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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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47/60

47話〜何か映らなかった?〜

 最終日の朝。

 我々の端末に、非情なミッションが押し付けられた。

 かなり長かったので要約すると、こんな感じだ。

 

・メンバー6人の中から脱落者を選ぶ。選ばれた者の番号を端末に打ち込めば、ミッションクリア。

・クリアしたチームは、A地点(ここから歩いて3時間程度の近場)に来ること。クリア出来なかったチームはB地点(ここから歩いて8時間以上はかかる場所)へ向かう。

・タイムリミットは15時00分。間に合わなかったチームは保有ポイントに関わらず、全員脱落。

・脱落者の選び方は自由。話し合いでも多数決でも、各々で判断する様に。1人以上選んでも良い。


 現時刻は午前10時。

 だから、脱落者を選ばねば全員不合格と言っている様なもの。


「なに、これ…」

「ここに来て生贄を捧げろって事?試験官は悪魔だねぇ…」

「ちっ。今回ばかりは同意するぜ、ハチ野郎」


 みんなも顔面蒼白だ。頭を突き合わすだけで、誰も顔を上げようとしない。

 上げたら最後、選ばないといけないから。

 脱落者を。

 生贄を。


【前を向くんだ(ワオウ)!みんな(ワウッ)!】


 俺が吠えると、みんなはこちらを見る。まるで縋る様な目線に、俺は鼻先で示す。湖の先を。

 俺達が目指すべき、B地点のゴールを。

 馬場山君が鼻で笑う。


「はっ!分かってねぇのか、ヴァル。そっちは歩いて8時間は掛かるルートなんだよ。何の装備も持たねぇ、怪我もしてねぇ奴らのな」

「私は…大丈夫よ。一晩寝たから、痛みも引いたわ」


 ユリ姉さんが訴えかけるも、馬場山君は大きく首を振る。


「だとしても、8時間は余裕で掛かる。それを5時間なんて無茶だ。2時間使って、脱落者を決める方が確実なんだよ」

「それ、誰にする気?あたしは嫌だよ。ここで落ちるなんて」

「自分も…済みません。こればかりは譲れません。自分が目指せる、唯一の道ですので」


 普段は飄々としているシアンさんや、控えめな持田さんまで強い意志を見せる。

 それに、馬場山君も「おもしれぇ」って顔で受け答えた。

 この仲良しチームですらこれだ。他のチームは決闘が起きているんじゃないだろうか?

 本当、えげつない事するよ、ここの試験官達。


 俺は憤りを鼻から吐き出して、蜂須賀君の元に駆け寄る。彼のザックから。先の折れた釣竿を抜き取る。

 それを、彼に突き付けた。


「えっ?な、なんだよ、ヴァルちゃん。今は釣りしてる場合じゃないって。みんなで脱落者を…」

【良いから(ワフッ)!こいつを拾った場所を(ワオォオ)教えてくれ!】


 俺は釣りを咥え直し、それを持って管理ハウスへ至る道の上に乗って見せる。

 蜂須賀君が頭を搔く。


「えっと…それで何する気なの?」

「案内しろって言っているんじゃないの?釣竿があった場所まで」


 さっすが姉さん。犬の気持ちが分かる良い女だぜ!

 俺は飛び跳ね、蜂須賀君を先に促す。

 そして、案内された先で見つける。起死回生の駒を。


【こいつだ(ワンッ)!これを使おう(ワオゥ)!】

「ええっ!?これを直せって言ってるのか?」


 今回は蜂須賀君も、俺の言いたい事が分かってくれた。

 絶望的な彼に、俺は指令を出す。


【そうだ(ワフッ)!至急、テント用のリペアシートを持って(ワオォオン)来るんだ!】


 〈◆〉


「おや?辰野先生。貴方までこちらにいらっしゃるとは」


 俺が車から降り立つと、ゴール地点に立っていた試験官が驚きの声を上げる。彼の隣には、鈴原先生の姿もあった。

 やはり貴女も、こっちに来ましたか。

 俺は少し心が跳ね、試験官に「ええ」と明るい声を返していた。


「彼なら、B地点(ここ)を選ぶと思いましてね」


 俺の質問に、全員助けるを選んだ彼だ。きっと、こっちの道を選ぶ筈。

 あとは、どうやってゴールするかだが…それは分からない。彼は優秀な犬ではあるが、それだけだ。人間の、それも優秀な受験者達と肩を並べてしまえば、突出するのは難しい。

 それでも俺は、彼らなら何かやってくれるのではと信じたかった。どこまでも甘く、仲間に固執する彼だが、それが正解だと言って欲しかった。

 殺伐とした冒険者界に、新しい風が吹く事を願って。


「それで?現在はどのような状況なのでしょうか?」

「はい。現在110チーム中、既にリタイアしているチームが8チーム。脱落者を選んでA地点を目指しているのが55チーム。B地点を選んだチームが6チームですね。そして、まだ決められていないのが41チーム」

「…41ですか。多いですね」


 もう、出発のタイムリミットである12時になるぞ?


