24話〜ギルドに報告しないと〜
【いやぁ。肩が凝った】
森を出て朝日を浴びると、俺は思いっきりブルブルと体を震わせる。
行けるかも?と思ってやってみた第2進化だったが、取り敢えず形にはなっていた。二足歩行かつ亀の甲羅は欲しいと思い描いての進化だったが、思ったよりも使い勝手の良い体であった。
その分、魔力消費は激しかった。進化と同時に熱が奪われたし、動くだけでゴリゴリ魔力が減って行くのが分かった。きっと、ワーウルフの倍近い消費スピードだったに違いない。なるべく早く検証しないと。
…でも、今は先ず。
【悪い、みんな。俺は一旦群れを離れる】
俺がそう言うと、みんなは驚いた顔で【アオン!?】【アオン!】叫び出す。
ちょいちょい。別に怪我をしたとかじゃないから。大丈夫、大丈夫。人間に何かされた訳じゃないから、安心して。
ただちょっと、3人の事が心配なんだ。見た所かなり若く、そして随分と疲弊しているように見えたから。女の子なんて、魔力欠乏症で顔が真っ青だった。次に襲われたりなんかしたら、きっと生き残れない。折角助けたのに、それでは寝覚めが悪いだろう。
ヘルハウンドのせいにされかねないし。
と言う事で、俺は彼らが無事に帰りつくまで見守ることにした。見つからないように、周囲を警戒し、雑魚を駆逐するつもりだ。
…勿論、打算的な考えもある。彼ら冒険者が何処から来るのかを把握したいんだ。最近になって、人間とかち合う事が多くなってきた。つまりそれは、彼らの活動拠点に近付いているからじゃないか?
ならば、彼らの来るゲートを把握して、近寄らないようにしたい。それが、俺達の為にもなると考えた。
俺がそう説明すると、何故かハウンズはやる気に満ちる。
あの…聞いてた?俺は1匹で向かうつもりだよ?
…聞いてないね。仕方ない。
俺は、やる気に満ち満ちたハウンズを連れて、人間達の監視を始める。
彼らは相当参っているのか、俺達の存在に気付かない。ただゆっくりと、草原を歩く。
そんなだから、魔物が寄ってくる、寄ってくる。ホーンラビットを始めに、ゴブリンやコボルトなんかがひっきりなしに顔を出す。
やはり、魔物にとって人間は格別なご馳走らしい。俺達には目もくれず、3人の方へ行こうとしていた。
だから、護衛はしやすかった。俺達とは反対側に展開している隊員達も、確実に魔物を食らってくれている様子だった。
出来れば、悲鳴を上げさせずに倒して欲しいが…。
「なんか、今日は静かだね」
「シルヴァが全部食っちまったのかもな」
…まぁ、人間達に気付かれないのならば良いか。
そうして暫く歩いていると、目端に妙な物が映る。
壁だ。草原の中に巨大な建造物が立っており、そこから様々な匂いが流れて来ていた。壁の中には川の支流も入り込んでおり、出てくる水は人間臭くなっていた。
十中八九、あれが人間達の拠点だ。なんて大きさなんだろうか。
【全体停止。ここで待機とする】
俺は号令をかけ、この場の指揮権をクマ君に返す。
良いかい?俺はもう少し彼らと共に進むが、君たちはここで待て。何かあっても、俺なら逃げ切れる。だから心配しないでね。
【アオウ…】
クマ君は渋るが、最後は小さく頷いた。
済まんね。頼んだよ。
俺は3人が気付かない距離を保ち、体が隠れる高い草の中を進む。そうして壁に近づいて行くと、その大きさに圧倒された。遠目から見ても大きいと思ったが、こんなに大きいとは。
それに、随分と頑強そうな壁だ。これなら、あのボスラプトルが襲ってきても問題ない。カバの突撃だって跳ね返すだろう。
やっぱり、飛龍対策なのかな?こんなに壁を高くするのも、上空からの急襲を避ける為かも。
「もうちょっとで街だ。2人とも、頑張ってくれ」
「良かった。道中で魔物も出なかったし。あんな状況だったのに、私達、またここに帰って来られるなんて…」
ここまで来て、青少年達の緊張感が一気に解かれる。女の子は泣き出してしまった。それだけ、ここが安全地帯なのかな?
しかし…やはり目の前の壁の中には街があるみたい。この規模だと、相当な大きさの街が存在している様子。
「泣くのは早いですよ、南さん。これから忙しくなる。先ずはシルヴァラプトルの行動範囲が広がっている事をギルドに報告しないと」
あら?火竜だけじゃなく、ラプトルも広がってるの?
