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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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43/60

43話~なんだ?このクソみてぇなチームは~

「おぉ~!またコイン見つけたんだ、ヴァルちゃん。めっちゃ優秀!」

【それ程でも(ワフゥ)~】


 コインを咥えた俺を、蜂須賀君がワシャワシャと撫でる。

 樹海に入って、かれこれ4時間程が経過していた。それまでに、我々は多くのポイントを手に入れていた。

 ここら辺は穴場なのか、コインが至る所に隠されていた。木の葉の下だとか、湖の砂浜とか、双子岩の間とか。

 目は悪い俺だけど、匂いでそれらを探し当てている。コインを隠す時はどうしても、人の手が触れるから分かり易い。偶にクマの匂いと混ざる時もあるんだけど…試験官さん達は鉢合わせしたのだろうか?


「ハッチー!ミッションポイントがあったよ~」

「おっ!ナイス、シアちゃん!」


 蜂須賀君は立ち上がり、声の方へと駆け寄る。そして、端末を取り出して操作している。

 きっと、画面上で何らかの問題が出されているんだろう。みんなも集まって端末を覗き合っていた。

 

 このミッションポイントと言うのは、ミッションを受けることの出来る地点の事で、端末がその地点を通ると〈ミッション開始〉という文字と共に説明文が流れるとのこと。このミッションをクリアすると、ポイントを獲得できる。

 このミッションでも、かなりのポイントを稼ぐことが出来た。今まで見つけたミッションは5つ。その内4つをクリアしていて、1つあたり3~5ポイント得られており、我々のチームは32ポイントを得ている状態だ。

 順位で言うと7位。相当良いペースで動けていた。


「うわ。日本の年間魔石獲得数と順位を答えよだってさ。正確な数値なんて分かんねぇよ」

「あたしも~」


 仲良し2人組が手を上げて、チラリとこちらを見る。

 …悪いな。俺も分からん。そもそも聞いたことすらないからさ。

 俺が首を振ると、シアンさんはユリ姉さんに縋る。


「分かる?ユリ姉」

「ええ。総数は約340万個で、世界第19位よ」


 へぇ。そうなんだ。

 19位…思ったよりも順位が低いな。何か原因があるんだろうか?

 不思議に思い、ユリ姉さんを見上げる。彼女は、端末から響いた『ピロンッ』と言う音に微笑んでいた。

 正解して、ポイントを獲得したみたいだ。


「ちなみに、世界1位は中国で1億8万個。次いでアメリカが8900万個よ」

「あぁ…そんな感じの差だったねぇ」


 苦笑いを浮かべる蜂須賀君。

 本当に分かっていたんだろうか?


「中国が1位…なのですか?自分は、アメリカが1位と聞いた覚えがあります」

「それはきっと、異世界に費やす軍事費だと思うわ。アメリカは異世界攻略に注力していて、魔石での発電は二の次なのよ」


 えっ?異世界攻略?軍事費ってことは、軍隊を投入して魔物討伐をしているってこと?

 なんか、凄い情報を聞けてしまったと、俺は尻尾をブンブン振る。魔石が発電に使われているって情報も聞けたし。

 ユリ姉さんにはもっと、そこら辺を教えて欲しい物だ…うん?


 風の中に人間の匂いを見つけ、俺は尻尾を振るのを止める。その方角を注視すると、僅かに木の葉を踏みしめる音が聞こえた。


「何か来ますね」


 持田さんも気が付いた。自然と腰を落とすその様は、まさに剣士。


「おっ、”また”別のチームが居ますよ!」


 随分と匂いが強くなって来たと思ったら、向こうから声がした。嬉しそうな、男性の声。

 そして間もなく、そいつらは現れる。男子5人。馬場山君達と同じジャージを来た受験者達だ。その中には、


「なんだ?このクソみてぇなチームは」


 一次試験1位で通過した、式守君の姿もあった。


「女3人に犬って…ピクニックかよ」

「あははっ!ホントっすね。式守さん」

「こりゃ、楽勝っすよ」

「ポイント、ゴチになりま~す!」


 式守君の呟きに、他の男子達が盛り上がる。

 楽勝とか言ってるけど…対戦でもするのか?まさか、強制的に俺達からコインを奪う気か?

