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俺の転生チート《超成長》がどう考えても壊れている ~楽するために努力していたら故郷が発展していきます~  作者: MIYA
第2章 傷と荷物を抱えて旅に出る

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第11話 レベルが上がってもギルドには叱られる

「その手で依頼票を出さなくていい」

 ギルドの職員(しょくいん)は、俺の左腕を見るなり帳面(ちょうめん)を閉じた。

 袖(そで)には乾きかけた血がついている。カイルが布(ぬの)を巻いてくれたおかげで、出血はだいぶ収まったが、指先を動かすと傷の周りが引きつれた。

「フォレストハウンドが出ました。四匹です」

「……四匹?」

「一匹は倒しました。残り三匹は森へ。俺たち三人は撤退(てったい)しました」

 職員は椅子(いす)を立った。

「ミレア、そこの長椅子に座って。カイルも槍を置いて。まず傷を見せなさい」

「報告が先じゃないんですか?」

「報告の途中で倒れられる方が困る」

 言われてみれば、そのとおりだ。

 職員は水と清潔な布を出し、俺の左腕とミレアの肩を確(たし)かめた。ここには治療師(ちりょうし)が常駐していない。傷の汚(よご)れを落とし、布を巻き直すところまでしかできないと言われた。

「今は浅く見えても、あとから腫(は)れることがある。熱が出たり、痛みが強くなったりしたら、すぐに知らせること」

「分かりました」

「今日のところは剣を振らない。ミレアも左肩を使わない。いいね?」

 ミレアは右手で短剣(たんけん)の鞘(さや)を押さえてから、頷(うなず)いた。

 俺も大人しく返事をする。

 ここで逆(さか)らって、また三週間も寝(ね)かされたらたまらない。

    *

 報告は思った以上に時間がかかった。

「四匹のうち、一匹を倒した場所は?」

「水路のそばです。地面が崩(くず)れて、そこへカイルが槍を――」

「待って。倒した一匹は回収した?」

「してません」

「残りの三匹は?」

「森へ戻りました。ただ、また出てくるかもしれません」

 職員は一つずつ書き取った。

 穴ネズミを捕まえた場所。水路が崩れている場所。フォレストハウンドが出てきた方向。帰り道を塞(ふさ)いだ一匹の位置。

 俺が「あの辺です」と指さすたび、カイルが場所を言い直す。

「そこは畑の南側だ。水路は西へ流れてる。土道はその外側」

「……よく覚えてるな」

「地面を見てたからな。お前は狼を見てたろ」

 カイルは傷んだ槍(やり)を長椅子に立てかけ、石突(いしづ)きで床を傷つけないように位置を直した。

 職員は記録を終えると、別の紙を取り出した。

「穴ネズミの依頼は、完了にはできないね。捕まえた一匹も道具も現場に残っているんでしょう?」

「はい。取りに戻るのは危ないと思って」

「その判断はいい。ただ、依頼人には事情を伝えなきゃならない。水路も使える状態か分からないからね」

 俺は自分の依頼票(いらいひょう)を見た。

 完了印のない紙。

 今日の報酬は、まだ受け取れないらしい。

「フォレストハウンド一匹を倒した分は?」

「確認できていないし、そもそも討伐依頼を受けたわけじゃないでしょう。勝手に報酬はつけられないよ」

 ……なるほど。

 命がけで戦ったのに、財布は一リルも増えていない。

 初めての赤字イベントじゃないか。

「でも、逃げたのは正解ですよね」

「正解だよ。無事に戻って報告してくれたから、ほかの人へ危険を伝えられる」

 職員は新しい紙に大きな文字を書き、入口の掲示板(けいじばん)へ貼った。

 森に近い畑でフォレストハウンドが確認されたこと。三匹がまだ森側にいること。水路の縁(ふち)が崩れていること。

 職員が紙を留(と)める間も、机の上には別の依頼票が積まれたままだった。

「……出張所って、忙しいんですね」

「忙しいというより、人がいないんだよ」

 職員が苦笑する。

「私がここを空けたら、依頼を受け付ける人もいなくなる。だからといって、森へ行く人を放っておくわけにもいかない」

 言われてみれば、ハルディンのギルドには職員が一人しか見当たらない。

 ルーヴェルみたいな大きな町なら、もっと人がいるんだろうか。

「危険な魔物が出たら、すぐに助けに来てくれる人も必要ですよね」

「そうだね。だけど、それには人手も準備も要る。建物を大きくしただけじゃ、できない仕事だよ」

 俺は掲示板(けいじばん)を見た。

 前に比べて依頼票が一枚減っている。

 危険を知らせる紙が増えたからだ。

 村の外で安全に仕事をこなせなければ、俺の稼(かせ)ぎにも響(ひび)く。

 ……この村、ギルドも強化しないと駄目なんじゃないか?

