48話〜あたしに説明させて下さ
「みんな、済まない。先走ったことをしてしまった」
バスに乗り込んだ我々に、辰野と名乗った男性教諭が謝ってきた。
先走ったとは、俺達がゴールした時に発言した「合格だ」と言う文言についてらしい。
今バスは、冒険者養成所に向かっている。正式な合否はそこで伝えられるとのこと。
それを待たずして合格と口走った事を、先生は謝っていた。
とは言え。
「でも、合格するのは確定なんでしょ?」
「ポイント10位だもんね、俺達。集合時間も何とか間に合ったし」
シアンさんと蜂須賀君がニヤリと笑うと、辰野先生も「確かに、そうだが…」と言葉を濁す。
そこに、厳しい顔の鈴原先生が現れる。
「そりゃ、貴方達の成績なら合格だと思うわ。でも、あまり楽観的に考えてると三次選考が厳しくなるわよ?この二次選考の順位によって、試験の待遇が変わってくるんだから」
「えっ?そうなの?」
驚くシアンさん。
俺も同じ気持ちになり、【そう言えば馬場山君が似たような事を言っていたなぁ】と思い出す。
鈴原先生が頷く。
「ええ。三次選考は異世界での演習になるから、インストラクターが一組付くの。上位で通過したら、それだけ優秀な冒険者に付いて貰えるわ」
「へぇ、そうなんだ」
「俺達、二次選考に受かるの初めてだから、そこら辺知らなかったよ」
俺も同じ気持ちだ、蜂須賀君。そして同時に、嬉しくもある。チームの順位で冒険者が変わるなら、このチームは三次選考でも一緒って事だろ?
こりゃ、次の試験も楽しみだ。
「あっ、でもスズちゃん先生。どうして楽観的になっちゃダメなの?俺らはもう10位確定でしょ?ならもう、緊張する意味無くない?」
「いっ」「くっ」「……」
蜂須賀君の質問に、周りの3人がビクッってする。
鈴原先生がため息を吐いて「まぁ、貴方達なら大丈夫ね」と小さく頷いた。
「実は、貴方達の中に特別なミッションを受けた人が居るの。貴方達以外のチームもね。そのミッションポイントの合算がまだだから、今の順位は確定では無いわ」
「特別ミッション?それって…」
「先生!」
蜂須賀君の言葉を遮り、シアンさんがビシッと手を挙げる。
「あたしに説明させて下さい」
「ええ…そうね。お願いするわ」
先生が座ると、シアンさんが立ち上がる。みんなに向けて、深々と頭を下げた。
「みんな、ごめん!2日目の夜にコインを盗んだのは、あ、あたしなの」
「えぇえっ!?」
驚く蜂須賀。それに、ユリ姉さんが「静かに聞きなさい」とたしなめる。
蜂須賀は「えぇえ…」とやるせない顔だ。
「シアちゃんだけじゃ無いわ。私も、4日目の捻挫は嘘なの。みんなを騙してごめんなさい」
「俺もだ。灯油を隠したのは俺だ。だがそれが、特別ミッションだった。バレなきゃ大量のポイントが手に入る。やるしかなかったんだよ」
怒涛の告白に、蜂須賀君は口をパクパクするだけになった。
悪いな、蜂須賀君。彼女達も辛かったんだよ。
「これが、冒険だ」
辰野先生が、再び立ち上がる。
「冒険中は、様々なハプニングが付き物だ。誰かが魔石を落とすかもしれない。怪我をするかもしれない。そんな状況でも冷静でいられるか、助け合えるかを試すものだった。それを、君たちは見事に乗り越えた。更なる絆に変えて、無茶と言われた全員合格まで勝ち取った。俺は君たちを、誇りに思いたい」
「先生…」
そうか。先生は冒険者だったのか。だから面接の時、あんな厳しい質問をしたんだな。
そして、1番感動してくれた。目に涙を浮かべて俺達を出迎えてくれた。
蜂須賀君と同じように、俺も胸が熱くなった。
一瞬、騒然となったバスの中だったが、その後は穏やかなものだった。お祝いムードのまま養成所に着いて、みんなは急いで風呂場へ直行した。
この後すぐに、合否発表があるからね。A地点ゴールの人は既に到着していて、式まで時間が無いそうだ。
俺も風呂に入る。でも俺の場合、宿直室のシャワーを浴びるだけ。鈴原先生が入念に洗ってくれても、すぐに終わってしまった。
そういや先生。犬のトリマーとか知りません?毛を刈って欲しいんですけど。
そうして準備し、会場前でみんなを待つ。男性陣は直ぐに来たけど、女性陣はまだお風呂みたい。
大丈夫かな?式に遅刻しても、合格取り消されないよね?
「やぁ、みんな」
不安に思っていると、委員長の天馬君が硬い笑顔で近付いてきた。
目の横が青あざ出来てるね。どうしたの?
