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俺の転生チート《超成長》がどう考えても壊れている ~楽するために努力していたら故郷が発展していきます~  作者: MIYA
第3章 都会の仕事には近道がない

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第16話 俺の予定表は薬草を生やしてくれない

「もう四半刻も遅れてるんだけど」

 東門をくぐったところで、地図の裏に書いた予定を見直した。

 工事中の道を避けて遠回りし、門前では荷車の列に引っかかった。おまけにミレアが焼き菓子の屋台へ寄ったせいで、想定していた出発時刻からずいぶん遅れている。

「あたしのせいみたいに言わないでよ。一個しか買ってないでしょ」

「その一個のために並んだんだぞ」

「半分食べたの誰?」

「……おいしかったです」

「なら文句なし」

 反論できなかった。

 銀葉草の納品期限は昼。まだ間に合うはずだが、採集そのものにどれだけ時間がかかるか分からない。

 急いで街道を離れ、踏みならされた草地へ入った。

「……ないな」

 見本で覚えた銀葉草は、細長い葉の縁が白く、茎には少し赤みがある。似た草は生えているものの、目当ての株はほとんど刈り取られていた。

 少し先でしゃがんでいたミレアも、手ぶらで立ち上がる。

「こっちも駄目。切ったばっかりの跡だらけ」

「門から近いところは、毎朝誰かが採っていくんだろうな」

「そりゃそうでしょ。みんな近い方が楽なんだから」

 まったくもって正しい。

 俺だって楽をしたい。だからこそ、ここへ来た。

 ただ、同じことを考える人間が大勢いる場所では、楽な方法ほど先に取られてしまうらしい。

「十二束か……」

「数え直しても増えないよ」

「じゃあ、どうやったら増えると思う?」

「知らない。あたしも探してるんだけど」

 ミレアは耳を動かし、別の草地へ目を向けた。

 俺は地面を確かめる。

 刈られた株の周囲は乾いていて、靴で踏むと細かな土が舞った。ギルドで見た銀葉草は、これよりずっと柔らかい葉をしていたはずだ。

 なら、多少は湿り気のある場所に生えるんじゃないか。

 街道から離れたところに低い石垣(いしがき)があり、その裏側だけ草の色が濃い。

「ミレア、あっちへ行ってみよう」

「何か見つけた?」

「日陰がある」

「……薬草じゃなくて?」

「薬草がありそうな場所だよ」

 半信半疑の顔をされたが、歩き出すとついてきた。

 石垣の北側へ回ると、日の当たる草地より地面が湿っていた。足元には背の低い草が集まり、その間から白い縁の葉が顔を出している。

「あった!」

 先に声を上げたのはミレアだった。

 石の根元に銀葉草が固まって生えている。葉を確かめようと手を伸ばしたところで、彼女が振り返った。

「根は抜かない。葉は潰さない。分かってるからね」

「まだ何も言ってないぞ」

「言う顔してた」

 俺は口を閉じた。

 ……ちょうど言おうとしていた。

 採集を始めると、思った以上に時間を取られた。

 育った葉だけを選び、傷みのあるものを避けて束ねていく。片手で株を押さえたいところだが、左腕へ負担をかけないよう、姿勢を変えながら右手で作業を進めた。

 ミレアの方が少し速い。

 とはいえ、力任せに刈るわけにはいかない。葉を傷めれば納品できなくなるし、根を抜けば依頼違反だ。

「七束」

「こっちは八束目に入るところ」

「負けた……」

「競争してないんだけど」

 そこへ石垣の向こうから、採集者らしい二人組がやって来た。

「あ、ここ残ってたのか」

 片方が足を止め、俺たちの集めた葉を見る。

「銀葉草か。ほかはもう採られててさ」

「俺たちもやっと見つけたところです」

 残りの株を見れば、まだ採れる葉はある。

 だが十二束分さえ確保できれば、それ以上は必要ない。余分に採っても今回の報酬は変わらないし、次に来たとき何も残っていない方が困る。

「十二束で十分なので、残りはどうぞ」

「へえ。全部刈らないんだな」

「また生えてくれた方が、次に探すとき楽ですから」

 男は妙に感心した顔になった。

「若いのに採集場のことまで考えるとはな。今朝なんて根ごと持っていったやつがいたんだぞ」

 ……あの麻袋の男か。

 ここでも話題になっている。

「根を残しておけば、来年も使えますしね」

「そうそう。分かってるじゃないか」

 男は笑い、もう一人を連れて少し離れた株へ向かった。

 俺は手元の束を数え直す。

 来年も同じ場所で楽に採りたいだけなんだけど、ずいぶん立派な理由に受け取られた気がする。

