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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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5/7

5話〜嘘でしょ!?ねぇ!〜

 うーん。やっぱりダメだなぁ。

 水面に映る情けない顔を見て、俺は唸る。

 お腹がいっぱいになってからも、俺は狩りを続けた。当初の見立て通り、やはりここは生物のオアシスだったみたいで、ひっきりなしに動物や魔物が現れる。なので、結構な数の魔物を倒す事が出来た。

 出来たのだが…やっぱりステータスの伸びが芳しくなかった。


〈ステータス

種族:雑種犬

LV:11(+4)

HP:85(+2)

MP:70(+4)

物理攻撃力:90(+4)

物理防御力:35(+2)

魔法攻撃力:0(+0)

魔法防御力:38(+2)

俊敏性:102(+8)

器用性:35(+2)

スキル:ー〉


 レベルが4つも上がったのに、上がったステータス値は2〜4。2レベルで+1~2と言った所。

 これでドンドンレベルが上がるのなら、まだ良い。でも、今はその逆。レベルが上がり辛くなってきた。

 ゴブリン1匹ではもう上がらず、11レベルとなるのに4匹狩った。ホーンラビットなんて、もう何羽狩っても上がる素振りも見せない。ドロップ品の角ばかりが溜まっている状況。


 10レベルになったら何か変わる。そんな風に思っていた時期もあった。でも、今は無い。ステータスの伸びも一緒だし、スキルも覚えない。

 ジョブ転職があるかもと一瞬考えたが、そもそも職業欄がステータスに無い。


 数値上で芳しくないステータスだが、それは実際もそうだ。俺の攻撃力が上がった気はしないし、今だってホーンラビットの角攻撃は脅威だ。

 動き易くはなっているから、俊敏性が上がっている実感は確かにある。でもそれも、劇的には変わらない。気持ち速くなった?程度の変化だ。


 こんな事で、ゲート前のゴブリン軍団に勝てるだろうか?はぐれゴブリンと違い、奴らはチームプレーを仕掛けてくる。フィールドも完全アウェイだし、レベルを100まで上げても勝てるか分からない。

 銃とか、爆弾とか、何か武器が使えたらなぁ。


 俺は落ちていたウサギの角を拾う。そして、何気なく水面を見てみると…。

 あれ?物理攻撃力が95(+5)になってる。試しに角を放すと…あっ、やっぱり。また90に戻った。


待てよ(ワウゥ)…】


 俺は背筋が凍った。

 だってこれって、俺が角を"装備した"って判定でステータスが上がったんだよな?しかも、こんな角1本で+5も。

 これってさ、つまりは…装備が物言う世界って事じゃないの?


嘘でしょ(ワオ)!?ねぇ(ウゥ)!】


 俺は情けない声を上げる。

 装備とか、犬の俺には無理な話だからだ。この手じゃ装備を作る事は出来ない。人間に作って貰わないといけないけど、そんなの作ってくれる可能性は極めて低い。

 犬お断りだったからな。きっと異世界では、ペットを連れてくる余裕も無いんだ。そんな世界で、犬用装備を作ってくれる人なんて居ないだろう。

 武器も無理だ。こうして咥えた状態で戦おうとすると…うん、首が死ぬ。体重も無いから威力が落ちるし、そもそも噛み付きの方が何倍も効果的だ。

 武器を咥えて戦うメリットのは、今のところ無い。


 そう、無いんだ、俺には。武具を装備出来る可能性が無い。武具装備のメリットを享受出来ない。

 この世界で俺は、強くなる道を閉ざされてしまった。


いや(ワフ)


 こう考えるのは早計だ。まだ何か、手があるかも。

 例えば、宝箱から犬専用の武具が出るかもしれない。精霊とか天使とか、人じゃなくても武具を作ってくれる存在がいたりしないだろうか?

 いやいや、もっと現実的な事を考えろ。

 

 例えば、装備じゃない方向で強くなる事は出来ないか?このスキルの欄。ここで強力なスキルを獲得したら、一発逆転って可能性もあるぞ?

 空間だ。空間魔法。あれを入手出来れば、俺は一気に強くなる。アイテムボックスでも良いから、俺に空間魔法をくれ!


 俺はまた、空想じみた方向に考えが流れ出してしまった。なので、一度冷静になる為に川で顔を洗う。

 そして、ついでに体でも洗おうかと思った。その時、

 殺気を感じた。

 方向は…川の中!?

 ヤバい!


