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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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3/7

3話〜裏をかかせてもらうぞぉ!〜

 異世界へのゲートを潛った先は、石のダンジョン。

 そう思った俺の見立ては、間違っていた。

 石の隙間から出てみると、外には夜空が広がり、煌々と照らす満月が2つ。そして、その明かりによって見えたのは、雑多な廃墟。コンクリート片が散らばり、何やら電線の様な物が絡まり放置され、グシャグシャに折り曲げられた鉄板が千切れて捨てられていた。

 大きさから言って、それなりに大きな街。コンクリート片から鉄筋が見えるので、建築技術も現代並みだ。


 異世界人が作った街…じゃないよな。明らかに、現代人がゲートで転移して、ここに街を作ったっぽい。でも、何かで壊れたって感じだ。

 地震か?それとも魔物?いや、先ず確認すべきは…。

 俺は振り返る。すると、そこには瓦礫の山がこんもりしていた。

 

 ここがゲートの位置とは、ぱっと見で分からなくなりそう。だから、目印を付けとかないと。

 しーっとっとっと。


 マーキングを終えた俺は、夜の廃墟を慎重に進む。

 臭いの中にはコンクリートや鉄以外にも、強烈な血の匂いも混じっている。ちょっと薄いので、風化した古い血の匂いだとは思うけど…。

 そうして進んでいると、異様な臭いをキャッチした。濃い血の中に、浮浪者の様な酸っぱい臭い。何処か懐かしい。この臭いは…。


【ギシシ…】


 身を屈めて構えていると、小さな瓦礫の山に影が登る。禿げ上がった頭に長い耳。鋭い牙にみすぼらしい布切れを巻いただけの身なり。

 間違いない。ゴブリンだ。


【ギシャ?】


 さて、どうするかとゴブリンを見ていたら、奴がこちらを振り返る。

 俺の視線に気付いたみたい。この世界のゴブリンは、かなり手強いかも。

 こいつは、危険だな。


 そう判断した俺は、攻めの構えから一転、逃げに転じた。

 相手の実力が分からない内に、攻め込むのは得策ではない。奴がああして姿を現したのだって、何か考えがあっての事かも知れないし。

 ゴブリンってのは、かなりズル賢いからね。人間だった頃、何度か煮え湯を飲まされた事がある。


【ギヤー!ギヤー!】


 瓦礫の中を駆け抜けていると、後ろでゴブリンの声が聞こえた。

 その直後、強烈な殺気を背中に受ける。

 慌てて横に飛ぶと、さっきまで駆けていた道に矢が突き刺さった。

 ゴブリンアーチャー!?やはり、仲間が隠れていたか。


 俺は瓦礫の間をジグザグに走り始める。

 体力は使うが、後ろから狙われている時に一直線で逃げるのは不味い。こうして左右に体を揺らして、的を絞らせない様にするんだ。


 俺の目論見は、的中する。後ろから何度か矢が飛んでくるも、地面に突き刺さってばかりだった。

 よしよし。距離も十分稼げている。このままなら逃げ切れるぞ。

 廃墟地帯の終わりも見えたので、俺がラストスパートをかけようとした、

 その時、


【ギジャァア!】


 くぐもったゴブリンの声。さっきの斥候の物ではない、太く耳に残る声。

 それが聞こえると同時、廃墟を抜ける道に低い壁が出来る。

 いや、壁じゃない。あれは…板か?


【ギシシ】【ギヒヒ】


 板の後ろから、ゴブリンの声と臭いが漏れてくる。

 どうやら、ゴブリンガードが道を塞いでいるみたいだ。しかも、ご丁寧に少しだけ板を斜めに構えている。

 その板を足場にして、ジャンプしろって言ってるのか?それで、空中にいる間にアーチャーが射抜くんだろ?

 分かってるぜ、お前らの考える事はな!


裏をかかせ(ワォオオン)もらうぞぉ!】


 俺が吠えながら走ると、ゴブリンガードが体を硬直させる。その瞬間、奴らの間に僅かな隙間が出来る。

 甘い!

 そこに、俺は体をねじ込む。板を跳ね除け、目の前に見えた薄緑の肌に思いっきり噛み付く。

 噛みちぎる!


【ギァアアアア!!】


 絶叫。それと共に、板が一枚落ちる。

 大きな隙間。

 俺はその隙を潜って、ガードの包囲網を脱出した。


【ギガァアア!!】


 後ろから、くぐもった怒号。

 ゴブリンの親玉かな?ふふっ。あんな甘いファランクスじゃ、猫の子一匹捕まらないぞ。

 俺は異臭のする廃墟を、足早に駆け抜けた。


はっ、はっ、はっ(ハッ、ハッ、ハッ)


 それから暫く、俺は草原を走り続ける。ゴブリン達が追ってくると思って、かなりのハイスピードで。

 でも、その様子は無い。あいつらのアンモニア臭はドンドン遠ざかっているので、あの廃墟からは出てこないみたいだった。

 廃墟を寝ぐらにするなんて、ホント盗賊だな。洞窟とか森とか、普通はそう言う所で暮らすと思うんだが…。


 っと、考えながら走っていると、地面の窪みに足を取られて転んでしまった。

 いてて。

 ダメだな、ちゃんと前を向かないと。やっぱりまだ、四足歩行に慣れてないかも。

 反省しながら立ち上がる。そして、ふと後ろを見ると…。


ふぁ(ワフ)っ!?】


 そこにあった物に驚いて、息を飲んだ。俺の足を取ったのは、ただの窪みじゃなかった。

 それは、俺の体がすっぽり入ってしまう程の巨大な凹み。草を踏み潰し、地面まで掘り返す程の、巨大な生物の足跡だった。それが、幾つも、幾つも地面に刻まれていた。

 草原を、横断していた。

 

