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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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21話〜アオゥ!アオアオ!〜

 夜闇の中、俺は草原を走る。月もだいぶ傾いてしまったので、目の前は真っ暗だ。それでも、俺は安全に走行する事が出来ていた。

 目の前を走る、別の足音を聞くことで。


【【ハッ、ハッ、ハッ!】】


 俺の周囲で、短い息遣いと足音が幾つも続く。

 ヘルハウンドの群れだ。それが、何故か俺を中心に隊列を組み、1つの生き物の様に草原を走り抜けていた。


【どうしてこうなった(ワウワウゥ〜)…】

【【アオアオーン!!】】


 俺の嘆きを、雄々しい雄叫びに変えて復唱するハウンズ。

 凄い忠誠心だ。俺が右に行けと言えば、すぐさま右折するし、獲物を探せと言えば斥候が飛び出す。

 川で水浴びしろと言った時は、少々抵抗していた。でも強制したら入ったし、臭いも随分と抑えられた。


 それは良いんだけどね。俺はこれからどうすりゃ良いんだ?君たちは魔物だから、現実世界に連れて行く訳にもいかない。俺がボスを続けるなんて出来ないぞ?

 そう説明しても、なかなか離れない。俺に負けた元リーダーも、俺の服臣みたいに付いてくるし。

 

【ガウ!】


 斥候が戻ってきて、俺と並走する。

 何となく、向こうに獲物が居ると言っている気がする。

 30匹近い群れだからね。食いぶちもバカにならない。獲物は積極的に狩らねば。


【了解(ワフ)。ありがと(ワフゥ)】

【アオーン!】


 軽くお礼を言っただけなのに、ハウンドは嬉しそうに雄叫びを上げる。

 可愛い奴だな。これで人間に恐れられているのは不思議なものだ。きっと俺が犬でなかったら、こうはいかなかったんだろうな。

 なら、少しくらい彼らの役に立ってみるか。


 俺は斥候の導くままに群れを移動させ、狩場へと急ぐ。そして到着すると、そこには鹿の群れが居た。角がエラく立派で、蹄もトゲトゲしい。

 魔物かな?初見だから強さが分からんが…。

 取り敢えず、俺が一当てしてみるか。


【俺が先行するよ(ワン)!】

【【ワオォオオー!!】】


 リーダーに続け!みたいなこと言ってる。

 そう言うつもりじゃなかったけど…俺が負けたら、ちゃんと逃げてよ?

 ちょっと不安に思ったけど、俺はこちらを威嚇する鹿の群れに突っ込む。体を石化させてから突っ込んだから、攻撃してきた鹿は瞬く間に弾き飛ばされ、宙を舞った。

 よしよし。それ程強い相手ではなかったみたい。


 俺は倒した鹿肉を食べようとする。でも、そんな俺を、周囲のハウンズはジッと見ていた。

 …えっと、なんで?


【みんなも食べなよ(ウゥウ)。消えちゃうよ(クゥン)?】

【ガルッ】


 元リーダーのクマ君が「とんでもない」と言うように鼻を振る。そして、鹿の腹を鼻で突く。

 ええっと、何?一番美味しい所をリーダーが食べるまで、他の隊員は食べないの?それが、群れの掟だって言うのか?

 何を悠長な事を言っている!


【時間が無いんだ(ワンッ)!いいから食え(ワウッ)!】


 確かに、リーダーの威厳を示すってのも大事だろう。だがこの世界には、無情なルールがある。そんなことしてたら、みんなに肉が行き渡らないだろ。

 俺が吠えると、漸くみんな動き出す。ガツガツと夢中で鹿肉を食らい、雄叫びを上げる者もいた。

 

 俺も食べようとすると、クマ君が近付いて来る。彼の口には、大きな肉の塊が。

 ええっと、この肉を食えって?一番良い肉を切り取って来たのかな?


【ありがとう(クゥン)。君も食べなよ(ワフ)?】

【ガウッ】


 敬礼でもしそうな勢いで、クマ君は頷く。

 元リーダーだから、威厳を保たせようとしているみたい。本当に、戦国武将の服臣みたいな子だな。


 そうして腹一杯まで食べた俺達は、暫し眠る。群れで塊まるから安心だ。敵が来ても、誰かは反応するし。

 加えて、移動時も便利だ。斥候が周囲を探索してくれるから、見逃しも少ない。珍しい物を取ってきてくれることもある。

 俺が、【何かあれば持ってきて】とお願いしているからね。まるで宝物を自慢するみたいに、みんな得意げに持ってくる。

 大抵は何かの骨とか、毒キノコだったりするんだけど、中には面白い物を持ってくる子もいた。


【ガルッ】

【うん(ウゥ)。これは石かな(ワフ)?】


 青みがかった石だ。ガラスの様にも見えるけど、ここは異世界だからな。

 試しに川面に映してみても、特殊効果は得られない。ちょこっと齧ってみると、魔力を5だけ回復する事が出来た。

 おおっ!この石には魔力が含まれているのか。もしかしてこれを加工すると、あのフルプレート冒険の盾みたいのが作れるのか?