 俺は嫌な予感がして、みんなの前に出る。でも、奴らは動く気配がない。ただ笑いながら、端末を見ていた。

 そこに、何が?

 不思議に思っていると、みんなの端末からピロンッと通知音が鳴った。


「タッチ鬼?」


 えっ?何です?それ。

 俺が見上げると、ユリ姉さんが屈んで画面を見せてくれた。

 ええっと…〈臨時ミッション:タッチ鬼。チーム1番と110番の対戦ミッション。勝ったチームに10ポイント、負ければ0ポイント、引き分けは3ポイント。

 1、相手の胴体、または頭に手で触れる。触れられた者は脱落としてその場で座る。

 2、最後まで生き残っていたチームの勝利。5分で決着が付かなければ引き分け。

 3、掴む、殴る等の攻撃行為は禁止。即脱落。

 4、現在地から離れ過ぎた場合も脱落

 では、ミッション開始…10秒前…〉


 くっ。やはり式守チームとの戦闘か。チーム同士が鉢合うと、こうなるのか。

 俺は構えながら理解する。何故スタート地点にバスが2台しかなかったのかを。 

 多方面に分かれてのスタートにすることで、チーム同士の密集を避けた訳か。


「みんな!取り敢えず、荷物を置いて」


 蜂須賀君の指示に、みんなは素早く動く。

 反対に、向こうは動きが悪い。式守君が腕を組んで、木の幹に背を預けたからだ。


「あ、あの、式守…君?」

「お前らがやれ、このミッション」

「えっ…?」

「楽勝なんだろ?だったら、お前らだけで勝ってみせろ」

「いや、あの…はい。分かり、ました…」


 どうやら、式守君は出て来ないみたいだ。

 ちょっと、残念だな。


 ピピッ!


 端末から合図が鳴る。途端に、全員が動き出す。


「みんな!互いをフォローしながら行くよ!」

「「はいっ!」」


 よしよし。こっちは良い動き出しだ。歪だけど、陣形が出来ている。

 反対に…。


「くそっ、なんでこんなことに」

「お前が楽勝とか言ったからだろ!」

「お前だって、ゴチとか調子こいてたろ!」

「こいてねぇよ!」


 言い争いをしてる。チーム内雰囲気は良くないみたいだ。

 これなら、行けるぞ!


 俺は飛び出し、ドタドタと駆け寄っていた5人の足元をすり抜ける。それだけで、5人の隊列は大きく崩れた。

 そこに、


「ポイント、ゴチになるぜ」

「僕もっと」


 良い笑顔の馬場山君と蜂須賀君が迫る。馬場山君の太い腕が、2人の背中をバシンッと叩き、蜂須賀君は跳び箱を飛ぶように1人の頭をポンッと飛び越えた。

 これで、一気に3人アウト。残るは2人。

 その2人は。


「くそっ。このままじゃヤバイ」

「兎に角、1人でも取る。あそこで固まってる女子を狙おう」


 男性陣に背を向けて、女性陣の方へと駆け出した。手を伸ばして迫るその姿は、どう見ても不審者のそれ。

 させるか。

 俺は急旋回して、男達を追う。奴らの背中に飛び乗ろうとした。

 でも、それより先に、彼らの前に持田さんが立ち塞がる。腰を落とし、構えた。

 そして、


「はぁっ!」


 素早い動きで、2人の間をすり抜ける。俺の動体視力が何とか追える速度で、2人の脇腹をタッチした。

 

