31話〜今だぁああ!!〜
「くそっ!亀魔獣でもダメなのか…」
俺は悔しさで、城壁の手すりに拳を落とす。顔を上げ、変わらず猛進してくるマンモスの群れを睨みつける。
かなりいい所まで行っていた。ボスマンモスは悲鳴を上げていたし、相当なダメージを与えていた。
だが、火力が足りなかった。倒しきれず、奴は魔法で更なる強化をしてしまった。それで歩みは遅くなったみたいだが、戦車の砲撃が全く効かなくなってしまった。
あの亀魔獣に、もっと力があれば…。
いや、
「バカが。何言ってる」
力を発揮するべきは、俺達の方だろ。
ここは俺達の街。全く関係ない魔獣が戦っているのに、俺達は何をしている?ただ、亀のように街に籠って、悲鳴を上げているだけじゃねえか。
俺達は何だ?冒険者だろうが!
「みんな!準備しろ!」
俺は愛刀を振り上げ、肩に担ぐ。歪でも、大きな笑顔を見せつける。
「お宝が舞い込んで来るぜ?あいつらの魔石1個で、一千万は硬い。街を守りゃ英雄の肩書き付きだ!」
俺の言葉に、数人の冒険者の目の色が変わる。震えていた唇も、硬い笑みを浮かべた。
よし、良いぞ。
そう思ったが、全員が好意的には受け取ってくれなかった。
「何言ってんだ!死んだら意味ないだろ!」
反論する者、今だ階下へ逃げようとする者と混乱が続く。
そんな奴らに、俺は訴える。
「意味はある。俺達の働きで、街を守れる。それに、死ぬと決まってる訳じゃねぇ。あの亀魔獣が見せてくれただろ?奴ら、背中は無防備だ。この壁から飛び乗れば、安全に1本ゲットだ!」
「はぁ?ここから飛び降りる?30mはあるぞ?」
「それがどうした?俺達はただの人間じゃねぇ。冒険者だ」
反論していた奴が、黙る。逃げようとしていた奴らも、何人か戻ってくる。
俺の前で、武器を握る。
「それなら、出来る気がする」
「ここで矢を撃ってても良いんだよな?ちょっとは、分け前くれよ?」
はっ!現金な奴らだ。流石は冒険者だ。
「それ、私も参加して良い?」
階下から、女性の声が聞こえた。
聞き覚えのある声に驚いていると、階段を登ってその人達が現れる。
1級冒険者の高宮さんだ。彼女の後ろには、セブン&アローズの主力部隊が揃っていた。
「みんな、遅れてごめんね。今から私達も、緊急クエストに参加します」
「「おぉおおお!」」
絶望から一転、みんなの目に光が戻る。強がりで笑っていた奴らも、本当の笑みを取り戻す。
「みんな!行くよ!」
「「はいっ!」」
アローズの面々が城壁の縁に並ぶ。背中の弓を構えて、ギリギリと弦を引く。
そして、
ピンッ!
放つ。
勢い良く放たれた矢は真っ直ぐに飛んで行き、マンモスの群れへと向かう。
そして、当的。
深々とマンモスの頭に刺さり、当たったマンモスは痙攣した後にゆっくりと地面に倒れた。
一瞬で、数体のマンモスを倒してしまった。これが、1級。
「「「おぉおおお!!」」」
喝采。周囲は再びお祭り騒ぎ。
そんな中でも、高宮さんは変わらない。次の矢を放った。
ヒュンッ…!
命中。
矢はマンモスの小さな額を撃ち抜き、たった一撃で仕留めてしまった。
なんて強さ。これが、ランカーか。
「うっ。硬い」
そのランカーが、顔を顰める。彼女の睨む先では、巨大なボスマンモスが闊歩していた。そいつの額に、浅く刺さった矢が1本。
くっ。高宮さんでも無理なのか。
【パァオオォオン!?】
そのボスマンモスの横を走っていたマンモスが、悲鳴を上げて暴れる。何かと思って目を凝らすと、そいつの背中には亀魔獣が乗っていた。
彼はまた、マンモスの首筋に食らいついていた。
あいつ…諦めた訳じゃないのか。
「高宮さん!あの亀は撃たないでくれ!街を守る大事な戦力だ!」
「分かってるよ。あのヘルハウンド達もでしょ?」
「あの?」
言われて見ると、そこではマンモスの後ろ足に食らいつくヘルハウンドの群れが居た。一体一体ではマンモスに及ばない彼らは、チームになってマンモスを囲み、狩りをしていた。
狩られる側の魔物達が、逆転劇を見せていた。
親玉が親玉なら、群れも群れだな。
皮肉に感じ、俺は笑う。歓声を上げる野郎共に向かって拳を突き出す。
「お前ら!負けてらんねぇぞ!」
「「「おぉおお!!」」」
「武器を構えろ!」
「っしゃあ!」「やってやる!」「一千万!」
熱い程の士気を背中で感じ、俺達は構える。
そして、
「今だぁああ!!」
「「「わぁああああ!!」」」
壁に突っ込んできたマンモスの背へと、一斉に飛び降りた。
〈◆〉
ズドンッ!ズドンッ!
