19話~俺は岩だ~
それから数日、俺は亀を狩る生活を続けた。
幸いにも彼らは、俺が仲間を食べても逃げようとせず、その重厚な甲羅に閉じこもるばかりだった。
そして、魚におびき出されて首を晒す。
チョロい。チョロいぞ、岩亀達よ。
そのお陰で、俺はお腹がいっぱいになるまで亀を食べ、お腹が減るまで走り込む生活を続けた。
その結果が、これだ。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:42(+0)
HP:131(+0)
MP:155(+21)
物理攻撃力:254(+0) 【+50】
物理防御力:325(+222)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:119(+42)
俊敏性:176(+0) 【+50】
器用性:48(+0)
スキル:瞬発力(小)、剛腕(小)〉
防御力、300越え。
やり過ぎた。今まで一番高かった攻撃力を軽く上回り、数日前と比べたら数倍の防御力を手にしてしまった。
今なら、剣で斬りつけられても致命傷は避けられるだろう。あの剣士に再戦を申し込みたい気分。
でも、まだやるよ。食べ始めた当初より上昇率は落ちたけど、まだまだ数値は上がっているから。
ただ今日は、亀肉以外も試そうと思っている。それが、これだ。
俺は穴を掘り、そこに隠していた亀のドロップ品を掘り出す。そこから出てきたのは、こぶし大になった岩。亀の背中に乗っていた岩の一部だ。
これが亀のドロップ品。甲羅の一部を残す個体もあったけど、大概はこの岩を残した。
こんなもの、食べられるのか?
これを見たばかりの頃、ゴブリンのボロ切れと一緒で、こいつは加工用の素材だろうと捨てそうになった。
でも、思い出す。
そういや、アフリカの方では石を食べる人がいるって聞いた事がある。老人だったか妊婦だったかは忘れたけど、石にも栄養があるって事だ。
それにこれは、亀の甲羅に生えていた物。ただの岩ではない。もしかしたら甲羅と一緒で、亀のあばら骨の一部なのかも。
カルシウムであれば、食べられる。角や牙と一緒で、俺の武器になってくれる可能性大だ。
俺はそう言い聞かせ、岩に食らいつく。でもやはり、めちゃくちゃ硬い。進化した牙でも跳ね返される。
これは無理だな。今のままだと、俺の牙が先にイカれる。剛腕のスキルランクが上がるくらい顎を酷使したから、そろそろ休ませてやらないと。
でも、ならどうする?諦めるか?
いや。俺は是非とも、この岩を食べたい。防御力は高まったけど、体には全く変化が無いからね。期待していた岩の様な肌は、まだ得られていない。きっと、こいつを食えば何かが変わる。
俺は必死に考える。ぺろぺろ舐めれば、ちょっとは成分が溶け出さないかな?と思って舐めてみた。
うーん、鉄の味がする。これはもしかして、あれならイケるんじゃないか?
