53話~あれ?~
「びっくりしたよねぇ。ヴァルが飛び出した時はさ」
蜂須賀君が俺の頭を撫でながら、苦笑いを浮かべる。それに、俺はただ【面目ない】と謝る。
でも言い訳させて欲しい。俺はただ、相手の動きを牽制しただけだ。今までと同じように、みんなは組織的に動くものと思って行動していた。なのに、みんな示し合わせたかの様に動かないんだもの。
お陰で、俺は1人で動いて、みんなに心配を掛けてしまった。右目を抉った時なんか、女子達みんなドン引きだった。
確かに、目潰しはやり過ぎだったかも。そのせいで、オークの討伐が楽勝過ぎたから。蜂須賀君が足を切り付けて、下がった首を持田さんが一刀両断して終わっていた。馬場山君なんて、指示出しだけで終わっていたから。
あまり楽にし過ぎると、彼らの為にならない。次からはもうちょっと、軽めに当たるかな?
力を抑えるのも難しい物だと、俺は四苦八苦しながらその日は終える。魔石の収集スピードは若干落ちたけど、みんなは満ち足りた顔をしていたので良かったと思う。
…でも、まだちょっと物足りない気がする。そう感じるのは、俺が力を余らせているからか?
「みんな!そろそろ日が落ち始めるけど、今日はどうするんだい?」
周囲が暗くなり始めた時、波多野兄が声を掛ける。それに、姉さんが答える。
「今日はここまでにしましょう。みんなも疲れたでしょ」
「さんせー。あたし汗だくだよ」
「刃も随分と摩耗しているからな。拠点で整備するか」
みんなが帰る意思を示すと、陽太さんは満足そうに頷いた。
「良い判断だね。日が落ちると、森の中はもう真っ暗だ。月明りも届かないから、暗視スキルを持っている魔物に襲われたら大変なんだよ」
「退く判断も冒険者には必須のスキルだ。そう言う意味でも、君らは合格だな」
1級冒険者の海斗さんにまで褒められ、みんなは嬉しそうに顔を緩ませる。
そして、無事に街へ到着すると互いに労い、冗談を飛ばし合った。
その後、俺の周りに集まった。
「ヴァルちゃんもお疲れ。凄い活躍だったね」
「コボルトの脇腹に嚙みついた時はビックリしたよ。しかも、噛み千切っちゃうし」
「オークの目も潰しちゃったね」
蜂須賀君とシアンさんが俺を撫でまわす。
随分と抑えた筈なのに、まだ褒められるのか。
「おい、ヴァル。お前のレベル、何処まで上がった?」
目の前に馬場山君が座り込んで、俺の鼻先に手鏡を向ける。それを覗いてみるけれど…。
残念ながら、雑魚ばかり倒していたのでステータスは殆ど変わっていない。隙を見てゴブリンの肉は食べていたので、器用性だけは4つ上がって60になっていた。
相変わらず低いな、俺の器用性。
「どうだ?あれだけ倒してりゃ、レベルも10は超えただろ」
【うん。そりゃねぇ】
俺のレベルは既に、50を超えているんだ。だから、俺の事より、持田さんを気にかけて欲しいな。
俺は前足で、持田さんの足にタッチする。
「自分ですか?今のレベルは16になっていました」
おぉ。1日でそこまで上がったのか。
「加えて、剣術のスキル名も変わりました。微から小になってます」
マジか。たった1日でスキルまでレベルアップするとは。
俺なんて、スキルレベル上げるのに1週間近くかかったぞ?
「凄い成長率だね、アヤちゃん」
「あたしら、直ぐに抜かされちゃうよ」
みんなも驚いている。それだけ彼女の成長スピードが異常と言う事だろう。
やっぱり基礎だ。基礎がしっかりしている人は成長もはやいんだ。
「ほら、お前ら。とっとと魔石を預けに行くぞ」
馬場山君が、肩を怒らせながら先に行こうとする。
これは、持田さんに負けそうになって焦っているな。悪くない傾向だ。
俺も彼の背中に導かれ、街道を歩く。来る時よりも多くの人が、俺の姿に驚いて振り返って来る。中には「ヘルハウンド?」と警戒する人も居た。
なるほど。こちらの世界じゃ街中に動物なんて居ないのか。寧ろ魔物が入ってくる可能性の方があるから、警戒していると。
そう言う意味で、明治神宮の警備員は俺を摘み出したのかもしれないな。
「ここが冒険者ギルドだ」
そう言って馬場山君が入っていったのは…市役所?