「ええ、まぁ。決められないチームと言うのは、相当揉めてるチームでして」

「ああ…」


 きっと、誰が脱落者になるかで争っているのだろう。タダでさえ極限状態の中で、更にチームを裏切れと言う極秘ミッションまで発令されているのだ。

 チームの空気は最悪。そんな中で、この最終ミッションが発令されたら…。

 火を見るより明らかだな。


「本当に、嫌らしい試験ですね」

「おや?現役冒険者の貴方が、それを言いますか?」


 言われて、俺は言い返せない。

 そうだな。今の内に経験した方が良い。極限状態で、人がどのような行動に出るのかを。自分がどれだけ浅ましい生き物なのかを、受け止めるんだ。

 それで不合格なら、冒険者になんかなれない。なっても、自分か他人を殺してしまう。そして、その後悔は一生付きまとう。

 一生だ。


「あら?そこのモニターの端、何か映らなかった?」


 鈴原先生が、モニターの一つを指さす。

 俺も顔を上げ、画面を見る。試験官は、彼女の言うままに画面を操り、そして捉える。

 湖の上を滑る、その異質な者達を。


「なっ!?ボート!?」


 試験官が驚く。

 それは確かに、ボートだった。

 ゴムボート。それに、5人の受験者が乗っている。物凄いスピードだ。まるでモーターでも付いているのではと思ってしまう程に。

 これは…。


「ボートなんて、配備していたんですか?」

「していません!キャンプ場は完全無人にして貰って、備品も全部引き上げている。あそこにあるのは、精々使えなくなった廃材だけです!」

「廃材…」


 まさか彼らは、それを使って湖を渡っているのか?

 有り得ない…事はない。彼らの装備の中には、テントを直す簡易キットも入っている。それを流用して、船を直したんじゃないか?


「やるなぁ。チーム110!」


 ボートの先端で風を浴びる1匹の犬に、俺は自然とエールを送っていた。


 〈◆〉


【頑張れ(ワウ)!もうちょっとだ(ワウッ)!】


 何も出来ない俺は、船の先頭でみんなを激励していた。

 それに、みんなが働きで答えてくれる。


「負けねぇぞ!もちだぁ!」

「自分もです!」


 俺のすぐ後ろでオールをぶん回すのは、馬場山君と持田さん。2人が強烈な推進力を作ってくれて、このゴムボートはモーターボートになっていた。

 

 その後ろで船に空気を入れ続けているのは、シアンさんとユリ姉さんだ。ペンションに置いてあった空気入れを、必死にポンピングしている。

 この船は穴だらけだからね。抜けてくより早く空気を入れて、無理やり形を保っていた。

 

 1番後ろに座る蜂須賀君は、船の舵を取っている。難しい8人艇の操縦を巧みに操ってくれているから、船は常に最短ルートを進んでいた。

 リペアシートも彼が貼ってくれたからね。本当に君が居てくれて良かったよ。

 

 みんなの力で、俺達は真っ直ぐに進む。合格への道を。

 生き残るんだ、全員で。


 俺は前を向く。対岸が近付いていた。

 時刻は12時45分。対岸に着いたら峠を越えないといけないから、そこで2時間は使う。

 ギリギリだ。でも、何とかなる。焦らず、最前の道を選び続けるんだ。


「ちょっと、ヴァルちゃんどうするの?このままだと岸に乗り上げるよ?」

【前進あるのみだ(ワオォオ)!突っ込ませるんだ(ワウッ)!】

「前進って、言ってるみたいだぞ!我らがリーダーからの指示だ!真っ直ぐ漕げ!」


 俺が前を向いて遠吠えすると、馬場山君が察してくれる。

 それに、蜂須賀君は悲鳴交じりの声で「分かったよぉ~!」と答える。

 もう、岸は目の前。

 着くぞ! 


【岸に突っ込むぞ(アオォォオ)!衝撃に備えろ(ワオォ)!】


 ガザザッ!

 岸に船が突っ込み、舟艇がジャリで削れる。

 衝撃で船体が大きく歪み、反動で俺は放り出される。でも、備えていたので空中で宙返りをして、地面に降り立つ。

 スチャッ!10点!

