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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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44/60

44話〜えぇえー!?うそぉ!?〜

 式守チームと鉢合わせた事で始まった、対戦ミッション。途中までは優勢だったが、式守君が出てきたら全て覆された。

 物凄い身体能力と視野の広さだった。流石は一次選考トップだ。


 負けていられないな、俺も。


「おっ、また見つけたのか。ヴァル」

【勿論よ(ワフ)】


 俺は精力的に動いて、隠してあったコインを暴き続けた。ミッションにも積極的に参加して、ポイント集めに注力する。

 ただ、俺では参加出来ない物も多い。クイズや弓での的当てなんかは、完全に戦力外。

 でも、そう言うのは他のメンバーが頑張ってくれる。


「よーし。これで全的!」

「ナイス、シアちゃん!」

「射的は大得意だからね、あたし」


 みんなが拍手するので、シアンさんがワザとらしく胸を張る。さっきまで「あたしのせいで、ごめん」と暗かった彼女は、もう居ない。

 式守チームからは笑われてしまったが、とても良いチームだと思う。パワーファイターの馬場山君と持田さんに、頭脳明晰なユリ姉さん。蜂須賀君とシアンさんも、器用さでみんなをサポートしてくれる。

 とてもバランスの良いチームだ。これを見越して、運営側もチーム分けをしたんだろうか?って思える程。


「おっ。また新しいミッションが来たよ。ええっと…ああ〜、残念。僕の時代は終わったみたいだね」

 

 うん?どういうこと?

 心配して蜂須賀君の足元まで寄ると、彼が画面を向けてくれる。そこには〈リーダー交代〉と書かれていた。


「次のリーダーはアヤちゃんだね」

「自分、ですか…」


 振られた持田さんは、僅かに表情を固くする。

 どうしたん?緊張しているのか?


「そそ。アヤリーダー、よろしく!」

「自分は…はい。至らぬ長ですが、どうぞ、宜しくお願い致します…」 

「硬いよ、あやっち。スマーイル」


 緊張を解そうと、シアンさんが持田さんに絡む。でもそうすると、持田さんは余計に表情を硬くしてしまった。


「は、はい。えっと、先ずは皆さん、集まって。それから…その…」


 顔を真っ赤にして伏せてしまう持田さん。汗の匂いから、相当緊張してる。式守君と対峙した時でも、ここまでではなかったのに。

 人に指示するのが苦手なのかな?修行って基本、命令を聞く側だもんな。

 よし。


【大丈夫だ、リーダー(アウアウ~)。深呼吸して(ワウ)】


 俺は彼女の足に前足を乗せ、伏せてしまった顔を下から覗き込む。コインを加えて見せて、もっとポイントを稼ごうと促す。

 すると、彼女は小さく微笑み、頷く。


「そうだな。貴殿の言う通りだ。まだ時間はある。ミッションとコインを探しに行くぞ!」

「「おお~!」」


 新たなリーダーに、シアンさん達もノリノリで手を上げる。

 よしよし。やっぱり良いチームだ、ここは。


〈◆〉


「頼まれていた機材、持って来ました」

「ああ、済みません、辰野先生。こちらまで持ってきて貰えますか?」


 試験官達は手が離せないみたいなので、俺は言われた通りに機材を彼らの後ろに置く。そして顔を上げると、彼らの見ているモニターが目に入る。

 そこでは、生徒達が樹海で奮闘している姿が映っていた。

 二次選考か。


「見て行かれますか?先生」

「あっ、済みません」


 つい画面に見入っていたら、試験官が気を利かせて椅子を用意してくれた。

 断るのが正解なんだろうけど…すまん。教え子の姿もあるので、正直かなり気になる。

 俺は、誘われるがままに椅子へ腰かけた。そして、今の状況を聞いてみた。

 すると…。


「まぁ、例年通りですよ。チームに二極化が起きています。順調なチームと、そうでないチームがね」


 試験官は斜め前の画面を叩く。そこでは、何か言い合いをしているチームが映し出されていた。

 …俺の受け持つ子達ではないな。


「重い荷物を持って、人とも文明とも隔離された異世界で過ごす。満ち足りた世界から来た今の若者には、かなりの苦痛になります。特に、周りは競い合う競争相手。余計に彼らの心に負荷が掛かって、こうして小さなイザコザが起きやすくなってます」

