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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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23/60

23話〜進化、だ〜

 現場に着くと、そこには3人の人間と複数のラプトルが居た。ラプトルの数は10体ほど。まだ奥にもいそうだけど、取り敢えず出て来る様子は無い。数的有利はこちらにある。

 そう見た俺は、ハウンズにツーマンセルで戦うように指示をした。

 ラプトルはカバ以上の攻撃力と俊敏性を持っている。それはきっと、ヘルハウンドでも敵わない。だから、絶対に1対1にならないように厳命した。

 そうすると、何とか勝てている様子だった。1匹がラプトルの正面で威嚇し、もう1匹が死角から首に食らいつく。そして、威嚇していた子もそれに加わるのだ。

 流石は根っからの狩人。意志を伝えただけで見事にやってのけた。


 俺は安心して、人間の方を注視する。

 随分と弱っているみたいだけど、もしもハウンズへ刃を向けるようなら無力化しなければ。人間を助けたいが、それ以上にハウンズ(この子達)が大事だから。

 そう危惧して見ていたら、より厄介なのが現れた。ラプトルより倍以上大きなボス個体だ。

 デカいな。元々ラプトルが人間並みなのに、こいつは象並の大きさだ。ラプトルと言うよりケラトサウルスの方が近い気がする。


 俺は前に出る。途端に、人間達を見下ろしていたボスの目がこちらを向いた。まだ俺を獲物と見ているようで、ワニのような鋭い牙の間から唾液が垂れていた。

 もう喰った気でいるのか。随分と舐められてしまったな。

 見た目だけで判断すると、痛い目を見るぞ!


【こちらから(ワフゥ)行くぞ!】


 俺は先に動き、ボスの足元へと突撃する。最初から油断せずに、背中を石化させて万全の状態で飛び掛かる。

 でも、


【ギジャァア!】


 俺の牙が届くより早く、ボスの口が俺の胴体を咥える。そのまま、ギリギリとかみ砕こうとした。


「うっ」「きゃっ」


 人間達から声が漏れる。赤髪の兄ちゃんは顔を青くし、女性は口を手で覆っている。

 俺が食われたと思っているのか?大丈夫。ちゃんと見てくれ。


【ギャァア!】


 バキッと、何かが折れる音の後に、ボスの悲痛な叫びが響く。解放された俺が見上げると、立派に生え揃っていたボスの牙が数本欠けていた。どうやら、俺の防御力に勝てなかったようだ。

 今の俺の物理防御力は460。それよりこいつの攻撃力は低いと。

 よしよし。良いぞ。そこらの雑魚には負けないと思っていたが、まさか群れの長にも通じる防御力だったとは。

 これなら、あのマンモスくらいは手が届くんじゃないか?


【ギジャァア!】


 ボスが怒る。牙では通用しないと理解したのか、俺を踏みつけようと足を上げる。その巨体には似つかわしくない素早い動きだ。

 やはりラプトル系の魔物。俊敏性が高い種族だから、体が大きくなっても素早い事には変わりない。寧ろ、そこらのラプトルよりキレがある。


 俺は踏み付け攻撃をかろうじて躱し、僅かな隙を縫って接近する。上げていない方の足首へ、思いっきり噛み付いた。

 ガブリッ。


【ギジャッ!】


 短い悲鳴。ダメージは通っている。

 だが、牙は表皮で止まってしまう。ラプトルの鱗に覆われた皮膚を前に、俺の牙では深くまで刺さらなかった。

 攻撃力250でもこれか。なら、これでどうだ!

 俺はスキル:剛腕を発動し、牙に魔力を送る。すると、少しずつ牙が肉に沈んで行くのが分かった。

 よしっ。もう少し。


【ギヤァッ!】


 更にダメージを与えようとした所で、ボスが足踏みをする。それだけで、俺は吹き飛ばされてしまった。

 くっそ。体格差がえげつない。

 

 俺は立ち上がろうとする。でもその直前、何かが背中を強打した。

 なんだ?新手か?

 俺は地面を転がりながら、視線を上げる。すると、こちらに迫ってくるボスの尻尾が見えた。

 尻尾振り回し攻撃か!


【ギャギィッ!】

【くっ(ウッ)、おっと(ワフ)】


 太い尻尾で、何度も地面を叩きつけるボス。俺を立ち上がらせないその連撃に、俺は躱し切れずに何度も転がされる。

 ぐっ。

 ダメージはそれ程感じないけど、1発1発が重い。立ち上がるのは勿論、このままだと意識が飛びそうだ。

 ステータスだけじゃないんだ、この世界は。当たり前だけど、体格差も大きなアドバンテージになる。それが、ステータスすら超えてくる。

 ならば!

 

 俺は一旦、ボスから距離を置く。そのまま進化しようとして…。

 やめる。

 ここでワーウルフになったとして、その後どうする?ワーウルフではまだ、こいつに勝てない。ただ的が大きくなるだけだ。

 もっとだ。もっと。もっと強い力が必要だ。俺の全てを出し切り、更なる力を生み出さないと。

 こいつを凌駕する程の、体を!


【進化ぁああ(ワォオオ)!!】


 俺は集中する。最初に進化した時を思い出し、心を奮い立たせる。

 思い出せ、俺が食ってきた者達を。俺の血肉となった魔物達の姿を思い出せ。

 ラプトル、カバ、岩亀。その全てを今、俺の体に表現しろ。

 更なる進化を!


