42話~ミッション1開始~
「驚いたわね。本当にポイントが入ってるわ」
みんなのところにコインを持って行くと、ユリ姉さんがデバイスを開いて首を振る。そして、俺の方に画面を向けてくれた。そこには〈チーム110番…1点、21位〉と表示されていた。
俺達は110番チームなのか。初めて知った。
「ミッション以外にもゲット出来るんだね。じゃあ、ここら辺もっと探そうよ?」
「探すって、僕らじゃ無理だよ、シアちゃん。ヴァルちゃん並みの嗅覚が無いとさ」
蜂須賀君の言う通りだ。日も傾き出して薄暗くなっている今、目視での探索は期待できない。それに、匂いからしてここらにはもう無さそうだし。
「荷物もある。先ずはベースキャンプを設置するぞ。それから、周辺を探索する」
馬場山君が指示すると、みんなも「「了解」」と立ち上がり、俺の後ろを歩き出す。
そうだ。先ずは拠点を決めないと、日が落ちてからだと辛いからね。
俺は胸を張ってみんなを誘導する。もうみんなも感じているのか、後ろで小さな歓声が湧いている。そして、大木の後ろを通り過ぎると、目の前が一気に開けた。
湖だ。向こうの方には大きな山も見える。もう春も過ぎようとしているのに、まだ頭に雪を積もらせた大山が。
ああ、ここは…。
「ちっ。道理で鬱蒼としている訳だ」
「おぉ~!富士山じゃん!」
そう、富士山。そしてここは富士山の麓、富士の樹海だった。
「良いね。めっちゃテンション上がる!ちょっと湖の周辺を探索しようよ!」
「待ちなさい、シアン。もうすぐ日も落ちるから、その前にテントを建てないと」
ユリ姉さんの言う通りだ。日のある内に準備を済ませないと、色々と面倒になる。
俺達はテントを建てる場所を探し、湖の近くに丁度良い平地を見つけたので、そこに荷物を置いた。
よく見たらここ、キャンプ場みたいだな。誰も居ないから気が付かなかった。
…お金払わなくて良いんだろうか?
気になって周囲を探ってみるも、受付にもコテージにも人は居ない。オフシーズンだから開放しているのか?
探索を終えて帰ってくると、既にテントの設営は終わっていた。今はみんな、2つのテントの間で晩飯の準備をしていた。野菜を切り、肉を漬け、灯油バーナーを用意して…。
あっ!
【ちょっと待って!】
「んだよ、犬ころ」
俺が慌てて止めると、バーナーに灯油を注いでいた馬場山君が睨んでくる。でも手は止めてくれたので、俺は近くで木の枝を拾ってそれを見せた。
「あぁ?それで火を付けろって言ってんのか?」
「そうみたいね。きっと、灯油を節約するように言っているんだわ」
流石はユリ姉さん。その通りです。
俺は【正解!】と飛び跳ね、直ぐに樹海へと戻る。そこで乾いた枯れ木を拾って来て、彼らの前に積んだ。
さぁ、これで火を起こすのです!
「あぁ、分かったよ。てめぇの考えに乗ってやる」
「うふふ」
渋々折れてくれた馬場山君を見て、堪えきれずにユリ姉さんが笑う。それに顔を歪め、俺を睨んでくる馬場山君。
「だがな。発案した以上、責任もって火の番をしろよ?」
【お任せを!】
俺は気合を入れて、再び樹海の中へ。追加の燃料を取ってきた頃には、馬場山君が火を起こしてくれていた。
灯油の匂いもするから、木々に撒いて着火したみたい。うん。それくらいの量なら、5日間持つね。
早めに野営の準備をしたから、夕食も早めに終わり、自由時間が出来た。
俺は周囲の探索でもしようかと思ったけど、ユリ姉さんに呼び止められてしまった。
「お風呂よ、ヴァル。一緒に入りましょう」
いやいや。待て待て。
風呂は嬉しいんだけど、貴女達と一緒は不味いですよ。俺一応、オスよ?元人間だし。
俺は必死に、馬場山君の足にタッチする。するとシアンさんが「じゃあ、ヴァルは見張りね」と援護してくれた。
「男達が覗かない様に、しっか見張っといてね?」
「誰が覗くか!」
「怪しぃ~」
「怪しかねぇ!」
きゃー!とふざけながら、女性陣が湖の方へと消える。馬場山君も舌打ち一つして、装備の点検に戻った。
青春しているね。
俺も爪の手入れをしていると、蜂須賀君がご機嫌な足取りで近づいて来た。
何でしょう?
