40話〜乗り込んで下さい〜
「お帰り〜、ヴァルちゃん。面接どうだった?」
【楽しかったよ】
ロビーで手を振る蜂須賀君に、俺は駆け寄って報告する。
これは強がりではない。怒鳴られた時はびっくりもしたし、色々理不尽もあった。でも、考えさせられる事も多かった。
鈴原先生が言っていた、冒険者になる理由とかね。俺はこの世界の異常を見つけるんだって、再認識させられた。
男性教諭の質問も面白かった。1人とパーティー、どちらを選ぶかって奴。
俺はどちらもって答えたけど、きっとそう言う場面は出てくると思う。そうなった時、本当に両方を選べる様に俺は強くならなくちゃいけない。
所詮この世は弱肉強食。強くなければ、生きていけないのだから。
「だよねぇ〜。やっぱ大変だったよねぇ〜。僕の方もさぁ、いきなりキレられちゃって。冒険者を甘く見るなっ!て迫られて、反応に困っちゃったよ」
困ると口では言っているが、蜂須賀君はヘラヘラ笑う。
やっぱり圧迫面接だと分かっていたから、心構えが出来たんだろうか?
そう思ったけど、それは間違いだったかも知れない。面接が終わった人が次々にロビーへと集まり、青い顔を見合わせていた。中には、泣き出してしまう子もいた。
うん。まぁ、経験がないと怖いよね。
でも、あんなおっさんの赤ら顔より、赤龍やボスマンモスの方が断然怖い。冒険者になるには、これくらい笑って対応しなくちゃいけないんだ。
この、蜂須賀君みたいに。
『これにて、本日の試験は終了です。受験者の皆さん、お疲れ様でした』
みんなが帰ってきたタイミングで、ロビーに放送が流れる。
結果は明日朝に発表されるので、今日は解散との事だった。また、合格者はそのまま二次試験が始まるので、準備して結果発表を見に来る様に言われた。
でも、準備って?
【教えてちょうだい】
俺は蜂須賀君の足に縋り付く。
彼は「よしよし」と撫でくりまわすばかりだったが、ユリ姉さんが「明日の事で不安なんじゃない?」とフォローしてくれた。
流石は姉御。
「貴方は何も心配しなくて良いわ。二次試験は屋外での実地試験だから、動ける服装になるってだけだから」
なるほど。ならば俺は関係ない。外でも内でも、俺は常に真っ裸だからね。
俺は安心して宿舎へと戻る。夕方には鈴原先生が様子を見に来てくれて、ドッグフードも与えてくれた。シーチキンを乗せた特別製だ。「貴方なら受かるわ」何て言って撫でてくれたけど…良いんですかね?試験官をしていた貴女がそんな事を言って。
そうして一晩休んだ俺は、朝早くに試験会場へと向かった。当然の様に先生が付き添ってくれるけど、彼女は今日非番らしい。二次試験は別の先生方が受け持つそうだ。
それなのに、態々ありがとうございます。
「おーい!ヴァルちゃん!」
会場に着くと、蜂須賀君が元気に手を振っていた。近寄ると、彼は俺を抱っこして、会場の昇降口横に設置された電光掲示板を見せ付ける。
「見てみなよ、ヴァルちゃん。君の番号があるでしょ?」
【ほんとだ!】
そこには、俺の受験番号である1111番号が点灯していた。馬場山君も、委員長の番号もある。
良かった。筆記が壊滅的だったから心配だったけど、体力測定で巻き返せたみたいだ。
蜂須賀君のもあるんだよね?
「僕のはここ。シアちゃん達もあるし、ババちゃんのも委員長のもある。うちのクラスは殆ど受かったみたいだよ」
おお。そいつは良かった。
俺が尻尾を振っていると、後ろで先生が「おっほん」と分かりやすい咳払いをした。
「あら?スズちゃん先生も居たの?」
「スズちゃんは止めなさい、蜂須賀君。それより貴方達、もっと危機感を持った方が良いわよ?ここの順番は、そのまま一次試験の順位になっているんだから」
おぉ。そうなのか。
俺はもう一度掲示板を見る。俺の番号は真ん中よりちょい上位の位置で、馬場山君はその後ろ。蜂須賀君達はもっと後ろだった。
委員長は流石だな。トップクラスに入っている。そして1番は、式守君と。
確かに、彼らとの差は歴然。一次が受かったからって、ウカウカしていられないぞ。
『通過者の皆さ〜ん!こちらに集まって下さい!』
掲示板前で合格を喜んでいたら、拡声器で呼びかけられた。向かうと、試験官がズラリと並んでいて、その後ろに大型バスがズラリと停車していた。
1、2、3…10台以上あるな。一次通過者が660人らしいから、単純計算で13〜14台くらいか?