【はぁあああ…っ(グルルルル)!】


 集中すると、体の変化が分かる。ワーウルフとなる工程の先に、違う動きが重なり合う。爪はラプトルの様に鋭利に、牙はカバのように頑強に。そして体は、亀の様に頑強になっていく。

 俺の目線が、徐々に高くなる。人間並に。そして、人間より更に高く。

 ボスと、並んだ。

 良いぞ。これぞまさしく!

 

【第2進化だ(グォオオ)!】


〈◆〉


「なっ…」


 その圧倒的な姿に、俺は尻もちを着いていた。取りこぼした愛刀を拾うことすら忘れ、目の前の光景をただ仰ぎ見た。

 もしかしたら、ただ黒いだけの野良犬かも?と思っていた子狼は、巨大な魔獣に変身ししていた。分厚い甲羅が背中を覆い、その隙間から鋭利な棘が突き出している。牙も爪も凶悪な形に伸び、グランシルヴァと比べても遜色がない程の大きさになった。

 これは、なんだ?何かのスキル?それとも幻影魔法?


「進化、だ」


 呆けた顔で、土田が魔獣を見上げる。

 

「進化したんだ。適応する為に、目の前の強敵に勝つ為に、自分の体を作り替えた」

「しん…か…」


 土田の言葉が、俺の胸に重くのしかかる。

 あんな子供が、勝つ為にそこまでしているのかと。生きることに、そこまで覚悟を決めているのかと。

 それなのに、俺は…。


【グォオオ!】

【ギギャァア!】


 大型魔物達が、互いに威嚇し合う。先程まで嫌らしい笑みを浮かべていたグランシルヴァも、驚愕を隠せないでいた。

 あるいは、これが奴の恐怖の表情なのかも。


【グォオオ!】


 先に動いたのは亀魔獣だ。ドシンッ、ドシンッと地響きを伴い、グランシルヴァに突進する。

 それを見て、グランシルヴァも構える。迫り来る亀魔獣に向けて、大きく飛びかかった。

 でも、


【ギャヒィッ!】


 轢かれた。

 その圧倒的な質量を前に、まるでトラックに跳ねられる野生動物の様に宙を舞った。そして地面に叩き付けられると、その衝撃と痛みで立てない様子だった。

 そこに、影が落ちる。


【ガッハハァッ!】


 亀魔獣が、高く高く飛び上がっていた。彼が突っ込んで行ったところには、大きく揺れる大木があった。

 あの木を足場に、三角跳びをしたみたいだ。木のたわみも利用して、高く飛び上がったんだ。

 そして奴は、その凶悪な甲羅をグランシルヴァに向ける。そのまま、真っすぐ落下する。目を見開くグランシルヴァの真上に、今、

 着弾。

 ズシンッ!


 衝撃で、地面が揺れる。木々が騒めき、遠くの方で鳥達が喚き散らす。

 暫しの、静寂。誰も言葉を発しない。動かない。

 動けない。目の前の結末を、ただ見るしか出来なかった。

 当人を除いて。


【ガァア…ガブッ。ガツ!ボリボリ】


 大きな口を開けて、潰れたグランシルヴァの死肉を食らう亀魔獣。その色鮮やかな魔石も躊躇なくバリボリと咀嚼する。

 くっ。あれだけの濃さなら、1000万は行くだろうに。あの爪も、ドロップで残れば引く手数多だ。ギルドの競売に掛ければ高値が付く。それを、あんなバクバク食っちまうなんて…。

 いや、そんな事考えてる場合じゃねぇ。もうシルヴァは全部食われちまった。ここに残ってるのはヘルハウンドと…俺達だけ。


「うっ…」


 俺が息を飲むと、亀魔獣の目がギロリとこちらを向く。それだけで、俺は金縛りにでも遭ったみたいに体が動かなくなる。

 くそっ。なんて威圧感だ。


 俺は気が遠くなりそうだった。でも、直ぐにその圧は小さくなる。彼の体が、空気が抜ける風船のように小さくなるにつれて。

 そうして現れたのは、先ほどの子狼。つぶらな瞳でこちらを見た後、【ワン!】と一鳴きして森の中へと消えてしまった。


【【アオォオオン!!】】


 その小さな背を、他の黒狼が追う。まるで黒い風の様に、彼らは瞬く間に森の闇へと溶けていった。

 残されたのは、俺達3人。まるで悪夢のような出来事だったが、周囲に散らばるシルヴァのドロップがそれを否定する。


「俺達、生きてんだよな?」

「分かんない…」


 南の気の抜けた返事。俺と同じく、彼女も状況に取り残されているみたいだ。

 でも、土田は違った。「生きてるさ」と嬉しそうに答えた。


「ここに、その証拠がある」


 そう言って彼は、針の止まった腕時計を見せつけてきた。

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しっかり棘で貢献してるのに忘れ去られるウサギさん・・ まぁ「昨日何食べた?」と聞かれて「コメ」と答える人はいませんやねw ウサギは常食、ちぃおぼえた。 ブタさんは印象の薄いおかず枠で・・ちゃんと肥大化…
防御が背中の岩?依存に見えたから、腹側まで噛みつかれて冒険者が悲鳴を上げた部分があったと思うけど、 素の防御力だけで(攻撃力面の)格上種族ボスの咬合を跳ね返すなら、クマ君の牙も悲惨な事になるわけだw …
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