18話~ほへぇ~
【いやぁ、危なかった】
森を抜けて漸く走った後、俺はため息と共に言葉を吐く。また襲われたら大変だからと、ここまでずっと進化しながら走っていた。
でも、ここまで来たら大丈夫だろう。魔力も無駄には出来ないし。
俺は進化を解除して、カバの魔石を1つ食べる。ここまでラプトルの魔石1つで魔力欠乏にならなかったから、きっとラプトルの魔力回復量は相当なものだと思う。肉を食べた時も力が湧いたし、ラプトルはかなり上位の魔物ってことになる。
あの人間達は、ラプトルの事を地龍って言っていたし。
その人間から飲ませて貰った回復薬も、とんでもない効果だったな。
俺は自分の脇腹を見る。
斬られた時は骨まで見えていたそこは、今は何事もなく綺麗に接合されていた。毛が血で汚れてしまったので、川に入って綺麗にしないといけないけど…。
あの回復薬があったから、人間達は血の匂いをプンプンさせていたんだろう。今の俺の様に、怪我だけ治して血を放置していたから、流血しているのに元気という歪な状態になっていた。
そんな事を実現できるのは、この回復薬が有り得ない回復力で、そして即効性を持っているから出来た事だ。
まるで魔法薬。
一体、どうやって作っているのだろう?俺でも作れるのなら、是非とも何本かストックしておきたい。この過酷な世界で怪我をしたら、小さくても致命傷になりえるから。
体の状態を確かめながら暫く走ると、目の前で大地が蠢くのが見えた。
勿論、本物の大地ではない。全て、亀の甲羅だ。その大岩のような甲羅が、今日も呑気に日向ぼっこをしていた。
回復薬も欲しいけど、今一番欲しいのは鉄壁の防御力。先ほどの戦闘ではバターの様に切り裂かれてしまった俺の皮膚も、この亀達を食らうことで頑強な岩の様になるだろう。
そして、もしもこの岩のような肌を手に入れる事が出来たら、それはきっと防御力だけの話に留まらない。色々と活用出来るんじゃないだろうか?
さて、カバとラプトルを食べた俺の攻撃力は、果たして通じるか…?
俺は亀の群れに近付いて、端っこの方でポツンと独りでいる個体に目を付ける。
もしも牙が通った時、いきなり襲われても逃げやすいようにしないといけない。この亀達、動きはとろいけど甲羅の硬さは尋常じゃない。あんなのに押しつぶされたら、一巻の終わりだ。
俺は慎重に亀へ近づく。
相変わらずのぺ~と首を垂れて、川の水をペロペロ飲んでいる。
俺も川を覗いて、ワニが居ないかを確認する。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:42(+2)
HP:131(+1)
MP:82/122(+2)
物理攻撃力:254(+4) 【+20】
物理防御力:73(+3)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:73(+3)
俊敏性:176(+11) 【+50】
器用性:48(+1)
スキル:瞬発力(小)、剛腕(極小)〉
ラプトルを倒したから、ステータスも上がっている。やっぱりあいつは、攻撃と俊敏が高かったみたいだ。
更に俊敏を鍛えるのも面白いけど、先ずは脆弱な防御力だな。
川の安全も確認した俺は、亀の後ろに回り込む。前回は歯が立たなかった尻尾を睨み、進化して気合を入れる。
思い切って、噛み付いた。
ガギッ!
生物とは思えない程に硬く、岩の様な皮膚だ。
でも、牙は通った。
【グォオ!】
亀の叫び声。初めて、こいつが慌てるところを見た。
亀は尻尾をブンブンと振り、俺を振り落とそうとした。俺も必死に噛み付き、そしてとうとう嚙み千切った。
よしっ。この攻撃力なら通る!
俺は亀の尻尾を飲み込み、首の方へ回り込む。でもその時には、亀の首は甲羅の中に引っ込んでいた。手も足も縮めてしまい、甲羅だけがゴロンと転がった。
しまったな。亀はこれがあるから面倒なんだ。日寄らないで、最初から首にガブッと行けば良かった。
俺は亀の甲羅を一周し、何処か弱点は無いかと探す。でも、甲羅は分厚く、隙間は殆どなかった。
では、首が引っ込んだ部分はどうかと覗いてみるも、何か蓋の様な物がされて爪の攻撃も受け付けない。
ふむ。こうなったら待つか。
俺は進化を解いて、甲羅の上に登る。そこから、他の亀達を見下ろす。
仲間が攻撃されているからか、周りの奴らは既に甲羅だけの状態になっている。遠くの奴らも、俺の方を警戒していた。
既に俺は敵認定か。これでは、近付くだけで首を引っ込められてしまうだろう。
さて、困ったぞと遠くを眺めていると、川に入っていく個体を見かける。そいつは川の中に首を突っ込んで、ジッとしている。
何をしているのかと見ていると、不意に首が上がった。そいつの口には、ピチピチと跳ねる小魚が咥えられていた。
おお、こいつらの主食は魚か。こいつは使えるかも。
俺は甲羅を降りて、川の中を覗く。ワニくらいしか注目していなかったが、こう見ると魚も結構泳いでいる。
俺は早速、川に入って魚を捕まえようとする。でも、水の透明度が高いからか、飛び込むより先に魚は逃げてしまう。
こりゃ辛い。亀達はどうやって魚を取っているんだ?