「ヴァルちゃん。一緒に釣りしない?そこに良い竿が落ちてたんだぁ」
先が欠けた竿を肩に担ぎ、ニコニコ顔の蜂須賀君。
悪くない案だけど…ダメだよ?今は女性がそっちに行っているんだから。
彼を覗き魔にしない為、俺は彼のズボンに噛り付いた。
夜は男女で分かれてテントで寝る。でも俺は、スルスルと木に登って目を瞑る。ここなら、匂いも音も良く届く。警戒するのに最適だ。
「お~い。危ないよ、ヴァルちゃん。降りて来なよ」
蜂須賀君が心配してくれるけど、馬場山君がそれを止める。「好きにさせろ」とテントに戻っていった。
「落ちないように気を付けなよ」
蜂須賀君もテントに戻っていった。
心配させて済まない。でも、警戒するに越したことは無い。これは、合格率数%の難関試験なんだから。
そうして一晩警戒していると、招かざる客がちらほらやって来た。
蛇にネズミに狐に、カモシカやクマまで現れた。
流石にクマは唸って追い払う。食い殺そうかとも思ったけど、反撃されて負傷したら面倒だ。まだ4日間も試験があるんだから、安全第一で対処した。
しかし、ここまで野生動物が出没するのは異常だ。もしかしたら本当に、ここら一帯に人間が居ないのかも。試験の為にと、一時的に進入禁止エリアにしていそうだ。
人の気配が無いと、山から下りてきたりするからね。野生動物って。
「うわっ!何だこりゃ」
早朝。
朝食の準備で出て来た馬場山君が、目を剝いて驚いた。俺が取り置いた蛇の死体を見て、顔を引きつらせる。
何って、みんなの朝食だよ。ネズミや狐は感染症が怖いから無理でも、それくらいなら人間でも食べられるでしょ?
そう思って取っておいたのに、みんなは馬場山君と同じような顔で首を振った。
美味いのに。
「綾ちゃん、お腹大丈夫?毒とかないの?」
焼けた蛇肉に食らいつく持田さんに、蜂須賀君が恐る恐る尋ねる。
持田さんは「ふぁい」と食べながら答えた。
「問題ありません。以前にも、食べたことがありますので」
「それって、前に行ってた修行って奴?」
「はい」
なるほど。やはりこの娘は只者じゃない。次は彼女の為に、カモシカも取ってあげようかな?
そうして楽しく朝食を頂いていると、みんなの端末が鳴った。ユリ姉さんが俺に、画面を見せてくれる。
こう書かれていた。
〈ミッション1開始:リーダーに従え。
これから不定期で、こちらからリーダーを指定する。指定された者はメンバーに指示を出し、グループの行動方針を決め、グループを束ねる事。リーダーの期間は、こちらから次のリーダーを指定するまでとする〉
ほぉ。リーダー制か。これは受験者のリーダーシップを見ると同時、他のメンバーの動きも見ている為の物かもしれない。誰がリーダーでも、しっかりと言うことを聞くか。またリーダーが間違った時に正せるか。そんなのが見たいんじゃないか?
俺は木の上を見上げる。こちらを見ている監視カメラに【そうでしょ?】と問いかける。
「最初のリーダーは蜂須賀だ。なんか指示出せ」
「ほいほ~い。そんじゃ早速、コイン探しにレッツゴー!」
「ゴー!」
元気に拳を上げる蜂須賀君とシアンさん。
それに、ユリ姉さんが「待って」と首を斜めにする。
「集めるのは良いけど、荷物はどうするつもり?」
「えっ?置いてって良いんじゃない?重いし」
「そーそー。コイン探しどころじゃないよ」
リーダーの決定に、みんな反論しない様子。
おっと、それは不味い。
【ちょい待ち!食料だけは持ってって!】
「どったの?ヴァル」
屈んだ蜂須賀君に、俺は食料の入った袋を咥えて見せる。
それを見て、シアンさんが笑みを浮かべる。
「なに?なに?食べ物が心配なの?誰も取らないって」
「そうだよね。まだ誰も来てないみたいだし。そもそもみんな、まだ食料あるだろうし」
そうじゃない。この近くにはツキノワグマも居るんだ。あいつらの嗅覚を舐めたらアカンで。
俺が必死に頭を振ると、ユリ姉さんが俺の背中を撫でる。
「この子の言う通りにしましょう。きっと、何か考えがあるのよ」
「夜中に何か見たのかも知んねぇぞ?深夜に森の方を見て唸ってたからな」
流石はご両人。俺のことを良く分かってらっしゃる。
「分かった、分かった。食料と水は持って行こう。それで良いかい?」
【ありがとう!】
話が纏まり、俺達は出発する。
さぁ、今日から本格的に、コイン集めスタートだ。




