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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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26/60

26話〜アオーーーン…〜

 俺の第2進化が、現実世界でも話題になっている。なんでも、あの時助けた3人の中に動画を回していた奴が居たらしい。

 そんな素振りは見えなかったが、特殊な機械でも使っていたのだろうか?

 それは分からないが、時間が経つ事にお祭りムードになっている気がする。

 そしてそれは、ここ明治神宮前でも同じだった。駐車場で、派手な格好した若者が散見される。そいつらは挙って、スマホを相手にお喋りしていた。


「はい!どうも皆さん、こんばんわ!珍獣ハンターのテルテル坊主ですっ!今日はね、噂になってる亀の魔獣を動画に収めようと思います!ええ~、知らない人の為に補足するとですね。亀魔獣って言うのは、TOMITAクランの冒険者さんを救ったと噂になっている魔物でして…」


 動画配信者か。4級以下は立ち入り禁止になっているらしいから、彼らは3級以上の強者なのだろう。

 この服装からは、とてもそうは見えないけど。


 それ以外にも、やたら亀の着ぐるみやキーホルダーを着けた人も出入りしている。中には、鳥居の前で屋台を開いて、亀饅頭なる物を売り出す強者まで出ていた。

 恐ろしい程に早い便乗の波。今朝の出来事なのに、もう商品化しようとは。行動力が鬼レベル。

 ネットが普及したから、情報のやり取りが高速化しているんだろうな。下手な噂が流れたら、一瞬で晒し者。人間を襲うなと、ハウンズに厳命して大正解だった。


「階段気を付けて下さい、南さん。なんなら、僕の肩に掴まって…」

「てめぇ!どさくさに紛れて、南さんに何しようとしてんだ!」


 屋台に気を取られていると、言い争う声が上から聞こえた。見ると、荷物を大量に抱えた青年達が鳥居から出て来て、階段を降りながら口論していた。そして、そんな青年達の中に、今朝助けた女の子と赤髪青年の姿があった。

 えっ?もしかして彼らが出入りしているのも、明治神宮(ここ)だったのか?ってことは、このゲートの先はあの大きな壁の中ってことなのか?

 俺が驚いている間にも、若者たちは俺が立ち尽くす駐車場へと降りて来る。そして、俺を見つけた南さんが駆け寄って来た。


「わぁ、見て。ワンちゃんが居るよ?誰かのお出迎えかな?」


 彼女が手を出すので、俺は取り敢えず撫でさせてあげる。

 今朝見た時は顔色が真っ青だったけど、今は随分と良い笑顔になっている。十分に休めたのかな?


「お、おい。南。ちょっとそれ、やべぇんじゃねえか?」


 逆に、青年の方は顔色が悪くなっている。俺を見て、顔と体を引きつらせていた。

 ふむ。服装は普段着に戻っているけれど、疲れは色濃く浮き出ている。1人で事後処理に駆け回っていたっぽい。そして、俺を見て引いているのは…犬が嫌いなのかい?


「どうして?黒坂君。とっても大人しいよ?」

「いや、だってよ。そいつ、亀魔獣に進化した子狼にそっくりじゃねぇか。もしかしたら本人…本犬かもしれねぇぞ?」


 なぬ!?まさか、あの暗がりで俺の姿を捉えていたのか?あの窮地に、随分と冷静な人だ。

 感心すると同時に、俺は迷う。逃げた方が良いか、知らぬ存ぜぬで突き通すか。


「あはは。大丈夫だよ、黒坂君。魔物はこっちに来れないから」


 迷っていると、南さんが笑い飛ばす。すると、周囲の青年達も「そうっすよ」と相槌を打った。


「こいつはどう見ても、ただの犬っころっす。動画に映ってたヘルハウンドと比べても…ほら、マヌケそうな面してますし」


 おい。それは事実だが…他人に言われると癪だぞ。


「それに、ただの犬がゲートを潜ったとしても、直ぐ魔物に食われて終わりっすよ。ほら、どっかの国でやってた奴いたでしょ?ペットの虎とか鷲とか連れて無双するとか言っといて、結局主人も一緒に全滅しちまった富豪パーティが」

「虎なんて、向こうの世界じゃ子猫みたいなもんすからね」


 まぁ、そうだろう。俺も、あとちょっとでゴブリン達の餌食だったし。

 

「それはそうだが…例えば、何か特別なスキルとかだったりしないか?そのスキルで、犬とか怪獣とかに変身できるとかよ」


 黒坂君はまだ疑っている。最前線で俺を見ていたからか、情けなく撫でられる姿を見ても意見を変えない。

 しまったな。最後に【ご安全に(ワンッ)!】なんて声かけしなきゃ良かった。

 後悔していると、俺を撫でていた南さんが「あはは」と笑う。

 

「そんなスキル聞いた事ないよ。それに、こっちの世界ではスキルも使えないでしょ?」

「そうっすよ、黒坂さん。スキルが使えたら、こっちの世界でもロシアやアメリカが侵略戦争を始めてますって」


 うん?侵略戦争?


「ああ、まぁ…そうだよな。悪い、俺の勘違いだ」


 物騒な話が飛び出ても、黒坂君は一切驚かない。慎重な彼が納得するという事は、取り巻きの発言がある程度真実性を帯びているということ。

 こっちの世界”でも”って言ったよな。つまりそれって、ロシアやアメリカは異世界の侵略を行っているって事じゃないか?もしもそうなら、街へ帰る直前、3人が言っていた『ボスシルヴァが近くで出るのはおかしい。もしかしたらロシアの影響かもしれないよ?』という発言も、この侵略戦争によって生態系が乱れているって事を示しているんじゃないか?

