7話~狩りの再開だ~
水面に映るマヌケな顔を見ながら、俺は何度も額を触る。そこには確かに、短い角が生えていた。
この角は、昨日ホーンラビットの角を食べたことで生えたんだ。あのワニと同じ様に…。
俺はもう一度、昨日のワニを思い出す。あいつの背中に生えていた妙な棘。あれは、ホーンラビットを丸ごと食べた影響なんだと思う。俺を食べようとしたのと同じ様に、奴はここで狩りをしていた。そしてきっと、ホーンラビットも同じ様に食べていたんだ。
あのワニを見ていたから、俺はこうなる事を期待していた。だから、不味くても我慢して角を食べたんだ。そして、昨晩は失敗したとふて寝してしまったが…。
大成功だ。物理の攻撃力と防御力も+1ずつされているし、こいつは確実に強くなる。ホーンラビットを食べるだけで、物理アタッカーに早変わりだ。
…まぁ。そんな簡単にはいかないだろうけど。
俺は河原に戻り、昨日は放り捨ててしまった角を集める。そして、それを食べ…。
うっ、まだちょっと顎が痛いな。歯茎もダメージが抜けきっていない。昨日は無理し過ぎたみたいだ。いくら強くなるからって、牙を酷使し過ぎた。俺の唯一の武器なんだから、丁寧に扱わないと。
俺はかみ砕くことを諦め、石を咥えてそれを角の上に落とす。そうして砕いて食べようと思ったが…この程度じゃヒビも入らなかった。
やっぱり、手がないと不便だな。この額の角も、頭に生えるんじゃなくて牙を強化して欲しかった。どうせ同じカルシウムの使い方なら、そっちの方が便利なのだが。
…無いものねだりをしても仕方が無い。ちょっとずつ削って食べよう。
そう思いながら朝食を食べていると、またホーンラビットがやって来た。
丁度いいとばかりに捕まえて、朝食に加えさせて貰う。3羽をペロリと平らげて、水辺を覗き込む。
さてさて。ステータスはどうなって…うん?
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:14
HP:86
MP:70/73
物理攻撃力:97(+4)
物理防御力:36(-1)
魔法攻撃力:0
魔法防御力:39
俊敏性:110(+5)
器用性:36
スキル:ー〉
俺はちょっと驚いた。
ウサギを3羽食べたのに、俊敏性が+5となったこともある。昨日は1羽で+2だったから、本当なら+6されるかと思ったけれど…成長率が鈍化しているみたいだ。レベルアップと同じで、食べる事の上昇値も上限がある様子。
そこは、残念に思って驚いた。でも、もっとプラスな意味で驚くところがある。それは、攻撃力と防御力だ。
さっきは、角を食べて両方上がった。だけど今は、防御が下がって攻撃が上がっている。
何故、そうなったのだろう?
そう思って水面を見直した俺は、直ぐそれに気づく。ついさっきまで生えていた額の角が、無くなっていたのだ。
消えた…訳ではないだろう。防御力の+1が攻撃力に置きかわったのだから。
だから、きっと…。
俺は新たに入手した角を拾い、噛み付く。するとそれは、直ぐにパキッと砕けて胃袋に収まった。歯茎への痛みも感じぬままに。
どうやら、俺の牙が強化されたらしい。それで、攻撃力が上がったみたいだ。
俺が願った通りに、体が変化した。これは偶然じゃないだろう。
試してみるか。
俺は水面に映る自分を見詰めながら、念じる。
額に角よ生えろ。ウサギみたいに、ニョキニョキ生えるんだ。
具体的なイメージを持って念じると、俺の額に短い角が生えた。そして、攻撃力が落ちて防御力が上がった。
うん。やっぱり。上がったステータスはある程度割り振る事が出来るみたいだ。じゃあ次は、俊敏性を犠牲に攻撃力を上げるぞ。さぁ、上がれ!
もっと鋭い歯をイメージして、念じてみる。でも、ステータスは全く動かなかった。
ふむ。何でも思い通りに行く訳じゃないと。同じカルシウムだから、角は牙になったのか?それとも、ドロップ品だから?
理由は分からないが、上昇したステータスの一部は移動できる。そして、移動させるとMPが減るみたいだ。
俺はMPの欄を見る。そこには〈MP:67/73〉と表示されていた。
魔力が減ると言う事は、俺の今行っている事が魔法なのかもしれない。魔物の力を使った身体強化魔法…とでも思えば良いだろうか。
さて、ではこの魔力を回復させるにはどうすれば良いだろう。時間経過?睡眠?それとも、レベルアップで回復する?
