45話〜何やってんだ?犬こ、ろぉっ!?〜
コインが無くなった。
そう言って泣くシアンさんを何とか宥め、今は朝食に漕ぎ着けていた。
でも、みんなの表情は暗い。ため息を吐きながら、チラチラと端末を覗き込んでいる。あの蜂須賀君ですら、悲しそうな顔で俺に画面を見せてくる。
「ごめんな、ヴァル。みんなが暗いのは、これのせいなんだ」
画面を見ると、大きく落ち込んだ俺達の順位が映っていた。
〈チーム110番、得点26ポイント。順位37位/110位〉
昨晩まで60ポイントを保有し、3位になったと喜んだ矢先の出来事。暗くなるのも無理はない。コインが無くなった原因が分からないから、余計にだ。
「おい。何があったんだよ。説明しろ、女子ども」
「ちょっと、ババちゃん。彼女達に当たるなよ。みんなだって訳が分からないんだ。ねぇ?」
睨みつける馬場山君を、蜂須賀君が押さえる。顔を伏せた女性陣に優しく問いかける。
それに、ユリ姉さんが頷く。
「ええ、そうよ。朝起きたら、袋の中の金貨が全て無くなっていたの。昨晩は確かにあったのに、テントの中を幾ら探しても見つからなかったわ」
「テントの外もです。周辺をヴァル殿と共に探索しましたが、手がかり1つありませんでした」
姉さんに続き、持田さんが報告する。
彼女の言う通り、2人で探しても手がかり無しだった。周囲に怪しい匂いは残っておらず、その形跡も見つけられ無かった。
カラスや獣の仕業かとも思って探索したが…その跡も無い。
「ちっ。犬の鼻でも分からねぇって言うなら、もう答えは出てんじゃねぇか」
「…それは、私達を疑っているって事かしら?馬場山君」
姉さんの鋭い視線。それに、馬場山君が青筋を立てる。
「当たり前だろ。コインはそっちのテントにあった。だったら、お前らが盗んだとしか思えねぇ。女子テントに入れるのは、お前らだけなんだからな」
「ちょっと、ババちゃん!」
【犯人探しは止めなさい!】
蜂須賀君と一緒に、俺も止めに入る。またシアンさんが泣き出してしまったから。
袋の管理をしていたのは彼女だ。今日はリーダーと言うこともあり、余計に責任を感じている様子。
このままだと、彼女が潰れてしまう。
俺は鍋を叩いて、みんなに朝食を進める。
先ずは食べて、腹を満たせ。満ちれば人は優しくなる。腹が減っては戦はできないぞ?
「だよね、ヴァルちゃん。過ぎた事は仕方がない。今日また頑張って、ポイント取り返そう。目指せ!3位奪還!ってね」
【良いね!その通り!】
蜂須賀君のお陰で、みんなは少しだけ顔を上げる様になった。少しずつ、朝食も進んでいく。
ほら、そんな暗い顔しないで。俺が今朝獲ったウサギ、美味いでしょ?
朝食を終えた我々は、早速ポイント集めに探索を開始した。昨日とは違う方向を歩くと、また幾つも隠しコインを見つける事が出来た。
ここはまだ、探索している人も少ないみたいだ。そもそも、式守チーム以外を見かけない。
他のチームは何処にいるんだろう?
「ヴァルちゃーん。ミッションあったよ」
【おっけー。すぐ行く!】
ミッションも多数見つけた。食料が減ってきて、みんなの背負う重さも減っているから、移動速度が上がっているのだ。その分、探索のスピードも上がっていた。
まだみんなの表情は硬いけど、徐々にポイントが増えていくにつれて、少しずつ笑みも見せる様になってきた。
「見て見て、ヴァルちゃん。面白いキノコがあるよ?」
【それはアカン!蜂須賀君】
蜂須賀君の存在も大きい。彼が明るく振舞ってくれるから、空気が重くならずに撹拌される。
今も姉さんから「食べちゃダメよ?」なんて注意されて、みんなの笑いを誘っている。
良いぞ、蜂須賀君。君はチームの潤滑剤だ。
…だからね?そのキノコは早く捨てなさい?
それから暫くすると、他のチームを見かける様になった。まだテント用具を背負っていたので、ベースキャンプ場も設置していない出遅れチームだ。
そんな彼らと対戦ミッションを行うも、結局引き分けてしまう。俺と蜂須賀君で踏ん張るけど、どうも他のみんなの動きが悪い。
回復してきたと思ったけど、どうやらまだショックから抜け出せていないらしい。
それもそうか。何せ、身内が犯人の可能性が高いんだもんな。そんな人達に背中を預けられないんだろう。
思えば、我々はチームであると同時に競争相手。完全に信頼しきっても危ういのかも知れない。
とは言え、
「惜しかったね、ヴァルちゃん。あとちょっとで俺達の勝ちだったのに」
【仕方ないさ。ナイスファイト!】
やはり仲間として信用しないと、この試験は乗り越えられない。
臨時のチームで、本来はライバルでも、今は大切な仲間なんだ。少なくとも俺は、彼ら彼女らを信じると決めた。
「そろそろ戻ろうよ。今日もみんな、良く動き回ったし」
シアンさんが号令をかける。前半は死にそうな顔をしていた彼女だが、後半は気持ちを入れ替えたのかしっかりリーダーをこなしていた。
午前中にポイントを昨日まで復活させたから、気持ちも復活したのかな?頑張ってコインを集めて良かったよ。
「おい、犬ころ」
安堵していると、馬場山君が袋を差し出して来た。
なんです?
