6話~よし、よし!良いぞ!~
あのドラゴンを倒せるくらいに強くなろう。
当面の目標を決めた俺は、これまでに判明しているシステムを更に詳しく調べることにした。
先ずは、装備について。どんな物でもステータスアップになるのか、試してみた。
その結果…。
木の棒…物理攻撃力+2
ウサギの角…物理攻撃力+5
長いウサギの角…物理攻撃力+7
河原の小石…物理攻撃力+1
ウサギが落とした白い小石…+0
茶色いキノコ…+0
赤いキノコ…+0、スキル:猛毒
うわっ!やっべ。これ、毒キノコじゃねえか。
俺は慌てて、赤いキノコを放り投げた。口も念入りに洗っておく。
しかし、この水面式鑑定は面白い。ステータスしか見ることが出来ないが、こうして毒がないキノコを判別できるし、毒キノコだって罠とかに仕える。
俺が人間だったら、矢じりに塗りたくって毒矢とかに出来たかも知れないけど…。
いや、もしもを考えるのは止めておこう。もしも人間だったら、あの廃墟でゴブリンに殺されていた。犬だから逃げきれたんだ。
そして、やはり装備する物によってステータスは大きく変わる。同じ角でも、太さや長さで微妙に違うし、同じ石でもかなり違う。
ウサギから出て来たこの石は何なんだろうな?魔石かと思ったけど、何の反応もない。てっきり、魔法攻撃力とかが上がるかと思ったのに。
いっそ、食ってみるか。おりゃ。
ガリッ!
奥歯でかみ砕こうとしたが、なかなか硬い。表面しか削れなかった。
そして、ステータスを見てみても…う~ん。反応なし。
魔石じゃなかった?尿結石とか?
うげっ!
俺は口直しに、茶色のキノコを食べる。
そういや、キノコは採取しても無くならないんだな。植物だからまだ生きてる判定なのか?いや、思い返したら、ドラゴンに連れていかれたワニの死体、あれも暫く見ていたけれど、消える様子は無かった。もしかして、消えるのは魔物だけなのか?
実験したいが、難易度が高い。何せ、普通の動物は逃げ足が速いから。ちょっとステータスが上がった程度の俺では、まだまだ捕まえられない。
うん。それは、強くなってから確認しよう。
俺は再び茂みに隠れ、魔物狩りを行った。でも、成果は得られなかった。
獲物が居ない訳では無い。水を飲みに来る動物はそれなりに多く、はぐれゴブリンなんかは結構な頻度見かける。だが、幾ら倒してもレベルは上がらない。14になった途端、全くと言って良い程に変化が無くなってしまった。
レベルキャップみたいのがあるのかもしれない。このままゴブリンを300年狩り続けても、レベルMAXとかにはならないらしい。
俺は水面に映る自分を見て、【はぁ】とため息を吐いた。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:14(+3)
HP:86(+1)
MP:73(+3)
物理攻撃力:93(+3)
物理防御力:36(+1)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:39(+1)
俊敏性:105(+3)
器用性:36(+1)
スキル:ー〉
相変わらず、しょぼいステータスアップですこと。
キュルルゥ~
現実はそんなに甘くないと分かった所で、腹が減って来た。日も沈みかけているし、そろそろ夕食時だ。何か来ないかと待っていると、ホーンラビットがちょこんとやって来た。
…いや、ここも十分優しい世界だ。餌も豊富で、水も綺麗だし。
大自然の恵みに感謝して、俺はそそくさとウサギ狩りを行う。そして、慣れた手つきでウサギを胃袋に収めた。
やはり美味いな、ウサギのお肉。この子だけは、経験値関係なくお世話になりそうだ。
お腹も満たされたことで、俺は満足して水を飲みに水辺に赴く。
でも、そこで固まる。そこに映る自分のステータスを見て、目を瞬かせた。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:14
HP:86
MP:73
物理攻撃力:93
物理防御力:36
魔法攻撃力:0
魔法防御力:39
俊敏性:105(+2)
器用性:36
スキル:ー〉
レベルも上がっていないのに、俊敏性が+2も上がった。
ふぁっ?なんだこれ?俺が気が付かないだけで、何か装備してしまっている?歯に何か挟まってる?それとも、背中に何か乗ってる?
俺はその場でクルクル回って、全身を確認した。でも、何もない。何も装備していないのに、ステータスが上がっている。
だからこれは、装備じゃない。他の要素でステータスが上がっているんだ。
なんだ?俺がさっき確認した時と今とで、何が変わった?
