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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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40/60

40話〜乗り込んで下さい〜

「お帰り〜、ヴァルちゃん。面接どうだった?」

【楽しかったよ(ワフ)】


 ロビーで手を振る蜂須賀君に、俺は駆け寄って報告する。

 これは強がりではない。怒鳴られた時はびっくりもしたし、色々理不尽もあった。でも、考えさせられる事も多かった。

 鈴原先生が言っていた、冒険者になる理由とかね。俺はこの世界の異常を見つけるんだって、再認識させられた。

 

 男性教諭の質問も面白かった。1人とパーティー、どちらを選ぶかって奴。

 俺はどちらもって答えたけど、きっとそう言う場面は出てくると思う。そうなった時、本当に両方を選べる様に俺は強くならなくちゃいけない。

 所詮この世は弱肉強食。強くなければ、生きていけないのだから。


「だよねぇ〜。やっぱ大変だったよねぇ〜。僕の方もさぁ、いきなりキレられちゃって。冒険者を甘く見るなっ!て迫られて、反応に困っちゃったよ」


 困ると口では言っているが、蜂須賀君はヘラヘラ笑う。

 やっぱり圧迫面接だと分かっていたから、心構えが出来たんだろうか?


 そう思ったけど、それは間違いだったかも知れない。面接が終わった人が次々にロビーへと集まり、青い顔を見合わせていた。中には、泣き出してしまう子もいた。

 うん。まぁ、経験がないと怖いよね。

 でも、あんなおっさんの赤ら顔より、赤龍やボスマンモスの方が断然怖い。冒険者になるには、これくらい笑って対応しなくちゃいけないんだ。

 この、蜂須賀君みたいに。


『これにて、本日の試験は終了です。受験者の皆さん、お疲れ様でした』


 みんなが帰ってきたタイミングで、ロビーに放送が流れる。

 結果は明日朝に発表されるので、今日は解散との事だった。また、合格者はそのまま二次試験が始まるので、準備して結果発表を見に来る様に言われた。

 でも、準備って?


【教えてちょうだい(アオアオ)】


 俺は蜂須賀君の足に縋り付く。

 彼は「よしよし」と撫でくりまわすばかりだったが、ユリ姉さんが「明日の事で不安なんじゃない?」とフォローしてくれた。

 流石は姉御。


「貴方は何も心配しなくて良いわ。二次試験は屋外での実地試験だから、動ける服装になるってだけだから」


 なるほど。ならば俺は関係ない。外でも内でも、俺は常に真っ裸だからね。

 俺は安心して宿舎へと戻る。夕方には鈴原先生が様子を見に来てくれて、ドッグフードも与えてくれた。シーチキンを乗せた特別製だ。「貴方なら受かるわ」何て言って撫でてくれたけど…良いんですかね?試験官をしていた貴女がそんな事を言って。


 そうして一晩休んだ俺は、朝早くに試験会場へと向かった。当然の様に先生が付き添ってくれるけど、彼女は今日非番らしい。二次試験は別の先生方が受け持つそうだ。

 それなのに、態々ありがとうございます。


「おーい!ヴァルちゃん!」


 会場に着くと、蜂須賀君が元気に手を振っていた。近寄ると、彼は俺を抱っこして、会場の昇降口横に設置された電光掲示板を見せ付ける。


「見てみなよ、ヴァルちゃん。君の番号があるでしょ?」

【ほんとだ(ワン)!】


 そこには、俺の受験番号である1111番号が点灯していた。馬場山君も、委員長の番号もある。

 良かった。筆記が壊滅的だったから心配だったけど、体力測定で巻き返せたみたいだ。

 蜂須賀君のもあるんだよね?


「僕のはここ。シアちゃん達もあるし、ババちゃんのも委員長のもある。うちのクラスは殆ど受かったみたいだよ」


 おお。そいつは良かった。

 俺が尻尾を振っていると、後ろで先生が「おっほん」と分かりやすい咳払いをした。


「あら?スズちゃん先生も居たの?」

「スズちゃんは止めなさい、蜂須賀君。それより貴方達、もっと危機感を持った方が良いわよ?ここの順番は、そのまま一次試験の順位になっているんだから」


 おぉ。そうなのか。

 俺はもう一度掲示板を見る。俺の番号は真ん中よりちょい上位の位置で、馬場山君はその後ろ。蜂須賀君達はもっと後ろだった。

 委員長は流石だな。トップクラスに入っている。そして1番は、式守君と。

 確かに、彼らとの差は歴然。一次が受かったからって、ウカウカしていられないぞ。


『通過者の皆さ〜ん!こちらに集まって下さい!』


 掲示板前で合格を喜んでいたら、拡声器で呼びかけられた。向かうと、試験官がズラリと並んでいて、その後ろに大型バスがズラリと停車していた。

 1、2、3…10台以上あるな。一次通過者が660人らしいから、単純計算で13〜14台くらいか?

