44話〜えぇえー!?うそぉ!?〜
式守チームと鉢合わせた事で始まった、対戦ミッション。途中までは優勢だったが、式守君が出てきたら全て覆された。
物凄い身体能力と視野の広さだった。流石は一次選考トップだ。
負けていられないな、俺も。
「おっ、また見つけたのか。ヴァル」
【勿論よ】
俺は精力的に動いて、隠してあったコインを暴き続けた。ミッションにも積極的に参加して、ポイント集めに注力する。
ただ、俺では参加出来ない物も多い。クイズや弓での的当てなんかは、完全に戦力外。
でも、そう言うのは他のメンバーが頑張ってくれる。
「よーし。これで全的!」
「ナイス、シアちゃん!」
「射的は大得意だからね、あたし」
みんなが拍手するので、シアンさんがワザとらしく胸を張る。さっきまで「あたしのせいで、ごめん」と暗かった彼女は、もう居ない。
式守チームからは笑われてしまったが、とても良いチームだと思う。パワーファイターの馬場山君と持田さんに、頭脳明晰なユリ姉さん。蜂須賀君とシアンさんも、器用さでみんなをサポートしてくれる。
とてもバランスの良いチームだ。これを見越して、運営側もチーム分けをしたんだろうか?って思える程。
「おっ。また新しいミッションが来たよ。ええっと…ああ〜、残念。僕の時代は終わったみたいだね」
うん?どういうこと?
心配して蜂須賀君の足元まで寄ると、彼が画面を向けてくれる。そこには〈リーダー交代〉と書かれていた。
「次のリーダーはアヤちゃんだね」
「自分、ですか…」
振られた持田さんは、僅かに表情を固くする。
どうしたん?緊張しているのか?
「そそ。アヤリーダー、よろしく!」
「自分は…はい。至らぬ長ですが、どうぞ、宜しくお願い致します…」
「硬いよ、あやっち。スマーイル」
緊張を解そうと、シアンさんが持田さんに絡む。でもそうすると、持田さんは余計に表情を硬くしてしまった。
「は、はい。えっと、先ずは皆さん、集まって。それから…その…」
顔を真っ赤にして伏せてしまう持田さん。汗の匂いから、相当緊張してる。式守君と対峙した時でも、ここまでではなかったのに。
人に指示するのが苦手なのかな?修行って基本、命令を聞く側だもんな。
よし。
【大丈夫だ、リーダー。深呼吸して】
俺は彼女の足に前足を乗せ、伏せてしまった顔を下から覗き込む。コインを加えて見せて、もっとポイントを稼ごうと促す。
すると、彼女は小さく微笑み、頷く。
「そうだな。貴殿の言う通りだ。まだ時間はある。ミッションとコインを探しに行くぞ!」
「「おお~!」」
新たなリーダーに、シアンさん達もノリノリで手を上げる。
よしよし。やっぱり良いチームだ、ここは。
〈◆〉
「頼まれていた機材、持って来ました」
「ああ、済みません、辰野先生。こちらまで持ってきて貰えますか?」
試験官達は手が離せないみたいなので、俺は言われた通りに機材を彼らの後ろに置く。そして顔を上げると、彼らの見ているモニターが目に入る。
そこでは、生徒達が樹海で奮闘している姿が映っていた。
二次選考か。
「見て行かれますか?先生」
「あっ、済みません」
つい画面に見入っていたら、試験官が気を利かせて椅子を用意してくれた。
断るのが正解なんだろうけど…すまん。教え子の姿もあるので、正直かなり気になる。
俺は、誘われるがままに椅子へ腰かけた。そして、今の状況を聞いてみた。
すると…。
「まぁ、例年通りですよ。チームに二極化が起きています。順調なチームと、そうでないチームがね」
試験官は斜め前の画面を叩く。そこでは、何か言い合いをしているチームが映し出されていた。
…俺の受け持つ子達ではないな。
「重い荷物を持って、人とも文明とも隔離された異世界で過ごす。満ち足りた世界から来た今の若者には、かなりの苦痛になります。特に、周りは競い合う競争相手。余計に彼らの心に負荷が掛かって、こうして小さなイザコザが起きやすくなってます」
「まぁ、そうでしょうね」
俺も経験がある。異世界で組んだ合同パーティーで、魔石の収穫が予想より悪くて揉めたことが何度か。流石に掴み合いにまではならなかったけど、あそこで小型の地龍にでも襲われればかなり危なかった。
だから、これは冒険者に成る為には必要な要素。
気の合わない仲間とも連携出来るか。それも冒険者に必要なスキルだ。
「現段階で揉めるパーティーは、ここまでですね。ポイントの差もエグイ。半数が10点以下。0点のチームも多いですね、今年は」
「0点ですか?流石にそれは…」
2日目でそれは無いのではないか?ミッションを受けていないという事だろ?
