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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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45/60

45話〜何やってんだ?犬こ、ろぉっ!?〜

 コインが無くなった。

 そう言って泣くシアンさんを何とか宥め、今は朝食に漕ぎ着けていた。

 でも、みんなの表情は暗い。ため息を吐きながら、チラチラと端末を覗き込んでいる。あの蜂須賀君ですら、悲しそうな顔で俺に画面を見せてくる。


「ごめんな、ヴァル。みんなが暗いのは、これのせいなんだ」


 画面を見ると、大きく落ち込んだ俺達の順位が映っていた。

 〈チーム110番、得点26ポイント。順位37位/110位〉

 昨晩まで60ポイントを保有し、3位になったと喜んだ矢先の出来事。暗くなるのも無理はない。コインが無くなった原因が分からないから、余計にだ。


「おい。何があったんだよ。説明しろ、女子ども」

「ちょっと、ババちゃん。彼女達に当たるなよ。みんなだって訳が分からないんだ。ねぇ?」


 睨みつける馬場山君を、蜂須賀君が押さえる。顔を伏せた女性陣に優しく問いかける。

 それに、ユリ姉さんが頷く。


「ええ、そうよ。朝起きたら、袋の中の金貨が全て無くなっていたの。昨晩は確かにあったのに、テントの中を幾ら探しても見つからなかったわ」

「テントの外もです。周辺をヴァル殿と共に探索しましたが、手がかり1つありませんでした」


 姉さんに続き、持田さんが報告する。

 彼女の言う通り、2人で探しても手がかり無しだった。周囲に怪しい匂いは残っておらず、その形跡も見つけられ無かった。

 カラスや獣の仕業かとも思って探索したが…その跡も無い。


「ちっ。犬の鼻でも分からねぇって言うなら、もう答えは出てんじゃねぇか」

「…それは、私達を疑っているって事かしら?馬場山君」


 姉さんの鋭い視線。それに、馬場山君が青筋を立てる。


「当たり前だろ。コインはそっちのテントにあった。だったら、お前らが盗んだとしか思えねぇ。女子テントに入れるのは、お前らだけなんだからな」

「ちょっと、ババちゃん!」

【犯人探しは止めなさい(ウゥ〜…ワンッ)!】


 蜂須賀君と一緒に、俺も止めに入る。またシアンさんが泣き出してしまったから。

 袋の管理をしていたのは彼女だ。今日はリーダーと言うこともあり、余計に責任を感じている様子。

 このままだと、彼女が潰れてしまう。


 俺は鍋を叩いて、みんなに朝食を進める。

 先ずは食べて、腹を満たせ。満ちれば人は優しくなる。腹が減っては戦はできないぞ?


「だよね、ヴァルちゃん。過ぎた事は仕方がない。今日また頑張って、ポイント取り返そう。目指せ!3位奪還!ってね」

【良いね(アンッ)!その通り(ワンッ)!】


 蜂須賀君のお陰で、みんなは少しだけ顔を上げる様になった。少しずつ、朝食も進んでいく。

 ほら、そんな暗い顔しないで。俺が今朝獲ったウサギ、美味いでしょ?



 朝食を終えた我々は、早速ポイント集めに探索を開始した。昨日とは違う方向を歩くと、また幾つも隠しコインを見つける事が出来た。

 ここはまだ、探索している人も少ないみたいだ。そもそも、式守チーム以外を見かけない。

 他のチームは何処にいるんだろう?


「ヴァルちゃーん。ミッションあったよ」

【おっけー(ワウ)。すぐ行く(ワフ)!】


 ミッションも多数見つけた。食料が減ってきて、みんなの背負う重さも減っているから、移動速度が上がっているのだ。その分、探索のスピードも上がっていた。

 まだみんなの表情は硬いけど、徐々にポイントが増えていくにつれて、少しずつ笑みも見せる様になってきた。


「見て見て、ヴァルちゃん。面白いキノコがあるよ?」

【それはアカン(ワンッ)!蜂須賀君(ウゥ)】


 蜂須賀君の存在も大きい。彼が明るく振舞ってくれるから、空気が重くならずに撹拌される。

 今も姉さんから「食べちゃダメよ?」なんて注意されて、みんなの笑いを誘っている。

 良いぞ、蜂須賀君。君はチームの潤滑剤だ。

 …だからね?そのキノコは早く捨てなさい?



