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『如水逆行~壊れた軍師・官兵衛、今度こそ天下を盗る~』  作者: あちゅ和尚


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第22話 文だけでは動かぬ

 姫路の鍛冶場に火が戻った翌朝、黒田の城に一通の文が届いた。


 早馬ではない。


 だが、急ぎを装った足だった。


 門番の前で、使いの男は息を荒くした。


「御着より急ぎにございます。黒田官兵衛様の御内へ」


 門番は、すぐには通さなかった。


 名を聞く。


 誰の使いかを聞く。


 文を出した者の顔を知る者がいるかを確かめる。


 昨日までなら、あるいは門の内へ入れていたかもしれない。


 黒田の名。


 御着の急ぎ。


 官兵衛の名。


 それだけで、道は開きやすい。


 だが、今朝の門は開かなかった。


 門番は文を受け取り、使いを門の外の腰掛けへ置いた。


 新介が呼ばれた。


 久野も呼ばれた。


 官兵衛は、蔵の米の控えを見ているところだった。


「御着より急ぎ?」


 官兵衛は文を受け取った。


 表には、黒田官兵衛様御内、とある。


 字は整っていない。


 だが、わざと崩したようにも見える。


 封はしてある。


 花押はない。


 ただ、黒田御用、と小さく添えられていた。


 官兵衛は、その四文字を見た。


 昨日の炭荷の札が、目の奥で重なる。


 黒田御用。


 軽く使われた名。


 火を冷やした名。


 今度は、文についている。


「開けよ」


 新介が封を切った。


 中には、短い文があった。


 政職様御前、羽柴方へ御挨拶の儀あり。


 松寿丸様、急ぎ御着へ御出であるべし。


 官兵衛様、御着御出仕中につき、奥向きにて支度せよ。


 道中は人目を避け、騒ぎ立てぬよう。


 急げ。


 誰にも触れるな。


 官兵衛は、最後の二行を見た。


 急げ。


 誰にも触れるな。


 胸の奥が、冷えた。


 怒りではない。


 怒りは、その後に来た。


 最初に来たのは、氷のような確認だった。


 来た。


 やはり来た。


 文だけで、松寿丸を動かそうとする手が。


 しかも、相手は官兵衛がまだ御着に詰めていると思っている。


 いや、思わせたいのかもしれない。


 昨日までの官兵衛の足跡を、そのまま使っている。


 御着に詰めすぎたことが、今度は姫路の奥を揺らす文になった。


     ◇


 奥向きにも、同じような言葉が届いていた。


 文ではない。


 口である。


 使いの男が、門で止められる前に、別の小者へ言付けていたらしい。


 御着より急ぎ。


 松寿丸様の支度を。


 誰にも知らせず。


 その言葉を聞いた女中頭は、すぐに光へ知らせた。


 乳母は、松寿丸を奥の部屋から出さなかった。


 光は、松寿丸の前に座った。


 子は木の馬を抱えたまま、母の顔を見ている。


「母上」


「何です」


「御着へ行くのですか」


「行きません」


 光はすぐに答えた。


 松寿丸は少し考えた。


「父上が呼んでおられても?」


「父上が本当に呼ばれるなら、母にも分かるように呼ばれます」


 松寿丸は、木の馬を胸に寄せた。


「急げ、黙れ、誰にも言うな、と言う者には、ついて行くな」


 幼い声で、そう言った。


 光は一瞬、目を閉じた。


 官兵衛の教えである。


 歪んだ世に合わせた、痛い教え。


 だが、今はその教えが子を守った。


「よく覚えていましたね」


 光が言うと、松寿丸は小さく頷いた。


「父上が言いました」


「そうです」


「では、作兵衛に聞いてもよいですか」


 光は少し笑った。


「今は、母に聞きなさい」


「はい」


