20話〜君らはあれか?〜
【ん〜。この味にも慣れてきたな】
岩鍋を始めて数日。俺は来る日も来る日も不味いスープを飲み続けた。
その結果、先ず舌が慣れてしまった。元々生肉も大丈夫な犬だからか、ちょっと癖の強い味噌汁みたいに思えてきた。
ごめん。嘘だ。味噌汁には程遠い。けれど、ゴブリン肉に比べりゃ大分マシ。
それに、日々強化されていく俺の体を見ていると、そんな苦労も吹き飛んでしまう。
朝食を終えた俺は、川を覗き込む。あれからも亀肉を食べたから、多少は硬くなっていた。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:42(+0)
HP:131(+0)
MP:160(+4)
物理攻撃力:254(+0) 【+50】
物理防御力:360(+32)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:138(+17)
俊敏性:176(+0) 【+50】
器用性:48(+0)
スキル:瞬発力(小)、剛腕(小)、釣師〉
まだ魔法防御力は+1ずつ上がるけど、物理防御力は上がらなくなった。
これが、亀肉の限界だろう。
俺はここから、自身に念じる。岩よ、背中を覆えと意識する。
すると、川に映る俺の姿が、見る見る変化する。俺の背中が一面、ゴツゴツの岩で覆われた。
ステータスも変化する。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:42(+0)
HP:131(+0)
MP:150/160(+0)
物理攻撃力:254(+0) 【+50】
物理防御力:460(+100)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:188(+50)
俊敏性:176(+0) 【+50】
器用性:48(+0)
スキル:瞬発力(小)、剛腕(小)釣師〉
素晴らしい防御力だ。進化前でもう500に到達しようとしている。進化したら1.5倍だから、700近い。
こりゃもう、そこらの魔物じゃダメージすら与えられないだろう。一般冒険者を相手にしても、かなり余裕なのでは?
おっといけない。慢心だった。魔物はそうかもしれないけれど、人間は恐ろしい。何せ彼らも装備ボーナスを持っている。ここに来て日が浅い俺では、足元にも及ばないと思っておかねば。
俺は式守プロを思い出し、自分を戒める。立ち上がり、鍋と弓を地面に埋める。
今日でこことはおさらばだ。上限まで強くなったから、新たな地へ赴く。
強い魔物を探す!…だけじゃなくて、そろそろこの世界の事も探ろう。何故、現代日本と繋がっているのかとか、摩訶不思議なこの状況を解明しなければ。
俺は川沿いを走りながら、気になる物を見つけては片っ端から匂いを嗅ぐ。ただの花でも、日本では嗅いだことの無いような匂いがしたりした。
この花にも、何か効果がありそうだ。
そう思ったら、それを咥えて川を覗く。すると、装備扱いとなってザックリとした効果を教えてくれる。
〈青い花:物理攻撃力+0、スキル:睡眠(微増)〉
ほぉ。睡眠薬になる花か。この世界では命取りになるけれど、向こうの世界では売れそうだな。持って帰れ…いや、帰った途端に消えちゃうか。
そこで、俺は思い出す。
そう言えば、この前のアフロな冒険者から貰った回復薬が欲しいな。原料が草とか花なら、この睡眠草みたいに自生しているんじゃないだろうか?
そう思った俺は、草花を中心に嗅ぎ回る。でも、それらしい物は見当たらない。そもそも、匂いで分かる物なのかも定かじゃないし。
湿布の匂いとかだろうか?くそっ。あの時もっと、匂いを確かめれば良かった。せめて瓶だけでも貰っておけば…。
今更、悔いても仕方がない。
俺は慎重に匂いを嗅ぎながら、新たな地域を冒険する。新しい魔物は見当たらなくとも、オーク程度の魔物が居たら積極的に狩る。
魔石が枯渇気味だからね。亀討伐と火起こしでちょいちょい進化していたら、魔力を使い過ぎた。ワーウルフの手は便利なんだけど、考えものだ。何処かで器用性を上げたいな。
【ブフー…】
道すがらオークを倒し、その脂肪が消えるまで暫し待つ。
周囲を見ると、真っ赤な夕日が地平線の彼方へ消えていくのが見えた。
本当に不思議な世界だよ、ここは。気象条件も地球に似ているし、天体の動きまでそっくり。かと言って、夜は月が2つ出ている。
もしかしてここは、未来の地球?それとも、パラレルの地球だったりして。
でもそしたら、月が2つもあるのはおかしいんだよな。月は元々、ジャイアント・インパクト(地球に大隕石が衝突)の影響で出来た物だから、隕石が2度も当たった世界線の地球って事になる。そんな衝撃に、地球が耐えられるとは思えん。少なくとも、生命が生まれる星にはならない気がするぞ?
