123. 討伐完了スライム その1
なんていうか、もう。
はあ、だ。
かわいいとばかり思っていた旦那様なのに――。
実はまともな攻撃力もかなり高かった。
あんなプロポーズ、されると思ってなかった。
『ずっと狙ってた』っていう、あれがもう、そうなんだって。それだってすごく嬉しかったから、そのままの気持ちで自分を選んでくれたら、って思っていたのに。
『自分一人だ』っていう、脅迫めいたアントニーのプロポーズを羨ましく思ったのも確かだけど、あんな――懇願と切望が交じった言葉をもらうとは――はあ。
頬を撫でてくれた、手。
次々と振ってきたキス。
はあ。
この人が自分の相手なんだ、私もそうなんだ、大丈夫なんだってやっと心から安心できた。
と、思ったら――。
思い返すとそれだけで顔に火が付く。
あれの肩ひもを解きたいって言われた。かなり頑張って堪えてるって。
やっぱりそうじゃん!
あの格好って、どう考えてもそういう意味になるじゃない!
あれ、絶対、相手がトリスタンじゃなかったら――絶対絶対そういう意味だって取られてたと思う――はあ。
しかも自分であのローブを「着て」って言ったくせに、腕を解いてくれないとか。
思わせぶりな『また今度』の台詞とか。
かわいいなって思ってたはずの旦那様はもうかわいいだけじゃなくて。
むしろちょっと――いやかなり危険な感じになってて。
わかってる。
妻なんだし。
わかってる。
だけど、どうにか頷きはしたものの、自分はもういっぱいいっぱいで。
今だって思い出しただけでへたりそう――はあ。
~~~~~~
昨晩のエリザベスは、ドキドキメーターがもう右に左にと振り切れまくりでどうしていいのかもわからなくなっていた。
だけど、エリザベスが頷いたのを確認したトリスタンはちょっと笑って――エリザベスの心臓がまた跳ねた――あっさり腕を解いた。そしてひょいとしゃがんでベッドの下から自分の旅行用トランクを引っ張り出した。
ベッドの真ん中に乗せる。
「リジー、そっちに登って」
ってトランクを挟んだベッドの反対側に乗るように促して――「あ、やっぱ隣に――いや、やっぱりそれ、着替えてくれる? 外で待ってるから」そう言い直して、さささっと部屋から出て行く。
ほっとしていつものナイトウェアに着替え、髪もいつも通りに三つ編みにした。
さすがにあれを着たままは落ち着かなかったし。
着替えてドアを開けると、待っていたトリスタンもちょっとほっとした顔になって、お互いに照れ笑い。
それからもう一度ベッドに戻って、並んで座った。
軽い苦笑付きでトリスタンが蓋を開ける。
で。
その後がまた――無茶苦茶だった。
次々とトランクから取り出して見せてくれたのは、七歳の頃から――つまり出会った時から今までの十年の間に――少しずつ溜まった、エリザベスへの贈り物たち、だった。
黒豹として側にいてくれた時のトリスタンが自分に贈りたいって思ってくれた物たち。
目を丸くしたエリザベスの掌にそれぞれの品物を乗せて、どこで見つけたのか、どうやって手に入れたのか――パートリッジの祖父がどんなふうに協力してくれたのかも一緒に教えてくれた。
一度は引っ込んだ涙がまた溢れてきて、トリスタンは驚いて焦っていたけれど、あれは泣くなっていう方が無理だ。
だって、ウィルベリーの領地の川で見つけたというきれいな緑の石やピカピカの貝殻は出会ってすぐの頃。リボンやハンカチはもう少し大きくなってからで、ペンや本は王都に来て学院に入ってから。香水用の小瓶やジュエリーボックスは高学年になった頃。つまり、本当にずっと――『ずっと、狙ってた』っていうのは、本当の本当にずっと、ってことだ。
話してくれる目がすごく優しくて、嬉しそうで、楽しそうで――「やっと渡せた」って。
そのうちトリスタンもエリザベスが泣きやむのは無理だって諦めてくれて、かわりに何度も落ちつかせるようなキスをくれた。
もう溶けそう。「討伐済みスライムになって地面に染みこむしかない」ってこういうことか、と思い当った。
なのにそれだけじゃなくて。
贈り物が終わりに近づいた時、小さな布の袋を渡された。
「ウィリアムとの婚約式の日、絶対にリジーを自分の奥さんにするって決めた。それから探してたんだ。指輪にしようと思って」
淡い水色の石たちがころころと掌に転がり出てきて目を見張る――どれもすごく綺麗だった。
なのに。
「でも、気に入らなくてさ――」
って、また苦笑。
みんなすごく綺麗なのに。
「困ってたらこの前こっちのジジイがダンジョンで見つけてくれて。それはこっち」
次に掌に載せてくれた小箱は蓋が開けてあって、中には澄んだ水色の石が留められた銀の指輪。
呆気に取られて見つめていると、手のひらの上の小箱が入れ替わった。
「是非つけさせて欲しいのはこっちなんだけど――」
今度の箱の中身はオレンジがかった滑らかな金の指輪だった。
「そっちが先だってわかってるんだけど――」そう言って最初の小箱を示す。「それに、ちゃんと成人して、きちんとウィルベリー公爵の許可も取ってからって思ってたんだけど――気持ちは絶対他のどこにもいかないから。いい? この指、だったよね」
確認してからそっと嵌めてくれる。
確認したのは、この世界ではエリザベスとアリアンヌ以外に知ってる人はいないと思っていたその指と指輪の意味――ナイトの時に聞いて覚えていたんだとわかる。
泣きすぎて目もとけそうだし、落とされまくりで二度と浮上出来ない、って思った。
こんな隠し玉なんて、あんまりだ。
つるつるの指輪の表面を撫でながら息を吐く。
もう絶対一生外さない。
そう思いながらきゅっと拳にする。
トリスタンは優しい笑顔になってから、たくさんの贈り物が入ったトランクをベッドの下に戻した。
――一つずつ教えてもらっていたせいで時間もかなり経ってすでに夜半過ぎ――今度はちゃんと一緒に、いつものように天井を見上げた。