どれも有り得そうだが、1つ試してみたい物がある。それが、これだ。
俺は、角の横に転がっていた白い小石を咥える。昨日は尿結石では?と危惧したこいつは、やっぱり魔石なのでは?と思う。そして、本当にそうなら、こいつには魔力が詰まっている筈だ。食べれば、MPが回復するかも。
そう思って舐めてみたが、MPは変わらず。ならば食べようと思うも…硬い!牙が折れそう。
ああ、しまった。角を生やしたままじゃないか。引っ込め、引っ込め。牙を強化するんだ。
そうして攻撃力を上げてから噛み付くと、カリッカリッと石も削れ出した。
そうして、ちょっとずつ石を取り込んでいくと…。
〈MP:67→69→71→73/73〉
おお。全快した。
やっぱり、こいつは魔石だったか。そして、魔石を食べればMPも回復すると。
…相変わらず、原理は分からないけれどね。
でもこれで、また一段と強くなる方法を手に入れた。普段は牙を強化し、戦闘では必要に応じて防御力にも振る。そして、失ったMPは魔石で回復するんだ。
これを上手く使えば、格上の相手とも戦えるだろう。まだドラゴンは無理でも、廃墟のゴブリン軍団なら何とかなるかも。
…確実に勝てる様になるまでは、挑みたくはないがね。
【よし。狩りの再開だ】
それからも俺は、その場所でウサギを狩り続けた。そして、俊敏性が120に到達してからは、肉を食べてもステータスが上がらなくなった。
潮時か、この狩場も。
俺は獲物を求め、移動を開始する。
そうして暫く川に沿って移動していると、目の前に3匹のゴブリンが現れた。
スリーマンセルか。今までのはぐれゴブリンとは一味違うな。気を引き締めよう。
俺は草むらに身を潜め、石を投げて撹乱する。3匹は音すると直ぐに反応し、駆け寄って石を拾い、首を捻っていた。
釣られたのが分からないのか。廃墟のゴブリンと比べると、随分と知能が低いな。種類が違うのか、個体差か。
まぁ、今は関係ない。
俺は奴らの背後から飛び出し、一匹目の首筋に噛み付いた。途端に【ギャッ】と短い断末魔を吐いて、そいつは倒れる。
呆気ない。これも、ステータスアップの影響か。
【ギャギャ!】【ギケ!】
2匹が俺に気付き、手にした木の棒を振り回して駆け寄ってくる。
けれど…遅い。止まって見える。俊敏性を上げたからだろうか?
俺も駆け出し、先頭のゴブリンを躱す。そして、後方のゴブリンに噛み付く。腹にガブリッと牙を立てると、すんなりと腹の肉を削ぐ事に成功した。
強化した牙も、かなり強いな。
【ギッ】
最後の一匹は逃げ出した。俺に勝てないと踏んだのだろう。
迷ったが、今は経験値よりも肉だと考えて、足元を見る。嫌悪感を押さえ込み、死体となったゴブリンの体をちょこっと食べた。
うーん、気持ち悪い。やっぱり人に近い生物は喰い辛いな。血なまぐさいし。
そうは思うも、死体が消えてからステータスを確認すると、器用性が38(+2)されていた。
ゴブリン肉は器用性が上がるのか。道具の使い方が上手くなりそうだし、クリティカルとかも出やすくなる気がする。だからやっぱり、ゴブリン肉も食わないといけないみたいだ。
俺はゴブリンの死体があった所に視線を向ける。そこには、奴らが纏っていたボロの布が落ちていた。
…流石にこれは、食わなくて良いよな?
俺は見なかった事にして、その場を去った。
また暫く歩いていると、川幅は徐々に大きくなっていき、とうとう広い湖の様な場所に行き着いた。
湖の向こう側には森が広がり、そこから色鮮やかな鳥が飛び立つのが見えた。
森か。また生態系がガラリと変わりそうだ。危険も増えるが、その分強くなる可能性も秘めている。
ゴブリン肉ばかりだと、またすぐ頭打ちになるだろうからね。
俺は不安と期待を胸に、湖の向こう側に行こうとした。
でも、その一歩を踏み出そうとした時、
【パオォオオーン!!】
まるでトランペットの様な音が、空気を震わせた。
一時はどうなるかと思いましたけど、強化方法が分かってからは順調ですね。
「順調か?何か、強敵と出会ったようだぞ?」
トランペット…。パオーンと言う事は、やはり?