そんな事を考えている間に、オークは小さくなっていた。
腹も減っていたので、俺はオーク肉にかぶり付く。
ステータスは上がらないけど、やっぱりオークは美味い。魔石もそれなりの回復量だし、とても重宝する魔物だ。
【うん?】
食べてる最中に、俺は顔を上げる。オークの体は見る見る消えているけど…それどころじゃない。
何か、音がしたんだ。こちらへと駆け寄る複数の足音。
軽い足音。大型獣や人間ではない。もっと軽く、四肢を使う生物。
俺が鼻を上げて警戒していると、獣臭が鼻を突く。その方向は、森の方。
そちらを睨むと、森の中から黒い影が複数出てくるのが見えた。その影が、こちらへと近付いてくる。まるで草むらを滑る様に駆ける様は、生物ではないのではと思えるくらい。
だが、生きてる。徐々に、奴らの短い息遣いも聞こえ始めた。
【【ハァッ、ハァッ、ハァッ!】】
この声は…。
俺が目を見開いた時には、既に俺の周囲は囲まれていた。
【ガルルル…】【グルルル…】
真っ黒の毛皮に覆われた、俺の倍以上ある大きな犬。俺も黒っぽいけど、彼ら程じゃない。彼らなら、夜になれば闇に溶け込めるだろう。
そんな猛犬が、10…20…いやもっとだ。日が暮れ始めたので、全貌が分からないくらいの数が群れている。彼らはこちらに強烈な殺気を飛ばし、鋭利な牙を惜しげなく見せつけてくる。
【君らはあれか?ヘルハウンドって奴か?】
何時かの、お姉さん達の会話が思い出される。北海道方面でヘルハウンドが出ると。
この見た目的に、それが彼らだろう。そう当たりを付けてたのだが…果たして…?
【【【ガルルルル…】】】
ダメだ。全く対話にならない。
何となく、ここは俺達の縄張りだと主張しているのは分かる。そして、俺を侵入者として断罪しようとしている意思までは伝わってきた。
どうする?戦うか?この数を相手に、それは無謀じゃないか?とは言え、完全に包囲され一点突破も危うい状況。
せめて、彼らの実力が分かれば良いのだが…。
俺が生き残る算段を立てていると、群れの包囲網が一部割れる。そこから、クマのように大きな個体が現れた。
こいつは…群れのボスか。
俺が察している前で、ボスがこちらを睨む。周りの犬よりも、一段強い殺気が投げつけられる。
【グルゥ】
戦え。そう言っている気がする。
逃げるなら全員で食い殺す。戦うなら、俺が息の根を止めてやる。
そう、彼の鋭い目から伝わってくる。
一騎打ちか。これは、生き残るチャンス。
【良いだろう。命を賭けた一番だ】
勝負に勝っても、逃げられるかは分からない。でも、ここでボスに深手を負わせれば、少なからず群れにも動揺が広がる。
そこを突く。
【ガルゥ!】
ボスが走り出す。
速い。ラプトルと同等か、それ以上だ。スピードに緩急を付けて惑わす技量は、流石は群れのリーダーと言えよう。
スピード勝負では勝てない。なら、これだ!
俺は魔力を使い、身体中に岩を纏う。その状態のまま、走り寄るボスへ突っ込む。
【ガルゥ!】
【チキンレースだ!】
俺達の距離が、瞬く間に無くなる。ボスは高く飛び上がり、空中から俺に襲いかかる。
その彼に向けて、俺は突っ込む。カウンターで、彼の腹を噛もうとした。
でも、
【キャインッ!】
俺が噛もうとする前に、ボスは情けない声を上げて地面を転がった。彼の牙は根元から折れ、爪もボロボロになっていた。
どうやら俺の防御力を前にして、自慢の攻撃が弾かれてしまったらしい。
噛み砕かれはしないだろうと思っていたけど…まさか逆にダメージを与えるとは。
やはり防御力。防御力は全てを解決する。
これなら、他の犬達も怖くない。このまま群れの中に飛び込んで、邪魔する奴は弾き飛ばしてしまおう。
そう思い、俺は群れに向き直る。
でも、
【【クゥン……】】
全員が地面に仰向けになり、俺に腹を見せていた。
えっと…どうなってるの?




