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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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42/60

42話~ミッション1開始~

「驚いたわね。本当にポイントが入ってるわ」


 みんなのところにコインを持って行くと、ユリ姉さんがデバイスを開いて首を振る。そして、俺の方に画面を向けてくれた。そこには〈チーム110番…1点、21位〉と表示されていた。

 俺達は110番チームなのか。初めて知った。


「ミッション以外にもゲット出来るんだね。じゃあ、ここら辺もっと探そうよ?」

「探すって、僕らじゃ無理だよ、シアちゃん。ヴァルちゃん並みの嗅覚が無いとさ」


 蜂須賀君の言う通りだ。日も傾き出して薄暗くなっている今、目視での探索は期待できない。それに、匂いからしてここらにはもう無さそうだし。

 

「荷物もある。先ずはベースキャンプを設置するぞ。それから、周辺を探索する」


 馬場山君が指示すると、みんなも「「了解」」と立ち上がり、俺の後ろを歩き出す。

 そうだ。先ずは拠点を決めないと、日が落ちてからだと辛いからね。

 俺は胸を張ってみんなを誘導する。もうみんなも感じているのか、後ろで小さな歓声が湧いている。そして、大木の後ろを通り過ぎると、目の前が一気に開けた。

 湖だ。向こうの方には大きな山も見える。もう春も過ぎようとしているのに、まだ頭に雪を積もらせた大山が。

 ああ、ここは…。


「ちっ。道理で鬱蒼としている訳だ」

「おぉ~!富士山じゃん!」


 そう、富士山。そしてここは富士山の麓、富士の樹海だった。

 

「良いね。めっちゃテンション上がる!ちょっと湖の周辺を探索しようよ!」

「待ちなさい、シアン。もうすぐ日も落ちるから、その前にテントを建てないと」


 ユリ姉さんの言う通りだ。日のある内に準備を済ませないと、色々と面倒になる。

 俺達はテントを建てる場所を探し、湖の近くに丁度良い平地を見つけたので、そこに荷物を置いた。

 よく見たらここ、キャンプ場みたいだな。誰も居ないから気が付かなかった。

 …お金払わなくて良いんだろうか?

 気になって周囲を探ってみるも、受付にもコテージにも人は居ない。オフシーズンだから開放しているのか? 


 探索を終えて帰ってくると、既にテントの設営は終わっていた。今はみんな、2つのテントの間で晩飯の準備をしていた。野菜を切り、肉を漬け、灯油バーナーを用意して…。

 あっ!


【ちょっと待って(アオー)!】

「んだよ、犬ころ」


 俺が慌てて止めると、バーナーに灯油を注いでいた馬場山君が睨んでくる。でも手は止めてくれたので、俺は近くで木の枝を拾ってそれを見せた。


「あぁ?それで火を付けろって言ってんのか?」

「そうみたいね。きっと、灯油を節約するように言っているんだわ」


 流石はユリ姉さん。その通りです。

 俺は【正解!】と飛び跳ね、直ぐに樹海へと戻る。そこで乾いた枯れ木を拾って来て、彼らの前に積んだ。

 さぁ、これで火を起こすのです!


「あぁ、分かったよ。てめぇの考えに乗ってやる」

「うふふ」


 渋々折れてくれた馬場山君を見て、堪えきれずにユリ姉さんが笑う。それに顔を歪め、俺を睨んでくる馬場山君。


「だがな。発案した以上、責任もって火の番をしろよ?」

【お任せを(ワフッ)!】


 俺は気合を入れて、再び樹海の中へ。追加の燃料を取ってきた頃には、馬場山君が火を起こしてくれていた。

 灯油の匂いもするから、木々に撒いて着火したみたい。うん。それくらいの量なら、5日間持つね。

 

 早めに野営の準備をしたから、夕食も早めに終わり、自由時間が出来た。

 俺は周囲の探索でもしようかと思ったけど、ユリ姉さんに呼び止められてしまった。


「お風呂よ、ヴァル。一緒に入りましょう」


 いやいや。待て待て。

 風呂は嬉しいんだけど、貴女達と一緒は不味いですよ。俺一応、オスよ?元人間だし。

 俺は必死に、馬場山君の足にタッチする。するとシアンさんが「じゃあ、ヴァルは見張りね」と援護してくれた。


「男達が覗かない様に、しっか見張っといてね?」

「誰が覗くか!」

「怪しぃ~」

「怪しかねぇ!」


 きゃー!とふざけながら、女性陣が湖の方へと消える。馬場山君も舌打ち一つして、装備の点検に戻った。

 青春しているね。

 俺も爪の手入れをしていると、蜂須賀君がご機嫌な足取りで近づいて来た。

 何でしょう?


