4話~冗談だろ?~
折角の獲物が消えてしまった。
透明になったって事じゃない。匂いも消えたし、踏んでみたけど何も無い。
どう言う事だろうか。俺は確かにホーンラビットを仕留めたし、奴の血の味も覚えている。なのに、まるで氷が溶ける様に消えてしまった。
うーん…。
まぁ、取り敢えずはそう言う仕様だと思っておこう。今は先ず、思い出してしまった空腹を何とかしないと。
俺は嗅覚に全神経を注ぎ、周囲を探索する。
すると、川の匂いが鼻をくすぐる。
そうだなぁ…。喉も乾いたし、川辺なら小動物も寄ってくるかも。俺の匂いも消せるし、良い狩場だ。
俺は決断し、足早に川へと向かう。
匂いではすぐ近くに感じたけど、結構距離があった。時計が無いから分からないけど、2時間くらい歩いた気がする。
なので、着いた時は喉がカラカラだった。澄んだ川の浅瀬に入り、バシャバシャと夢中で水を飲んだ。
かぁあっ!うめぇ!生き返るぅ。
もっと深い所で体も洗いたいけど…川にも魔物がいるかもしれない。下手に踏み入るのは危険だ。ピラニアみたいな魔物がいたら目も当てられない。
でも逆に、川魚がいたら儲けものだ。
俺は川の中を窺う。人に汚されていない川は、川底まで見えるくらい澄んでいた。
と、その時。
【うん?】
何か見えた。
魚じゃない。何か白くて細い…糸…いや、これは、文字か?
何か、川面に映っている。俺の顔か?
よく見ようと目を凝らすも、流水で水面がブレる。なので、流れが留まっている場所まで移動した。
そこで、改めて水面を覗いてみると…。
【おぉう。冗談だろ?】
俺はつい、笑ってしまった。
そこに映ったのは、マヌケな1匹の黒犬。その顔の周りに、文字が浮かんでいたのだ。
所謂、ステータスって奴だ。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:5
HP:82
MP:64
物理攻撃力:84
物理防御力:32
魔法攻撃力:0
魔法防御力:34
俊敏性:88
器用性:32
スキル:ー〉
HPとか攻撃力って、まるでゲームみたいだな。
俺は楽しくなり、つぶさに水面を見つめる。顔を近付けたり、全身を映してみたりもした。でも、特に文字は変わらない。
えっと、既にレベルが5になっているのは、ウサギとゴブリンを倒した影響?それとも、ここに来る前の分もカウントされてる?
MPはあるのに魔法攻撃力は0なんだ。魔法はどうやって覚えるのだろうか。詠唱?魔法陣?それとも血か?
HPが0になったら死ぬのかな?それとも、回復センターや教会に行ったら復活出来るとか?
キュゥ〜…。
知りたい事がいっぱいだったが、お腹の虫が現実を突きつけてくる。
水では満足しなかったか。じゃあ、予定通り草むらに隠れて…。
【アァー!アァー!】
っと、隠れる前に鳥が1羽、川辺に降りてきた。
大きな鳥だな。俺と同じくらいの大きさだ。
これは、食いごたえがある。
【アァ!?グァア!】
そんな事を考えたからだろうか。鳥が慌てて飛び去ってしまった。
…あれ?魔物なら普通、襲ってくるもんじゃないの?
いや、もしかして今のは、魔物じゃなかった?この世界、普通の動物も居るのか?
ああ、またやっちまったと、俺は前足で目を覆った。
でも、また直ぐに立ち上がる。
動かなければ、飯にありつけない。ここにはもう、餌を与えてくれる人はいないんだ。自分で狩らねば。
俺は今度こそ、草むらの中に身を隠して獲物を待った。ここなら、周辺の河原を見渡せる。こっそり近付いて、奇襲も出来る。
さぁ、来い。獲物ちゃん。出来たらウサギとか、さっきの鳥とかが嬉しいな。
そうして暫く身を隠していると、ホーンラビットの群れがやって来た。4羽が身を固め、川の中に顔を突っ込んでいる。
うん。悪くはないけど、4羽か。あの中に飛び込むのは危険だな。1羽に気が行っている時に、側面からブスッ!なんてされたら、一巻の終わり。
回復手段が分からないんだ。怪我したら、それだけで命取りになる。
なら…頭を使わないとな。
俺はこっそり河原の石を口に咥え、それをなるべく遠くの草むらへと放り投げる。
カサッ!