 俺が咄嗟の判断で後ろへ跳ぶと、今まで居たその空間が、鋭利な両刃によって裁断された。


【グルゥ…】


 低い唸り声。

 河原を転げて逃げおうせた俺が見上げると、そこには1匹の大きなワニが上陸していた。

 ワニが、俺を物欲しそうな目で見下ろす。

 

 クロコダイル?いや、それよりも大きい。背中の棘も、随分と殺傷能力と防御力が高そうに見える。

 魔物だろうか?こんな背中に棘が生えたワニなんて見たことないし。

 それに、いきなり襲って来るって事は魔物…。

 いやでも、普通のワニも襲ってくるか。俺みたいな犬なら、エサだと思って猶更に…。


 俺は立ち上がり、距離を取る。こちらを見定めようとするワニを観察する。

 こいつの素材で、俺専用の武器とか作れないかな?この牙なら、俺のより攻撃力ありそうだし。

 俺がそんな事を考えていると、ワニが動く。こちらを向いて、口を僅かに開けた。そのまま、突進してくる。挟まれれば真っ二つにされる裁断機が、目の前に迫る。

 うぉっ!?危ねぇ!

 

 俺は慌てて草原の方に逃げる。すると、ワニは直ぐに追うのをやめた。そして、ゆっくりと河原に戻っていく。

 あまり水辺から離れたくないのか?移動できる場所が限定されているなら、何とか倒せるんじゃないか?


 そう思った俺だったが、現実は厳しい。再び河原へ戻った俺を、ワニは大きな口を開けて威嚇した。もう貴様に用は無いとでも言うように、俺に敵意を向く。

 俺も何とか隙を突こうとするも…ワニの反応が早い。素早く背中側に回り込もうとしても、絶えずこちらに口を向けてくる。痺れを切らしてちょっと近づこうものなら、図体に似合わぬ素早い動きで逆襲された。

 

 危ない、危ない。

 有利かも?なんて慢心したら、一瞬でこちらが餌になっちまう。下手な動きは出来ないぞ。

 とは言え、こいつの装備は魅力的だ。牙と背中の棘だけでも、何とか剝ぎ取りたい。何か、何か手段はないか?例えば投擲とか…。

 

 俺が攻めあぐねていた、その時。

 影が落ちる。

 大きな影。鳥が太陽を妨げたのか。そんな風に思った直後。

 ドンッと言う地響きと共に、俺の目の前が真っ赤に染った。

 

 な、なんだ!?赤い…鱗?鱗の壁。壁が、落ちてきた?

 俺は恐る恐る、壁を見上げる。すると、それが巨大な生物だと分かる。重厚な鱗に覆われた巨躯。巨大な2枚の両翼。そして、猫のように開かれた縦長の目。

 その目が、俺を見下ろす。

 見下す。

 こいつは、まさかっ!ドラゴ…!?


【グルゥアアアア!!!】


 空気が割れそうな咆哮。全身を、恐怖と絶望が縛り上げ、俺は立っていることすら出来なくなった。

 座り込む俺を、真っ赤なドラゴンはもう見ていない。その両翼を大きく羽ばたかせ、太陽光を乱反射させながら離陸する。その鋭利な鉤爪には、ワニのだらりと垂れ下がった死体があった。


 くっ、こいつ。ワニを捕まえに降りてきたのか。端から俺は、眼中にも無かったと。

 悔しくても、何も出来ない。俺は風圧で河原を転がり、転がり終わって漸く、動ける様になっていた。

 空を見上げると、あれだけ大きかったドラゴンの姿が小さく見えた。その足に掴まれたワニは、もうトカゲくらいの大きさに見える。


【グルァアア…】


 勝ち誇った様な、ドラゴンの咆哮。

 あいつからしたら、あのワニはただの餌。そして俺は、餌にすらならない雑魚。

 これが、この世界の食物連鎖。奴が頂点で、俺は底辺。

 そんな絶望的な現実を突きつけられて、俺は、俺の胸の中には、

 

ありがとうよ(アウアウ)


 歓喜が広がっていた。

 お前のお陰で、この世界の天井が見えた気がする。少なくとも、俺が目指すべき先は見えた。

 あのドラゴンを狩る。そうすれば、この世界で生き抜くには十分な力が得られるだろう。

 何故、異世界と現実が繋がっているのか。あのゲートは何なのか。そう言う疑問はそれからだ。

 先ずは強くならねば。

 生き残る為に。

 

 俺は空を仰ぐ。

 もう見えなくなったドラゴンの背を、頭の中で思い描く。

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― 新着の感想 ―
鋼をも砕く頑丈な牙と咬合力が有れば、ホーンラビットの角を食べまくりワンチャン攻撃力へ反映に賭ける? ワニさん!あらすじ回収されないままレベルアップが進んで有象無象の雑魚敵扱いになる?と心配しましたw…
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