↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/60

33話〜アヌビス、神〜

「河崎重騎士団の波多野兄弟です。ここを通してください」


 人混みを掻き分けて、何とか受付に到着した俺は、その手前で検問を敷いている自衛隊員に向かって冒険者カードを突き付ける。すると、最初は怪訝な顔で俺達を睨んでいた隊員も、ビシッとくるぶしを合わせて敬礼した。


「2級冒険者の波多野陽太さんに、1級冒険者の波多野海斗さんですね?緊急招集をお受け下さり、ありがとうございます」


 隊員に連れられて、俺達は裏の更衣室に通される。なんでも、街の方は混乱しており、武具の預かり所が機能していないんだとか。だから、ここでレンタル武具を借りるように言われたんだが…。


「しっくりこねぇな。この武器ってアレだろ?マギクォーツ製だろ?これじゃ、ちょっと斬っただけですぐ折れちまうよ」


 弟の海斗が文句を言う。

 仕方ないだろ、海斗。こいつらは全部レンタル品。何時も使っているマグライト製とは訳が違うんだ。寧ろ、魔鉄製じゃないだけ感謝しろ。

 

「グダグダ言ってないで、とっとと行くぞ。向こうは相当ヤバい状態なんだから」


 ラジオから流れる情報は、時間を追う毎に緊迫感を増していた。車を降りる時なんて、マンモスが城壁に体当たりした!って言っていたし。

 1秒も無駄に出来ない。だから、俺はレンタルで我慢してんだ。

  

「分かってるよ、ヨウちゃん」


 海斗も分かっているみたいで、素直に俺の背に付いてくる。

 くそっ。レンタル品でも様になってるな。俺なんてサイズがキツすぎて、自慢のアフロが潰れちまってる。

 なんか、不安だな。


「そんじゃ、行ってきます」


 ゲート前に並んでいた自衛隊員と共に、俺はゲートを潜る。途端に視界が切り替わり、向こう側の街並みが広がった。

 でも、いつもと違う。空は黄色く淀み、血と火薬と排ガスの匂いが鼻を突く。向こうの方では黒煙が登っており、遠くでは爆発音がしていた。

 そして、


「早くしろ!止まってんじゃねぇ!」

「おいおい、何やってんだ!」

「お母さんを探して!お願い!お母さんが居ないの!」


 悲鳴。

 怒号。

 詰めかけた人達が、あらん限りの声で泣き叫んでいた。普段は優しい顔で「いってらしゃい」を言ってくれる街の人達が、今は鬼の形相でゲートへ詰めかけていた。

 それを、ゲート前で警察が受け止める。


『押さないで下さい!押さないで!荷物は全部置いて、身分証だけご提示ください!』

 

「ふざけるな!置いてなんて行けるか!これが俺の全財産なんだ!」

「魔石だけなら良いだろ?場所取らないからさぁ」

「そんな事よりお母さんよ!お願い!あの人足が悪いの。探すのを手伝って頂戴!」


『皆さん!落ち着いて!順にゲートを潛って!』


 大混乱だ。ゲートは狭いのに、大荷物を運び出そうとする人がそれを塞いでしまって、後ろにも大行列が出来ている。ここでは商人が多いから、余計にがめつい奴が道を塞いでしまったみたいだ。

 俺達が入った側も使えば良いんだろうけど、そっちは自衛隊や冒険者が使っている。追加戦力を削ぐ事になるから、避難路としては使えない。

 これは、不味いな。


「おい。何の音だ?」


 何かが倒壊する音が響き、象の鳴き声の様な物が聞こえた。

 次に感じたのは、地響き。ずっと感じていた微細な振動ではなく、ドドドドッと直下地震にも似た大きな縦揺れだった。

 

 そして、それは現れる。

 4階建てのホテルをなぎ倒し、街道の向こう側から姿を表したのは、山の様に大きなマンモス。

 トランプルマンモス。

 その、親玉だった。


「「きゃぁあああ!!」」「「うわぁあああ!!」」


 絶叫が響き渡る。辛うじて保たれていた秩序まで崩壊し、人々は我先にとゲートへ殺到する。誰が見ても明らかな死を前に、全員が恐怖で理性を失っていた。

 その声を聞き、マンモスは歓喜する。鼻を振り回し、こちらへと走り寄る。

 爆走する。街道の石畳を踏み潰し、商店街をなぎ倒し、一直線にこちらへ猛進する。


「「ぎやぁああ!!」」「「いやぁあ!!」」

「助けてぇ!」

「死にたくない、死にたくない!」

「あああぁあ!!」


 絶望。

 濃厚な死の香り。

 