みんなは当然の様に入って行くけど、俺だけは驚いて看板を見上げてしまう。
あっ、俺だけじゃなかった。持田さんも驚いている。その後ろで、笑みを浮かべた波多野弟が看板を指す。
「驚いた?看板は市役所だもんな」
「冒険者ギルドって言うのは、俺達が呼んでいる通称なんだ。正式には異世界対策課って名前なんだよ」
「でも今じゃ、ギルドって言うのが普通だ」
へぇ。対策課ね。
陽太さんの説明に、俺達は唸る。
魔石で発電を行っているから、取り扱いも国が出張っているって事なんだろうか?
だからマンモスに襲われた時も、自衛隊の出動が早かったのかな?
「ありがとうございます。勉強になりました」
「良いの、良いの。因みに、対策課に行けば仕事を斡旋してくれるし、魔物の素材も買い取ってくれる。貴重な品だと、国営のオークションに回してくれたりもするんだ」
「ゲームや小説のギルドそのままだろ?」
「…済みません。自分、そう言った物には疎く…」
持田さんらしい回答に、兄弟は「「マジ?」」って顔で固まる。
そうだよな。まさかこんな可憐な少女が、山に籠って修行しているなんて思わないよな。
「換金出来たぞ。それと、ポイントもだ」
馬場山君達に追い付くと、彼は封筒と端末機をこちらに見せる。封筒の厚みはそれなりだけど…みんなの表情が暗いな。どうしたんだろうか?
俺が不思議に見上げていると、姉さんが屈んで端末の画面をこちらに見せてくれた。
「これよ。順位のところなんだけど…」
【あれ?】
俺も驚いた。画面には、こう書かれていたから。
〈チーム110…魔石数:F18個、E32個、D5個、ポイント278点。順位:19位/31チーム〉
思ったよりも、順位が悪かった。
確かに、俺達の出だしは良いものではなかったと思う。初心者を1人と1匹抱え、草原でレクチャーをしていたから。
でも、その後はかなりのペースで魔物探索を行った。俺の鼻を最大限活用したし、みんなの連携も良く、順調に狩りを進めることが出来た。
正直に言うと、これなら5位くらいには滑り込んでいるものと思っていた。
それが、19位とは…。
「不味いわね」
姉さんが苦々しく呟く。
それに、蜂須賀君も同意する。
「そだね。三次試験に受かる割合は数%。今年の受験者は1100人だったから、合格者は100人…いや、50人くらいかもしれない」
「50人って、チームで言うと10組もないじゃん!ヤッバ!」
シアンさんが、悲鳴混じりに声を上げる。
10組…10位以内に入っていないと、ここで落とされる可能性が出て来る。少なくとも、今の順位では高確率で落ちる。
俺の横で、持田さんが首を傾げる。
「何故でしょう?我々には、ヴァル殿の鼻があると言うのに」
そうだよな。他のチームよりも、探索能力は高い筈なんだ。
何か、特殊なスキルでも持っている?サーチとか、そんなチートスキルがあるのか?
「邪魔だ。仲良しチーム」
俺達が顔を突き合わせて悩んでいると、後ろから声を掛けられる。顔を上げると、薄汚れた式守チームの姿があった。
後ろの人達は随分とボロボロだな。何と戦ったんだ?
「なんだと?てめ…」
「待ちなさい、馬場山君。受付を塞いでいたのは私達よ」
姉さんに抑えられ、我々は端に寄る。その前を、堂々と横切る式守君。
そして彼は、受付に魔石を置いた。数は我々よりも少ないけれど…幾つか色の濃い魔石が混ざっている。Dランクであるオークの魔石よりも濃い色。
これは、もしかして…。
「はい。預からせて頂きます。Eが10個、Dが8個、そして、C魔石が5個ですね」
C魔石…。
受付の声を聞いて、みんなは目を剥いていた。
分かるよ。だって、俺達は森の深部手前で戦っていた。あそこで出るのは、Dランクであるオークが精々。
つまり彼らは、俺達のいた所より更に深部へ潜った事になる。ラプトルも出ると言われる、森の深くへ。そこで、Cランクの魔物を狩ったんだ。
俺達が固まっている間にも、式守チームは受付を終える。そして、振り返った時にチラリとこちらを向く。少しだけ表情を緩め、こちらに端末の画面を向けた。
そこには…。
「理解できたか?俺と、お前らの差が」
画面には、〈チーム1:ポイント710点。順位:1位/31チーム〉と表示されていた。
倍以上の差だった。
「じゃあな。精々、楽しい冒険ライフでも満喫していろ」