 だとしたら…。


「じゃあね、ワンちゃん。早くご主人様と会えると良いね」


 考えている間に、南さんは立ち上がり俺に手を振る。赤髪の黒坂君だけは、まだ異世界で仕事があるのか階段を登っていく。途中で亀まんじゅうを買っているけど…中で食べるのかな?

 俺も、尻尾を振って彼らに挨拶だ。大変貴重なお話をありがとう。

 

 そうして青年達を見送った後、俺は帰路に着く。

 情報は充分に得られたから、早く戻ろう。暫く森には近づかないようにって、ハウンズに厳命しなければ。式守プロのような人と出くわしたら、幾らラプトルを狩れる我々でもかなり危険。そうなる前に、手を打たねば。


 俺は夜の都会を駆け抜ける。スキルは使えない筈だが、体に力が満ち溢れていた。

 異世界の肉を食ったからか、筋肉がかなり付いている。以前は食もまともに食べられない状況だったから、殆どパワーが出なかった。だから、今は余計に速く感じるのかも。

 

 自分の体の変化に、ニヤケそうになる。でも、準備はしっかりとする。途中でゴミ箱を漁って、手鏡を入手した。

 やはり人間側も異世界で手鏡を利用しているのか、捨てられる鏡の量が多い。お陰で、ちょっと探せばすぐに新品同然の物が手に入った。

 予備でもう2個くらい拾っておこう。


 そうして柏神社(ホーム)に戻って来ると、周囲はすっかり暗くなっていた。

 出来たら時計も欲しいなと思いながら、俺はゲートを潜る。途端に、体が軽くなって飛び跳ねそうになる。

 いかん、いかん。また鏡を割ってしまうぞ?


【アオーーーン!!】【アオーーーン!】【アオーーーン…】


 瓦礫の山を抜け出すと、途端に周囲で遠吠えが始まる。そして、黒影が瞬時に俺の周りを取り囲んだ。

 うぉ。駆け付けるのが早いね、ハウンズ。流石は人から恐れられる魔物の代表格だ。


【ワォン】


 クマ君が近付いてくる。闇魔法で空間を作り出し、そこから大量の魔石を取り出して見せた。

 おお。居ない間に集めてくれたの?そう言えば、君達また少し大きくなってるし…随分と魔物肉を食べたみたいだね?

 俺は有難く魔石を貰い、鏡を用意する。

 これだけ魔石があれば、検証できる。

 第2進化を。


 と、その前に今のステータスも確認しておこう。ボスラプトルを倒したし。


〈ステータス

種族:雑種犬

LV:44(+2)

HP:135(+4)

MP:164(+4)

物理攻撃力:264(+10) 【+50】

物理防御力:361(+1)

魔法攻撃力:0(+0)

魔法防御力:140(+2)

俊敏性:190(+14) 【+50】

器用性:52(+4)

スキル:瞬発力(小)、剛腕(小)、釣師〉


 おお。レベルが2も上がってる。それに、肉を食べたからステータスも軒並み上昇だ。特に、攻撃力と俊敏性がケタ違いに。

 ボスラプトルを乱獲出来たら最高だが…黒坂君達の発言からは、結構レアっぽいんだよな。

 さて、


【じゃあちょっと(ワオン)、進化するからね(ゥフ)?】

 

 俺は少し離れる様に指示をして、力を溜める。あの時のイメージを思い出し、体を作り変える。

 すると、見る見る視線が高くなり、腕も体も大きくなった。

 うん。


【成功だ(グハ)】


 鏡を見ると、獰猛な亀の魔獣がこちらに笑みを返していた。牙も爪も強そうだし、背中の甲羅から生える棘も凶悪だ。

 ふむふむ。こんな体になっていたのか。さて、ステータスは如何かな?


〈ステータス

種族:クストスウルフ

LV:44(+0)

HP:405(×3)

MP:278/328(×2)

物理攻撃力:528(×2) 【+50】

物理防御力:1805(×5)

魔法攻撃力:0(+0)

魔法防御力:420(×3)

俊敏性:152(×0.8) 【+50】

器用性:52(+0)

スキル:瞬発力(小)、剛腕(小)釣師〉


 おお、面白い。クストスウルフか。攻撃力はワーウルフと変わらないけど、防御力が段違いだ。その代わりに俊敏性が犠牲になっていると。

 …いや、犠牲はもう一つか。

 俺はMPに着目する。すると〈MP:278→276→274…〉と2ずつ減っている。

 ワーウルフの倍の消費量か。進化時も50減ってるし、かなりの大食らい。こいつは慎重に使わないとな。


 俺は進化を解除して、貰った魔石を食べる。

 良い魔石だね。1個で全回復したよ。君達の体が大きくなる訳だ。

 

 俺はみんなを集めて、現代日本で集めた情報を共有する。

 森は入るなよ?明日からは街と反対側に勢力を伸ばしていこう。


【アオーーーン…】


 そうして講義をしていると突然、遠くで遠吠えが聞こえた。

 これは…見張りのハウンドだ。何か起きたらしい。

 何が起きたのか見に行こうとした俺だったが、違和感を覚える。

 地面が、揺れていたのだ。


【なんだ(ワウ)?地震か(ゥウ)?】


 異世界で地震が起きるのか?

 俺は、胸騒ぎがした。

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― 新着の感想 ―
???「おらぁッ!今、必殺の!!△(トライアングル)セントーン!!! ※高速飛翔背面落下体当たり」 レガディウム閣下「グルッ!?(むっ!ブレスは間に合わんか、テールハンマー!!※超遠心力龍尾薙ぎ払い)…
マンモス君「来ちゃった☆」じゃねぇーー!! どのゲートも中で繋がっていて、大国の侵略でモンスターが追い立てられているとしたら・・ 異世界の生態系まで壊そうとするとは、人類はやっぱり愚かですね。
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