 誰もがここから、逃げ出そうとする。

 そんな中、俺達は…。


「行くか、ヨウちゃん」

「おう」


 狂った俺達兄弟は、前に出る。借り物の武器を構えて、仮初の勇気で背筋を伸ばす。


「あーあ。せめて、俺の剣があればなぁ」

「バカ言ってんなよ、海斗。あんなの、マグライトでも歯が立たなかったろ。伝説のファムタイトでもありゃ別だけどな」


 最期までバカを言い合って、俺達は笑う。

 さて、お仕事を始めようかね。

 

 俺が駆け出そうとしたその時、後ろで「頼んだ」と言う声が聞こえた気がした。空耳かと思って振り向こうとしたら、頭上を何かが飛んでいた。

 鳥か?飛行機か?いや、これは…。


【ワフゥ】

「いっ、犬?」


 なんで、こんな所に?

 俺が呆気に取られている間にも、犬は俺達に背を向ける。猛進するマンモスに対して、牙を剥く。

 大きく、吠えた。


【ワォオオオン!】


 ゾクリッと、俺の中で信号が灯る。自然と数歩、後ろに下がってしまった。それは、弟の海斗も同じ。

 そして、結果的にそれは正解だった。

 犬は見る見る大きくなっていき、変容していった。二足歩行のワーウルフになり、甲羅を背負った亀の化け物になる。

 そして、更に大きくなる。倍の大きさに、更にその倍の大きさとなり、まだ肥大化は止まらない。

 とうとう、見上げる程の大きさになってしまった。目の前に迫る、マンモスにも負けない程の巨体。

 巨大な、石の犬。

 まるで…これは…。


「アヌビス、神」


 海斗の言葉に、俺はただ頷くしか出来ない。

 アヌビス、守り神。それが今、俺達の前にいる。俺達を守る様に、立ち塞がっている。

 凶悪なマンモスと、対峙する。


【ワォオオオオオン!!!】


 アヌビスが吠える。迫り来るマンモスに向かって、駆ける。躍動する四肢。そのまま、マンモス目掛けて体当たりした。

 ズシンッ。

 衝撃がこちらにまで伝わり、背後で住人達が悲鳴を上げる。

 だが、止まった。絶望かと思われたマンモスの進軍は止まり、アヌビスと押し合いを始める。

 拮抗している。あのマンモスと。


「良いぞ!やれ!アヌビス!」


 海斗が興奮気味に声を上げると、まるでそれに答える様に、アヌビスは顔を上げる。マンモスの鼻に、思いっきり噛み付いた。


【パォオオン!?】


 マンモスの悲鳴。

 うぉ、凄いな。まるで怪獣映画を見ている気分。もしかして俺、まだ夢の中だったりするのか?

 現実離れした大怪獣バトルに「ほぇ〜」と呆けていると、肩を揺すられた。

 海斗だ。


「何やってんだよ、ヨウちゃん。俺達も行くぞ」

「はぁ?行くって、お前。まさか…」


 俺が問うと、海斗はニカッと笑った。

 そして指さす。大怪獣達を。


「加勢するに決まってんだろ!」

「ちょっ、マジかよ!?」


 俺は絶句した。


 〈◆〉


 不味い、不味いぞ!

 俺はマンモスの鼻に噛み付きながら、焦っていた。

 さっきから寒気が加速度的に上がっている。チャリ乗車中に魔石でMP回復したのに、もう底を尽きそうな勢いだ。

 この進化、ヤバい。ボスマンモスにも匹敵する力は出せるけど、一瞬で魔力を持っていかれる。

 早く、倒さないと。じゃないと、街が。


「よーしっ。到着!」


 焦る俺の耳元で、呑気な声が聞こえた。チラリと見ると、俺の肩に冒険者が乗っていた。

 臭い的に、俺を斬り付けたツンツンヘアか?