「まぁ、そうでしょうね」


 俺も経験がある。異世界で組んだ合同パーティーで、魔石の収穫が予想より悪くて揉めたことが何度か。流石に掴み合いにまではならなかったけど、あそこで小型の地龍にでも襲われればかなり危なかった。

 だから、これは冒険者に成る為には必要な要素。

 気の合わない仲間とも連携出来るか。それも冒険者に必要なスキルだ。


「現段階で揉めるパーティーは、ここまでですね。ポイントの差もエグイ。半数が10点以下。0点のチームも多いですね、今年は」

「0点ですか?流石にそれは…」


 2日目でそれは無いのではないか?ミッションを受けていないという事だろ?

 不思議に思って聞いてみると、試験官は目の前の画面を切り替えた。そこに映っていたのは、1頭のクマ。


「今年はどうも、山の木の実が不作みたいでね。クマが降りて来てるんですよ。そんで、食料を食われたチームがBC(ベースキャンプ)まで戻って来てるんです」

「ああ…」


 ミッションが受けられる地域は、BCから離れている。往復していたら、1日は掛かるだろう。

 そう言う事か。


「ただそれでも、突出しているチームは凄いですよ。特にこのチーム」

「…ああ、式守のチームですか」


 式守蓮。若干16歳で5級の試験に受かり、2年間の冒険者経験を積んで今、上級の試験を受けている。

 最短ルートで上級冒険者になろうとしている彼だ。訓練校でも常にトップであった彼は、今もトップを走り続けている。

 現在の得点は…82ポイントか。


「2位とは30点差。ダントツですよ。動きも洗練されている。まるで上級冒険者だ」

「ええ…」


 俺は頷くも、本心は違った。画面に映る彼のチームメイトが、酷く疲弊していたから。

 また、彼の悪い癖が出ているみたいだ。自分の尺度で物事を考え、周りを付き従えようとしている。そして、周りが動かなくなったら1人でミッションをクリアする。

 そんなだから、周りは彼に頼りっぱなしだ。リーダー制を敷いているみたいだが、そのリーダーが彼に指示を仰ぐ始末。

 周りのレベルに合わせようとしない姿勢は、意思が強いと言うべきか、頑固と言うべきか…。


「あと、このチームも面白いですよ」

「おや?どのチームです?」


 試験官が画面を切り替えて見せてくれたのは、女性のチームだった。

 あっ、犬がいる。この子はあれだ、鈴原先生が推している子だ。


「110番。女性3人に犬1匹ってチームでしてね。正直、このチーム編成でここまでやれるとは思っていませんでした」

「得点46ポイント…4位ですか」


 俺が唸ると、試験官は「凄いでしょ?」と得意顔になる。


「1番みたいにカッチリはしてないんですけどね、兎に角チームワークが良い。お互いの短所を補い合って、ミッションも隠しポイントも順調に稼いでいる。そして何より、雰囲気が良いですねぇ。特にこのワンちゃんが盛り上げてる。アニマルセラピーって奴ですかね」

