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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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22/60

22話〜何なんだよ、次から次へと〜

 森に入ると、辺りは一段と暗くなる。さっきまで朝日が出そうになっていたのに、ここでは木々に遮断されて夜闇に逆戻りだ。

 それでも駆け抜けられるのは、優秀な誘導部隊のお陰。斥候達が前方に広がり、行先を示してくれる。

 最高のチームワークだ。お前たちは必ず、俺が守ろう。


 そうして森の奥へと進んでいくと、斥候の鳴き方が変わる。獲物との距離が近いことを知らせている様だった。

 そろそろ接触するか。


【良いか、諸君(ワオウ)!人は襲うな(ワン)!人は執念深く(ワウワ)恐ろしい。決して手を出すな(ワン)!】

【【アオーン!!】】


 頭の良い子達だ。

 俺は更に加速し、彼らの先頭に立つ。

 さて、人間達と戦っているのはどんな魔物なんだろう?


〈◆〉


「くそっ。斬っても斬っても、変わらず湧いて出てきやがる。一体、何体いやがるんだ」


 苛立ちで愚痴を吐きながら、俺は刀に付いた血を振り払う。

 すると、それを見たヒーラーの南が「落ち着いて」と優しく諭す。


「出口まではもうすぐだから、そしたらもう襲って来ない筈だよ」

「そいつは分かる。だが…南。あと魔石は何個残ってる?」

「えっと、Cランクのが2つ。でも、私のMPがあとちょっとしかなくて…」

「くっ…そうか」


 また愚痴を吐き出しそうになり、俺は唾を飲み込んで抑える。

 こんな事なら、もっと魔力回復薬を用意したら良かった。今回は森に入らないからと、節約しようなんて思っちまった。完全に、リーダーである俺のミスだ。

 俺が歯噛みすると、俺が肩を貸していた仲間が「悪い」と呟く。


「俺のせいだ。油断して、夜に1人になっちまった。ちょっとトイレと思って、軽装で…」

「お前のせいじゃない、土田。まさか、こんな浅い所にシルヴァの群れが居るなんて、誰も予想出来ない事だ。ギルドのホームページにも無かったんだからな」

「だが、俺を回復させるのに、南さんはMP切れに…」


 それはそうだが、仕方がない。寧ろ、良く生きていたと思う。地龍に引き摺られて森に入ったのを見た時は、絶対助からないと思った。見つけた時も酷い有様だったけど、今はこうして歩けるまで回復した。

 …いや。それが奴らの狙いなのかもしれない。俺達を森の奥へとおびき寄せ、全員を狩る為の作戦。土田はワザと、殺さないで攫われたんじゃないか?

 何処までも狡猾で、残忍な奴らめ。


「黒坂君。また、音がするよ」


 南が止まり、周囲に耳を済ませる。

 俺は土田を座らせ、彼女の向く方に太刀を構える。

 何時でも来やがれ。また、返り討ちにしてやる。


「…来た。向こうから来る!」

【ギャゥイ!】


 南の指さす方向で、奴らの鳴き声が響く。次いで、鋭利な牙を向けて1匹のシルヴァラプトルが突っ込んで来た。

 正面からなんて、舐めた真似を!


「おりゃぁ!」


 俺は愛刀を振り下ろし、シルヴァの体を両断する。奴は驚いた表情のまま、地面に横たわった。

 よし。まだいける!


「また来るよ。今度は2匹!」

「しゃらくせぇ!」


 俺は後ろから飛びかかってきたシルヴァを、振り向きざまに斬り上げる。寸分狂わず放った一撃に、シルヴァは一声も鳴くことなく首を落とされる。

 でも、そのすぐ後ろから、別の個体が飛びかかって来た。

 くそっ!刀の返しが間に合わな、


【ギャゥッ!】

「ぐぁっ!」


 俺の肩に、奴の牙が深々と突き刺さる。熱さと痛みが同時に襲いかかり、刀を取りこぼしそうになった。

 でも、俺は痛みに耐える。食われていない方の腕で脇差を抜き、それをシルヴァの腹に深々と突き刺した。

 刀と同じ、マギクォーツが原料の刃だ。お前らの硬い皮膚でも、負けはしない!


【ギァアッ!】

「おらぁ!」


 脇差の一撃で口を離した奴を、俺はすかさず刀で両断する。痛みで多少鈍ったが、シルヴァ程度なら問題なく倒す事が出来た。

 だが、深手を負った。まさか、ロックタートルの鎧すら貫通するとは。相変わらず、恐ろしい攻撃力だ。


「見せて、黒坂君」


 俺が肩を押さえていると、南が駆け寄ってくる。俺が止めるより早く、回復魔法を発動させてしまった。

 おいっ、南。


「ごめん。でも、黒坂君が倒れたら、私達終わりだし…」


 そう言って、青い顔で笑う南。

 くそっ。もう後がない。南の様子から言って、次撃てば確実に気絶する。土田も戦えない。そもそも武器をベースキャンプに置いてきている。

 このままじゃ、俺達は…。


「一樹(いつき)、俺を置いて行け」

「えっ?は、はぁ?土田お前、なに言って…」


 突然の事で、俺は戸惑う。それに、土田の座った目が向く。


「聞け、一樹。南さんも立ってるのがやっとだ。お前が支える必要がある。2人を支えるのは、流石のお前でも無理だ。このままだと、3人仲良くラプトルに食われ終い。だから、ここは俺に任せて先に行くんだ」