 それから暫くすると、他のチームを見かける様になった。まだテント用具を背負っていたので、ベースキャンプ場も設置していない出遅れチームだ。

 そんな彼らと対戦ミッションを行うも、結局引き分けてしまう。俺と蜂須賀君で踏ん張るけど、どうも他のみんなの動きが悪い。

 回復してきたと思ったけど、どうやらまだショックから抜け出せていないらしい。


 それもそうか。何せ、身内が犯人の可能性が高いんだもんな。そんな人達に背中を預けられないんだろう。

 思えば、我々はチームであると同時に競争相手。完全に信頼しきっても危ういのかも知れない。

 とは言え、


「惜しかったね、ヴァルちゃん。あとちょっとで俺達の勝ちだったのに」

【仕方ないさ(ウゥ)。ナイスファイト(ワンッ)!】


 やはり仲間として信用しないと、この試験は乗り越えられない。

 臨時のチームで、本来はライバルでも、今は大切な仲間なんだ。少なくとも俺は、彼ら彼女らを信じると決めた。


「そろそろ戻ろうよ。今日もみんな、良く動き回ったし」


 シアンさんが号令をかける。前半は死にそうな顔をしていた彼女だが、後半は気持ちを入れ替えたのかしっかりリーダーをこなしていた。

 午前中にポイントを昨日まで復活させたから、気持ちも復活したのかな?頑張ってコインを集めて良かったよ。


「おい、犬ころ」


 安堵していると、馬場山君が袋を差し出して来た。

 なんです?


「てめぇが稼いだポイントだ。だから、てめぇが持ってろ」

「なるほど。ヴァルちゃんなら安心か。この中で1番強いし」


 蜂須賀君も同意し、俺の背中に袋を括り付けた。

 流石は蜂須賀君。邪魔にならない様にしてくれている。

 でも、お風呂の時は外して下さいね?

 そう目で訴えると、馬場山君が座り込んで耳打ちしてくる。


「お前は今日も、木の上で寝るんだろ?だったらその時、怪しい行動を取る奴がいないか見張れ。そして朝イチ、俺に報告しろ。どいつが犯人かをな」


 まだ犯人探しをやめていなかったのね。

 でもそれって、俺が犯人ではないって思ってくれている証拠だよね?このツンツン君、俺に心を開いてくれてるのかな? 

 っと冗談はさて置いて、本当にこの中に犯人がいるのだろうか?

 

 テント場へ戻る道すがら、俺はみんなを見上げる。

 確かにみんなライバルだ。でもチームであり、二次選考中は運命共同体だ。自分が落ちるかも知れないのに、態々ポイントを減らす真似をするだろうか?

 考えられるとしたら、他チームの妨害。何か特殊なスキルを使って…って、ここは現代日本だったな。

 そうすると、怪しいのは運営か?コインに細工して、消える様にしていたんじゃないか?

 こうやってみんなを、疑心暗鬼にさせる為に。


 俺は背中の重みを確かめる為、小さくジャンプする。背中では、今日稼いだコインがジャラリッと楽しげな音を奏でた。

 う〜ん。普通の硬貨だと思うんだけどな。分からん。

 今日の夜、確かめてみよう。



 その夜だが、随分と静かだった。昨日みたいにワイワイ騒がず、明日からの動きを確認する程度だった。順位が11位だった事もあるだろうけど、みんな緊張しているんだ。

 また今晩も、金貨が消えるんじゃないかって。


「お願いね、ヴァル」


 ユリ姉さんからもお願いされてしまった。テントに入る前に、沢山撫でられてギュってされる。

 心配なのは分かるけど、心臓に悪い。何度も言うけど、俺はオスなのよ?


