2話〜うちで飼えないか?〜
※本日は連続投稿中です。こちらは2話目です。
異世界に行こうとしたら、警備員らしき人に止められてしまった。まだ入口すら見ていない段階で跳ね除けられてしまい、俺は渋々帰る…。
様に見せかけて、神社の藪影にこっそり潜んだ。
この程度で諦めてちゃ話にならない。折角ここまで来たんだから、ヒントだけでも拾わないと。
そう思って、境内に目を凝らす。
こんな至近距離でも、ボヤっとしか見えない。犬の目はあまり良くないのだ。なので、聴力と嗅覚もフル活用だ。
「次の方!こちらへどうぞ」
鳥居前の白い建物から、受付らしき女性の声が聞こえる。その声に釣られるように、たむろっていた男性達が列を作る。そして、受付が終わった青年グループが、意気揚々と鳥居の階段を登って行く。
お参り…じゃないよな。境内の何処かに、ダンジョンへ通じる階段でもあるのだろうか?
俺がよく見ようと立ち上がったその時、鳥居の下を潜った青年達の姿が一瞬で消えた。
えっ?消えた?
目の錯覚かと思い、俺はもう少し鳥居の近くまで近寄る。
うん。彼らの匂いも、鳥居の下で途切れている。という事は…この鳥居が、異世界への入口?そう言えば、昨晩のサラリーマンも「ゲート」と言っていたな。
じゃあこれが、異世界の入口。
「あっ!あの犬、また!」
おっと。警備員に見つかってしまった。
俺は一旦、神社から離れた。
そして次にやってきたのは、小さな神社。ビルの合間にある稲荷神社。
神社の鳥居がゲートになっているなら、こいつでも異世界に行けるのでは?
そう思って潜ってみるも、ただ鳥居の向こう側に抜けるだけ。上を見ても、ビルディングが俺を見下ろしていた。
そっか。鳥居なら何でも良い訳じゃないのか。
それもそうかと思い直し、俺は明治神宮の近くまで戻って来た。中に入ると怒られるので、駐車場の近くで聞き耳を立てる。すると、冒険を終えた風貌の男性達が帰ってくる。
何で分かるかと言うと…臭いだ。とても臭い。向こうでは風呂にも入れないらしい。
「やっべぇな。今回も収穫ゼロだ」
「どうする?北海道神宮方面に足を伸ばすか?」
「あっちはヘルハウンドが出るだろ?俺達じゃ敵わねぇよ」
やっぱり冒険者みたいだ。鎧も武器も持っていないけど、どうやって戦っているのだろうか?
そうして暫く、駐車場で聞き耳を立てる。冒険の話はチラホラ聞けるが、俺の求めている情報とはちょっと違う。
もっとこう、近場で穴場なスポットとか話題に出してくれないか?出来れば、警備の薄いゲートの情報が欲しい。
「あら?あそこに犬が居るわね」
辺りも薄暗くなって来た時、そんな声が聞こえ、俺はビクリッと体を硬直させた。
まさか、この暗がりで俺が見つけられるとは。そしてこの声、女性の物だぞ?
こちらへと歩いて来る一団に、俺はどう動くか迷う。臭い的に冒険者っぽいけど、捕まえる気だったら不味いな。でも何となく、犬好きな人の気がする。汗の臭いに、マイナスの感情が乗っていないから。
どうするか悩んでいると、俺の目の前で女性が屈む。俺に向かって、手を差し出してきた。
「おいで。怖がらなくて良いわ」
うん。やはり大丈夫そう。
俺はその手に従い、女性の元へ。彼女に撫でられていると、彼女の横に別の女性が座った。
「随分と大人しいな。飼い犬か?」
おっと。女性かと思ったら男性だった。美しい黒髪に端正な顔立ちだから、てっきり女性かと。
「痩せてるな。干し肉が余ってるんだが…食うか?」
【頂戴します!】
やった。臨時収入。逃げなくて良かった。
俺が肉をカジカジ食べていると、2人の後ろに小さな影が立つ。
「よく犬が居るなんて分かったわね、樹璃」
「アーチャーですもの。暗視スキルがあるのは知っているでしょ?」
ほぉ、暗視スキル。
冒険者には、スキルが備わっているのか。そしてそれは、現代日本でも使えると。
「何言ってんのよ。ここは異世界じゃないんだから、スキルは使えないでしょ?」
…あれ?使えないの?
「そうでも無いわよ?理沙。あちらで見慣れているから、こちらでも多少は夜目が効くの」
「それ、ホント?」
呆れるリサさんを見るに、現実世界ではスキルを使えないみたいだ。
考えてみれば、今まで見てきた人間にそんな素振りはなかった。スキルが使えれば、日常生活でも使っているだろう。
「お手だ、ワンコ。出来るか?」
【勿論!】
これくらい、お手の物ですよ。
俺は綺麗な青年の手に前足を置く。すると、彼はふっと笑った。
「随分と利口な子だ。うちで飼えないか?」
なぬっ!?