「土田…」


 俺は何も言い返せなかった。親友の覚悟を前にして、怒るに怒れなかった。

 そこに、無情の声が。


【ギャイィ…】【ギィィ…】


 もう、南じゃなくても分かる。俺達が、囲まれている事に。

 やがて、奴らの目玉が闇の中から浮かび上がる。瞳孔が縦に割かれた獰猛な目玉が、爛々とこちらを見ている。

 幾つも、幾つも。全方向から。 

 くそっ。これじゃ、逃げ場なんて何処にもない。少ない数で襲い、俺達を疲弊させ、弱ったら総攻撃。

 最初から、こうするつもりだったのかよ。

 

「良いぜ。全員、ぶった斬ってやるよぉ!」


 俺は南を背中に回し、太刀を構える。最後まで、生き残る選択肢を捨てない。

 と、そこに、


【【アオーン…】】


 森の中に、魔物の声が響く。

 聞いた事のある声。

 これは…ヘルハウンドか。


「くそっ。何なんだよ、次から次へと」


 心が震えた。神様って奴の顔を踏みつけたくなった。何で俺達ばっか、こんなことにって。

 投げ出したくなる、生きる可能性。

 でも、それを投げ捨てる前に悲鳴が上がった。


【ギャウゥ!】【ギィイイ!】

「なっ!」


 なんだ?周囲が急に、騒がしくなった。シルヴァの悲鳴と、何か重い物が地面を叩く音。それが、連続して聞こえた。

 なんだ?何が起きている?


「気を付けろ、南。何か、可笑しなことが起こって…」

「きゃっ!」


 南の叫び声。

 振り返ると、茂みからシルヴァが飛び出して来た。

 襲撃。

 かと思ったが、そいつは俺達には目もくれず、狂ったように頭を振り回していた。よく見ると、そいつの首には2頭のヘルハウンドが噛みついていた。

 ヘルハウンドが、シルヴァラプトルを襲っているだと?


「そんな。こんなことが、ある筈は…」


 そう呟いたのは、土田。俺以上に驚いている。

 彼は、力尽きて地面に倒れるシルヴァと、その死肉を漁る2匹のヘルハウンドを凝視する。

 土田も、呆然と首を振った。


「人間には目もくれず、魔物同士で争うなんて…」

「そんな珍しいことなのか?」


 問うてみたが、土田はヘルハウンドの様子に釘付けだ。

 いや、土田の様子を見れば、それが異常なんだってのは聞くまでも無い。

 異常だが、でも、


「こいつはチャンスだ。戦況が混乱している内に、俺達は逃げるぞ」


 俺は固まっていた土田を強制的に立たせ、南の手を引く。シルヴァの悲鳴とヘルハウンドの雄たけびを背に回し、この場を去ろうとした。

 でもその途端、森の中から重い足音が聞こえる。藪を踏み潰し、何か大きな影がこちらへ迫って来た。

 そいつの姿が、木漏れ日の中へと飛び出して判明する。


【ギャァウィ!ギャァウィ!】


 耳が痛くなる程の鳴き声。

 他のシルヴァが子供かと思える程、巨大なシルヴァラプトル。

 この群れのリーダーである、大型(グラン)級個体だった。


「グラン…シルヴァ…」

「黒坂君」


 南が、俺の腕をギュッと握る。

 ああ、分かってる。こいつはもう、俺達の手に負えるレベルじゃない。グラン級の、それも地龍との戦闘なんて、2級冒険者3人じゃ到底敵わない。せめて、2級がもう1パーティーか、1級が1人いないと無理だ。

 こんな上位種が出てきたら、ヘルハウンドも逃げちまう。


 俺は縋る思いで、黒い狼達の方を見る。だが奴らは、全く逃げようとしない。変わらずシルヴァを襲い、死肉を喰らっていた。

 何故、逃げないんだ?こいつらには、このグラン個体すら怖がらない戦力があるのか?

 俺は、期待と不安で彼らを見る。すると、暗闇から更に数体の黒狼が現れた。先頭にはクマかと思う程大きな狼と、その足元には小さな子狼が居た。

 群れのボスと、その子供か?子供…なんか、犬っぽいけど?


 ボス同士の戦いかと思って、俺は拳を握る。あのクマみたいな大きさのヘルハウンドだったら、もしかしたらと期待する。

 でも、


「…何(なん)…だと…っ!?」


 グランシルヴァの前に進み出たのは、クマではなかった。

 犬っぽい、子供の方だった。


「どう言う事だ?生贄、ってことか?」


 子供をやるから、手を引け…とか?

 そんな事を考えていたら。


【ワオォオオ!】


 子狼が吠えた。

 その途端、空気中の魔素が震えた気がした。

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― 新着の感想 ―
ヘルハウンズは捕食で強化するんですかね?ならば何時かはマンモスも狩れる筈! 数はチカラだぜ兄貴。w んで黒戸さん、雑種犬のまま対面するから若干舐められてるじゃないですか。生贄てw 此処はワーウルフで…
ロックタートルの鎧を貫通…ラプトル乱獲刈りで亀甲をスナック感覚で齧れるレベルまで攻撃力上がりそうね 尤も、噛まれた時点で即死しそうなラプトルは、数の優位が有ろうと卓越した指揮が無いと普通狩らんやろな …
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