【ガルゥッ!】


 俺が喜ぶのを見て、持ってきた子も喜ぶ。そして、空中に黒いモヤみたいな物を作り出し、そこから同じような石を何個も取り出した。

 おいおいおい!ちょっと待てぇい!


【君(ウゥ)!それどうやった(ワフゥ)!?教えてたもれ(ワン)!】

【グルゥ?】


 興奮して聞いてみても、隊員は首を傾げるだけ。

 むっ。そうか。君たちにとって、空間魔法は出来て当たり前なんだな?だから、聞いても分からんと。

 それは残念だ。教えて貰えたら、荷物の持ち運びが断然楽になる。このボロ切れだと、魔石も僅かしか持ち運べないからさ。

 でも、そう言う事が出来ると分かったのは大きい。彼らの容姿から察するに、きっと空間魔法は闇属性なんだろう。黒っぽい魔物を食べれば、俺も使える様になるかもしれない。

 …魔法攻撃力がずっと0のままなのが、気がかりだけど。


 そんな発見もしながら、俺達は着実に周辺地域の探索を行った。残念ながら回復薬の手がかりは掴めなかったけど、有用そうな素材も幾つか得られた。

 激辛の木の実とか、舌が痺れるキノコとか、岩塩とかハチミツとか。

 そう言う物は全部、みんなの闇魔法にしまって貰った。

 俺のボロ袋じゃ、入り切らないからね。


 魔物も色々と狩った。鹿にウサギに狐、イノシシ。鳥型の魔物なんて奴も居た。

 こんな魔物も生息しているのかと、彼らのお陰で気付く事が出来た。

 

 ただ、ステータスは殆ど変わらない。鹿と馬型の魔物を食べた時は俊敏性が僅かに上がったけど、それ以外はただ腹を満たすだけだ。ハウンズは満足しているみたいだから良いが、俺はもう少し骨のある魔物と戦いたい。

 やはり、森の中か。あのラプトルならまだ上がるだろうし、ワンチャン、マンモスを倒せたら大きい。あれはきっとここらのヌシだから、更なる強化になるだろう。


 どうするか。森の中を探索する?でも、群れを危険に晒す可能性もあるし…。

 俺が迷っていると、その森の方から黒い影が近付いてくる。

 斥候に出した隊員だ。ここからでも、彼が興奮しているのが分かる。

 良い獲物を見つけたのかな?褒める準備しとこ。


【アオゥ!アオアオ!】

【どうどう(ワウワウ)。落ち着け(フンッ)。何を見つけた(ワフゥ)?】

【アオアオアオーン!】


 うん?なに?人間を見つけた?


【でかした(ワフ)。大回りで回避するぞ(アオゥ)】

 【ガルゥ?】【グルゥ?】


 俺が森から離れようとすると、ハウンズはみんな首を傾げる。

 なんで逃げるの?人間は美味いのに。弱い割に魔力があるのに。

 そんな思いが、彼らのつぶらな瞳から伝わってくる。

 魔力…そうか。君たちは味や肉質では無く、魔力の有無で獲物の善し悪しを決めているのね。だから、魔物は積極的に人間を襲うと。

 それは分かる。だが…。


【止めておき(ワウゥ)な。人間は危険だ(ワウ)】


 確かに、弱い個体も多いだろう。明治神宮に並んでいたサラリーマンや主婦の皆さんは、走るのですら慣れていない体つきだった。ああ言う人なら、君たちにとっては獲物にもならないだろう。

 でも、中には式守プロの様な人もいる。彼ほどでなくとも、高品質な装備に身を包むだけで、団地妻も一端の狩人に早変わりだ。

 それが人間。個体差があまりに大きく、リスキー過ぎる。

 

 そう俺が諭すと、クマ君が【グルル】と頬を押さえる。

 古傷かな?昔、冒険者にやられた?そうでしょ?

 俺達を見て、他のハウンズも悲しそうに首を振る。ご馳走かと思ったのにと残念がる。

 人間を見つけた子は特に項垂れていた。悲しそうに【アウアウ】嘆いて…うん?今なんて言った?折角、他の魔物に襲われて人間達は弱っているのに…だと?

 早くそれを言え!


【総員(ワン)!傾注(ワン)!】


 今から俺達は、その人間を襲う魔物を確認しに行く!

 そう言うと、少し不思議そうにするハウンズ。

 良いか?お前たち。人間を襲う程の強敵なら、それなりの強さがある。そんなのに寝首を掻かれたら大変だ。今のうちに把握し、出来れば殲滅したい。

 

 そう諭すと、ハウンズは【ワオゥ!ガオゥ!】と大喜び。俺の後ろを嬉々として着いてきた。

 悪いな、みんな。もしも本当に窮地なら、俺は人間を助けたい。今度こそは騙されない様にするから、皆も協力してくれ。

 俺は心の中で謝りながら、森へと分け行った。

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