30話〜シェル・プレス〜
ズドーン…。ズドーン…。
俺達が向かう先で、幾つもの爆発が起きる。風が運んでくる臭いには、明らかに火薬と重油の臭いが混じっていた。
人間達の仕業だな?まさか、異世界にまで現代兵器を持ち込んでいるのか?
これじゃ、俺達の出番は無いのでは?と思いながらも走っていると、徐々に爆発音は少なくなっていく。そして、微かに人間達の悲鳴が聞こえた気がする。
苦戦しているのか?トランプルマンモスとは、それ程の脅威なのか。
【総員!深入りはするな?自分と仲間の命を第一に考えろ!】
【【ワオーン!!】】
意思統一を図り、俺達は草原をひた走る。やがてマンモス達が巻き上げた土煙の中に入り、奴らの姿を捉える。
やけに興奮しているな。俺たちが近付いても、全く意に介した様子が全くない。イノシシみたいに、走る事しか考えていないのか。
【総員!無闇に攻撃するな。お前達は先ず、魔石の回収に意識を割け!】
【【アオゥ!】】
俺達は臭いを頼りに、土煙の中を走り続ける。
そして抜ける。
抜けた途端、周囲が良く見える。目の前には、10式の戦車団が砲台をこちらに向けており、その手前にはマンモスの死骸が転がっている。
そして、更に彼方には永遠と続く壁が広がっている。
明治神宮の街。まだ突破された様子はない。
しかし…。
【戦車まで持ち出しても、苦戦するとはな】
踏み潰された戦車の残骸を見て、俺は唸る。これ程までに魔物は強力なのかと、恐怖を覚える。
そして、それをやってのけたであろう巨大なマンモスに、狙いを定める。
こいつが親玉か。戦車の砲撃も防いでいるみたいだし、こいつがいるから苦戦しているのか。
【総員!死骸から魔石と肉を回収せよ。決して、ボスには近付くなよ!】
俺は厳命し、ボスマンモスの体によじ登る。
ぐっ、爪を立てても登り辛い。器用性を上げていないからか。ちゃんと、ゴブリン系も食わないとな。
仕方ない。
【進化ぁああ!】
俺は第一進化し、ワーウルフの腕で無理やり登る。その最中にも、戦車から砲弾が飛んでくる。マンモスの体が揺れ、危うく振り落とされそうになった。
でも、無傷だ。砲弾は全て、ボスが防いでいた。土の壁を作り、弾き返していた。
魔法も使うのか。カバより厄介だな。
俺は何とか登るきり、ボスの背中に乗る。
まるで、攻城櫓に乗った気分だ。あれだけ大きかった壁が、少し小さく見える。
俺は魔力を消費し、魔力を牙へ回す。スキルも使い、最大火力でマンモスの首筋に牙を突き立てる。
でも、
【がっ!?か、硬い…】
全く歯が立たない。試しに爪を立ててみたが、根元から折れてしまった。
おいおい。俺って今、攻撃力500越えだぞ?こいつ、亀の甲羅並の防御力してるのか?
で、あるなら…。
【第2進化だぁああ!!】
魔力をごっそり奪われながらも、俺はクストフへ進化する。そして、牙に回していた魔力も全て、甲羅へ回す。防御力を上げ、甲羅の棘をより強固にする。
ドリルの様に尖らせる。
【この防御力ならどうだ?マンモスの王】
防御力1800越えの暴力スタッツ。更にこの重量を活かし、俺は思いっきりジャンプする。背中をクルリと見せて、そのまま垂直に落下する。
喰らえ。
【シェル・プレス!】
全体重を乗せた俺の一撃は、深々とマンモスの皮膚を貫く。ブシュッと、返り血が空に飛び散った。
大地が、震える。
【バォオオオオオン!!】
ボスマンモスの悲鳴。前足を大きく上げて、特大のウィリーをかます。痛みで鼻をブンブンと振り回した。
効いている。こいつは良いぞ。
俺は手応えを感じ、ボスが前足を下ろすと同時に再びダイブを敢行しようとする。
でも、再びジャンプしようとした矢先、頭上に影が掛かる。何かと思って見上げると、それは高々と掲げられたマンモスの鼻だった。
鼻が、俺の方へと猛スピードで迫る。俺の体を、バシンッと弾き飛ばした。
【ぐはっ!】
圧倒的な体格差に、俺は背中から地面へと叩きつけられる。ダメージを負った感じはしないが、落下の衝撃で目が回ってしまった。
そして、漸く視界が定まると、目の前には左前足を持ち上げたボスマンモスの姿が。奴はお返しとばかりに、その足で俺を踏み付けようとした。
やばっ!潰される!?
俺は慌てて逃げようとするが、起き上がるので時間がかかってしまう。
ダメだ。クストフでは俊敏性が足りない。潰される!
