欠け、ひび、濁(にご)りがあるものは左。迷ったら勝手に決めず、私に渡して」


「割れてなければ再利用できるんですか?」


「容量が残っていればね。照明の予備や試験用に使える。何でも新品を使っていたら店が潰(つぶ)れるわ」


 なるほど。


 魔石にも残りの容量があり、状態によって使い道が違うらしい。


 俺は一個ずつ布で表面を拭(ふ)き、灯りへかざした。


 擦り傷だらけのものもある。


「これも不良品ですかね」


 ネイラが横から見た。


「その程度なら使えるわ。表面の傷まで全部不良にしたら、再利用する意味がないでしょう」


「基準が難しいですね」


「だから迷ったら私に寄こしなさい」


 俺は頷(うなず)き、作業を再開した。


 七個目を手に取ったところで、ミレアの動きが止まる。


「……これ、やめた方がいいと思う」


 手のひらに載せた魔石を、じっと見つめていた。


「何かおかしいのか?」


「分かんない。でも、なんか嫌」


 横から見せてもらう。


 色も形も、ほかの魔石と変わらない。ひびも見えず、手触りも普通だった。


「どこが変なんだ?」


「だから分かんないって」


 ネイラもこちらへ来た。


「どこがおかしい?」


「……説明できない」


「音? 熱?」


「音じゃないと思う。熱くもない」


「なら、今は分からないのね」


 ネイラは魔石を受け取り、作業台へ運んだ。


「いいわ。調べてみましょう」


 細い金具で魔石を固定し、小さな測定具を両端に当てる。


「反応はあるわね」


「使えるんですか?」


「まだ分からない」


 向きを変えてもう一度調べ、今度は表面に薄い油を一滴落とした。


 油が広がったところに、細い筋が浮かび上がる。


「……あら」


 ネイラの声が変わった。


 灯りの下で魔石を傾けると、今度は俺にも分かった。


 表面から内部へ、細いひびが一本伸びている。


「内部にひびがあるわ。表面の割れ目が細すぎて、油を付けるまで分かりにくかったのね」


 ミレアの耳がぴくりと動いた。


「……本当に?」


「ほら、ここ。油が入り込んでいるでしょう」


 ネイラが示した場所を、ミレアが覗(のぞ)き込む。


「でも、あたしには見えてなかった」


「じゃあ、どうして止めたの?」


「それが分かんないんだって!」


 俺は思わず口を挟んだ。


「やっぱり《超感覚》が――」


「その名前は採用してない!」


 ミレアが即座に振り向いた。


 ネイラは二人を交互に見た。


「何、それ」


「こいつ、前にも見えないところにいる魔物の動きが分かったことがあって――」


「トウマ」


「はい」


 睨(にら)まれたので、口を閉じる。


 ネイラはひびの入った魔石を、不良品の布へ置いた。


「理由が分からないものは、仕事では『分からない』として扱うの。次に同じことがあったら、勝手に捨てず私を呼びなさい」


「……分かった」


「それと、分からないからって無視する必要もないわ。確認すればいいだけよ」


 ミレアはまだ魔石を見ていたが、やがて頷(うなず)いた。


 ネイラは何事もなかったように作業台へ戻っていく。


 ……格好いいな、この人。


 普通なら勘違いだと片づけられそうな話を、実際に調べてみせた。


 それに、魔石の中のひびまで見つけるとは。


 やっぱり専門の職人は違う。


 ハルディンの拠点メモには、「職人」も足しておいた方がよさそうだ。


    *


 午後は小型照明具の外枠を組む仕事になった。


 留め具を取り付ける穴は最初から開いており、部品の番号も決められている。


「穴が合わなかったら押し込まないで。私に見せて」


 ネイラに念を押され、工具を受け取った。


 組み立てながら、つい構造を眺めてしまう。


 細い金属板がずれないよう、留め具の形が工夫されている。小さな部品でも、向きが違えばきちんと収まらない。


 ふと、ハルディンでボルドと考えた折り畳み台を思い出した。


 あれも、こんな金具を使えば作れるかもしれない。


「ネイラさん、少しいいですか?」


「手は止めていい。何?」


 鞄(かばん)から折り畳み台の構想図を取り出し、作業台の端に広げた。


 紙には、台の脚を畳むための蝶番(ちょうつがい)と、開いた状態を保つ留め具の案が描いてある。