我々を鼻で笑った式守君は、もう振り返る事も無くギルドを出て行った。
残されたみんなは、暫し呆然と立ち尽くす。
ふむ。不味いな。
【ほら、しっかりしないと】
「…ええ。ごめんなさいね?ヴァル」
姉さんは無理やり微笑み、屈んで俺の頭を撫でる。
その横に、蜂須賀君も並んだ。
「なるほどねぇ。俺らが20位になった理由が、分かった気がするよ」
あっ、本当だ。式守チームが1位に躍り出て、俺達は20位に落ちてる。
そうか。俺達の前に居る19チームは、森の奥へと進んだんだ。ラプトルが出る危険を冒してでも、高ランクの魔物を狩りに行った。なぜなら…。
「そう言う事ね。Cランクの魔石は、1つで100ポイントが入るわ」
そう。Dランクでは20ポイントしか入らない魔石も、Cなら100ポイントが入る。1体狩るだけで、Eランクのゴブリン20体分だ。しかもそれが、ラプトルみたいな群れを成すCランク魔物であれば、1回遭遇するだけで数百ポイントを荒稼ぎすることが出来る。危険だが、リターンも大きい。
そりゃ、俺らが20位なのも頷ける。森で、他のチームに出くわさなかったことも含めて。
「どうするの?あたしらも森の奥に入る?」
「それは危険よ。奥に入ればそれだけ、魔物も強くなる。加えて、日の光りも届きにくくなるわ。暗視スキルを持っている人が、うちに何人いるの?」
姉さんの問いに、蜂須賀君が「ほいっ」と元気に手を上げた。
俺も負けじと【俺もあるよ!】と声を上げる。
みんなが驚く。
「えっ?ヴァルも持ってるの?」
「あなた、いつの間に…」
「お前…他に何もってんだ?」
【瞬発力と、剛腕と、釣り師だね!】
「3回吠えたから、何か3つ持ってるって事?道理で強い訳だよ」
そうかな?釣り師はノーカンじゃない?
みんなに向って尻尾を振っていると、馬場山君が何か考えながら俺を見下ろす。そして、その顔をみんなに向ける。
「俺も、森の奥へ向かうに賛成だ」
「本気なの?馬場山君」
姉さんが厳しい目を向けるが、馬場山君は動じない。大きく頷き、俺と蜂須賀君を指さす。
「暗視スキル持ちが2人居る。この2人を中心に陣形を組む。ヴァルが先頭、蜂須賀が後方だ。それで奇襲を防ぎながら、高ランク魔物を狩る」
「出来ると思っているの?シルヴァも出るのよ?」
「出来る出来ねぇじゃねえ。やるんだよ。合格したいならな。それに…」
馬場山君が姉さんの後ろを、そこで俯瞰していた波多野兄弟を見る。
「止められねぇってことは、そう言う事ですよね?お2人」
「ああ、まぁ、そうだね。君達なら、ある程度の所に行っても死にはしないと思うよ。ある程度のところまでならね」
「アヌビスも居る事だしな」
2人から確約?を貰い、馬場山君は大きく笑う。姉さんも、「ある程度のところよ?」と折れた。
よし。明日はもっとレベルの高い所に行ける。ここからが、この試験の本番だ。
「(小声)アヌビス。アヌビス」
みんなを守るぞと気合を入れていると、後ろで兄弟が俺を呼ぶ。手招きまでされたので、彼らの足元に。
2人が揃って座り込み、俺と目線を合わせる。お兄さんが「良いか?」と聞いて来る。
「分かってるとは思うんだけどな、アヌビス。お前、変身とかしちゃダメだぞ?特にアレだ、あのアヌビス像には絶対になるなよ?」
「あれはヤバいもんな。もしもアメリカとかロシアの人間に見られたら、生物兵器として連れ去られるかもしんねぇ」
「笑いごとじゃねえっつうの、海斗。マジでお前、他国にバレたら面倒なんだよ。アヌビスは今、戸籍も無いんだぞ?」
ああ、そうか。俺は野良犬だから、日本国民でもない。そんな時に拉致なんかされたら…そこでお終いと。
OK。第三進化は使わない。出来れば進化自体を自粛したいな。
ああ、でも、
【こいつなら良いよね?】
俺は額に角を生やして、2人に見せる。すると、お兄さんが慌てる。
「ばっ!おまっ、なんて非常識な!」
「すげぇじゃん、アヌビス。他にも出来んの?」
「バカっ、海斗、お前。要望を出すんじゃねぇ!」
「なになに?何してんの?先輩達」
「なっ、何でもないよ!シアンちゃん。ほら、海斗。お前が騒ぐから」
「騒いでんのはヨウちゃんだろ?」
「ぐっ、ぬぅ…」
本当に、仲の良い兄弟だな。
角を引っ込めた俺は、みんなと一緒に兄弟漫才を楽しんだ。