俺は丸くなり、衝撃に備えた。
けれど、
ズバババンッ!!
衝撃が来るより先に、頭上で爆発が起こる。見上げると、マンモスの体に幾つもの黒炎が上がっていた。
戦車団だ。
まるで俺を庇うかの様に、ボスマンモスの左前足に集中砲火を当てていた。
その余りの威力に、ボスマンモスはバランスを崩し、大きく後退した。
よし。今だ!
俺はその場から脱出し、ハウンズと合流する。彼らからマンモスの魔石を受け取り、それを一気に口の中へ。
おおっ。熱いものが体の中を満たしていく。まるで玉龍の仙豆だな。1粒で力が漲ってくる様だ。
魔力を回復した俺は、再びワーウルフに退化し、ボスマンモスに近付く。俺が準備している間も、戦車団が砲撃でマンモスの注意を引いてくれていた。
助かった。ありがとう。
俺はマンモスの体に取り付き、また背中を目指す。その間は、戦車からの砲撃が止んでいた。
完全に、俺のサポートに回ってくれている。
人間が味方とは、心強い。
俺は背中に登りきると同時、再度クストフに進化する。先程シェルプレスで傷付けた場所へ行き、今度は背中ではなく牙に魔力を回す。
傷は少しずつ塞がっていたけれど…完全じゃない。まだ生々しい穴が空いている。
そこに、顔を突っ込む。見えている肉へ、食らいついた。
ガブッ!
【バァアアオオオオオオオン!?!】
世界がひっくり返っているのかと思う程、ボスマンモスは暴れる。俺は傷口に顔を突っ込んでいるので見えないけど、物凄い風圧遠心力を感じる。振り落とされない様、爪にも魔力を送ってしっかりとしがみ付く。
そして、喰らい続ける。ボスマンモスの肉を、パワーを、ステータスを。
その力、頂くぞ!
ズババンッ!!ズバーンッ!
下で複数の爆発音が聞こえる。今がチャンスと思ったのか、戦車団が砲撃を再開した様だ。
その影響か、ボスの大暴れが収まる。振り落とされる心配が減り、俺は更に食べ進めようとした。
でも、止まる。俺の体に、何かが巻き付いた。
何が?
見ると、マンモスの鼻が、俺の下半身を掴んでいた。
そして、思いっきり引っ張られる。振り回される。俺の体は、空中に投げ出される。物凄いスピードで、戦車団へと突っ込んでいった。
不味い!戦車とぶつかる!
【退化ぁあ!】
間一髪、俺は野良犬に退化する事に成功する。でも、岩を纏った体に突っ込まれた戦車は、車体を大きく凹ませてしまう。
うわっ、やっば!12億円の戦車を、傷モノにしちゃった。
弁償とか出来ないぞ?
「車長!亀魔獣が、犬に!」
ショックを受けていると、戦車のハッチが開いて自衛隊員が顔を出す。俺を見て、大きく目を見開いた。
おぉう。こっちもヤバいな。完全に正体がバレた。
「ハッチを閉めろ、白石!奴が来るぞ!」
戦車内部から、悲鳴が上がる。その声で後ろを見ると、ボスマンモスが動き出していた。鼻を高く掲げ、全身が薄らと光っている。
そして次の瞬間、地面の一部が持ち上がり、ボスマンモスの体へと纏わり付いた。全身を隈なくコーティングし、分厚い泥パックを纏った状態になった。
ボスの目が、こちらを向く。怒りに満ちたその瞳が、こう訴えていた。
お前らを、殺すと。
【バォオオオオン!!】
【パォオオン!】【ファォオオン!】
マンモスの大行進が再始動する。こちらへと、凄い速さで迫ってくる。
それに、戦車団は後退する。10式特有の高速移動を行いながら、砲撃も開始した。
うぉっ!ふざけんな!
その爆音に押し出され、俺は戦車から転げ落ちる。慌てて体勢を整えて、迫り来るマンモスの足元をすり抜ける。
ズバンッ!ズババンッ!
背後では砲撃が続く。でも、全身を魔法で覆ったボスマンモスには、全く効いていない。ただ、奴らの注意を引いてしまうだけだった。
あれでは、勝てない。俺の牙も、きっと同じだ。
俺は、遠ざかるボスマンモスの背中を見る。かなりの深手を負わせた筈だが、その傷もコーティングで見えなくなっていた。
ダメだ。俺ではもう、奴にダメージを与える事も出来ない。
今の、俺では。
【アオーーン!】
マンモス達を見送っていると、ハウンズが駆け寄ってきた。俺を心配しているみたいで、頻りに匂いを嗅いでいる。
ありがとう。大丈夫だよ。それよりも…。
【ちょっと手伝ってくれ】
【【アオン!】】
了解とばかりに、ハウンズは動き出す。
頼んだぞ。マンモスが街に到着する前に、間に合わせなければ。