…決まっている。ホーンラビットを喰ったことだ。
【よし。よし、よし!良いぞ!】
俺は興奮のあまり、鼻息をフガフガ荒くする。
これだ。これが俺に残された、強くなる道だ。装備で身を固められずとも、肉を食らって己を強化すれば良いんだ。きっと食べたのがウサギの肉だから、俊敏性が増えたのだろう。これが別の魔物なら、他のステータスが上がるんじゃないだろうか?
こいつは、装備出来ないデメリットを上回るメリットが期待できるぞ!
そう分かれば早速!と、動き出そうとした俺の前足が何かを踏む。
角だ。ホーンラビットの死体があった所に、ドロップ品の角が散らばっていた。
それを見て、俺は先ほどのワニを思い出した。川辺で待ち構えて、俺を喰らおうとしたあいつの姿を。
もしかしたら、あいつは…。
【頼む!】
俺はある種の期待を抱いて、角に噛り付く。
さっきの石程じゃないけど、かなり硬かった。でも、これは必要な労力だ。俺の読みが正しいなら、きっとこれは…。
俺は必死に噛み付き、何とか1本を食べきる。
かなり辛かった。顎は痛いし、歯ぐきから血の味がする。こんなの何本も食べたら、何時か牙が折れるんじゃないだろうか。
そういう不安もあったが、直ぐに期待がそれを上回る。俺はウキウキなステップをして、川に近付く。
肉であれだけステータスが上がったんだ。角ならきっと、攻撃力とか防御力が上がるんじゃないか?
そう思って水面を覗いてみると…あれ?何も変わっていない。数値がピクリとも動いていないぞ?
うっそだろ!?あんなに苦労して、大切な牙すらダメージを負ったのに、何の変化もありませんなのか?!
大きく期待を裏切られ、俺は地面にゴロンと寝転がる。失望が胸に小さな穴を空け、涼しい風がそこを通り抜ける気がした。
でも、直ぐに復活する。そこから見えた夜空が、あまりにも雄大なパノラマだったから。
無数の星々が白い大河を形取り、まるで宇宙空間に投げ出されたような感覚に浸る。
ああ、そうだな。この広大な宇宙からしたら、俺の悩みなんて小さなもの。そんなことに腹を立てるなんて、まだまだだ。そして…昼間はあんな怪物が居るんだぞ?こんな所に寝そべっていたら、命が幾つあっても足りないぞ?
思い直し、俺は慌てて立ち上がる。近くの岩陰に身を隠し、そのまま浅い眠りへと落ちていく。
取り敢えず、今日は寝よう。明日は、いかに多くの…肉を、食べるか、考え…。
〈◆〉
『ですので、次の世界で闇の眷属様にご用意できたのは、この犬の体だけでして…』
真っ白な空間で、羽の生えた少女が小さくなってモジモジしている。
大天使様だ。
『あっ!でも、バグの影響を弱めて頂けたら、きっと眷属様のお体を人間に戻すとお約束します!なので是非、この世界の異常を正して頂きたいのです』
ああ、ここは、俺がこの世界に来る前の会話か。
世界の異常を直せば人間にしてくれる。当初はそれで、必死に情報収集をしていたのだった。けれど今になったら、犬の体も悪くないと思い始めていた。戦闘面で言えば、犬の方が殺すことに特化しているからね。
だからと言って、調査をサボって良い訳じゃない。バグが酷くなって、この世界が壊れてしまうのは忍びないから…。
〈◆〉
気が付いたら、朝になっていた。
途中まで気を張っていた筈なのに、いつの間にか夢まで見ていしまった。
くそぉ~。幾ら二徹したからって、完全に意識を落とすなんて。襲われなかったから良いものの、死んでいてもおかしくなかったぞ。
反省しよう。
取り敢えず顔でも洗おうかと、水面に顔を映す。マヌケ面の犬が、俺を見下してくる。額が白く禿げて、よりみすぼらしさが上がっていた。
ストレスで禿げたのか?犬になって精神も弱くなったか。
俺は前足で禿げを隠そうとした。でも、そこを触った途端に体が硬直した。
これ、10円禿げじゃない。硬い…コブ?違う、これは…。
【角だ!】
俺は喜び過ぎて、跳び上がっていた。
他者の肉を食らって強くなる。
「まさに弱肉強食の世界であったか」
人間側もそうとは、限りませんけど。
「であろうな」