    *

 薬舗へ着いたとき、昼の鐘まではまだ余裕があった。

 店員は俺たちから十二束の銀葉草を受け取ると、すぐには納品印を押さなかった。台の上に一束ずつ広げ、葉の傷みや根の混入を確かめていく。

 六束目で顔を上げる。

「ここまでは問題なし。残りも同じなら受け取れるよ」

「根は一本も入れてません」

「それが普通なんだけどね」

 ……褒めてもらえるかと思ったのに。

 結局、十二束すべてが受け入れられた。

 受領印の付いた控えを受け取り、店を出る。これで一件目の納品は終わりだ。あとはギルドへ報告すればいい。

「次は南市場ね」

 ミレアが地図を広げる。

「銀葉草、最初は全然なかったけど、間に合ったじゃん」

「予定どおりとはいかなかったけどな」

「見つけたからいいでしょ」

「いや、もっと正確な採集地図を作れば、次は早く済むかもしれない」

「それ作る時間は?」

「……今日よりは長いな」

「じゃあ今は次!」

 地図を畳まれてしまった。

 前世のゲームなら、薬草の採集場所には目印が付いていたんだけどな。現実でも自分で印を付けていけば、そのうち同じように使えるかもしれない。

 もっとも、今日はまだ二件も残っている。

 地図作りは帰ってから考えよう。

    *

 貸し籠の回収は、正直なところ簡単な仕事だと思っていた。

 指定された番号の籠を六個探し、商人組合の荷置き場へ戻すだけ。魔物もいないし、特別な技術も要らない。

 一個目は魚屋の裏。

 二個目は布屋の脇。

 三個目は市場の共同井戸の横に置かれていた。

 ここまでは順調だった。

「四個目は、ここの香辛料店だな」

 地図に記された店の前へ向かう。

 ところが、置かれていたのは樽と空箱だけだった。

「……ない」

「店の人に聞いてみたら?」

 香辛料店の主人へ声を掛けると、男は眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せた。

「ああ、あの籠か。朝から邪魔だったから向かいの果物屋に寄せたぞ」

 向かいへ行く。

「うちじゃないよ。荷車が来たから角へ動かした」

 角の店へ向かう。

「子供が座ってたやつなら、警備の人がどかしてたね」

 ……何だ、このたらい回しは。

 警備詰所の裏へ着いたときには、最初の店から市場を半周していた。

「あった!」

 ミレアが籠を見つけて振り返る。

「ほら、四個目」

「ここまで動かされるとは思わなかった」

「道に置いたままじゃ邪魔だからね」

 実際、どの店にも事情があった。

 籠の置かれた場所へ荷車が来れば移動させるし、通行の邪魔なら警備の人間が片づける。誰かが悪いわけではない。

 ただ、回収する側からすれば迷惑この上ない。

「効率化って何だっけ」

「予定外を減らす努力」

「減ってる?」

「……今は増えてる途中だ」

 ミレアが笑った。

 俺は笑えなかった。

 残る二個を探して通りを移動する。

 五個目はすぐ見つかった。問題は最後の一個だった。

「これじゃない?」

 ミレアが菓子屋の前に置かれた籠を指さす。

 形は同じだが、番号札を確かめると違っていた。

「八百三だな。探してるのは八百五」

「たった二つ違うだけなのに?」

「別の店の籠を持って帰ったら、盗んだことになるだろ」

「あ、そっか」

 危うく間違えるところだった。

 店の人に尋ねると、八百五は裏口で砂糖袋を運ぶのに使ったらしい。返却するのを忘れていたという。

 ようやく最後の一個を受け取り、商人組合の荷置き場へ運んだ。

 籠を重ねて番号を確かめてもらい、六個とも返却できたところで、俺は大きく息を吐く。

「二件目、終わり!」

「長かった……」

 ミレアは近くの腰掛けへ座った。

 俺も隣へ腰を下ろす。

 左腕には痛みが出ていないが、朝から歩きっぱなしで足が重い。市場の中を何度も行ったり来たりしたせいで、地図に書いた移動時間など何の役にも立たなかった。

 ふと、荷置き場の奥に目を向ける。

 返却された籠が番号順に並べられ、出入りする商人が札を確かめて持ち出していた。係の男は荷物の行き先を帳面へ記録している。

 たった六個の籠を探すだけでも、誰がどこへ持っていったか分からないと大変だ。

 それを何十個も扱うなら、管理する仕組みがないと仕事にならないんだろう。

「……ハルディンにも、こういうのがあれば便利だな」

「何が?」

「荷物の置き場所を決めて、番号を付けるんだよ。誰が使ったか書いておけば、探さなくて済む」

「あんた、畑道具をどこへ置いたか忘れて、よく父さんに怒られてたじゃん」

「だから必要なんだって!」

