29話〜バォオオオオオン!!〜
双眼鏡を使わなくても、土煙の中にマンモス達の影が見えるようになっている。
そんな状況でも、俺達が逃げないで構えていられるのは、現代日本の主力兵器が並んでいるからだ。
10式戦車。日本の本土を守る兵器が、今、冒険者の街を守らんと草原に展開していた。その長く雄々しい砲身を、グルんとマンモス軍団の方へと一斉に向ける。
風が、止む。
それと、同時、
ズドンッ!
ズドッ、ズドッ、ズドンッ!!
戦車の砲身先から一斉に、火炎が噴射された。
その場にいた皆の口から「「おぉおお!」」と感動の言葉が漏れ、直ぐにその言葉は掻き消える。
マンモス軍の前線に咲いた、火炎の花びらによって。
ズバンッ!
ズババババンッ!!
「命中!命中命中!全弾命中だ!」
「おぉお!すげぇ!一発で命中なんて」
「あったり前だ!10式戦車だぞ?」
さく裂した砲弾の黒煙を見て、冒険者達が興奮気味に語る。そして、黒煙が晴れて来ると、それは更にやかましくなった。
そこには、地面に横たわるマンモス達の亡骸が広がっていたのだ。
「「「うぉおおおお!!」」」
「やった!やった!」
「倒した!マンモスを倒した!」
高い壁の上だと言うのに、冒険者達はそれも忘れて喜び合い、抱き合い、歓声を上げた。
「すげぇ!通常武器で倒しちまった!あんな化け物を一撃で!」
「ばか、ちげぇよ。あれはただの砲弾なんかじゃない。弾頭にマグライト鉱石を使った、魔物特化の砲弾だ!通常弾で使うタングステンの10倍は掛かる代物だぜ?」
「うわ。札束で殴ってるのか。流石は国家戦力」
「そうだ!命には代えらんねぇからな!」
小躍りする冒険者達。
だが、直ぐに黙る事となる。転がるマンモスの死体の後ろから、大きなシルエットが出てきたから。
後続部隊のマンモスだ。死んだ仲間も容赦なく、その巨体で踏み潰してしまった。
ブシュッ。
仲間の鮮血を浴びながら、軽々と仲間の屍を越えて行くバケモノ達。その後ろにも、まだまだ濃厚な土煙が続いていた。
いや、
【パォオオオオオオオン!!!】【ファォオオオオオオオン!!!】
軽くは無かった。奴らにとっても、仲間を殺された事に怒りを覚える様子。マンモスの大軍勢から上がる怒りの声で、この距離でも耳が痛い程であった。
ズドンッ!ズドッ、ズドンッ!
猛進を続けるマンモスに対し、自衛隊も苛烈に攻め続ける。8台の戦車は絶えず砲撃を繰り返し、マンモスの群れに幾つもの砲弾を叩き込む。
それにより、一匹、また一匹とマンモス達が倒れる。攻め込もうとした個体から真っ先に吹き飛ばされ、徐々に戦線が後退していった。
戦車大隊が、少しずつ前線を押し上げていた。
おおっ!
「いいぞ!このまま行けば勝てる!」
「自衛隊バンザーイ!日本バンザーイ!」
諸手を上げ、冒険者達が歓声を上げる。押し込め、倒せと、善戦する自衛隊にエールを送る。
俺も、いつの間にか握りしめていた拳を解く。普段は消極的な国だけど、こういう時は頼もしい物だと見直した。
と、その時、
【バォオオオオオン!!】
黒煙が濛々と立ち込める大地から、底冷えするような声が聞こえた。
そして、黒煙が割れる。そこから、巨大なマンモスが進み出てきた。元々巨大なトランプルマンモス。それよりも一回りも二回りもの大きさがある化け物マンモスが、俺達の前に現れたのだ。
ああ、言われなくても分かる。こいつが、この大群のボスだってな。
【バォオオオオオン!!!】
ボスマンモスは巨大な鼻を振り回し、仲間たちの屍を踏み潰して行く。頭を振る度に、その巨大な牙が大地をえぐり、深い溝を刻みつける。大地を一歩踏みしめる度に、壁が大きく振動する。
なんて巨体。
その巨体を前に、前線を押し上げていた戦車軍は止まる。砲台をくるりと回し、山の様に大きなボスマンモスに照準を合わせる。
そして、発砲。
砲撃。
ズドドドドンッ!!
