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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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2/6

2話〜うちで飼えないか?〜

※本日は連続投稿中です。こちらは2話目です。

 異世界に行こうとしたら、警備員らしき人に止められてしまった。まだ入口すら見ていない段階で跳ね除けられてしまい、俺は渋々帰る…。

 様に見せかけて、神社の藪影にこっそり潜んだ。

 この程度で諦めてちゃ話にならない。折角ここまで来たんだから、ヒントだけでも拾わないと。


 そう思って、境内に目を凝らす。

 こんな至近距離でも、ボヤっとしか見えない。犬の目はあまり良くないのだ。なので、聴力と嗅覚もフル活用だ。

  

「次の方!こちらへどうぞ」


 鳥居前の白い建物から、受付らしき女性の声が聞こえる。その声に釣られるように、たむろっていた男性達が列を作る。そして、受付が終わった青年グループが、意気揚々と鳥居の階段を登って行く。

 お参り…じゃないよな。境内の何処かに、ダンジョンへ通じる階段でもあるのだろうか?

 俺がよく見ようと立ち上がったその時、鳥居の下を潜った青年達の姿が一瞬で消えた。


 えっ?消えた?

 目の錯覚かと思い、俺はもう少し鳥居の近くまで近寄る。

 うん。彼らの匂いも、鳥居の下で途切れている。という事は…この鳥居が、異世界への入口?そう言えば、昨晩のサラリーマンも「ゲート」と言っていたな。

 じゃあこれが、異世界の入口。


「あっ!あの犬、また!」


 おっと。警備員に見つかってしまった。

 俺は一旦、神社から離れた。


 そして次にやってきたのは、小さな神社。ビルの合間にある稲荷神社。

 神社の鳥居がゲートになっているなら、こいつでも異世界に行けるのでは?

 そう思って潜ってみるも、ただ鳥居の向こう側に抜けるだけ。上を見ても、ビルディングが俺を見下ろしていた。


 そっか。鳥居なら何でも良い訳じゃないのか。

 それもそうかと思い直し、俺は明治神宮の近くまで戻って来た。中に入ると怒られるので、駐車場の近くで聞き耳を立てる。すると、冒険を終えた風貌の男性達が帰ってくる。

 何で分かるかと言うと…臭いだ。とても臭い。向こうでは風呂にも入れないらしい。


「やっべぇな。今回も収穫ゼロだ」

「どうする?北海道神宮方面に足を伸ばすか?」

「あっちはヘルハウンドが出るだろ?俺達じゃ敵わねぇよ」


 やっぱり冒険者みたいだ。鎧も武器も持っていないけど、どうやって戦っているのだろうか?

 そうして暫く、駐車場で聞き耳を立てる。冒険の話はチラホラ聞けるが、俺の求めている情報とはちょっと違う。

 もっとこう、近場で穴場なスポットとか話題に出してくれないか?出来れば、警備の薄いゲートの情報が欲しい。


「あら?あそこに犬が居るわね」


 辺りも薄暗くなって来た時、そんな声が聞こえ、俺はビクリッと体を硬直させた。

 まさか、この暗がりで俺が見つけられるとは。そしてこの声、女性の物だぞ?


 こちらへと歩いて来る一団に、俺はどう動くか迷う。臭い的に冒険者っぽいけど、捕まえる気だったら不味いな。でも何となく、犬好きな人の気がする。汗の臭いに、マイナスの感情が乗っていないから。

 どうするか悩んでいると、俺の目の前で女性が屈む。俺に向かって、手を差し出してきた。


「おいで。怖がらなくて良いわ」


 うん。やはり大丈夫そう。

 俺はその手に従い、女性の元へ。彼女に撫でられていると、彼女の横に別の女性が座った。


「随分と大人しいな。飼い犬か?」


 おっと。女性かと思ったら男性だった。美しい黒髪に端正な顔立ちだから、てっきり女性かと。


「痩せてるな。干し肉が余ってるんだが…食うか?」

頂戴します(ワン)!】


 やった。臨時収入。逃げなくて良かった。

 俺が肉をカジカジ食べていると、2人の後ろに小さな影が立つ。


「よく犬が居るなんて分かったわね、樹璃(ジュリ)

「アーチャーですもの。暗視スキルがあるのは知っているでしょ?」


 ほぉ、暗視スキル。

 冒険者には、スキルが備わっているのか。そしてそれは、現代日本(こちら)でも使えると。


「何言ってんのよ。ここは異世界じゃないんだから、スキルは使えないでしょ?」


 …あれ?使えないの?


「そうでも無いわよ?理沙(リサ)。あちらで見慣れているから、こちらでも多少は夜目が効くの」

「それ、ホント?」


 呆れるリサさんを見るに、現実世界ではスキルを使えないみたいだ。

 考えてみれば、今まで見てきた人間にそんな素振りはなかった。スキルが使えれば、日常生活でも使っているだろう。


「お手だ、ワンコ。出来るか?」

勿論(ワンッ)!】


 これくらい、お手の物ですよ。

 俺は綺麗な青年の手に前足を置く。すると、彼はふっと笑った。


「随分と利口な子だ。うちで飼えないか?」


 なぬっ!?

 ここに来て、飼い犬化は不味い!