「ああ、これかい?最終ミッションで、ちょっとね。多数決を提案したら、お前は血もないロボットかって、殴られてしまって」
「ああ…あれは揉めるよねぇ」
合理的ではあるんだけどね。その冷静さが、極限状態では刃に見えてしまうらしい。
「みんなはどうしたんだ?こんな所で」
「シアちゃん達を待ってるんだ。俺ら、帰りが遅かったから」
「なんとっ。そうなのか…君たちは、崩れなかったんだな」
天馬君は驚き、呟く。
崩れないとは、チームの絆だろう。どうやら天馬君の方は、崩壊してしまったらしい。
それでも合格したと言う事は、彼が引っ張り上げたのかも。
辛かっただろうな。
「その分だと、君たちのチームは再編が必要無さそうだね。我々のチームは分解して、同ランク帯のチームに再編されるらしい。脱落者を2人選んだチームもあるみたいだから」
「えっ!?」
それも酷いな。1人でクリアなのに、無意味に2人目も落とすなんて。
チーム内で派閥でも出来ていたんだろうか?
「おっ待たせー!」
天馬君と話していると、シアンさん達がやってきた。みんなで集まり、会場に入る。
それを、天馬が眩しそうに見ていた。
君も同じチームだったら、良かったんだが。
『皆さん。二次選考、お疲れ様でした。試験結果はこの様になっています』
会場に入るとすぐ、結果発表が行われた。壇上に立つ男性が手でスクリーンを指し示すと、そこには端末のランキングと同じものが一覧になって映し出される。
我々は10位。1位は…チーム1番。
式守君達か。
俺は彼らの席を見る。5人掛けの丸テーブルに、一つ空きがあった。
彼らが、2人を脱落させたチームなのか。
『ここに、特別ミッションのポイントと、失ったとされていたコインのポイントを加算します』
会場が騒めく。きっと、殆どの人が知らなかったのだろう。
そして、その騒めきは更に大きくなる。
順位が、大きく変わったから。
そこには、
『では、1位となったチーム110番はその場でお立ち下さい!』
俺達のチームが、1番上に来ていた。
おぉお!
立てと言われずとも、自然と立ち上がっていた。シアンさんなんて、嬉しくて泣いてしまった。ユリ姉さんと抱き合って喜んでいる。
良いものだ。
『皆さん!最後まで仲間を信じきった6名に、大きな拍手を!』
一斉に拍手が起こる。
中には適当な人や、イヤイヤ叩いている奴もいる。でも多くは、しっかりと感情を込めて祝福してくれた。自分達は出来なかったと、涙を浮かべる人も居る。
そんな中…強烈な怒気。
見ると、鋭い目付きでこちらを睨む式守君の姿があった。
俺より上だと?雑魚の分際で。
そう、その目が訴えかけている。
「焼いた肉はどうかな?ヴァルちゃん」
【それなりだね】
式が終わり、我々は夕食を食べに運動場に出ていた。普段は授業で使うそこで、今日はバーベキューパーティーが開かれていた。
名目で言うと、お疲れ様会。でも本当は、壊れた仲を修繕する為に設けられた会だと思っている。三次試験に向かう我々は、チームの絆を強固にしないといけない。
今度戦う相手は、クマなんて優しい部類に入る危険地帯。インストラクターが付くにしても、チーム内の悪感情は取り払わないといけない。
とは言え、試験の一巻には変わりないので、否が応でも協力する事になる。二次で色々あった人達も、表面上は笑いあって肉を食っていた。
まぁ、俺達は普通に楽しんでいるけどね。
「そだね。やっぱり慣れ親しんだ味は安心するね。でも俺は、ヴァルちゃんが取ってくれたウサギも美味かったと思うよ」
【そいつは何よりだ】
野性的な味もイケるタイプなのかな?なら、異世界に行ったらオーク肉でも食べさせてあげようか。1分しか持たないから、サッと捌いてスッと湯がかないと食べられないけど。
魔物肉の献立を考えていると、蜂須賀君は「ありがとね」と優しい顔を向けてくる。
「俺達みんなで合格させてくれて。多分、あの提案がなかったら、俺達も委員長みたいになってたと思う。みんながみんな、冒険者への強い憧れがあるから、殴り合ってでも合格をもぎ取ろうとしたと思う」
【それは、どうだろうね】
君達なら、何か別の手を考えたんじゃないか?俺が居なくても、みんなが納得できる方法を。
「俺さ、元々体操やってたんだ。でも怪我で出来なくなっちゃって、ちょっと自暴自棄になりかけたんだ」
そこを救ってくれたのが、冒険者らしい。CMで観て、死んでいた心が蘇ったのだそうだ。
「俺が今までやってきた事、全部無駄になったと思った。でもこれなら…冒険者なら、何かに役立てるんじゃないかって思って、それで3級を目指したんだ」
なるほど。元体操の選手だから、式守君との戦闘でもアクロバットを披露していたのね。
確かに、あの身体能力は使える。冒険者になったら大きなアドバンテージになるだろう。
【良いね!応援するよ】
「うん。ありがと。だからヴァルには感謝してる。二次は頼りっぱなしだったけど、三次は任せてよ。俺、レベルは結構高い方だから」
えっ?レベル?
もしかして君も、君たちも、異世界に行った事があるの?
聞きたかったが、彼はその後、異世界の話を一生懸命に聞かせてくれた。
うん。ありがとう、蜂須賀君。君が俺を心配してくれるのは凄い分かった。
でもね、君が一番に気を付けろって言ってるそのヘルハウンドは、俺の仲間達なんだよね…。