ここに来て、飼い犬化は不味い!
「あんたまで何言ってんのよ、悠里。社員寮はペット禁止でしょ?」
「分かっちゃいるが、たとえば会社に置くとか出来ないかと思ってな。うちの会社、ロゴが犬だろ?」
「白犬ね。でも、会社にそんな余裕は無いわ」
「ああ、分かってるよ」
ふぅ。助かった。
あまり愛想良くし過ぎるのも、考えものだな。
俺が緊張を解く前で、ちびっ子のリサさんがユーリ君に詰め寄る。
「それより、別ルートを開拓する方が急務でしょ?このままだと私達の会社、黒ヒョウに吸収合併されるわよ?」
「なら、入るゲートを変えるか?北の方の、柏神社なら流山に近いだろ」
ほぉ。柏にもゲートがあるのか。
「バカ言わないで。あそこはもう何年も立ち入り禁止よ。流山と一緒で、2級以上の冒険者じゃないと入れないわ」
「そもそも、相当過疎化が進んでいるわ。そう言う意味でも危険よ」
ほぉ。過疎っている。それって、警備も緩いのでは?
「分かってる。言ってみただけだ。整備されたゲートは人が多く、されていないと難易度が跳ね上がる。ほんと、楽には稼げないもんだな」
「愚痴ってないで、ルート開拓するわよ」
「へいへい」
青年は肩を竦め、ぼちぼち帰って行く。
それとは反対に、俺は嬉々として移動し始める。
柏…千葉となると、かなりの距離となる。今から向かわねば。
そう思っていたが、意外にも移動はスムーズだった。東京から離れると人も少なくなってきて、偶にトラックに乗せて貰ったりも出来たから。
そうして数日かけて、俺は目当ての神社に辿り着いた。
柏神社。
ジュリさんは過疎っていると言っていたが、それなりに人の出入りは多い。そして、建物も綺麗だ。
ただ、明治神宮に比べたら人は少ない。何より、鳥居の前に一般人は誰も並んで居らず、誘導灯を持ったお爺ちゃんがポツンと居るだけだ。そのお爺ちゃんも、夜には居なくなっていた。
残されたのは、〈立ち入り禁止〉と書かれた立て看板と柵に守られた鳥居だけ。
異世界に通じる門にしては、随分と警備が手薄だな。いたずらで侵入する分には自己責任ってことなのか?そもそも、向こうから魔物が溢れて来たりしないのか?
色々と気になったが、それは人間の問題。俺は先ず、このゲートが本物かを確かめないと。
そうは思うが、いきなり突っ込むのは危険だ。何かのトラップが仕掛けられているかもしれないから、慎重に行かないと。
俺は静かに柵を掻い潜り、鳥居の前に座る。周囲に監視カメラが無いかを探り…あるな、狛犬の足元。でも、こちらではなく、歩道の方を見ている。
犬はスルーか?明治神宮とは逆だな。
カメラはOK。次は、鳥居自体にトラップが無いかだ。
俺は小石を拾い、鳥居へ投げ込む。
歪な放物線を描きながらも飛んでいく小石は、鳥居を過ぎる前に消えてしまった。
おっ。本当に異世界へのゲートになっているっぽい。
次に俺は、前足を突き出す。それを、恐る恐るゲートへと突っ込んでいく。
頼むから、前足スパンッ!なんてならないでくれよ…。
そう願いながら突っ込んだ前足は、やはり途中で見えなくなった。
でも、引っ込めたらまた現れた。痛みも異変も無し。
行けるか?
…よし。行こう。
決心した俺は、頭から突っ込む。鳥居が近付いてきて、ある時に一瞬で周囲が暗くなった。
目の前には、壁。
洞窟?異世界って、ダンジョン型なのか?
俺は更に前へ出て、全身を潜らせる。そのまま、洞窟の壁に鼻を着ける。
土じゃないな。これは、コンクリート?ここのダンジョンは、石で出来ているのか?
そうして嗅いでいると、隙間が出来ている事に気付く。犬なら余裕で通れる隙間だ。
俺はそこを通って、先に進む。
すると突然、目の前が明るくなった。
見上げると、月。それも2つ。
異世界。本当に、俺は異世界に…。
そして、周囲を見渡すと…。
【なんだ?これは…】
このあとがきには、補足や考察、雑談等を入れていきます。
※カギカッコの使い方について。
「」…通常の会話。
『』…マイクや電話など、肉声でない会話。
【】…日本語以外の言語の会話(犬や魔物の声も含む)
〈〉…表記された文字やマークなど。
〈◆〉…視点切り替え(話し手が主人公から別の人になります)
※フリガナについて。
基本、上に振られている文字が読み方であり、登場人物に聞こえている音です。
「犬のセリフで言えば、上のワンッ!とかが発せられている音と言う事だな?」
はい。下のセリフは、主人公の意図みたいなものでしょうか。