「ヴァルちゃん。一緒に釣りしない?そこに良い竿が落ちてたんだぁ」


 先が欠けた竿を肩に担ぎ、ニコニコ顔の蜂須賀君。

 悪くない案だけど…ダメだよ?今は女性がそっちに行っているんだから。

 彼を覗き魔にしない為、俺は彼のズボンに噛り付いた。


 夜は男女で分かれてテントで寝る。でも俺は、スルスルと木に登って目を瞑る。ここなら、匂いも音も良く届く。警戒するのに最適だ。


「お~い。危ないよ、ヴァルちゃん。降りて来なよ」


 蜂須賀君が心配してくれるけど、馬場山君がそれを止める。「好きにさせろ」とテントに戻っていった。


「落ちないように気を付けなよ」


 蜂須賀君もテントに戻っていった。

 心配させて済まない。でも、警戒するに越したことは無い。これは、合格率数%の難関試験なんだから。


 そうして一晩警戒していると、招かざる客がちらほらやって来た。

 蛇にネズミに狐に、カモシカやクマまで現れた。

 流石にクマは唸って追い払う。食い殺そうかとも思ったけど、反撃されて負傷したら面倒だ。まだ4日間も試験があるんだから、安全第一で対処した。


 しかし、ここまで野生動物が出没するのは異常だ。もしかしたら本当に、ここら一帯に人間が居ないのかも。試験の為にと、一時的に進入禁止エリアにしていそうだ。

 人の気配が無いと、山から下りてきたりするからね。野生動物って。


「うわっ!何だこりゃ」


 早朝。

 朝食の準備で出て来た馬場山君が、目を剝いて驚いた。俺が取り置いた蛇の死体を見て、顔を引きつらせる。

 何って、みんなの朝食だよ。ネズミや狐は感染症が怖いから無理でも、それくらいなら人間でも食べられるでしょ?

 そう思って取っておいたのに、みんなは馬場山君と同じような顔で首を振った。

 美味いのに。


「綾ちゃん、お腹大丈夫?毒とかないの?」


 焼けた蛇肉に食らいつく持田さんに、蜂須賀君が恐る恐る尋ねる。

 持田さんは「ふぁい」と食べながら答えた。


「問題ありません。以前にも、食べたことがありますので」

「それって、前に行ってた修行って奴?」

「はい」


 なるほど。やはりこの娘は只者じゃない。次は彼女の為に、カモシカも取ってあげようかな?


 そうして楽しく朝食を頂いていると、みんなの端末が鳴った。ユリ姉さんが俺に、画面を見せてくれる。

 こう書かれていた。

〈ミッション1開始:リーダーに従え。

 これから不定期で、こちらからリーダーを指定する。指定された者はメンバーに指示を出し、グループの行動方針を決め、グループを束ねる事。リーダーの期間は、こちらから次のリーダーを指定するまでとする〉


 ほぉ。リーダー制か。これは受験者のリーダーシップを見ると同時、他のメンバーの動きも見ている為の物かもしれない。誰がリーダーでも、しっかりと言うことを聞くか。またリーダーが間違った時に正せるか。そんなのが見たいんじゃないか?

 俺は木の上を見上げる。こちらを見ている監視カメラに【そうでしょ?】と問いかける。


「最初のリーダーは蜂須賀だ。なんか指示出せ」

「ほいほ~い。そんじゃ早速、コイン探しにレッツゴー!」

「ゴー!」


 元気に拳を上げる蜂須賀君とシアンさん。

 それに、ユリ姉さんが「待って」と首を斜めにする。


「集めるのは良いけど、荷物はどうするつもり?」

「えっ?置いてって良いんじゃない?重いし」

「そーそー。コイン探しどころじゃないよ」


 リーダーの決定に、みんな反論しない様子。

 おっと、それは不味い。


【ちょい待ち(ウゥ~)!食料だけは持ってって(アウゥウ~)!】

「どったの?ヴァル」


 屈んだ蜂須賀君に、俺は食料の入った袋を咥えて見せる。

 それを見て、シアンさんが笑みを浮かべる。


「なに?なに?食べ物が心配なの?誰も取らないって」

「そうだよね。まだ誰も来てないみたいだし。そもそもみんな、まだ食料あるだろうし」


 そうじゃない。この近くにはツキノワグマも居るんだ。あいつらの嗅覚を舐めたらアカンで。

 俺が必死に頭を振ると、ユリ姉さんが俺の背中を撫でる。


「この子の言う通りにしましょう。きっと、何か考えがあるのよ」

「夜中に何か見たのかも知んねぇぞ?深夜に森の方を見て唸ってたからな」


 流石はご両人。俺のことを良く分かってらっしゃる。


「分かった、分かった。食料と水は持って行こう。それで良いかい?」

【ありがとう(ワフッ)!】


 話が纏まり、俺達は出発する。

 さぁ、今日から本格的に、コイン集めスタートだ。

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― 新着の感想 ―
上等コース試験の3級冒険者となれば、大型魔物も含む危険な魔物の出現地域へ活動範囲が広がり、縁起でも 無いが「パーティー構成人員の流動性(死亡もしくは行動不能)」も考慮し、リーダーからの指揮権の引継ぎを…
寝る余裕、食事する時間があるなんて優しい教官だね! 自衛隊のレンジャー訓練なら、全員寝ている間に逆さ吊りだな。(犬は真っ先に無力化される) そして荷物は全部消える。
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