俺はこっそりと移動し、川に入る亀に近付く。相変わらず、ただ顔を水に着けているだけに見えるが…。
よく見ると、亀は大きく口を開けて、舌をピロピロ動かしていた。それがミミズの様に見えて、魚が寄って来るみたいだった。
【ほへぇ】
まるでワニガメみたい。
流石は野生の亀。何時もポケ〜っとしているみたいだけど、やる時はやるんだな。
俺は感心し、真似させてもらう。適当な枝と蔓草で簡易な釣竿を作り、河原で虫を捕まえてそこに結ぶ。
針はないけど、まぁ何とかなるだろう。
俺は進化し、川に少しだけ入る。そして、釣り糸をたらす。
飛び込んだら逃げる魚も、釣りは見た事が無いのか簡単に寄ってくる。
良かった。スレていないお魚達で。これなら、こんな釣竿でも何とかなるぞ。
俺は餌が食べられない様に気を付けて、魚を引き付ける。水面へと誘導し…空いている左手でサッと水中を掬う。すると、魚が岸へと放りだされた。
よし、よし。上手くいった。
俺は手を揉んで魚の尾を爪で挟み、先程尻尾を噛みちぎった亀の元へ急ぐ。
彼はちょっとだけ首を出していたが、俺が近付くと再び閉じこもってしまった。
こりゃ、ただ待っていなくて良かった。この様子だと、何時まで経っても出てこなかっただろうから。
さて、では作戦に移ろう。
俺は引っ込んだ亀の首穴に魚を近付ける。ピチピチと魚が跳ねると、首を守っていた蓋が外れる。そして、ヌッと首が伸びてきた。
今だ!
ガギッ!
魚欲しさに伸びた喉に、俺は勢い良く食いつく。尻尾以上に硬かったが、弾かれる事はなかった。
食いちぎるのは無理だ。でも、こうして首を圧迫して息を止める!
【グゥウオオ!】
亀も抵抗する。首を引っ込めようと、苦しそうな声を上げる。
でも、それ程攻撃力は無いみたいだ。俺の噛み付きからは逃れられず、やがてぐったりと首を垂れる。
その途端、俺の牙が首筋にブスリと入り込んだ。
死んで防御力が落ちたか。いつ消えるか分からんから、急いで食べないと。
死んでもなお硬い亀の皮膚に、俺は悪戦苦闘しながら咀嚼を繰り返す。
でも、思ったよりも時間はかからなかった。亀の可食部が少なかったからだ。
殆どの肉が甲羅の中にあり、食べられるのは飛び出している首と手足と尻尾のみ。
この甲羅を剥がせれば良いんだけど…おりゃ!
ガンッ…。
鈍い音を響かせるだけで、甲羅はビクともしない。
これは、少し待つしかないかな。
俺はオークの時を思い出し、魔物が消えるのを待つ。
そして、いざ甲羅の大きさが小さくなってきた時、俺は端っこの方に牙を突き立てる。
バリッ!
よし。ちょっとだけど割れた。不味いけど、何とか食べられるぞ。
そうして俺は、亀の体が完全に消えるまで、口に入れられる物は片っ端から噛み砕いた。
途中でカバの魔石を2個も食べちまった。くっそ〜…。
でも、それだけの価値があった。
水面に映る疲れた犬の横に、数値が踊る。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:42(+0)
HP:131(+0)
MP:44/124(+2)
物理攻撃力:254(+0) 【+20】
物理防御力:83(+10)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:77(+4)
俊敏性:176(+0) 【+50】
器用性:48(+0)
スキル:瞬発力(小)、剛腕(極小)〉
うぉおおお!防御力が爆増してるぅう!
噛み過ぎて痛かった顎の事も忘れて、俺はその場で飛び跳ねていた。