「そうだね。グランシルヴァなんて、こんな近くで出るのはおかしいもの。もしかしたら本当に、ロシアの影響かもしれないよ?」
ロシアの…影響?
どういう事だ?なんで、ボスシルヴァとロシアに関係性がある?
何か異常な匂いを嗅ぎ取り、俺はついつい前のめりになる。もっと聞きたいと、彼らに近付きたい衝動に駆られる。
でも、踏みとどまる。視線を感じたから。
何処から?壁の中?
…いや、壁の上からだ。もしかして、上から見ている?だが、俺は完全に草むらの中。距離だって相当離れているし、見つけられる筈は…。
そう思った次の瞬間、威圧感が増す。そして、俺のすぐ横に何かが突き刺さった。
羽根。矢だ。
俺はそれを見た途端、踵を返して駆け出していた。それでも、俺の背中にはずっと粘っこい視線が纏わりついている。
くっ。どうやって俺の姿を見ているんだ?スキルか?魔法か?兎に角、このままは不味い。
俺はジグザグに走り、街から遠ざかる。でも、視線はずっと付き纏う。威圧感も変わらず、俺の背中を押しまくっている。
それでも、弓矢はあの一本から飛んでこない。
つまりこれは…威嚇か?街に近付くなと言う警告だったのかもしれない。
何故そこまで、俺みたいな小物に警戒する?
そう思いながらも、俺は街から離れた。視線が無くなったのは、それから暫くしてからだった。
ふぅ。やっとか。
一時、俺は安心するも、また直ぐに警戒して走り出す。
視線が外れただけで、追ってきているかもしれない。みんなと合流する前に、最善を尽くさないと。
俺は全速力で駆けだし、草原を走り回る。時には川や森の中にも入り、徹底的に追っ手を撒いた。
…とはいえ、追われている感覚はない。街も既に見えなくなっているし、周囲に人間の匂いもない。
うん。完全にフリーだな。
俺はやっと安心し、ヘルハウンズの元へ駆け出した。
〈◆〉
「お帰りなさい、TOMITAブリッツの皆さん。随分とボロボロですね?」
「ああ、色々あって。ギルド…対策課に報告があるんすけど?」
街の門をくぐる時、俺は門番にそう申し出る。本当は受付の窓口で予約しないとダメだが、今回は緊急事態だ。クエストカウンターは24時間開いていても、対策課はそろそろ窓口を閉めてしまう。その前に、この異常事態は報告したい。
俺が頼み込むと、門番は顔を強張らせる。
「ブリッツの正規メンバーがそのご様子でしたら、かなり切羽詰まった状況みたいですね。了解です。特例でここから連絡します。直ぐ行けますか?」
「このまま直で行く。ちょっと臭いかもしれねぇけど」
「ははっ。良いですよ。偶には制服さんに嗅がせてやってください。街の外の匂いって奴を」
門番は軽く笑い、窓口に設置された電話を掛ける。それを見てから、俺は門を潜り抜ける。
と、丁度そこで、外壁から誰かが飛び降りてきた。
誰だ?と、一瞬構えてしまったが、その背中に背負った大きな弓と背中に描かれた〈7i〉のロゴを見て警戒を解いた。
「高宮さん!」
「お帰り、黒坂君。帰還予定時間を過ぎるなんて、君達にしては珍しいね。何かあったの?」
そう言って微笑む彼女は、何時もより威圧感があった。
「えっと…。まぁ、色々とヘマしまして。高宮さんこそどうしたんすか?1級冒険者の貴女が、見張り台に立つなんて」
しかも、ただの1級じゃない。セブン&アローズのメインアタッカーで、上級冒険者の中でも指折りの実力者だ。そんな彼女が、6級冒険者の仕事をするなんて思えない。
だから、聞いてみたのだが…。
「君達の帰りが遅いから、見てたんだよ?」
うっ。それは…お騒がせしました…。
「そしたら君達、変な子まで連れ帰って来るんだもの」
「えっ?」
驚くと、彼女は俺を覗き込んでくる。
「うん。とっても強そうなワンちゃんが、君達の後を付けてたよ?」
「「えっ!?」」
それって、やっぱりあの狼だよな。なんで付いてきたんだ?俺達を襲うつもりなら、あの時あの森の中でやれば良かっただろ。
まさか…俺達を護衛していた?
「高宮さん。貴女にも是非、観てもらいたい物が」
俺が考え込んでいると、土田が片足を引きずりながら前に出る。彼の手には、止まった腕時計が。
高宮さんが小さく頷く。
「うん。でも君は先ず、治療院に行った方が良い。私も対策課に行くから。そこで見せて」
1級冒険者が付き添ってくれるのか。これはかなり大事になるな。
俺は土田から預かったメモリーカードを見て、唾を飲み込んだ。