「てめぇが稼いだポイントだ。だから、てめぇが持ってろ」
「なるほど。ヴァルちゃんなら安心か。この中で1番強いし」
蜂須賀君も同意し、俺の背中に袋を括り付けた。
流石は蜂須賀君。邪魔にならない様にしてくれている。
でも、お風呂の時は外して下さいね?
そう目で訴えると、馬場山君が座り込んで耳打ちしてくる。
「お前は今日も、木の上で寝るんだろ?だったらその時、怪しい行動を取る奴がいないか見張れ。そして朝イチ、俺に報告しろ。どいつが犯人かをな」
まだ犯人探しをやめていなかったのね。
でもそれって、俺が犯人ではないって思ってくれている証拠だよね?このツンツン君、俺に心を開いてくれてるのかな?
っと冗談はさて置いて、本当にこの中に犯人がいるのだろうか?
テント場へ戻る道すがら、俺はみんなを見上げる。
確かにみんなライバルだ。でもチームであり、二次選考中は運命共同体だ。自分が落ちるかも知れないのに、態々ポイントを減らす真似をするだろうか?
考えられるとしたら、他チームの妨害。何か特殊なスキルを使って…って、ここは現代日本だったな。
そうすると、怪しいのは運営か?コインに細工して、消える様にしていたんじゃないか?
こうやってみんなを、疑心暗鬼にさせる為に。
俺は背中の重みを確かめる為、小さくジャンプする。背中では、今日稼いだコインがジャラリッと楽しげな音を奏でた。
う〜ん。普通の硬貨だと思うんだけどな。分からん。
今日の夜、確かめてみよう。
その夜だが、随分と静かだった。昨日みたいにワイワイ騒がず、明日からの動きを確認する程度だった。順位が11位だった事もあるだろうけど、みんな緊張しているんだ。
また今晩も、金貨が消えるんじゃないかって。
「お願いね、ヴァル」
ユリ姉さんからもお願いされてしまった。テントに入る前に、沢山撫でられてギュってされる。
心配なのは分かるけど、心臓に悪い。何度も言うけど、俺はオスなのよ?
2人から大役を任された俺は、何時も以上に気合いを入れて警備を行う。
今日は獲物も少ないから、余計に監視がし易い。
そう思っていると、パキパキと小枝を居る音が聞こえた。
残念ながら、犯人ではない。
奴だ。
【フー、フー】
【また来たのか、ストーカー】
俺は奴の前に躍り出て、睨みつける。
黒い毛皮に三日月の白毛。
俺達を付け狙う、ツキノワグマだ。
【今宵で終いとしよう。お前の命をもってな】
【ガァー!】
俺が挑発すると、クマはヨダレを垂らして駆け寄ってくる。口を大きく開けて、俺に突っ込んで来る。
けど、遅い。
止まって見えるぞ!
俺はタイミングを合わせてジャンプし、奴の頭に乗る。そして、後ろ足で踏みつけ、宙を舞う。
反対に、クマはバランスを崩して地面に激突した。
ふむ。軽い。よく見ると、相当痩せこけているな、こいつ。餌が無くて山を降りて来たのか?
なら、不運だったな。ここに来てしまって。
俺はクマと睨み合う。痩せていても、その爪と牙は脅威。当たらぬ様、隙を見て首に喰らい付かねば。
俺は慎重に作戦を立てる。その最中、進化出来たらとか、そんな甘い考えが頭を過ぎる。
【ガァア!】
先に動いたのは、クマだ。牙を剥き、襲ってくる。
俺は先程と同じように、奴の頭上へ飛ぶ。すると、奴は顔を上げて迎撃してきた。
まぁ、そう何度も同じ手は食わないよな。
俺は前足で奴の鼻を蹴り、軌道を変える。そのまま、奴の首筋へ噛み付いた。
ぐっ。皮が邪魔で気道まで届かない。噛み付きが浅かったか。
【グァー!】
暴れるクマから、俺はすぐに離れる。間一髪、奴の爪が俺のすぐ上を通り過ぎた。
危ねぇ。あと少しで引っかかれるところだった。やはり噛み付くなら、後ろからだな。
俺が作戦を立て直していると、また小枝を踏む音がする。
次いで、
「何やってんだ?犬こ、ろぉっ!?」
馬場山君が姿を表した。
不味い!クマの気が彼に逸れてしまった。このままでは、馬場山君が襲われる!
俺は無我夢中で、クマの懐に飛び込む。無防備な奴の首筋に思い切り噛み付いた。
ガブッ!
【ガァッ!?】
クマが暴れる。体と手をブンブン振って、俺を落とそうとする。
「ヴァル!」
そこに、馬場山君が参戦する。クマの後ろから抱きつき、腕の動きを封じた。すると、クマの動きが鈍る。背中の邪魔者も排除しようと躍起になり、次第に動きが緩慢になってきた。
そして、倒れる。地面に大の字になる。
「ふぅ。ビビったぁ」
馬場山君が汗を拭く。クマを見下ろして、ふっと笑う。
「ったく、てめぇは。どんだけ朝食を豪華にすりゃ気が済むんだよ?」
【食いごたえありそうでしょ?】
俺が冗談に乗ると、彼は屈んで俺の頭を撫でる。
と、その時、俺の鼻を異臭が襲う。
この臭いは…。
「っ!も、もう遅い。俺は寝るぞ」
俺の反応を見て、慌ててテントに戻る馬場山君。
その様子に、俺は自然と目を細めていた。
馬場山君。なんで君、こんな夜中にそんな臭いをさせて?
そして、翌朝。
「無い!無いよ!今度は灯油が無くなってる!」
蜂須賀君の悲鳴で、今日の1日が始まった。