 2人から大役を任された俺は、何時も以上に気合いを入れて警備を行う。

 今日は獲物も少ないから、余計に監視がし易い。

 そう思っていると、パキパキと小枝を居る音が聞こえた。

 残念ながら、犯人ではない。

 奴だ。


【フー、フー】

【また来たのか、ストー(ウゥウ…)カー】


 俺は奴の前に躍り出て、睨みつける。

 黒い毛皮に三日月の白毛。

 俺達を付け狙う、ツキノワグマだ。


【今宵で終いとしよう(ウゥゥ)。お前の命をもってな(ワウ)】

【ガァー!】


 俺が挑発すると、クマはヨダレを垂らして駆け寄ってくる。口を大きく開けて、俺に突っ込んで来る。

 けど、遅い。

 止まって見えるぞ!


 俺はタイミングを合わせてジャンプし、奴の頭に乗る。そして、後ろ足で踏みつけ、宙を舞う。

 反対に、クマはバランスを崩して地面に激突した。

 

 ふむ。軽い。よく見ると、相当痩せこけているな、こいつ。餌が無くて山を降りて来たのか?

 なら、不運だったな。ここに来てしまって。


 俺はクマと睨み合う。痩せていても、その爪と牙は脅威。当たらぬ様、隙を見て首に喰らい付かねば。

 俺は慎重に作戦を立てる。その最中、進化出来たらとか、そんな甘い考えが頭を過ぎる。


【ガァア!】


 先に動いたのは、クマだ。牙を剥き、襲ってくる。

 俺は先程と同じように、奴の頭上へ飛ぶ。すると、奴は顔を上げて迎撃してきた。

 まぁ、そう何度も同じ手は食わないよな。

 俺は前足で奴の鼻を蹴り、軌道を変える。そのまま、奴の首筋へ噛み付いた。

 ぐっ。皮が邪魔で気道まで届かない。噛み付きが浅かったか。


【グァー!】


 暴れるクマから、俺はすぐに離れる。間一髪、奴の爪が俺のすぐ上を通り過ぎた。

 危ねぇ。あと少しで引っかかれるところだった。やはり噛み付くなら、後ろからだな。


 俺が作戦を立て直していると、また小枝を踏む音がする。

 次いで、


「何やってんだ?犬こ、ろぉっ!?」


 馬場山君が姿を表した。

 不味い!クマの気が彼に逸れてしまった。このままでは、馬場山君が襲われる!

 俺は無我夢中で、クマの懐に飛び込む。無防備な奴の首筋に思い切り噛み付いた。

 ガブッ!


【ガァッ!?】


 クマが暴れる。体と手をブンブン振って、俺を落とそうとする。


「ヴァル!」


 そこに、馬場山君が参戦する。クマの後ろから抱きつき、腕の動きを封じた。すると、クマの動きが鈍る。背中の邪魔者も排除しようと躍起になり、次第に動きが緩慢になってきた。

 そして、倒れる。地面に大の字になる。


「ふぅ。ビビったぁ」


 馬場山君が汗を拭く。クマを見下ろして、ふっと笑う。


「ったく、てめぇは。どんだけ朝食を豪華にすりゃ気が済むんだよ?」

【食いごたえありそうで(ワウゥ)しょ?】


 俺が冗談に乗ると、彼は屈んで俺の頭を撫でる。

 と、その時、俺の鼻を異臭が襲う。

 この臭いは…。


「っ!も、もう遅い。俺は寝るぞ」


 俺の反応を見て、慌ててテントに戻る馬場山君。

 その様子に、俺は自然と目を細めていた。

 馬場山君。なんで君、こんな夜中にそんな臭いをさせて?



 そして、翌朝。


「無い!無いよ!今度は灯油が無くなってる!」


 蜂須賀君の悲鳴で、今日の1日が始まった。

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― 新着の感想 ―
当然のように主人公が提供したジビエ肉が調理されているのに少しビックリ。ダンジョン内で消える前にと 倒した相手の生肉を急いで頬張っている雑種犬の日常を考慮すると、異世界内で狩った獲物を悠長に調理は 考え…
 馬場山に妨害の指示が出ていた?でもそれなら怪しいものがいないか警戒するように主人公に頼んだのがおかしいな。コインと灯油の犯人は別なのか誤解で第三者が犯人なのか
ヤンキーはユダだった? いや、結論付けるのは早計か。 しかしこの試験いやらしいな。戦闘力より人間性や協調性を重視するとは。 異界では魔物より人間同士のトラブルの方が死亡率が高いのかもしれんな。
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