 

 っと、バカなことをしていないで、他のみんなが降りるのを手伝わないと。

 俺は【早く!早く】とみんなを急かして、降りるのをサポートする。全員が荷物を持つと、有無を言わさず先を示した。

 目の前の峠に向けて、全速前進だ。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「あちぃ…」

【頑張れ(アウゥ)!ゴールは直ぐだ(ワウ)!】


 先頭で、みんなを鼓舞する。

 食料も水も殆ど消費した状態だから、荷物はかなり軽くなっている。

 それでも、みんな辛そうだ。荷物を殆ど持たない姉さんですら、顔を真っ赤にしている。

 結構歩いた気がするけど…いま何時?


「お待ちください。…今は、13時56分です」


 俺のすぐ後ろにいた持田さんに確認すると、予想以上にヤバイ答えが。

 もうあと1時間しかない。なのに、峠は半分も登っていないぞ。

 ヤバイ。ペースが落ちてる。後ろが落ちてるんだ。


 俺は後ろに行き、苦しそうな姉さんの横に付く。彼女をどうにかサポート出来ないかと見てみると…ザックの紐が伸びてるな。これは使えるかも。


【ちょいとゴメンよ(ワフゥ~)】


 俺は両端の紐を咥え、引っ張る。顎に姉さんの体重が掛かって、一気に重くなる。

 でもその分、姉さんは楽になったと言う証拠。

 どうだい?


「ありがと、ヴァル。かなり楽になったわ。でも、あまり無茶しないでね?」

【大丈夫だよ(ウゥ)。|一気にトップまで返り咲きましょう《ウフゥ》】


 俺は姉さんをグイグイ引っ張る。蜂須賀君達を越えて、馬場山君も越える。そして、持田さんのすぐ後ろまで到着した。

 よしよし。これで、ペースアップできる。


「あぁ~。良いなぁ、ヴァルタクシー。あたしもやって欲しぃ~」


 おっと。次の乗客だ。

 持田さん。ペースアップ宜しくね。


「では、自分が先頭を引っ張ります」


 頼むよ。

 先頭は彼女に任せ、俺は女性2人を引っ張り上げる。蜂須賀君もやって欲しそうに見て来るけど…頑張ってくれ。もう直ぐだから。


 そうして、やっと峠を越える。ここからは下りだ。向こうの方には、駐車場の端が見える。

 時刻は…14時45分。

 行ける。行ける筈だ!


【みんな(ワウゥー)!あとちょっとだ(ワウッ)!】

「行こう!行こう!」

「「おお~!」」


 我々は下り坂を早足で下る。

 俺は最短で安定したルートを探す。ここでコケたりしたら、一巻の終わりだ。浮石がなく、木の根っこもない安全な道。それを瞬時に選び取らないといけない。

 ここ。こっち。あっちはダメ、こっちに行こう。

 

 そうして、平地に降りる。目の前が駐車場。その真ん中あたりに、テントと2台の大型バス。

 ゴールだ。


「あと3分!」

 

 3分。微妙だ。歩いてたら絶対に間に合わない。

 走れ。走るんだ!みんな!


【いくぞぉおおお(ワウゥウウウ)!】

「「「おおおぉお!」」」


 走り出すみんな。

 俺はユリ姉さんの紐を引っ張りながら、彼女と共に最後尾からみんなを追いかける。

 大丈夫。大丈夫だ。後少し。あと少しなんだ。

 間に合え。間に合え!間に合えぇ!!


「「ゴーォオオオルッ!」」


 走り終えた俺達。全員が肩で息をして、端末の時間を確認するのも難しい状態。

 どうなんだ?どうなったんだ?俺達。

 不安が心臓の鼓動を早める。

 そんな時、


 パチパチ。


「ありがとう、みんな。ありがとう」


 テントの中にいた男性が、拍手しながら走って来た。そして、目を潤ませながら感謝を述べる。

 そして、腕時計をこちらに向けた。


「今ちょうど、15時になった。間に合ったんだよ、君達は」


 それを聞いた瞬間、みんなは「はぁ…」と気の抜けた声と共に座り込んだ。

 反対に、俺は嬉しくて尻尾をブンブン振った。

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国是として生還の見込みの薄い重傷者や遺体を後にし共倒れを防ぎ、パーティー本体が生還し成果を持ち帰る 決断力も上級者に望ましい資質、的要素が有っても樹海で置き去り体験 → 引退は冒険者アンチ層を生みそう…
この教官達はダメだ。疑心暗鬼と敵愾心の刷り込みは負の連鎖の継承だ。 「脱落者を指名せよ」とか、お前らの冒険は生贄前提なんか?頭おかしいで。 教育機関なら正しき在り様と、乗り越える術を教えんかいアホンダ…
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