不思議に思って聞いてみると、試験官は目の前の画面を切り替えた。そこに映っていたのは、1頭のクマ。
「今年はどうも、山の木の実が不作みたいでね。クマが降りて来てるんですよ。そんで、食料を食われたチームがBCまで戻って来てるんです」
「ああ…」
ミッションが受けられる地域は、BCから離れている。往復していたら、1日は掛かるだろう。
そう言う事か。
「ただそれでも、突出しているチームは凄いですよ。特にこのチーム」
「…ああ、式守のチームですか」
式守蓮。若干16歳で5級の試験に受かり、2年間の冒険者経験を積んで今、上級の試験を受けている。
最短ルートで上級冒険者になろうとしている彼だ。訓練校でも常にトップであった彼は、今もトップを走り続けている。
現在の得点は…82ポイントか。
「2位とは30点差。ダントツですよ。動きも洗練されている。まるで上級冒険者だ」
「ええ…」
俺は頷くも、本心は違った。画面に映る彼のチームメイトが、酷く疲弊していたから。
また、彼の悪い癖が出ているみたいだ。自分の尺度で物事を考え、周りを付き従えようとしている。そして、周りが動かなくなったら1人でミッションをクリアする。
そんなだから、周りは彼に頼りっぱなしだ。リーダー制を敷いているみたいだが、そのリーダーが彼に指示を仰ぐ始末。
周りのレベルに合わせようとしない姿勢は、意思が強いと言うべきか、頑固と言うべきか…。
「あと、このチームも面白いですよ」
「おや?どのチームです?」
試験官が画面を切り替えて見せてくれたのは、女性のチームだった。
あっ、犬がいる。この子はあれだ、鈴原先生が推している子だ。
「110番。女性3人に犬1匹ってチームでしてね。正直、このチーム編成でここまでやれるとは思っていませんでした」
「得点46ポイント…4位ですか」
俺が唸ると、試験官は「凄いでしょ?」と得意顔になる。
「1番みたいにカッチリはしてないんですけどね、兎に角チームワークが良い。お互いの短所を補い合って、ミッションも隠しポイントも順調に稼いでいる。そして何より、雰囲気が良いですねぇ。特にこのワンちゃんが盛り上げてる。アニマルセラピーって奴ですかね」
「セラピー…」
俺はまた、唸ってしまった。試験官の言う通りかもと思えてしまった。
誰かがミッションでミスすると、率先して慰めに行っているし、険悪なムードになりそうになったら、仲間を引き連れて仲裁に入っていた。
こうして画面を見ているだけでも、犬の奮闘が見て取れる。そして、そんな犬を見て笑顔になるメンバーの様子も。
冒険者に犬なんてと思っていたけど、案外ありなのか?戦闘面でも、嗅覚は役に立つだろうし。
「確かに良いですね。彼ら」
「ええ。でもまぁ、本当の試験はこれからですから」
そう言って、試験官はニヤリと笑う。
その笑顔を見て、俺はこれから起こる事を察する。そして、こう思った。
ああ、今の子達は、試験も厳しくなって可哀そうだな、っと。
〈◆〉
「見て見て!今日であたし達、3位になってるよ!」
「わぁー、ホントだ!ポイントも60入ってる!夕方まで駆けずり回った成果だね」
夜。
キャンプ地。