    *

「もう一つ、確認させて」

 職員が測定石(そくていせき)を机へ出した。

「登録したばかりの二人が、フォレストハウンドと交戦している。カイルも同行していた。今回の件は、三人の現在のレベルを記録しておきたい」

 来た。

 測定(そくてい)イベントだ。

 俺は思わず背筋を伸ばした。

 三週間寝ていただけで、レベル三になっていた俺だ。

 その後は角ウサギを捕まえ、畑ネズミを駆除(くじょ)し、毎日訓練してきた。最後にはフォレストハウンド四匹と戦って、生きて帰ってきた。

 《超成長》の効果(こうか)が出ていないはずがない。

「俺からやります!」

「左腕は使わないで。右手でいいから」

 測定石(そくていせき)に右手を乗せる。

 冷たい石の表面に、白い文字が浮かんだ。

 ――4。

「トウマ、レベル四」

 職員が記録を書き足した。

 俺は石を見つめた。

 三から四。

 一つ上がっている。

「……やっぱり《超成長》、壊れてるだろ」

「何か言った?」

「いえ。ちょっと成長が早すぎるなと」

 職員は俺の左腕へ目を向けた。

「成長していても、怪我は怪我だよ」

「それはもう、身をもって」

 ちなみに俺の青い画面は、今もレベル一のままだ。

 どうやら、あっちは転生直後の初期表示を維持(いじ)しているらしい。

 測定石が実際の成長を教えてくれるなら、まあ問題ない。ゲームでも表示が更新されない不具合くらいあるだろう。

「次、ミレア」

 ミレアが右手を乗せた。

 石の表面に数字が浮かぶ。

 ――6。

「レベル六」

「……え?」

 俺は思わず聞き返した。

「六?」

「六」

 ミレアは石から手を離し、満足(まんぞく)そうに尻尾(しっぽ)を揺らした。

「あたし、ちゃんと伸びてるじゃん」

「いや、待て。俺が四で、お前が六?」

「そうよ」

「俺より二つ上?」

「数字が読めないの?」

 読める。

 読めるからこそ、不思議なんだ。

 《超成長》を持っているのは俺のはずなのに、ミレアの方がレベルが高い。

 いや、待てよ。

 ゲームには、パーティー経験値という仕組みがある。

 仲間と一緒に戦うと、経験値が分配されるやつだ。

 俺の《超成長》がパーティー全体に影響(えいきょう)しているとしたら……?

「……なるほど。そういうことか」

「何が?」

「俺のチート、仲間にも――」

「待ちなさい」

 ミレアは右手で俺の額(ひたい)を指さした。

「あたし、あんたが寝込んでる間も練習してたんだけど」

「知ってる」

「走るのも、短剣も、一人でやってたんだけど」

「それも知ってる」

「じゃあ何で、あんたの手柄になるのよ!」

「いや、手柄を取るつもりは……」

 ミレアが睨(にら)んでくる。

 これは説明の仕方を間違えたらしい。

「もちろん、お前が頑張ったのは分かってる。でも、パーティー補正(ほせい)って可能性が――」

「補正って何よ!」

 ……説明が長くなりそうだ。

 職員が咳払(せきばら)いした。

「二人とも、測定を終わらせてからにしてくれる?」

    *

 最後はカイルだった。

 槍(やり)を長椅子へ置き、測定石(そくていせき)に手を乗せる。

 浮かんだ数字は、またしても六。

「カイル、レベル六」

「そうか」

 カイルは頷(うなず)いて手を離した。

 俺は思わず二人を見比べた。

 ミレアが六。

 カイルも六。

 俺は四。

 ……何だ、このパーティー。

「カイルって、結構強いんだな」

「さっき一緒に戦っただろ」

「いや、そうなんだけどさ」

 槍(やり)の扱(あつか)いも、地面を見る目も、確かに俺より経験がある。

 ただ、同じパーティーで戦った二人がそろって六というのは、どうにも気になる。

 もしかして、俺の《超成長》は仲間の方に強く効(き)く仕様なのか?

 そんなことを考えていると、職員が三人の記録を並べた。

「測定は終わり。トウマ四、ミレア六、カイル六。数字はちゃんと記録しておくよ」

「じゃあ、ランクは?」

「変わらない。レベルが上がったからって、すぐにランクが上がるわけじゃないでしょう」

 そうだった。

 ランクは実績と信用、仕事ぶりで決まる。

 今回の俺たちは、魔物を一匹倒したが、受けた依頼は未完了だ。しかも怪我(けが)までしている。

「それから、トウマ」

 職員が俺を見た。

「さっきの話、少し気になったんだけど。危険な魔物と戦えば、早く強くなれると思ってる?」

「……まあ、強い敵の方が経験値は多そうですし」

「経験値?」

「前世の……ええと、成長の目安みたいなものです」

 職員は少し考えたあと、帳面(ちょうめん)を閉じた。

「あなたがどういう意味で使ってるかは知らないけどね」

 指が、俺の左腕の包帯(ほうたい)を指す。

「危険へ突っ込むことは経験値稼ぎではないよ」

「……はい」

「今回、三人で協力して戻ってきたのはよかった。退路を確かめて、無理に残り三匹を追わなかったのもね。でも、最初に危険だと分かったところで、もっと早く引けたかもしれない」