 これが足の裏だとして、本体はどれくらいの大きさになるんだ?象くらい?いや、もっと大きいだろう。

 それこそ、恐竜クラスの大きさ…。


恐ろしい(ウゥウ)…】


 俺は身震いし、その足跡から離れる様に走り出す。

 ゴブリン相手でも逃走したのに、今こんな魔物と遭遇したら、ひとたまりもない。

 先ずは、この世界で生き残れるくらいに強くならなければ。


 また走り続けていると、徐々に夜が明け始める。眩しい輝きの太陽が、向こうの山からか顔を出し、世界を彩らせる。

 夜闇では見えなかった世界が、明ける。


わぉ(ワォ)…】


 そこには、豊かで広大な大地が広がっていた。

 風に靡く草原の向こうには、大地を横断する大河が煌めく。その大河の向こうには、鬱蒼と茂る木々が連なり、大きな森を形成していた。

 そして、空にも届きそうな荘厳な山々。頭から立ち上る黒煙は、大地の怒りを吐き出しているかのようだった。

 まるで白亜紀だな。見た事ないけど。


 雄大な大自然に圧倒されていると、目端で何かが動いた気がした。注視すると、小さな影が動いているのが分かる。

 見えないが、この匂い…ウサギか?

 そう思った途端、お腹の虫がキュルキュルと寂しい音を奏でる。


 思えば、昨日の干し肉から何も口にしていない。ここまでは命の危機を感じて必死に走って来たけど、そろそろガス欠だ。

 血を、肉を、俺に、たんぱく源を…。

 内なる思いが爆発しそうだったが、俺は慎重に獲物へと近づく。俺の狩りの腕前は、俺自身が一番分かっているから。

 焦るな。まだ慌てるような時間じゃない。一本…いや、一体確実に。


 俺はゆっくりとウサギらしき小動物に近付く。身を低くして、なるべく草に体を隠す。常に風下に立つように立ち回り、殺気を出さないよう気を付ける。

 そして、あと数歩も近付けば射程距離という所で、


【っ!?】


 気付かれた。

 くそっ!

 俺は草むらから飛び出し、追いかけようとする。でもそこで、予想外の事が起きる。


【ピピッ!】


 なんと、ウサギの方からこちらへ向かって来たのだ。

 なんで、獲物が向こうから?

 そう思った瞬間、俺の目に長い角が映り込む。

 あっ、ホーンラビット。魔物だから襲ってきたのか。


【ピッ!】


 おっと、あぶねぇ。

 角を突き出しながらの跳躍を、俺は間一髪で避ける。

 だが、躱すのが精一杯で、着地したウサギに追い打ちをかけることが出来なかった。予想外の攻撃に、こちらも大きく手間取ってしまった。

 焦るな、焦るな。相手が逃げないなら、ゆっくりじっくり攻めようじゃないか。

 

 俺が落ち着いてウサギを見ると、奴は変わらず俺に突っ込んでくる。そして、飛び込む前動作を行った。

 よし、見える。じっくり見れば、奴の動きがスローモーションのように見える。

 確かに、俺は犬で視力が悪い。だが、動体視力は人間の比ではないのだよ!

 

 ウサギの飛び込みに合わせ、俺は横に跳ぶ。そして、奴のフワフワとした胴体が顔面の横を過ぎ去ろうとしたところで、

 ガブッ!

 思いっきり噛みついた。


【ピッ!ピィ…】


 ビクンと体を跳ねさせたかと思った次には、ウサギの体がぐったりと力を無くす。

 死んだか。

 俺は一旦、ウサギの死体を地面に置いて観察した。


 さて。異世界の、それも魔物の死体だけど、食べても大丈夫だろうか?その世界に寄っては、魔物の肉を食べたら死んでしまう…なんてパターンもあるからな。食えるのかどうか、実験したい気持ちもある。

 でも…腹も減ってるし…。

 

 俺は迷う。

 迷っている内に、死体に変化があった。まるで風船が萎むように体が小さくなっていき、徐々に骨が見え始めた。

 えっ!?なにっ!?何が起きてる?

 驚いている内にも、ウサギの死体は見る見る小さくなり、最後には頭の角と小さな白い石だけが残った。


 美味しそうだった死体(ごちそう)が、綺麗に消えてしまったのだった。


うそ、だろ(ワウゥゥ)…】


 俺は、項垂れた。

本日はここまで。

明日からは、18時に投稿致します。


「3話か?」


1日1話です。体がもちません。


「またまた」


いやいや。

それと、1話3000〜5000文字の間でやらせて頂きます。


「幅があるな」


…筆がのると、4000字をオーバーしちゃうんです。


「良いではないか」

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― 新着の感想 ―
大手クランの拠点廃墟か、研究施設系のラボ跡地か。ゴブリン排除出来るようになったら何か見つからんかな 出会い頭に吠え付かれて驚愕に硬直したのか、咆哮(ハウリング)系スキル持ちの種族か… ステ画面欲しい…
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