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世界の終りまで君と  作者: 佑
第二部 第四章 領主とは
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118. 住民ギルド=町役場の発足

「とりあえず、夜からはシュヘル邸だな……」


 朝のうちに賑やかな面々を送り出し、訪れた静けさにちょっと寂しくなりながら、送り出す必要のない人が隣にいることに感謝する。


「そうね。ギルドにもダンジョンにも治療院にも近くなるけど――」


 エリザベスが言葉を切った。

 家からの道のりを一緒に歩ける時間が減るのは、残念。それにマリーがシュヘル邸に移ってからは二人だけで住んでいたあの家を出ることも、残念。エリザベスもそう感じてくれているんだと思う。


 その大きな屋敷の前で手を振って別れる。


 今日のナイジェルとリディアとエリザベスはまずシュヘル邸の片づけだ。その後二人はダンジョンの一階層に、エリザベスは治療院に行く。トリスタンは冒険者ギルドに、祖父とマリーはダンジョンにとバラバラだ。

 いつものようにエリザベス特製のお弁当を持って――王都に帰るみんなもそれぞれ持たされていた――ギルドに向かうと、既に数人が出勤していた。

 忙しいのに皆にこやかで、いい職場だと思う。



 ジョナサンの訪れで冒険者ギルドは様変わりした。

 まず一部が区切られ、各ギルドから一人ずつ集めた人材(時間を決めて今だけ手伝ってくれるラグドルさんのような有志もいる)によって、狭いながらも領民の生活全般の相談を受ける「住民ギルド」ができた。ここが今のトリスタンの職場――まあ、当面は――そういうことになる。

 急ごしらえの掲示板には求人情報とイベント情報が張られている。

 求人は「住民ギルト・正職員三名」「冒険者ギルド内・雑務」「食堂経営者・経営者補助・店員」「冒険者向け宿屋・経営者」「宿泊施設・清掃作業(冒険者ギルドでの受付も可)」……。

 イベントは「九月・マス釣り大会、参加者募集(釣り道具は各自で準備。釣った魚はその場で塩焼き)」「十月・お月見、参加者募集(手作り月見団子の料理教室、親子参加大歓迎・料理は三歳~)」「十一月・焼き芋、焼き栗の会、参加者募集(子どもは保護者同伴)」……けっこう充実している。


 イベントはそもそもなかったのだが、昨日の昼に祖父と入れ替わりでダンジョンから出てきたナイジェルとリディアと一緒に様子を見にやってきたエリザベスが、「市役所……いえ、町役場……発展させよう系のゲーム的な……まさかタヌキの店主とか出てこないわよね?」となにやら意味不明の言葉を呟いてから、その場で職員たちとも相談し、わいわい楽しく決めたものだ。

 各月のイベントの参加希望者リストのトップに名前を書いていて、それを見た職員たちがこぞって自分の名前を追加していたのが嬉しかった。


 住民ギルドでは住民の税や福利厚生を扱い、各自に登録カードが発行される。課税されるとしても開始は来年度からなので、当面は試運用期間となり、数字では上ってくるけれど実際に徴税はしない。不具合が生じても試運用期間のうちに修正できるのはありがたい。

 すでに各ギルドの登録カードを持っている人は統一が可能で、まずは税が関わってくる成人から随時発行。それと同時に税金が関わらない家族の情報を調べて台帳にまとめる――今後の発行を楽にするためなのだが、エリザベスは「将来的に『教育』や『医療』を提供することになったときにも使えるから、ちゃんと赤ちゃんも調べて欲しい」と言っていた。


 登録カードの統一や内容の変更方法についてはアントニーがその仕組みを教えていってくれたけれど、かなりややこしかったので自分と祖父以外にできる人がいるとは思えなかった。

 というか、祖父も「面倒じゃな」と一言言って、途中から聞くのをやめてしまった。

 エリザベスは理解はできるだろう――ただしエリザベスは細かい調整は苦手なので、実際の作業は無理だと思う。


「新規発行は楽だけど、統一は難しいからな……普通の統一作業は二枚のカードを特別な魔術具を使って一枚にまとめるんだ。ここだと書き換えるしかないから……もっと大きな都市になら魔術具があるだろうが……やっぱりここだと申請しても間違いなく却下だ。帰ったら王都にある魔術具と同じようなやつを作って送ってやるよ。ただし、時間はしばらくかかるぞ。普通ならああいうやつの仕組みは閲覧許可が下りないんだ。悪用されたら大変だからな」


 じゃあなんでアントニーは見れるということを前提にそんな話をしているのか――おそらくパートリッジの祖父が暗躍し、非公開の使用許可が国王から出るのだろう。


 集めた職員は各ギルドとの連絡役も兼ねており、現在募集中の住民ギルドの職員が決まって、成人のカードを全員分渡し終えて手が空くようなら、その時は各ギルドに戻っていいことになっている。けれど昨日のイベント決定の流れで「このまま住民ギルドに移るのもありかな……」という呟きが聞こえたので、そっちにも期待している。

 住民が増えているという話は――確かにあったけれど、領地にいる人間の数について祖父やラグドルも交えて確認したところ外部では微々たるものだった。つまり増えているのは街周辺だけ。やはり冒険者だろう。