 俺は自分の左腕を見た。

 包帯(ほうたい)の下が、じんじん痛む。

 ミレアも左肩を動かさないようにしている。カイルの槍(やり)には、まだ裂(さ)け目が残っていた。

 今回、確かにレベルは上がった。

 けれど、もしあのときミレアが背後の一匹に気づかなかったら、もっと大きな怪我をしていたかもしれない。

「……次は、もっと早く逃げます」

「そうして。依頼を一件終わらせることより、次の依頼を受けられる体で帰ってくる方が大事だから」

 職員はそう言って、掲示板(けいじばん)の危険告知(こくち)をもう一度見た。

    *

 ギルドを出ると、カイルが槍(やり)を持ち直した。

「俺はボルドのところへ行く。これを見てもらわないとな」

「修理か?」

「ああ。柄(え)が裂けたままじゃ使えない。修理代の分、しばらくこの村で仕事をすることになりそうだ」

「じゃあ、一緒に行こう」

「お前は怪我人だろ」

「歩くくらい平気だ。それに、俺の剣も見てもらいたい」

 カイルは一瞬考え、歩く速さを落とした。

「……無理はするなよ」

「分かってるって」

 ミレアは家へ戻るというので、ギルドの前で別れた。

「トウマ、ちゃんと休むのよ」

「お前もな」

「言われなくても休む。あと、あたしのレベル六は、あたしが練習したからだからね!」

「分かってる、分かってる」

「二回言うときは分かってないのよ!」

 ミレアは尻尾(しっぽ)を大きく振って、家の方へ歩いていった。

 ……まあ、本人が努力しているのは本当だ。

 俺だって見てきた。

 あいつは俺が寝ている間も練習していたし、木の棒の持ち方まで自分で直していた。

 だから、レベル六という数字にも納得はできる。

 ただ、そこへ俺の《超成長》が補助(ほじょ)的に効(き)いている可能性は、まだ残っている。

 パーティー全体の効率が上がるなら、それはそれで大当たりだ。

    *

 ボルドの鍛冶場(かじば)では、いつもの鉄を打つ音が響(ひび)いていた。

 中へ入ると、ボルドが炉(ろ)の前から顔を上げる。

「おう、トウマ。そっちのは?」

「カイルです。今日、一緒に戦ってくれたんですけど、槍(やり)が傷んで」

 カイルが槍を差し出した。

 ボルドは柄(え)の裂(さ)け目を指でなぞり、少し力をかけて確かめた。

「……こりゃ、強く突いたら折れるな」

「そう思って、途中から突くのをやめた」

「正解だ。無理に使ってたら、穂先(ほさき)ごと持っていかれてたぞ」

 ボルドは槍を作業台へ置いた。

「修理できるかは見てみる。柄(え)は交換になるかもしれん」

「お願いします」

 カイルは頭(あたま)を下げた。

 俺はその様子を見ながら、左腕の包帯(ほうたい)を押(お)さえた。

 武器が壊れれば、修理が必要。

 人が怪我をすれば、治療が必要。

 でもハルディンには、治療師がいない。

 ギルドも小さく、危険な魔物が出たときにすぐ動ける人が足りない。

 前世みたいな便利な町にするには、店を増やすだけじゃ駄目らしい。

 いざというときに頼れる人と、ちゃんと仕事を回せる場所が要る。

 視界の端(はし)に、青白い文字が浮かんだ。

【拠点メモ:ハルディンに足りないもの】

・灯り

・水

・治療師

・市場と相場

・ギルドの格



 よし。

 また一つ、必要な施設が増えた。

 これでハルディンの拠点育成(きょてんいくせい)計画は、さらに進んだことになる。

 ……もっとも、今の俺には十二リルと、金額を数えていない報酬袋くらいしかない。

 ギルドを大きくするより先に、まずはもっと稼(かせ)がなきゃならない。

「そうだ、ボルド」

「何だ」

「俺の剣もちょっと見てくれないか。さっきの戦闘で、刃(は)を受けたんだ」

 俺は右手で片手剣を抜(ぬ)き、作業台へ乗せた。

 ボルドは刃を覗(のぞ)き込んだ。

 指でなぞる。

 角度(かくど)を変えて見る。

 それから、俺の顔を見た。

「……お前、これでよく帰ってきたな」

「え?」

「刃のここ。傷(きず)が深い。もう一度同じように受けたら、今度は持たんぞ」

 俺は剣を見た。

 確かに、刃(は)の途中に細い欠(か)けがある。

 カイルの槍ばかり見ていて、自分の剣までは確かめていなかった。

「……修理、必要?」

「当たり前だ。置いていけ」

 俺は作業台の上の剣を見つめた。

 今日、レベルは上がった。

 仲間も強くなっていた。

 ギルドに必要なものも分かった。

 でも、財布は一向に増えない。

「なあ、ボルド」

「何だ」

「……修理代、後で払うのは駄目か?」

 ボルドは黙(だま)って、俺の左腕の包帯(ほうたい)を見た。

 それから、剣を作業台の奥へ引っ込めた。

「まずは家へ帰れ。母さんにその腕を見せてこい。話はそれからだ」

 ……修理代の相談をする前に、母さんからもう一度説教(せっきょう)されることが確定した。

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