 数えていると、試験官の前に拡声器を持った男性が進み出る。一礼して、バスを手で指す。


『皆さん。一次試験通過、おめでとうございます。これから皆さんには、二次試験の会場まで移動して貰います。時間がありませんので、早速乗り込んで下さい。各自、バスの入口で通信機器を預けて、座席表を確認してから乗って下さい』


 言われるまま、受験者はバスへ向かう。俺も1番右のバスに番号があったので、その席に座る。


「ちっ。またてめぇが隣か」


 俺の隣は馬場山君だ。もう既に腐れ縁だな、君とも。

 俺が【よろしく】と言う思いで馬場山君を見詰めると、彼はニヤッと口元を歪めた。


「気ぃ抜くなよ?犬っころ。既に試験は始まってんだからな」


 うん?どう言うこと?

 俺が首を傾げると、馬場山は窓を指さす。

 そこには、ニヤける青年とマヌケな犬がこちらを見詰め返していた。

 マジックミラーか。


「こうやって、外の景色を見せねぇつもりだ。説明の時も、何時着くか、何処に向かうか言って無かったろ?そうやって、精神的にも追い詰めてるって訳だ」

【なるほど(アオゥ)】


 既に試験が始まっているって、そう言う事か。もしかしたらバスの中も、試験の対象かも知れないのね。

 そう思った俺の考えは、当たっていそうだった。バスに全員乗ると、試験官2人が乗り込んで来て、運転席前に設置されたカーテンを引く。すると、バスは完全に隔離された空間になった。後ろにトイレも付いてるし、パーキングエリアに寄るつもりも無いらしい。

 試験官もジッとこちらを見ているし、こりゃ予想通りだ。


「ねぇ、ババっちぃ。シルトリしない?」


 振動から場所の推測が出来ないか?と考えていると、前の席から蜂須賀君の顔がポンッと出てきた。馬場山君が「寝ぼけてんのか?てめぇ」と取り合わないと、隣からシアンさんの笑顔も飛び出す。


「いいじゃん、いいじゃん。どうせ暇なんだしさ。ヴァルちゃんも一緒にやる?」

【|お気持ちだけで結構です《ワフゥ~》】

「ほら、ヴァルちゃんもやる気だよ?」


 イケイケな2人に、周りも自然とゲームをする空気になっていった。馬場山君は渋るが…試験官は止める様子もない。寧ろ、2人でコソコソ喋りながら頷いている。

 高評価なのか?思えば、一次試験で測られたものは全部、冒険者の資質に関連する物だった。筆記の内容は冒険で役に立つ知識だったり、そこで使う数式や物理化学だった。体力テストの種目も走る系に偏っていたし、最後の障害物走なんてレンジャー訓練かと思った。

 当たり前だけど、全部が冒険で必要な技能であり、彼らが評価するのもそう言った能力と推測できる。


 そう考えると、このバスの中では何を見られると考えられる?密室空間で耐える精神力?それとも感覚だけで位置を特定する空間把握能力?

 案外、仲間とのコミュニケーション能力を見ているかもしれない。外を見せない事で、必然的に内側に意識を持って行かせようとしているのかも。

 だとしたら…蜂須賀君達は大正解だ。


「はい、ババちゃん。ろ、だよ。ろ。10秒以内に答えてね」

「あぁ?やらねぇって言ってんだろ」


 手を振り拒否する馬場山君の腕に、俺は両前足を乗せる。やりましょうよ?と目で訴える。


「ほら、ヴァルちゃんからも応援されてるよ?」

「良いなぁ。あたしもヴァルちゃんに応援されたい」

「ちっ。うるせぇ奴らめ。…六法全書。ほら、答えたぞ」

「うわぁ。難しいの行くね、ババちゃん。普通、ロッカーとか、ロールケーキとかじゃね?」

「頭良いアピールしてるぅ~」

「うっせぇぞ!お前ら。良いから次に回せ。俺に構うな!」


 キレ散らかす馬場山君。バスの中では笑い声が起こる。さっきまで顔を強張らせていた人達も、今では随分と明るい表情を浮かべていた。

 気のせいか、試験官達の雰囲気も丸くなっている気がする。これは良い傾向なのか?

 

 それからも蜂須賀君達のお陰で、バス内の雰囲気は和やかだった。結構長い時間を車内で過ごした筈だけど、体感時間ではあっという間に感じる。

 そして、バスは速度を落とす。さっきから振動が激しくなっているとは思ったけど、随分な悪路に入っている様子。

 そんな状態が10分ほど続いた後、バスは完全に停車した。

 今まで黙っていた試験官達が、立ち上がる。


「皆さん。目的地に到着しました。先ずは全体ミーティングがあるので、バスを降りたら前の広場に集まって下さい。くれぐれも、勝手な行動はされないように。ここではそれが、命取りとなりますので」


 命取り?

 不吉なワードに、さっきまで笑い声を上げていた受験者達は顔を見合わせる。それを、不敵な笑みで見る試験官。片方が分厚いカーテンに手を掛け、一気に開けた。

 すると、目の前に鬱蒼と茂った密林が広がった。

 ここは?


「ようこそ皆さん。二次試験会場へ」

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― 新着の感想 ―
特別製ドッグフード… 上はしっとり(シーチキン)、下はカリカリ?w ありがたい事ぢゃ (‐人‐) 富士山が見えれば、樹海特設試験会場なのだろうか? 何百人も連れてきたら数人くらいロストしそうなw ―…
何処だか知りませんが、異界は繋がっているんですよね? 匂いを嗅ぎつけてハウンズが駆け付けそうw ちゃんとステイできるかな?
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