 乳母が、そっと息を吐いた。


 女中頭は、部屋の外で深く頭を下げている。


 黒田の家は、文だけでは動かなかった。


 官兵衛一人の目ではない。


 母の手。


 乳母の耳。


 女中頭の足。


 子の記憶。


 それらが、同じところで止まった。


     ◇


 官兵衛が奥へ来た時、松寿丸はまだ部屋にいた。


 泣いてはいない。


 だが、少し緊張した顔をしている。


 官兵衛は膝をついた。


「松寿」


「はい、父上」


「誰かに、御着へ行けと言われたか」


「はい」


「行こうと思ったか」


 松寿丸は首を横へ振った。


「急げ、誰にも言うな、と聞きました」


 官兵衛は、息を吐いた。


 細く。


 長く。


 胸の内で、何かが音を立てて崩れかける。


 怒りを、子の前へ出してはならない。


 怒りは敵へ向けるものだ。


 子へ見せるものではない。


 光がこちらを見ている。


 その目が、そう言っていた。


「よく止まった」


 官兵衛は言った。


 声を柔らかくするのに、少し力が要った。


「母へ聞いたのだな」


「はい」


「よい」


 松寿丸の肩が、少し緩んだ。


 官兵衛は手を伸ばし、頭に触れた。


 いつもより、慎重に触れた。


 敵を見る手ではない。


 荷を押さえる手でもない。


 子の頭へ置く手である。


「父上は、怒っておられますか」


 松寿丸が問うた。


 官兵衛は答えに迷った。


「怒っている」


 嘘はつかなかった。


「だが、松寿に怒っているのではない」


「では、誰に?」


「急げと言った者に」


 松寿丸は木の馬を抱え直した。


「父上は、怖い顔をします」


 光の目が少し動く。


 官兵衛は、その言葉を胸で受けた。


「すまぬ」


 松寿丸が驚いた顔をした。


 父が謝るとは思っていなかったのだろう。


「怖い顔を見せた。すまぬ」


 松寿丸は小さく頷いた。


「母上も、少し怖い顔をしました」


 光が目を丸くした。


 乳母が、思わず口元を押さえる。


 官兵衛は、ほんの少しだけ笑いそうになった。


 笑いかけて、息に変えた。


「母は、そなたを守る顔をしたのだ」


「父上も?」


「そうだ」


「なら、よいです」


 子は、また木の馬を畳に置いた。


 小さな音がした。


 その音で、官兵衛の中の暗いものが少しだけ薄れた。


     ◇


 使いの男は、門の外から中へ入れられていた。


 ただし、客としてではない。


 門内の詰所である。


 縄はかけていない。


 だが、逃げられない場所に座らされている。


 男は三十前後。


 旅慣れた足をしている。


 武士ではない。


 飛脚でもある。


 小者でもある。


 銭で道を走る者だ。


 官兵衛が入ると、男は慌てて頭を下げた。


「殿、私はただ文を」


「名は」


「半助にございます」


「誰から受け取った」


「御着の者と」


「名は」


「存じませぬ」


「顔は」


「笠を深く」


 新介が横で少し前に出た。


 官兵衛は手で止める。


 怒鳴るのは早い。


 怖がらせれば、男は知っていることまで落とす。


 落とした言葉は、割れる。


 割れた言葉からは、道が見えにくい。


「半助」


「はっ」


「文を受けた場所は」


「飾磨へ出る道の途中、水車小屋のそばにございます」


「御着ではないのか」


「はい」


「御着の者だと、なぜ思った」


「そう申しました。政職様の御前の急ぎだと」


 官兵衛は文を見た。


 政職様御前。


 羽柴方へ御挨拶。


 松寿丸。


 急げ。


 誰にも触れるな。


 使っている言葉が、こちらの痛いところをよく知っている。


 小寺政職の名。


 羽柴の名。


 松寿丸の名。