 彼らは基本は流れ者だからギルド職員をやってくれるような人材が簡単に見つかるとは思えないし、冒険者用宿泊施設は必要――ここに来た時に馬車の護衛任務をしてくれたお兄さんが次に来たら定住を勧めてみるつもりで、ラグドルには食堂のお客さんの中にもよさそうな人がいたら声をかけて欲しいと言ってある。

 


 冒険者ギルド自体にも変更があった。

 一階の査定・買取スペースが大きくなり、倉庫部分の三分の一を区切って工業素材ではなく食用の素材を扱えるようにした。一部はまだ改築中だけれど、食材の購入希望者からよく見えるガラスのショーケース(アントニーによる保冷および保凍の付与魔法つき)は昨日から稼働させているし、中身も既にいくつか入っている。


 ギルドの依頼票が留められた掲示板はもとから難易度別になっていたけれど、「初級冒険者用」の横に「三階層まで」の区分けが増えた。

 そこに貼ってあるのは主に食材の依頼票で、『不必要な乱獲を認めた際はダンジョン内の立ち入りを禁ずる』としたうえで「鶏(処理済み)十羽」「鴨五羽」「卵五十個」「仔羊(食用)二頭」「食肉・豚一頭~三頭まで」「食肉・牛一頭」「山羊・生体雌(搾乳用)一頭」「鮭十匹~二十匹」「鱒十匹~二十匹」「海産物・魚、貝類、海藻など内容は応相談」などなど。


 二階層のものが多いけれど、入手先は別にダンジョン内である必要はない。昨日はさっそく依頼を出しに来てくれた商店の店主がいたのだけれど、ついでに「冒険者ギルド内にも店舗を構えて販売価格を揃えるか、個人購入者より安く仕入れたい。そうできないなら個人には直接販売するな」と訴えてきた。

 利益についての考えはもっともだ。

 即座に商業ギルド職員を兼ねている住民ギルドの職員が立ち上がり、冒険者ギルドの職員も交えて利率について相談し、昨日のうちに「個人にはこれまで通り各店舗を使用してもらい、店舗を利用した住民の税金分は売った商店側の利益から月末に回収」という協定ができた。

 その後、運送ギルドから出向中の職員が今後は冒険者ギルドから各商店や他ギルドまでの配送が倍増するだろうから料についても基本料金を決めたいと言い出して、そちらは今日改めて関係者と話し合いの予定。こんな予定をポンと入れられるような小規模な領地で本当に助かった。


 依頼は他にも「牧草十キロ~(産地はダンジョン内外を問わず)」「除草作業二時間~」「畑仕事(芋ほり)二時間。軽食付き」「牛乳一ガロン~」「宿泊施設・清掃作業(住民ギルドでの受付も可)」「ダンジョン一階層温泉アルバイト(時間給。三時間~応相談)長期求ム」なんていうものがある。

 ここに貼られた依頼は基本的に一日に一回までで、成功報酬は微々たるものだけれど、温泉の利用券付だ。


 ちなみに隣の「初級冒険者用」に貼ってあるのは「薪五十キロ~」「山土竜駆除」「畑の開拓、人家近し」「スライム討伐十体~」「フロッグ討伐七匹~」「薬草採取グリーン系」「薬草採取ブルー系」のようなダンジョン外の依頼とダンジョン内のものが両方あり、どちらも作業に魔獣が絡んでくる可能性が高くなる。


 「三階層まで」の依頼は、工事用の特別登録でダンジョンに入っている工業ギルドや運送ギルドの人材の中からも、工事が終わった後であらためて受けたいという声が上がっている。そのため、ある程度戦える者を対象に三階層までの特別な冒険者登録制度を作るべきではないかということで冒険者ギルドは協議中だ。


 住まいの定まっていない者も多い運送ギルドの人員の中には定住を真剣に考える声もあるそうで、はっきり希望されたら祖父が会って確認するそうだ。

 一階層で温泉の建物を建設していた人たちや二階層の柵を作ってくれた人たちに対しては、エリザベスの案で『特別登録でダンジョンに入っている人達はその日の作業の終わりに温泉を使用していい(温泉卵一個付き)』ということにしてあったので、味を占めたらしい。

 建物もほぼ完成したようだ――そこは友人たちの手腕と祖父の無言の圧力が物を言った。


 ちなみに無理やり温泉に入ろうとして素っ裸で街中に飛ばされた冒険者は今のところ三人。全員、馬車の停留所がある街のど真ん中に飛ばされた。どういう仕組みか足湯程度では飛ばされず、本格的に入ろうとすると飛ばされるらしい。さすがリュカだ。


 魔物が出ないのなら住民もダンジョンに入って温泉を楽しめるようにしてはどうかという声もあるし、三階層の浅瀬で海水浴をしたいという声もある。

 それはエリザベスも言っていたことなのだけれど「ダンジョンという不確定要素の多い地下に大事な住民を送り込むことはできん。人間が増えると魔物が寄ってくることもあるし、たとえ一階層でも魔素の影響を受けやすい年齢の子どもは特に危険だ」と祖父が却下し「代案を考えておくが、当面は無理じゃ、あくまでも自己責任である程度戦えることが前提」とそこでその話は打ち切られた。

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