表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大手退魔会社のコンプラ室に異動したら、怪異被害は全部「人災」でした 〜安全装備を半分に減らした役員を、社内文書だけで失脚させます〜  作者: 氷室 累


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/14

第10話:構造図の完成と、最初の呼び出し

 サトルと椎名は、集めた証拠を、一枚の図に、まとめた。


 感情は、入れなかった。矢印と、日付と、文書番号だけの、静かな図だ。だが、それは、この会社が五年かけて回してきた仕組みを、余さず、映していた。


──────────────


調査中間まとめ:安全通報 抑制スキームの構造(通報番号 2026-0417-003 関連)


 ① 〔方針〕稟議2025-J-0088(決裁:大鷲)

   → 安全備品を実配備で削減。台帳上は規定値を維持(=帳簿上は適法に偽装)

 ② ↓

  〔事故〕規定を割った装備で現場対応 → 殉職・被災が発生(例:九鬼透)

 ③ ↓

  〔処理〕示談で「本人の過失」に付替(決裁:大鷲)/台帳を事後修正

 ④ ↓

  〔封じ込め〕被災・危険を通報した者に、相談員が面談(配布資料03/承認:大鷲)

   → 「自発的な取り下げ」に誘導(過去5年で45件)

 ⑤ ↓

  〔見せしめ〕取り下げ後、当該通報者を配置転換・退職に誘導

  ─────────────────────────

  結論:本スキームにより、安全規定違反(人災)が「本人の過失」「本人の申し出」として、正式記録に残らないまま処理されてきた。中核決裁者:大鷲。


──────────────


「……できましたね」椎名が、図を見つめて言った。「憶測は、一つもありません。全部の矢印に、文書番号がついています」


 サトルは、その図を、じっと見た。装備を減らす。事故が起きる。過失にする。声を潰す。飛ばす。円環だった。安全の声が上がるたびに、この輪が回り、また、なかったことになる。四十五回、回った。九鬼で、四十六回目に、なるところだった。


「これを、どこへ持っていくかだ」サトルは言った。「西野さんの権限では、もう、上げられない。役員が絡んでる。ぶつけるなら――取締役会か、第三者委員会だ」


「まだ、早いです」椎名が言った。「この図の、④と⑤の間。相談員が『関知しない』とした人事措置――配置転換の指示が、どこから出たのか。そこが、まだ、繋がっていません。大鷲の名前は、方針・示談・台本まで。でも、人事異動の辞令に、大鷲が直接署名した記録は、まだ、見つかっていない」


「慎重な男、だからな」


「ええ。だから、そこを埋めないと」椎名が言いかけた、その時だった。


 サトルの、社内メールに、一件、通知が入った。差出人は、人事部。件名を見て、サトルは、口の端で、笑った。


──────────────


面談のご案内

 木村サトル 様

 日頃の業務、お疲れさまです。

 このたび、あなたの今後のキャリアと働き方について、ゆっくりお話をうかがう場を設けたく存じます。

 つきましては、下記日程にて、人事部相談員との面談をお願いいたします。

 ※本面談は、あなたをサポートするためのものです。どうぞ、お気軽に。

 担当:人事部 相談員


──────────────


「……来たか」サトルは、その文面を、椎名に見せた。


 椎名の表情が、変わった。彼女は、その一文を、読み上げた。「『本面談は、あなたをサポートするためのものです』。……これ」


「配布資料03の、一行目だ」サトルは言った。「『あくまで通報者の味方として接すること』。――今度は、俺が、面談される側だ」


 優しい顔で、味方の顔で、同僚を盾に、自発的な取り下げへ。四十五人が、通されてきた、あの部屋へ。今度は、サトルが、呼ばれていた。九鬼の件を、調べるのを、やめろと。優しく、囲い込むために。


「行くんですか」椎名が聞いた。


「行く」サトルは、即答した。「向こうが、台本どおりに来るなら――こっちは、台本を、全部、知ってる」相手が優しく潰しにくるその面談こそ、⑤の欠けた矢印を埋める、またとない機会だった。「同じ手が、俺に通用するか、試させてもらう」


 だが、椎名は、笑わなかった。彼女は、別の画面を、見ていた。


「木村さん。この面談案内、送信元を、辿りました」椎名の声が、硬かった。「相談員の名義で来ていますが、送信を『指示』したアカウントの、決裁ログが、残っています。……人事役員決裁ラインじゃ、ない」


「大鷲じゃ、ないのか」


「もっと、上です」椎名は、画面を、サトルに向けた。決裁ログの、権限区分。そこに表示されていたのは、大鷲の名でも、人事部でもなかった。


 経営企画。役員。財前。


「財前」サトルは、初めて聞く名を、口にした。「……誰だ」


「経営企画担当役員」椎名が言った。「コスト削減方針の、総責任者です。……大鷲の、上」


 慎重な大鷲でさえ、署名を残した台本。その、もう一つ上。装備を減らす方針の、大元。声を潰す仕組みの、後ろ盾。その名が、たった今、サトル自身を潰すための面談を、指示していた。


 サトルは、完成したばかりの構造図を、もう一度、見た。中核決裁者、大鷲。その名の、さらに上に、今、もう一つ、書き足すべき名前が、見えた。財前。


 輪は、大鷲一人で、回っていたのではなかった。もっと大きな手が、その輪を、回していた。


 サトルは、面談案内を、閉じた。そして、椎名に言った。


「構造図に、行を、一つ、足そう。⑤の、上に。――まだ、埋まってない矢印の、その先に」


 通報潰しの構造は、一枚の図になった。だが、その頂点には、大鷲ではなく、財前という新たな名が現れた。そしてサトル自身が、今、その仕組みの標的に選ばれた。


 次回、サトルは「自分を潰すための面談」に、単身で臨む。優しく囲い込む相談員の言葉の裏から、⑤の欠けた矢印――誰が異動を指示したのかを、引きずり出せるか。


 ※★評価・ブックマークが、次の一件を追う力になります。この続きが気になった方は、応援していただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