 黒田御用。


 その四つを並べれば、官兵衛が動くと思ったのだろう。


 あるいは、官兵衛が不在の奥が動くと思った。


「銭は」


「先に半分を」


「残りは」


「松寿丸様を御着へお連れできれば、と」


 詰所の空気が冷えた。


 新介の手が、腰へ行きかける。


 久野が低く唸る。


 官兵衛は半助を見た。


「誰が、松寿丸を連れて来いと言った」


「私は、ただ」


「誰が」


 半助の額に汗が浮いた。


「顔は見えませぬ。ただ、声は若くはございませなんだ。武士のようでも、商人のようでも」


「手は」


 半助は顔を上げた。


「手?」


「銭を渡した手だ。荒れていたか。筆を持つ手か。槍を持つ手か。荷を扱う手か」


 半助は、しばらく考えた。


「指に、墨がありました」


 三宅。


 その名が、一瞬、頭をよぎる。


 だが、早い。


 墨のある手など、祐筆だけではない。


 商人も、札を書く者も、寺の者も、墨を使う。


「右か、左か」


「右手に」


「爪は」


「短く」


「匂いは」


 半助は戸惑った。


「匂い」


「香か。油か。馬か。魚か。炭か」


「……炭の匂いが、少し」


 官兵衛の目が細くなった。


 炭。


 昨日の偽札。


 庄右衛門。


 だが、これも早い。


 炭問屋の者かもしれない。


 炭を運ぶ者かもしれない。


 あえて匂いをつけた者かもしれない。


 見えたと思った時ほど、足を止める。


「半助」


「はっ」


「そなたは、松寿丸を連れて行く意味を知っていたか」


「いえ。御挨拶と」


「子を、誰にも触れず急がせる挨拶があると思うか」


 半助は顔を伏せた。


「……銭に目がくらみました」


「それは正直だ」


 官兵衛は言った。


「だが、正直だけでは済まぬ」


 半助の背が震えた。


「殺されますか」


「今は殺さぬ」


 半助は顔を上げた。


「今は、にございますか」


「そなたの道を使う」


 官兵衛は久野へ目を向けた。


「半助を外へ出す。ただし、泳がせる」


 久野は眉を寄せた。


「危うございます」


「分かっている」


「逃げれば」


「逃げるなら、逃げる先を見る」


 新介が口を開いた。


「私が追います」


「追うな」


 新介は驚いた顔をした。


「では」


「近づきすぎれば、半助は逃げる。遠すぎれば見失う。喜三右衛門」


「はい」


「町の者を使え。追う者ではなく、見た者を置く」


 喜三右衛門はすぐに頷いた。


「道の茶屋、井戸場、飾磨へ抜ける角。目を置けます」


「久野は城を閉める。だが、閉めすぎるな」


「閉めすぎるな?」


「姫路が怯えたと見えれば、相手が喜ぶ」


 久野は少しだけ笑った。


「難しいことを申される」


「難しいから頼む」


 久野は、その言葉に一瞬だけ黙った。


 昨日の「頼む」と同じ響きである。


「承知」


     ◇


 半助は、その日の夕刻前に城を出された。


 叱られた飛脚。


 危うく罰せられかけたが、助かった男。


 そう見えるようにして。


 腰には、小さな包みを持たせた。


 半助には、残り銭を受け取る時の割符だと言い含めてある。


 中身は銭ではない。


 炭の粉で汚した木片である。


 半助は知らない。


 相手に見せれば、分かる者には分かる。


 黒田は気づいている。


 だが、まだ斬っていない。


 そういう合図である。


 新介は不満そうだった。


「殿。あの者を放てば、松寿丸様を狙った者が逃げるのでは」


「逃げるかもしれぬ」


「ならば」


「だが、今捕まえられるのは半助だけだ」


 官兵衛は門の影から、半助の背を見た。


「半助を斬れば、そこで終わる。背後は別の手を使う」


「背後は、御着でしょうか」


「分からぬ」


「小寺家中の誰か」