石が落ちた音で、小さく草が揺れる。それを見て、ウサギ達はそちらに気を散らす。角を突き立て、石が落ちた方へと突っ込んでいった。
でも、全員じゃない。1羽だけ、呑気に水を飲み続ける個体がいた。
作成大成功。1羽でも歩調を乱せばラッキーと思ったが、まさか別行動を取るとは。
知らないのか?独りだけ別行動ってのは、死亡フラグなんだよ?
俺は草むらから飛び出し、河原を駆ける。その音でウサギが振り返るが…大丈夫!魔物は逃げないから。
【ピピッ!】
ウサギが振り返り、構える。後ろ足に力を溜める。
まだ溜める。溜めて、来る!
俺はそれに合わせ、横にステップ。白い体が横を通り過ぎると同時に、ガブリッ!
【ピ…】
絶命したウサギを咥え、俺は元の茂みに隠れる。そこで、素早く死体にかぶりつく。
急がないと、無くなっちゃう。毛とか小骨とか気になるけど無視だ。口に入る物は、何でも噛み砕いて飲み込むんだ。
そうして急いで食べるから、周囲をかなり汚してしまった。口元にもベッタリ血が付いている様子。
でも、それも徐々に消えていく。目の前の死体が消えていくのと同時に綺麗サッパリ。残ったのは、やはり小さな石と角だけ。他は全て消えてしまった。
俺の腹に入った、ウサギの肉以外。
【うん】
2口くらいしか食べられなかったけど、取り敢えず腹の虫は治まった。食べた肉まで消えて、空腹感が満たされなかったらどうしようかと思ったけど、そうはならなかった。
自分の血肉にしてしまえば、消えないのかな?
【ピィ?】
【ピピ?】
安堵していると、河原にウサギ達が戻って来ていた。
仲間を探しているみたいだけど…悪いな。もう俺の腹の中だ。そして、次は君達の番だ。
俺は再び、小石を咥えた。
【ふぅう〜】
4羽のウサギを胃袋に収めて、俺は漸く満足した。
若干食べ過ぎた気もするが…向こうから襲ってくるのだから仕方がない。次に何時ありつけるか分からない世界だし。
満足し、また川で水を飲む。ついでにステータスも確認すると…うん?
俺は首を傾げる。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:6(前回値+1)
HP:83(+1)
MP:65(+1)
物理攻撃力:85(+1)
物理防御力:33(+1)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:35(+1)
俊敏性:92(+4)
器用性:33(+1)
スキル:ー〉
あれ?なんか、能力値の上がりショボくない?俊敏性以外は、全部0か1だよ?こう言うのって、普通は2〜5くらい上がるものじゃない?
これって、俺が犬だからか?それとも、レベルの上限がかなり高く設定されているとか?
【ギギ】
驚いていると、向こうの河原に1匹のゴブリンが現れた。仲間も連れず、武器も粗末な木の枝だけ。
腹は満ちているけど…そうだな。ちょっと試してみよう。
俺は奴の背後に周り、静かに飛び出す。まだ気付かない奴の首筋を、思いっきり噛み砕く。
そして、再び水面を覗くと…。
【えっ?】
俺は驚く。
ステータスが、こう表示されていたから。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:7(+1)
HP:83(+0)
MP:66(+1)
物理攻撃力:86(+1)
物理防御力:33(+0)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:35(+0)
俊敏性:94(+2)
器用性:33(+0)
スキル:ー〉
なんと、殆ど成長していない。成長株だった俊敏性すら、成長率に陰りが出てきた。
もしかしてこの世界、かなりハードモードなのかも…。
レベルが意味を成していない?
それとも、今のステータスが既に強い?
「強くは無かろう。ゴブリンに苦戦しておるからな」