「先に自分で片づけた方が早くない?」

 ……正論すぎる。

 それでも、使う人が増えれば仕組みは必要になる。村に人が集まるようになったら、きっと役に立つはずだ。

 覚えておこう。

「さて、次は倉庫だな」

「夕方の鐘まで時間あるでしょ?」

「ああ」

「じゃあ休む」

「……はい」

 素直に従った。

    *

 北倉庫街へ着いたのは、夕方の鐘が鳴る少し前だった。

 市場の賑(にぎ)わいとは違い、こちらでは大きな荷車が行き交い、建物の前に木箱や麻袋が積み上げられている。

 指定された穀物倉庫を見つけ、入口の倉庫番へ登録札を見せた。

「ギルドから来ました。調査依頼を受けています」

 倉庫番は札を確かめ、俺たちの顔を交互に見た。

「二人だけか?」

「原因の確認ですよね?」

「そうだが……音が大きくなってる。昨日までは床下だったのに、今日は昼間にも袋を一つやられた」

 倉庫番は入口の鍵(かぎ)を持ち直した。

「調べるのは鐘が鳴ってからにしてくれ。まだ最後の荷を運び出してる」

「分かりました」

 少し待つと、夕方の鐘が鳴った。

 運搬作業が終わったところで扉が開く。

 倉庫の中には穀物袋が何列にも積まれていた。通路は荷車が通れるだけの幅を空けてあり、壁際には荷の数を記した札が下がっている。

 ただ、一列だけ袋が通路側へ寄せられていた。

 近づいてみると、袋の角に穴が開いている。

「……かじられてるな」

 穴の周囲には細かな繊維が飛び出し、下にこぼれた穀物を木皿が受けていた。

「刃物で切った感じじゃない。歯の跡だ」

 しゃがんで確かめていると、背後でミレアが動いた。

 耳が倉庫の奥を向いている。

「どうした?」

「……あっち」

「音がしたのか?」

「分かんない」

 ミレアは通路の先へ二歩進み、今度は右側の床を見た。

「いや、そこじゃない。もっと下……」

 言い終わるのとほぼ同時に、床板の隙間から細かな引っ掻(か)き音が聞こえた。

 俺も耳を澄ませる。

 確かに何かいる。

「ミレア、今の音――」

「まだ。待って」

 彼女は手を上げて制した。

 倉庫番に頼み、奥から三列目の袋を少し動かしてもらう。荷を勝手に触れば依頼違反になるので、作業は倉庫番自身に任せた。

 袋の下にあった床板の端は、白っぽく欠けていた。

 次の瞬間、その隙間から灰褐色の鼻先が突き出した。

「おっ……」

 続いて小さな口が見える。

 歯が妙に厚く、石のように硬そうだった。

「石歯トカゲだ!」

 倉庫番が声を上げた。

 体長は人の腕ほど。

 大きな魔物ではないが、穀物袋を破るには十分な歯を持っている。そいつは俺たちの姿を見ると、すぐ床下へ引っ込んだ。

 腰の剣へ伸ばしかけた手を止める。

 狭い倉庫で剣を振り回せば、穀物袋まで切ってしまいかねない。

 しかも、こちらは調査依頼だ。

「床板を外せますか?」

 倉庫番に尋ねる。

「勝手に壊すなって依頼に書いてあったろ」

「だから聞いてるんです」

「今日は無理だ。持ち主の許可が要る」

 なら、今日の仕事は原因の確認までだ。

 無理に追いかける必要はない。穴の位置と魔物の種類を報告し、あとは倉庫側の判断を待てばいい。

 それにしても、あの歯は厄介そうだ。

 食べ物を保管するだけでも、魔物の侵入を防がなければならない。ハルディンで倉庫を増やすなら、床板の隙間にも気を付ける必要があるだろう。

 頭の中で、故郷の拠点メモに「倉庫」を書き足す。

 魔物対策まで考えるのは面倒だが、保存した食料を毎回かじられるよりはましだ。

「……トウマ」

 ミレアの声が低くなった。

 顔を上げると、彼女はさっきの床板ではなく、通路の左側を見ていた。

「どうした?」

「動いた」

「床下を?」

「たぶん。左へ行ったと思う」

 俺も耳を澄ませた。

 しかし、何も聞こえない。

「……音、したか?」

「だから分かんないって」

 ミレアは苛立ったように答えたあと、自分の耳に触れた。

 その数呼吸後だった。

 左側の床下から、硬いものが木を擦る音が響いた。

 俺たちは顔を見合わせる。

 聞こえる前から、あいつが動いた方向を分かっていたのか?

 森でフォレストハウンドと戦ったときのことが頭をよぎった。

「なあ、今のって――」

「言わなくていい」

 ミレアが先に止めた。

 彼女は左肩をかばうように身体の向きを変え、床板の隙間を見つめている。

「……まだ、何かいる」

 その直後、さっきとは反対側の床下から、もう一度硬い爪の音がした。

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