「分からぬ」


「羽柴では」


 官兵衛は少しだけ目を細めた。


「羽柴なら、下手だ」


「下手?」


「小一郎殿は、名だけ運ぶと言った。あの男がその翌日に、文だけで子を動かす真似をするなら、あまりに粗い」


「では、羽柴ではない」


「とは限らぬ」


 新介の顔が困惑する。


 官兵衛は言った。


「羽柴そのものではなく、羽柴の名を使いたい者かもしれぬ。小寺の名を使いたい者かもしれぬ。黒田の名を軽くしたい者かもしれぬ」


「多すぎます」


「だから、一つに決めぬ」


 半助の背が、町角に消えた。


 すぐ後ろを追う者はいない。


 だが、茶屋の婆が見ている。


 井戸端の女が見ている。


 薪を運ぶ少年が見ている。


 喜三右衛門の道である。


 城の兵ではない。


 町の目だ。


 官兵衛は、それを見ていた。


 御着で学んだ。


 姫路で学んだ。


 城は、名のある者だけでは守れない。


 そして敵もまた、名のある者だけで来るとは限らない。


     ◇


 夜、半助が向かった先の報せが入った。


 飾磨へ出る道の途中。


 水車小屋。


 そこで半助は、誰かを待った。


 だが、現れたのは一人ではなかった。


 使いの少年が来た。


 半助の包みを見て逃げた。


 少年は、町へ戻らず、寺の裏道へ入った。


 寺の名を聞いた時、官兵衛は目を閉じた。


 姫路の小さな寺である。


 御着の円明寺ではない。


 だが、寺は道である。


 文が通る。


 人が隠れる。


 銭が流れる。


 また寺か。


 そう思いかけて、官兵衛は自分を止めた。


 また、ではない。


 寺が悪いのではない。


 寺を道として使う者がいる。


「寺の名は」


「妙徳寺にございます」


 喜三右衛門が答えた。


「住持は」


「年寄りです。商人の寄進も受けております。炭問屋の庄右衛門も、灘屋仁助も、どちらも出入りはございます」


 新介が言った。


「庄右衛門を捕らえますか」


「早い」


「では、寺へ」


「それも早い」


 新介は唇を噛んだ。


 早い。


 早い。


 今日の官兵衛は、そればかりである。


 官兵衛は机の上に、三つのものを置いた。


 羽柴の火箸。


 黒田御用の偽札。


 松寿丸を動かそうとした文。


 火。


 名。


 子。


 ばらばらに見える。


 だが、相手は同じ場所を触っている。


 黒田の名を軽くする。


 姫路の火を冷やす。


 松寿丸を揺らす。


 官兵衛が御着へ目を置いた隙に、姫路の足元を触る。


 これは偶然か。


 それとも、誰かが黒田の癖を見ているのか。


「殿」


 久野が言った。


「明日はどうなさいます」


 官兵衛は、三つの品を見たまま答えた。


「妙徳寺へ行く」


 新介の顔が上がる。


「攻めるのでございますか」


「違う」


「では」


「松寿丸を連れて行く」


 部屋の空気が止まった。


 新介が声を失う。


 久野の目が鋭くなる。


 喜三右衛門も息を呑んだ。


「殿、それは」


「見せ物にはせぬ」


 官兵衛は言った。


「だが、隠し腐らせもしない」


「危うございます」


「だから、こちらで場を選ぶ」


 光の言葉。


 小一郎の言葉。


 自分の誓い。


 それらが、官兵衛の中でぶつかっていた。


 松寿丸を閉じ込めれば、守れると思いたくなる。


 だが、閉じたものは腐る。


 見せすぎれば奪われる。


 ならば、こちらが見る場で、こちらが知る者に囲ませる。


 敵が見たいなら、見せるものを選ぶ。


 子を手札にするのではない。


 子を、黒田の家の中で立たせる。


「妙徳寺で何を」


 久野が問う。


「供養だ」


「供養?」