「こういうのって、ここでも作れますか?」


 ネイラは図を一度見てから、手元へ引き寄せた。


「……ドワーフの案?」


「ハルディンの鍛冶師(かじし)、ボルドに相談したんです」


「何に使うの?」


「野外で罠の道具を広げる小さな台です。今は地面に置いてるんですけど、濡れてると道具が汚れるし、作業もしにくくて」


「なるほど」


 ネイラの目が図面の上を動く。


「脚を畳むのね。持ち歩くなら、重さも考えないといけない」


「そうなんです。できれば高さも変えられて、あとは魔石で自動的に開くように――」


「最後はいらない」


 早かった。


「えっ、でも自動展開ですよ? 便利じゃないですか」


「手で開けなさい」


「魔道具工房なのに?」


 ネイラの手が止まった。


 顔を上げ、俺をまっすぐ見る。


「魔道具工房だから言ってるの。人の手で一秒で済むことに、わざわざ魔石を使う理由がある?」


「いや、でも……」


「魔石を組み込むなら固定具も必要。動かす仕組みも必要。壊れたら直す人も必要。それを全部増やしてまで、自動で開く台が欲しいの?」


 言葉が詰まった。


 確かに、持ち運ぶなら軽い方がいい。魔石を使えば、その分だけ値段も上がる。


 俺が欲しいのは、地面に道具を置かずに済む小さな台だ。


 勝手に開くかどうかは、正直そこまで重要じゃない。


「……手で開く方が安そうですね」


「そういうこと」


 ミレアが隣で笑いをこらえていた。


「何だよ」


「やっと言ってもらえたなって。あたしも前から同じこと思ってたし」


「お前も魔石を付けたら便利になると思わない?」


「手で開けばいい台に?」


「……うん」


「却下」


 味方がいなかった。


 ネイラは構想図の端を押さえ、脚の部分を見つめている。


「それより、この開き止めの位置。地面が傾いていると使いにくいかもしれないわ」


「じゃあ、もっと外側へ……」


「そう簡単じゃない。脚の長さと角度が変われば、力のかかる場所も変わるの。図のまま作っても、うまくいくとは限らない」


 細い工具の先で、図面の余白を指した。


「何を何個置くのか、どこで使うのか。それを先に決めてから持ってきなさい」


「罠用の網と縄と、小道具ですね。あとは解体するときにも――」


「増やさない」


「……はい」


「用途を一つに絞るの。何でもできる道具は、作る側からすると一番困る注文よ」


 ボルドと同じことを言われた。


 しかも、より具体的に。


「台そのものはまだ作らなくていい。まず載せる道具の重さを量りなさい」


「それならできます」


「次は、畳んだときの大きさ」


「……測ります」


「持ち歩けないほど大きかったら意味がないでしょう?」


「確かに」


 話しているうちに、台を作るための仕事がどんどん増えていく。


 楽をするための道具を考えているのに、作る前からこんなにやることがあるとは。


 ネイラは俺の顔を見て、少しだけ口元を緩めた。


「……いい顔になってきたじゃない」


「えっ?」


「何でもないわ。まず今日の仕事を終わらせなさい」


 図面を返され、作業台へ戻った。


 今のは褒められたんだろうか。


 少なくとも、条件を整理してもう一度持ってくれば、話くらいは聞いてもらえそうだ。


    *


 依頼を終えてギルドへ戻るころには、手に金属の匂いが染みついていた。


 受付で作業完了の確認を受け、今日の仕事も正式依頼の実績として記録される。


 報酬を受け取り、登録札をしまったところで、昼間のことが頭に浮かんだ。


 ひびの入った魔石。


 見た目では分からなかった異常に、ミレアは何かを感じ取っていた。


 森でも、倉庫でも、似たことが起きている。


 これはやっぱり、俺の《超成長》が仲間へ影響している証拠なんじゃないか?


「なあ、ミレア」


「何?」


「今日の魔石なんだけどさ――」


「《超感覚》って言ったら、報酬から一枚もらう」


「まだ何も言ってないだろ!」


「今、言った」


 ミレアが手のひらを差し出した。


 ……こいつ、本当に俺の考えてることまで分かるんじゃないだろうな。

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