 まさか、また俺と戦いに?


 不安に思うも、俺は動けない。

 その間にも、冒険者は両手剣を構える。そして、飛び上がった。


「イェーイ!!」


 あの時見た乱舞を繰り出す。でも、その剣先で刻まれたのは、


【パォオオオン!?】


 マンモスだった。

 冒険者は回転しながらマンモスの背中を乱れ斬りして、尻尾まで斬り付ける。そして、痛みで仰け反ったマンモスの背から「よっと」と軽々しい声を発して飛び降りた。

 相当強いな。あの女性弓兵と同じくらいか?

 

「そりゃ!」


 俺の足元で、もう1人の冒険者が剣を振るう。立ち上がったマンモスの腹部分を切りつけて、大きな傷を付けていた。

 おお。ナイスだ。やはりこのマンモス、背中より腹の方が防御力が低いみたいだ。

 なら、


【おらぁ(グルゥ)!】


 立ち上がったマンモスに、俺は再度体当たりをかます。そのまま押し込もうとしたが…なんて重量だ。

 この、倒れろ!落ちろ!

 俺は前足に魔力を回し、手を何重にも岩で覆う。そして、その拳でマンモスの腹を殴りつけた。

 何度も、何度も。


【リバー・ブロー(ワゥワオン)!】

【パゥ、パゥウ…】


 効いている。マンモスの漏らす苦しい鳴き声で、それは分かる。

 分かるが、足りない。あと一歩が足りない。マンモスの短い後ろ足が、つっかえ棒みたいに体を支えてしまっている。

 このままだと、俺のMP切れ(タイムオーバー)だ。

 誰か、


【後ろ足を(ガルッ)、斬れぇええ(ワォオオン)!】


 俺の悲痛な叫びに、


「足だ、海斗!」


 呼応する声。


「後ろ足を斬れって、言ってる気がする!」

「マジかよ!ヨウちゃん」

 

 長剣の冒険者がマンモスに駆け寄るのに、驚きながらも付いてくる双剣の冒険者。

 そして、武器を構える。踏ん張るマンモスのアキレス腱を狙い、勢い良く振り下ろした。


「「喰らえっ!」」


 ガクンッ。

 マンモスの体が、一気に沈む。俺に掛かっていた重みが消え、体が後ろへと傾く。俺に押されるままに、仰向けで倒れた。

 今だ。


【喰らい尽くす(ガルルゥウ)!】


 俺は喉元に食らい付き、全力を顎に回す。生きようと暴れるマンモスを押さえ込み、一切の魔力供給を遮断する。

 まだか?まだ生きてるのか?

 持つのか?俺の魔力。

 全身を走る寒気に抗いながら、俺はあらん限りの力を振り絞る。酷い頭痛に耐えながら、神に祈る気持ちで食いしばる。

 すると、


 ブシュリッ…。

 俺の牙が、マンモスの皮膚を貫く。口いっぱいに濃厚な血と肉の味が広がった。ボスの防御力が著しく落ちたんだ。

 つまり、それは…。


【パッ…】


 ボスの体が一瞬震え、四肢が投げ出される。白目がゆっくりと閉じられ、身体中から熱い何かが抜け出る。

 魔力だ。魔力が身体中から抜け出ていた。

 絶命。

 倒した。


「うぉおお!やったぞ、ヨウちゃん!1年ぶりにレベルアップだ!超大型魔獣を倒したんだ!」

「俺もだ海斗!やった、やったんだ俺達!」


 手鏡を見て、喜び合う兄弟。

 それを見て、俺の中で安心感が広がる。薄れ行く意識の中で、温かさを感じた。

 ああ、今度こそ俺は…。


「アヌビス!おいアヌビス!しっかりし…」


 誰かの腕に抱き抱えられる感覚を最後に、俺の意識は途絶えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ダンジョン内の町の崩壊事例があり、モンスターは外へ出て来ないのに一般出入口の規模が限定されるって… アヌビス神… メジェドじゃなくて良かった?w 種族選択は中の人の記憶 or イメージ依存か、雑種犬…
アヌビスて。甲羅も無いし巨大でもない、共通点が黒い体色しかありまへんがな! やはりアフロと、それを許容する奴の感性は独特やな・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。