「黒田の名を勝手に使った札を、すぐには燃やさぬ。だが、名を軽くした者がいることを、寺の前で問う」


 官兵衛は文を指で押さえた。


「そして松寿丸に見せる。父の名を使う者が世にいることを。ただし、父だけでなく家が見ることを」


 新介はまだ不安そうだった。


「松寿丸様が怖がられます」


「怖がるかもしれぬ」


 官兵衛は低く言った。


「だが、何も知らぬまま奪われるよりよい」


 言ってから、胸が痛んだ。


 本当にそうか。


 子に、どこまで世の歪みを見せるべきか。


 自分はまた、子を策の中へ入れていないか。


 その迷いが顔に出たのだろう。


 久野が言った。


「光様へ、お聞きなされ」


 官兵衛は久野を見た。


 家臣の言葉である。


 だが、今は正しい。


「そうする」


     ◇


 光は、官兵衛の話を最後まで聞いた。


 怒らなかった。


 すぐに止めもしなかった。


 ただ、松寿丸の寝息が聞こえる隣の部屋へ、一度だけ目を向けた。


「殿は、松寿を囮にするおつもりですか」


「違う」


「では、何に」


 官兵衛は答えに詰まった。


 光は、逃がさない。


 優しくも、逃がさない。


「守るために、外へ出す」


「それだけでは、足りませぬ」


 官兵衛は目を伏せた。


「松寿に、家を見せる」


 光は黙った。


「父一人が守るのではない。母も、乳母も、久野も、新介も、作兵衛も、町の者も見る。その中でしか動かぬ。そういう家を、松寿自身に覚えさせる」


「怖いものも、見せるのですね」


「ああ」


「殿も一緒に見ますか」


 官兵衛は顔を上げた。


「私も?」


「松寿が怖がる顔を」


 官兵衛は言葉を失った。


「そこから目を逸らされるなら、連れて行ってはなりませぬ」


 光の声は静かだった。


「松寿が震えた時、殿は敵ではなく、子を見られますか」


 官兵衛は、長く黙った。


 有岡の闇。


 松寿丸の名。


 文。


 偽札。


 火箸。


 すべてが胸の奥で絡む。


 それでも、答えねばならない。


「見る」


 官兵衛は言った。


「敵より先に、松寿を見る」


 光はしばらく官兵衛を見た。


 やがて、静かに頷いた。


「ならば、私も参ります」


「光も?」


「母の手も、家の一つなのでしょう」


 官兵衛は、何も言えなかった。


 光は強い。


 思っていたより、ずっと。


     ◇


 夜更け、官兵衛は一人で火箸を見た。


 その横に、偽札。


 そして、松寿丸を動かそうとした文。


 火。


 名。


 子。


 相手はそこを触った。


 ならば、こちらもそこを隠すだけでは足りない。


 火を扱う。


 名を守る。


 子を家で育てる。


 その三つを、同じ場で見せねばならない。


 明日、妙徳寺へ行く。


 攻めるのではない。


 焼くのでもない。


 ただ、黒田の家が文だけでは動かぬことを、町に見せる。


 子を奪う文が来ても、母が止める。


 乳母が止める。


 門が止める。


 家臣が止める。


 そして父が、怒りだけで走らない。


 それを見せる。


 官兵衛は、文を畳んだ。


「文だけでは、動かぬ」


 低く呟く。


 一度目の自分は、いくつもの文に動かされた。


 信じた文。


 疑った文。


 届かなかった文。


 間に合わなかった文。


 その先で、牢へ落ちた。


 今度は違う。


 文を読む。


 声を聞く。


 顔を見る。


 手を見る。


 匂いを見る。


 そして、子を見る。


 御着の城は、まだ小寺政職の城である。


 姫路の城は、黒田の城である。


 その姫路で、黒田官兵衛は初めて、己の怒りより先に家を動かすことを選んだ。



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