街へと猛進するマンモスを止める為、戦車団から絶えず砲撃が繰り返される。それで幾分か足は遅くなっているものの、確実にマンモスの群れは壁に近付いていた。
弓での攻撃も始まったみたいだが、俺には当ててくれるなよ?
俺は願いながらも、また1頭のマンモスを食い殺す。どれだけ強くなっているかは分からないが、着実に力は付いてきている感覚がある。
もっとだ。もっと。もっと寄越せ。
俺はワーウルフに退化し、倒れ行くマンモスから別のマンモスに飛び移る。そして、再びクストフに進化する。
魔石のストックがヤバい。こいつを仕留めたら、またクマ君に貰わないと。
振り返ると、後ろの方でマンモスがすっ転び、後ろのマンモスに踏み潰されていた。その死体に、何匹ものヘルハウンドが群がっている。
良いぞ。ちゃんと言い付け通り、後ろ足から攻撃している。マンモスってのはそこが弱点だからな。安全に倒せる。
【お前ら!死の行進に巻き込まれるなよ!2口で離脱しろ!】
【【ガルルゥ!!】】
よしよし。流石はハウンズ。団結力が素晴らしい。
そうして、着実に数を減らしつつあるマンモス軍団。だがとうとう、先頭のマンモスが城壁に到達してしまった。
マンモスの巨体が、次々と壁に体当たりする。
【パォオオオ!!】【ファォオオオ!!】
ズシンッと、壁が大きく揺れる。頑強なコンクリート製の防壁に、長い亀裂が発生する。
こいつはヤバい。そう長くは持たないぞ。
何とか、少しでも早く力を取り込まねば。
俺は焦り、咀嚼のスピードを上げる。
と、その時、
「「「わぁああああ!!」」」
壁の上から大量の人間が降ってくる。鎧を着けているから、全員冒険者だ。
不味い。今の体当たりで落ちたか。あのままでは地面に落下する。
俺は焦り、彼らに駆け寄ろうとした。
でも、彼らはただ落下しなかった。途中で壁を蹴り、人間離れした跳躍を見せる。そして、突撃したマンモスの背中に乗った。
手に持った剣を、勢い良く振り下ろした。
「一番槍は貰ったぁあ!!」
「こっから先は、行かせねぇぞ!」
「一千万!一千万!」
冒険者達はマンモスの上で、繰り返し武器を振るう。余り高ランク冒険者は居ないのか、一刀で殺せる者は少ない。
でも、背中でチマチマやっているだけでも、マンモス達からしたら無視できない。突撃するのを止めて、必死に背中の異物を取ろうと踊っていた。
そして、勢い余って、別のマンモスに突っ込んでいった。
2頭の牙が互いに刺さり、2頭とも倒れ込んだ。
おおっ。一石二鳥って奴か。これはなかなか、効率的。
でも、かなり危険だな。
【みんな!あれを参考にしてくれ!】
俺はハウンズを指さし、冒険者に呼び掛ける。
まぁ、伝わらないだろうと思ってのアクションだったが、1番近くに居た黒坂君が反応してくれて、ハウンズ達を見てくれた。
「後ろ足だ!マンモスの後ろは安置だぞ!」
おお!分かってくれたか。
冒険者達も背後から攻め始めたのを見て、俺は尻尾を振る。
壁に近付いていた個体も減り、少し余裕が出来た。これなら、間に合い…。
【バォオオオオン!!】
空気を震わせる程の、怒号。
ボスマンモスが鼻を振り上げ、再び前線へと上がってきた。
すかさず、10式から集中砲火が始まる。それで幾分かスピードは落ちる。
でも、歩みそのものは止まらない。冒険者達を超えて、降り注ぐ弓矢を跳ね返し、最前線を超える。そして、壁まであと数十メートルと接近すると、
走り出した。
猛進。
独走。
爆走。
【バォオオオオオン!!!】
ズドドドンッ!
4台の10式が壁のすぐ前で構え、砲弾を雨あられとボスマンモスに注ぐ。顔に、鼻に、前足に、大輪の花が咲き乱れる。
だが、止まらない。スピードも落とさない。ボスの目は、ただ真っ直ぐ前しか見ていなかった。
そして、
衝突。
激突。
ドォオンッ!
ボスの倍以上あるコンクリート製の壁が波打ち、クモの巣状に亀裂が走る。
そして、ボスが数歩下がると、体当たりされた部分のコンクリートが音を立てて崩壊する。踏み潰された2台の10式戦車が、その雪崩に埋もれ、壁のあった部分には大きな穴が空いてしまった。
巨大な亀裂。マンモスでもギリギリ通れそうなくらいの大きさだ。
ぐぅっ。間に合わなかったか。
「おいっ!亀魔獣!」
俺が奥歯を噛み締めていると、足元で声がした。
黒坂君だ。
「頼む、俺に手を貸してくれ!奴を倒すんだ!」
真剣な目で俺に訴えてくる黒坂君。
ほぉ?俺が人間の言葉を理解していると勘付いているのか。
面白い。
【良いだろう。乗ってやる】
俺は口の両端をひん曲げた。