俺は一つ思い付いて、周囲を見渡す。でも、良いものが無い。
そりゃそうだ。こんな草原に、アレを生み出す道具なんてない。ならば…。
俺は走り出した。河原を離れ、草原に入る。
俊敏性が高いので、まるで地面を飛んでいる感覚だ。偶にホーンラビットが飛び出して来るけど、俺の速さにはとても追いつけない。
随分と強くなったものだな、俺も。
そうして駆け抜けた先は、廃墟。
俺は堂々と正面から入り、大きな街道を悠々と進む。
すると、
ヒュンッ。
風切り音。そして、暫くして俺のお腹に小さな衝撃が加わる。
見ると、矢が落ちていた。俺の腹に当たり、折れてしまったみたいだ。
流石は防御力300。弓矢程度じゃ傷1つ付かない。
俺は矢が飛んできた方へと駆け寄る。すると、複数のゴブリンアーチャーが逃げ惑う背中が見えた。
俺は軽く走り、奴らに追い付く。軽く小突くと、なりふり構わず逃げて行った。
奴らが使っていた、弓まで落として。
【そうそう。こういうのが欲しかったんだよ】
俺は弓を咥え、ついでに廃墟から金属製の歪んだ鍋も頂いて河原に戻る。周囲で使えそうな物を集めて、それらを河原に並べた。
弓、歪んだ鍋、太い枝、細い枝、枯れ草、松ぼっくり。
それらを並べると、俺は進化して手早く準備を進める。
今から俺が行うのは、火起こしだ。
【さて、では先ず…】
太い木の枝の中で、特に太い奴の表面を爪で削る。攻撃力が500以上あるからか、枝が豆腐の様にスパスパ切れる。
あのツンツン頭の青年を殴る時、爪をしまって正解だったな。もしも出してたら、この枝みたいにスッパリ行っていただろう。
そうして1枚の板を作り出すと、少し凹みを作ってそこに木の棒を添える。そして、その木の棒に弓の弦を巻き付ける。
弓切り式って奴だ。ただ手でクルクル回すより、火が付きやすいんだ。
俺は弓を押し引きして、摩擦熱を生み出す。防御力が高いからか、棒を押さえる手の平も全く痛くない。だから、もっと高速で弓を引ける。
そうして高速弓切りをすると、簡単に熱が生まれる。松ぼっくりと枯れ草を燃やして、すぐさま細枝にも燃え移った。
まさか、こんな簡単に火を作れるとは。前にやった時は、もっと時間がかかったのに…。
高ステータス様様だな。
火が付いてしまえばこっちのもの。火の周りに石を積み上げて暖炉を作り、枝を組んで火の勢いを上げる。鍋で川の水を汲み、それを火の上に乗せれば完成だ。後は枝と空気を追加すれば、直ぐにでもお湯が沸く。そこに、亀の岩を投入だ。
ドボンッ!
あっち。お湯が跳ねた。こういうのは、防御力300越えでもダメージ喰らうんだな。
折角の鍋なので、俺は岩以外にも具材を投入する。亀の甲羅に、小魚。毒性のないキノコに亀の肉。
亀肉だけは、3分もしない内に消えてしまうので、湯通しして白くなったら食べるを繰り返す。
そうして暫く煮込んだ後、鍋を外す。冷めるのを待ってから飲んでみる。すると…。
【う〜ん…不味い】
想像以上に鉄臭い。まるで血を飲んでいるみたいだ。具材を入れ過ぎて濁っているのかと思ったけど、これきっと岩から溶けだした成分だ。
でもそれは、俺の予想通りになっていると言う事。俺はちゃんと、岩を食べられていると言う事だ。
そう自分に言い聞かせ、鍋を平らげる。最後に残った岩は一回り小さくなっており、少しだけ軽くなっていた。
成分が抜けた証拠だよな?さて、ステータスに変化はあるかな?
俺は跳ねそうになる心を抑えながら、水面を覗く。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:42(+0)
HP:131(+0)
MP:156(+1)
物理攻撃力:254(+0) 【+50】
物理防御力:328(+3)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:121(+2)
俊敏性:176(+0) 【+50】
器用性:48(+0)
スキル:瞬発力(小)、剛腕(小)〉
ちょっと防御力が上がった?
いや、これは亀を1頭食べたからだ。岩の効果じゃない。
そう言えば、ホーンラビットの角の時も、翌日に効果があった。今日は寝てしまって、また明日確認しよう。
そう判断して、俺は巣穴を掘って寝る。
そして翌日、俺は嬉々として川を覗く。まだ変化はないけれど…。
【岩だ。俺は岩だ。岩よ、俺を覆え】
俺は念じる。
ウサギの時も、それで角が出現した。今回もきっと。
そう信じて念を送ると、顔にちょっとした変化が現れる。
額が禿げだしたのだ。
【うぉおお!】
この反応は!
試しに触ってみると、硬い。まるで石の様だ。試しに水面を見てみると…物理防御力が330(+2)になってる!
【来たぞ!】
俺は雄叫びを上げて喜び、すぐに動き出す。
朝食の準備をする為、火起こしセットをかき集めた。
さて。先ずは鍋を用意しよう。それでもっと岩を食べて、俺は新たなステージへ上がるんだ。