「あんたまで何言ってんのよ、悠里(ユウリ)。社員寮はペット禁止でしょ?」

「分かっちゃいるが、たとえば会社に置くとか出来ないかと思ってな。うちの会社、ロゴが犬だろ?」

「白犬ね。でも、会社にそんな余裕は無いわ」

「ああ、分かってるよ」


 ふぅ。助かった。

 あまり愛想良くし過ぎるのも、考えものだな。

 俺が緊張を解く前で、ちびっ子のリサさんがユーリ君に詰め寄る。


「それより、別ルートを開拓する方が急務でしょ?このままだと私達の会社、黒ヒョウに吸収合併されるわよ?」

「なら、入るゲートを変えるか?北の方の、柏神社なら流山に近いだろ」


 ほぉ。柏にもゲートがあるのか。


「バカ言わないで。あそこはもう何年も立ち入り禁止よ。流山と一緒で、2級以上の冒険者じゃないと入れないわ」

「そもそも、相当過疎化が進んでいるわ。そう言う意味でも危険よ」


 ほぉ。過疎っている。それって、警備も緩いのでは?


「分かってる。言ってみただけだ。整備されたゲートは人が多く、されていないと難易度が跳ね上がる。ほんと、楽には稼げないもんだな」

「愚痴ってないで、ルート開拓するわよ」

「へいへい」


 青年は肩を竦め、ぼちぼち帰って行く。

 それとは反対に、俺は嬉々として移動し始める。

 柏…千葉となると、かなりの距離となる。今から向かわねば。


 そう思っていたが、意外にも移動はスムーズだった。東京から離れると人も少なくなってきて、偶にトラックに乗せて貰ったりも出来たから。

 そうして数日かけて、俺は目当ての神社に辿り着いた。

 柏神社。

 ジュリさんは過疎っていると言っていたが、それなりに人の出入りは多い。そして、建物も綺麗だ。


 ただ、明治神宮に比べたら人は少ない。何より、鳥居の前に一般人は誰も並んで居らず、誘導灯を持ったお爺ちゃんがポツンと居るだけだ。そのお爺ちゃんも、夜には居なくなっていた。

 残されたのは、〈立ち入り禁止〉と書かれた立て看板と柵に守られた鳥居だけ。


 異世界に通じる門にしては、随分と警備が手薄だな。いたずらで侵入する分には自己責任ってことなのか?そもそも、向こうから魔物が溢れて来たりしないのか?

 色々と気になったが、それは人間の問題。俺は先ず、このゲートが本物かを確かめないと。


 そうは思うが、いきなり突っ込むのは危険だ。何かのトラップが仕掛けられているかもしれないから、慎重に行かないと。

 俺は静かに柵を掻い潜り、鳥居の前に座る。周囲に監視カメラが無いかを探り…あるな、狛犬の足元。でも、こちらではなく、歩道の方を見ている。

 犬はスルーか?明治神宮とは逆だな。


 カメラはOK。次は、鳥居自体にトラップが無いかだ。

 俺は小石を拾い、鳥居へ投げ込む。

 歪な放物線を描きながらも飛んでいく小石は、鳥居を過ぎる前に消えてしまった。

 おっ。本当に異世界へのゲートになっているっぽい。


 次に俺は、前足を突き出す。それを、恐る恐るゲートへと突っ込んでいく。

 頼むから、前足スパンッ!なんてならないでくれよ…。

 そう願いながら突っ込んだ前足は、やはり途中で見えなくなった。

 でも、引っ込めたらまた現れた。痛みも異変も無し。

 行けるか?

 …よし。行こう。

 

 決心した俺は、頭から突っ込む。鳥居が近付いてきて、ある時に一瞬で周囲が暗くなった。

 目の前には、壁。

 洞窟?異世界って、ダンジョン型なのか?

 俺は更に前へ出て、全身を潜らせる。そのまま、洞窟の壁に鼻を着ける。


 土じゃないな。これは、コンクリート?ここのダンジョンは、石で出来ているのか?

 そうして嗅いでいると、隙間が出来ている事に気付く。犬なら余裕で通れる隙間だ。

 俺はそこを通って、先に進む。


 すると突然、目の前が明るくなった。

 見上げると、月。それも2つ。

 異世界。本当に、俺は異世界に…。

 そして、周囲を見渡すと…。


なんだ?これは(ワフ?)…】

このあとがきには、補足や考察、雑談等を入れていきます。


※カギカッコの使い方について。


「」…通常の会話。

『』…マイクや電話など、肉声でない会話。

【】…日本語以外の言語の会話(犬や魔物の声も含む)

〈〉…表記された文字やマークなど。

〈◆〉…視点切り替え(話し手が主人公から別の人になります)


※フリガナについて。

基本、上に振られている文字が読み方であり、登場人物に聞こえている音です。


「犬のセリフで言えば、上のワンッ!とかが発せられている音と言う事だな?」


はい。下のセリフは、主人公の意図みたいなものでしょうか。

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― 新着の感想 ―
偽犬「俺は小石を拾い、鳥居へ投げ込む」 OK、初っ端から想像力を刺激してくれる(キリッ  ①鼻先に小石を乗っけてマズル・トス ②前足でインサイド気味に器用に拾って投げる(投擲下手は大丈夫? コンクリ…
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