示し合わせたかのような一斉射。砲弾は直ぐに、ボスマンモスへと着弾する。
全弾着弾。ボスの体があった空間に、8つの花が咲き誇る。
集中砲火だ。
「ひぇっ!すげぇ爆発だ!」
爆風がここまで届き、冒険者達は耳を押さえながら笑みを零す。
そして、固まる。黒煙が晴れた時、そこにはまだボスマンモスが立っていたから。
【バォオオオオオオオン!!!】
怒号が空気を割り、衝撃波となって草原を掛ける。その声で、ボスの顔や体から大量の破片が落ちる。
破片。それは、土塊であった。ボスの体には、重厚な土の鎧が纏われていた。
「なっ!?」
あいつ、魔法が使えるのかよ!
【バォオオオン!!】【パオォオオン!】
驚いている間にも、マンモス達は動き出す。ボスを先頭に、屍エリアを越えてしまう。前線が、押し返されていた。
ズドンッ!ズドドンッ!
戦車大隊からの砲撃。先ほどよりも砲撃の間隔が短くなり、マンモス群に雨あられと砲弾の雨を振り撒く。
でも、止まらない。マンモス達はもう止まらない。その砲弾の殆どを、ボスが受け止めてしまうから。土のベールを多重に纏うボスは、マグライトの弾頭も難なく受け止めてしまった。
「嘘だろ、おい!マグライト砲弾が効かないなんて!」
「不味いぞ、戦車が!」
悲鳴を上げる冒険者が見る先では、先頭で踏ん張る3台の戦車の姿があった。1歩も引かず、至近距離でボスマンモスに砲撃を浴びせ続ける。
でも、効かない。止まらない。ボスマンモスは更に分厚い土の防御壁を作り出し、砲弾を弾き返した。
そして…。
「ああっ!」
先頭の1台が、踏み付けられる。
ボスの巨大な右前脚に、上から物凄いパワーで押し付けられる。
一瞬、耐えられるかと思った矢先、戦車のフレームが悲鳴を上げ、間もなく小規模の爆発と共に踏み潰されてしまった。
「そんな…10式が…」
「踏み潰されちまった。ダンボールみたいに、ペシャンコだ…」
絶望。
壁に集まった冒険者達は、誰もが震える。見えたと思った希望の光を、あっさりと失ってしまって。
そこに、追い討ちが掛かる。
【バォオオオオオオン!!!】
【パォオオン!】【ファオオン!】
マンモス達の鳴き声。
モウモウと燃え上がる戦車の残骸を足蹴に、長い鼻を高々と掲げ、高々と雄叫びを上げる。
俺にはそれが、まるで勝鬨を上げている様に見えてしまった。
魔物の勝利。
俺たち人間の、敗北。
「「「わぁああぁぁああ!」」」
悲鳴。
絶叫。
金切り声。
絶望を突き付けられた冒険者達は、階下へ逃れようと一斉に走り出す。階段に殺到し、泣き叫ぶ。
「無理だ!殺される!」
「逃げろ、逃げろ!俺たちまで踏み潰されるぞ!」
「戦車でも勝てないなんて!」
普段から魔物を狩る冒険者でさえ、目の前の脅威に泣き叫ぶ。
そしてそれは、俺も同じ。もうみんなを止める程、余裕がなかった。俺も、これは無理だと思い始めていた。仮令、この刃が届いたとしても、マギクォーツの刃が通るとは思えない。上位であるマグライトがあれでは、傷1つ付けられない。
俺も、逃げるべきなのか?
そう、弱気になった俺の耳に、あの時の声が響いた。
あの時、今と同じように絶望的な状況で聞こえた、あの声達が。
【アオーーーーン…】
「なっ!?」
俺は驚く。心臓が飛び跳ね、戦場を振り返った。壁の縁に走り寄り、上半身を乗り出して戦場を見渡した。
何処だ?今の声は、何処から聞こえた?空耳じゃねぇよな?
【アオォオーーーーン!】
また聞こえた。今度はかなりしっかりと。
近い。方向は、マンモスの方?
俺は目を凝らす。マンモス達が上げる濃厚な土煙の中を必死で探す。
すると、その土煙から小さな影が飛び出す。
何匹も、何匹も連なり、草原を駆ける。まるで1匹の生き物の様に、そいつらは理路整然と隊列を組み、並走する。凶悪なマンモス群の真横を。
そいつらは…。
「来たぞ、みんな!ヘルハウンドだ!」
俺は振り返り、階段で詰まっていた冒険者達に声を上げる。呆けた顔をするそいつらに、俺は大きく手招きをする。
「ヘルハウンドだよ!森で俺たちを助けてくれたあいつらが、また現れたんだ!」
「「えぇっ!?」」
興味を持った何人かが、戻ってくる。俺の横に立ち、草原を見渡す。
その先では、ヘルハウンド達の黒い影がマンモスの足元を滑る様に走っていた。
頼む。お前達が本当に救世主なら、もう一度、俺達に手を貸してくれ。
そう祈る思いで、俺は愛刀の柄を強く握りしめた。