シアンさんと蜂須賀君が喜び合い、みんなに画面を見せていた。
それを、馬場山君が鼻で笑う。
「何をお気楽な事言ってんだ。俺達は式守に負けたんだぞ?3位で喜ぶな。1位を取って、あいつを踏み潰して初めて祝えるってもんだ」
「あら?別に1位を取ることが目的じゃないわよ?馬場山君。試験に受かって、3級冒険者になるのが目的でしょ?」
「うっせぇな。分かってんだ、そんな事」
ユリ姉さんの指摘に、馬場山君はバツが悪そうに黙る。
そこに、更なる追い打ちが。
持田さんだ。
「すみません。自分がリーダーだったばかりに、ポイントもあまり伸ばせず…」
「ほらー。ババっちのせいで、あやっちが落ち込んじゃったじゃん」
「うっ…俺のせいじゃねぇ…」
シアンさんに口撃され、そっぽを向く馬場山君。
それを見て、みんなが笑う。持田さんも、少しだけ表情を明るくした。
大丈夫だよ、持田さん。君が的確に指揮を取ってくれたお陰で、未踏破ルートがかなり潰せた。ありがとう。
俺が前足を乗せると、持田さんがこちらに微笑んでくれる。ぎこちない動きで、頭を撫でてくれた。
と、そこに。
「あっ、メールだ」
みんなの端末から音が鳴る。そして、シアンさんの顔が引き攣る。
「あっ…あ~。あたし、明日の朝リーダーだぁ…」
「おっ、ホントだね。ビシバシ頼むよ、シアリーダー」
蜂須賀君が微笑みかけると、シアンさんはぎこちなく「うん」と頷いた。
そして、
「あ~。そしたらあたし、もう寝ようかな?しっかり、リーダーしないとだし」
「そうね。寝不足で判断を間違えたら大変だわ。みんなも、今日は良く動いたんだから、早く寝るのよ?」
「うっせぇ。お前は俺の母ちゃんか」
ユリ母さんに反抗する、長男馬場山。
でも、みんなもかなり疲れていたみたいで、シアンさんに続いて続々とテントに入っていく。
俺も火の後始末を確認してから、木の上に陣取る。
さて、今夜は何が取れるかな?
翌朝。
俺は夜の内に取れた獲物を並べ、人間が食べられる物だけ釜の上に置いた。
今回はヘビの他にウサギも取れたからな。流石にこれはみんなも喜ぶだろう。
でも、クマの野郎がまた来ていたな。どうやら俺達に的を絞っているみたいだし、気を抜くと侵入して来るかも。
…殺るか、今晩こそ。
「えぇえー!?うそぉ!?」
夜の事を考えていたら、女子テントの中から悲鳴に近い声が聞こえた。
シアンさんだ。
彼女の声に続いて、ユリ姉さんや持田さんの慌てた声も聞こえる。
どうしたんだろうか?中で、何が起きているの?
入るべきかどうか悩んでいると、男子ズも起きてきた。
「おい!どうした!何があった!」
馬場山君の怒号で、テントのチャックが空く。
中から、顔面蒼白になったシアンさんの顔が覗く。
震える声で、報告した。
「無い…無いんだよ、集めた、コインが、無くなって…」
「…はぁ?」
訳が分からないと、睨む馬場山君。
それに、シアンさんが泣き出す。泣きながら、何かを差し出してくる。
「無くなっちゃった。集めたコイン、全部、無くなっちゃったの!」
震えるシアンさんの手には、萎れた巾着袋が握られていた。
その中には、1枚のコインも入っていなかった。