「セラピー…」


 俺はまた、唸ってしまった。試験官の言う通りかもと思えてしまった。

 誰かがミッションでミスすると、率先して慰めに行っているし、険悪なムードになりそうになったら、仲間を引き連れて仲裁に入っていた。

 こうして画面を見ているだけでも、犬の奮闘が見て取れる。そして、そんな犬を見て笑顔になるメンバーの様子も。

 冒険者に犬なんてと思っていたけど、案外ありなのか?戦闘面でも、嗅覚は役に立つだろうし。


「確かに良いですね。彼ら」

「ええ。でもまぁ、本当の試験はこれからですから」


 そう言って、試験官はニヤリと笑う。

 その笑顔を見て、俺はこれから起こる事を察する。そして、こう思った。

 ああ、今の子達は、試験も厳しくなって可哀そうだな、っと。


〈◆〉


「見て見て!今日であたし達、3位になってるよ!」

「わぁー、ホントだ!ポイントも60入ってる!夕方まで駆けずり回った成果だね」


 夜。

 キャンプ地。

 シアンさんと蜂須賀君が喜び合い、みんなに画面を見せていた。

 それを、馬場山君が鼻で笑う。


「何をお気楽な事言ってんだ。俺達は式守に負けたんだぞ?3位で喜ぶな。1位を取って、あいつを踏み潰して初めて祝えるってもんだ」

「あら?別に1位を取ることが目的じゃないわよ?馬場山君。試験に受かって、3級冒険者になるのが目的でしょ?」

「うっせぇな。分かってんだ、そんな事」


 ユリ姉さんの指摘に、馬場山君はバツが悪そうに黙る。

 そこに、更なる追い打ちが。

 持田さんだ。

 

「すみません。自分がリーダーだったばかりに、ポイントもあまり伸ばせず…」

「ほらー。ババっちのせいで、あやっちが落ち込んじゃったじゃん」

「うっ…俺のせいじゃねぇ…」


 シアンさんに口撃され、そっぽを向く馬場山君。

 それを見て、みんなが笑う。持田さんも、少しだけ表情を明るくした。

 大丈夫だよ、持田さん。君が的確に指揮を取ってくれたお陰で、未踏破ルートがかなり潰せた。ありがとう。

 俺が前足を乗せると、持田さんがこちらに微笑んでくれる。ぎこちない動きで、頭を撫でてくれた。


 と、そこに。


「あっ、メールだ」


 みんなの端末から音が鳴る。そして、シアンさんの顔が引き攣る。


「あっ…あ~。あたし、明日の朝リーダーだぁ…」

「おっ、ホントだね。ビシバシ頼むよ、シアリーダー」


 蜂須賀君が微笑みかけると、シアンさんはぎこちなく「うん」と頷いた。

 そして、


「あ~。そしたらあたし、もう寝ようかな?しっかり、リーダーしないとだし」

「そうね。寝不足で判断を間違えたら大変だわ。みんなも、今日は良く動いたんだから、早く寝るのよ?」

「うっせぇ。お前は俺の母ちゃんか」


 ユリ母さんに反抗する、長男馬場山。

 でも、みんなもかなり疲れていたみたいで、シアンさんに続いて続々とテントに入っていく。

 俺も火の後始末を確認してから、木の上に陣取る。

 さて、今夜は何が取れるかな?



 翌朝。

 俺は夜の内に取れた獲物を並べ、人間が食べられる物だけ釜の上に置いた。

 今回はヘビの他にウサギも取れたからな。流石にこれはみんなも喜ぶだろう。

 でも、クマの野郎がまた来ていたな。どうやら俺達に的を絞っているみたいだし、気を抜くと侵入して来るかも。

 …殺(や)るか、今晩こそ。


「えぇえー!?うそぉ!?」


 夜の事を考えていたら、女子テントの中から悲鳴に近い声が聞こえた。

 シアンさんだ。

 彼女の声に続いて、ユリ姉さんや持田さんの慌てた声も聞こえる。

 

 どうしたんだろうか?中で、何が起きているの?

 入るべきかどうか悩んでいると、男子ズも起きてきた。


「おい!どうした!何があった!」


 馬場山君の怒号で、テントのチャックが空く。

 中から、顔面蒼白になったシアンさんの顔が覗く。

 震える声で、報告した。


「無い…無いんだよ、集めた、コインが、無くなって…」

「…はぁ?」


 訳が分からないと、睨む馬場山君。

 それに、シアンさんが泣き出す。泣きながら、何かを差し出してくる。


「無くなっちゃった。集めたコイン、全部、無くなっちゃったの!」


 震えるシアンさんの手には、萎れた巾着袋が握られていた。

 その中には、1枚のコインも入っていなかった。

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― 新着の感想 ―
 自動で消える感じなのかな?もともと険悪だったチームは仲間割れしそうだし、そうでなくてもなくなったコインの分を挽回しようと無茶するチームが続出しそうですね。ここで焦らずに腰を据えて動くことができたら教…
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ほほう、遂に教官の罠が動き出したか。しかしよく犬の警戒網を突破できたな。 これはアレだな、シーフの仕業じゃなく自動消失くさいな。 取り溢しの回収の手間も省けて一石二鳥のトラップだ。
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