「はっ」

「なにが?」


 訳が分からないと、2人は顔を見合わせる。でも、2人の端末はエラー音を発していた。

 アウトの警告だ。これで、5人全員アウトになった。

 いや…。


「ぬるいことやってんなよ、雑魚ども」


 静観していた式守君が、動き出す。

 面倒くさそうに首の後ろを摩り、トボトボと歩いていた彼。だが次の瞬間、姿を消した。

 消えた様に見える程の、急激な緩急。

 彼が次に現れたのは、馬場山君の目の前。


「先ずは1匹」

「ちっ!」


 慌てて両手を突き出す馬場山君。だけど、式守君は少し体を捻るだけでそれを躱す。体勢を崩した馬場山君に、軽くタッチする。


「次」

「おっと」


 式守君は止まらず、そのまま蜂須賀君に迫る。


「そんな簡単にやられないよぉ〜」


 蜂須賀君は楽しげな声を上げ、走る。木の幹を蹴り上げて、くるりと見事なバク宙を見せる。それで、追ってきた式守君を撒いた。

 いや、


「黙れ、ピエロ野郎」


 通り過ぎるかと思った式守君も、木の幹を蹴って飛び上がる。蜂須賀君の更に上を飛んで、空中で彼の背中を押さえつけた。


「ぐへっ!」


 地面に叩きつけられる蜂須賀。

 判定は…アウト。今のは攻撃判定にならないのか。

 そう理解するより先に、俺は動き出していた。着地したばかりの式守君目掛け、駆ける。狙うは、死角からの強襲。


「舐めるな、犬」


 死角を突いた。そう思ったのに、彼は反応した。俺の前足が触れるより先に横へステップして、逆に俺の頭目掛けて手を伸ばした。

 なんて視野の広さ。それに優れた空間把握能力だろうか。

 だがな、


【甘いぜ(ウゥ)】


 俺も横へと転げ、彼の手から逃れる。軽く転がり、すぐに構える。

 こっちも、2手3手先くらい読んでるんだよ!

 体勢を崩した式守君に、俺は飛びかかる。彼の腕を伝い、そのまま頭に着地す…。


「だから、ぬるいんだよ!」


 頭を触る前に、式守君の腕が振り払われる。俺は宙に投げ出され、見上げる彼の目と視線がぶつかる。

 強い視線。敵視する意思。

 来るか?良いぞ。返り討ちにしてやる。

 そのつもりだったが、不意に彼の視線が外れる。俺に背を向けて、駆け出す。

 こちらへと駆け寄っていた、女性陣に牙を剥いた。

 不味い!


 駆け出す俺の視線の先で、式守君は持田さんと対峙する。鋭い踏み込みを見せる彼女に、式守君は軽々と対応する。体を大きく反らせて、彼女の手を躱し、払い除け、僅かな隙間から彼女の肩にタッチした。

 一瞬の攻防。まるで達人同士の動き。

 それを見せた片方は沈み、もう片方が彼女達に迫る。

 圧倒的有利な状況に、式守の口がニヤリとひん曲がる。それに、顔を青くする2人。

 その手が2人に触れる前に、俺は!


「だから見えてんだよ、クソ犬」


 俺が飛び込んだ瞬間、式守君の敵意がこちらに向く。半身になり、こちらを見下ろす彼。

 見下す視線。


「終わってろ」


 彼の手が、俺に迫る。そのまま頭に触り…。

 触られる前に、俺は体を捻る。彼の手に、前足を乗せる。

 弾く!


「あぁ?」


 ギリギリ避けた俺を、怒りの形相で見下ろす式守君。

 俺は彼に睨まれながら、弾き飛ばされる。そのまま地面に激突する。

 かと思ったら。


「おっと」


 柔らかい衝撃。

 見ると、シアンさんが俺を受け止めていた。

 そうか。俺はこっちに弾き飛ばされたのか。

 式守君によって。


「ほらよ、ゲームセットだ」


 式守君の声が、耳元で聞こえた。それとほぼ同時、背中を撫でられる感触。

 シアンさんの端末が、短い悲鳴を上げる。画面には〈チーム1番の勝利〉と表示されていた。

 俺達の、負けだ。


「おい」


 式守君が、俺を見下ろす。


「主人を守ったつもりか?そんな事してんなら、冒険者じゃなく飼い犬にでもなってろ」


 一方的に吐き捨て、式守君は去っていく。

 

 随分な物言いだな。犬相手に。

 呆気にとられ、俺はただその背中を見送っていた。

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― 新着の感想 ―
唯一?端末を持たされてない受験者ってどうなんだろう?^^;仲良し組に配置されたのもフォローの一環? 野郎ばかりのギスギスパーティー5人の中に犬一匹で放り込まれたりしたら、字面だけでも苦行そうw ジュ…
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