数えていると、試験官の前に拡声器を持った男性が進み出る。一礼して、バスを手で指す。
『皆さん。一次試験通過、おめでとうございます。これから皆さんには、二次試験の会場まで移動して貰います。時間がありませんので、早速乗り込んで下さい。各自、バスの入口で通信機器を預けて、座席表を確認してから乗って下さい』
言われるまま、受験者はバスへ向かう。俺も1番右のバスに番号があったので、その席に座る。
「ちっ。またてめぇが隣か」
俺の隣は馬場山君だ。もう既に腐れ縁だな、君とも。
俺が【よろしく】と言う思いで馬場山君を見詰めると、彼はニヤッと口元を歪めた。
「気ぃ抜くなよ?犬っころ。既に試験は始まってんだからな」
うん?どう言うこと?
俺が首を傾げると、馬場山は窓を指さす。
そこには、ニヤける青年とマヌケな犬がこちらを見詰め返していた。
マジックミラーか。
「こうやって、外の景色を見せねぇつもりだ。説明の時も、何時着くか、何処に向かうか言って無かったろ?そうやって、精神的にも追い詰めてるって訳だ」
【なるほど】
既に試験が始まっているって、そう言う事か。もしかしたらバスの中も、試験の対象かも知れないのね。
そう思った俺の考えは、当たっていそうだった。バスに全員乗ると、試験官2人が乗り込んで来て、運転席前に設置されたカーテンを引く。すると、バスは完全に隔離された空間になった。後ろにトイレも付いてるし、パーキングエリアに寄るつもりも無いらしい。
試験官もジッとこちらを見ているし、こりゃ予想通りだ。
「ねぇ、ババっちぃ。シルトリしない?」
振動から場所の推測が出来ないか?と考えていると、前の席から蜂須賀君の顔がポンッと出てきた。馬場山君が「寝ぼけてんのか?てめぇ」と取り合わないと、隣からシアンさんの笑顔も飛び出す。
「いいじゃん、いいじゃん。どうせ暇なんだしさ。ヴァルちゃんも一緒にやる?」
【|お気持ちだけで結構です《ワフゥ~》】
「ほら、ヴァルちゃんもやる気だよ?」
イケイケな2人に、周りも自然とゲームをする空気になっていった。馬場山君は渋るが…試験官は止める様子もない。寧ろ、2人でコソコソ喋りながら頷いている。
高評価なのか?思えば、一次試験で測られたものは全部、冒険者の資質に関連する物だった。筆記の内容は冒険で役に立つ知識だったり、そこで使う数式や物理化学だった。体力テストの種目も走る系に偏っていたし、最後の障害物走なんてレンジャー訓練かと思った。
当たり前だけど、全部が冒険で必要な技能であり、彼らが評価するのもそう言った能力と推測できる。
そう考えると、このバスの中では何を見られると考えられる?密室空間で耐える精神力?それとも感覚だけで位置を特定する空間把握能力?
案外、仲間とのコミュニケーション能力を見ているかもしれない。外を見せない事で、必然的に内側に意識を持って行かせようとしているのかも。
だとしたら…蜂須賀君達は大正解だ。
「はい、ババちゃん。ろ、だよ。ろ。10秒以内に答えてね」
「あぁ?やらねぇって言ってんだろ」
手を振り拒否する馬場山君の腕に、俺は両前足を乗せる。やりましょうよ?と目で訴える。
「ほら、ヴァルちゃんからも応援されてるよ?」
「良いなぁ。あたしもヴァルちゃんに応援されたい」
「ちっ。うるせぇ奴らめ。…六法全書。ほら、答えたぞ」
「うわぁ。難しいの行くね、ババちゃん。普通、ロッカーとか、ロールケーキとかじゃね?」
「頭良いアピールしてるぅ~」
「うっせぇぞ!お前ら。良いから次に回せ。俺に構うな!」
キレ散らかす馬場山君。バスの中では笑い声が起こる。さっきまで顔を強張らせていた人達も、今では随分と明るい表情を浮かべていた。
気のせいか、試験官達の雰囲気も丸くなっている気がする。これは良い傾向なのか?
それからも蜂須賀君達のお陰で、バス内の雰囲気は和やかだった。結構長い時間を車内で過ごした筈だけど、体感時間ではあっという間に感じる。
そして、バスは速度を落とす。さっきから振動が激しくなっているとは思ったけど、随分な悪路に入っている様子。
そんな状態が10分ほど続いた後、バスは完全に停車した。
今まで黙っていた試験官達が、立ち上がる。
「皆さん。目的地に到着しました。先ずは全体ミーティングがあるので、バスを降りたら前の広場に集まって下さい。くれぐれも、勝手な行動はされないように。ここではそれが、命取りとなりますので」
命取り?
不吉なワードに、さっきまで笑い声を上げていた受験者達は顔を見合わせる。それを、不敵な笑みで見る試験官。片方が分厚いカーテンに手を掛け、一気に開けた。
すると、目の前に鬱蒼と茂った密林が広がった。
ここは?
「ようこそ皆さん。二次試験会場へ」




