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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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16/60

16話〜なんだ?こいつ〜

〈MP:120/120〉


 泥だらけの犬の横に、そんな数字が浮かんでいた。

 映った犬が、ニヤリと笑う。

 

 なるほど。寝たら回復するのね。じゃあ次は、何時間寝たら回復するのかを検証しよう。

 …時計をゲットしてからの話だけど。


 俺は朝日を浴びながら、川で体を洗う。十分に泥を落としたら、河原でブルブルと体を震わせる。

 なかなか乾かないな。毛が伸びてきたし、トリマーしたい。

 ワーウルフの爪で切っちゃう?いやダメだ。絶対に悲惨な事になる。そう言う事は、自分が一番分かっているんだ。


 諦めて、俺は走り出す。走っている内に乾くだろうと思う。

 目指すは、亀達が日光浴をしている河原。いよいよあいつらの鉄壁を手に入れて、もうワンランク上の力を手に入れる。

 あわよくば、更なる進化なども期待したいが…カバでは進化しなかったもんな。もしかして、ワーウルフが最終進化系?

 あれはあれで強いし使い勝手も良いんだけど…折角の進化システム。もっと色々と派生して欲しい。


 そんな事を考えながら走っていると、突然大きな音が遠くから響いた。

 音の方角は…森の中。びっくりした鳥達が慌てて飛び去る。

 ん〜…何だろうな?爆発音に聞こえたし、誰か居るのか?少し偵察しようかな?無視して行くと、後で挟撃されるかもしれんし。


 俺は決心し、音のした方へと進路を変える。周囲の臭いに気をつけて、耳も四方を警戒する。

 そうして森に入ると、様々な臭いが襲ってくる。

 沢山の獣の匂いに、何かで焦げた様な臭い。その中に若干、人間の物も含まれていた。


 人間の方は、血の匂いも濃い。もしかしたら負傷しているのかもしれん。

 弱肉強食の世界だから仕方ないけど、出来たら助けてやりたいよな。森の中だし、もしかしたら式守プロって可能性もないか?


 俺は更に森の奥へと入っていく。徐々に臭いは強くなり、戦闘音らしき物も聞こえ始めていた。

 そして、人間の話し声も聞こえた。


「…して、…るんだ!」

「了解!…ます!お願…!」


 まだ微かにしか聞こえないが、複数人の声が様々な方向から聞こえる。俺は歩みを止め、周囲を警戒する。何処かに身を潜めようかと考える。

 でも、そうするより先に、足音を捉える。次いで、爬虫類特有のコケっぽい匂いも。

 何か近付いてくる。そう理解すると同時、太い木の裏から影が飛び出した。


【ギャウゥ?】

【なっ(ウッ)!】


 飛び出した影が俺の目の前で止まり、首を傾げてこちらを見下ろす。それに、俺は驚いた。

 全身を灰色の鱗で覆い、手と足には長い鉤爪が生えている。瞳はトカゲの様に縦に割れ、口にはワニの様に鋭利な牙が生え揃っている。

 恐竜?ラプトル?まさか、こんな絶滅生物まで生き残っている世界だとは…。


【ギャウィ!ギャウィ!】


 俺が固まっている内に、ラプトルは俺を獲物と認識した様子だった。大きく口を開けて、俺に飛び掛かって来た。

 うわぁっぶねぇ!

 何とか転がって躱すも、向こうは追撃の構えを見せる。

 速いな。俊敏性は俺と同等かそれ以上。格上と思った方が良いだろう。

 ならば、出し惜しみはナシだ。


【進化(ワゥウウ)!】


 ワーウルフとなって威圧するも、相手は構えを解こうとしない。そのまま、俺に鋭利な爪を突き立ててきた。

 迎撃!

 爪に魔力を送り込み、その一撃を受け止める。今の俺より一回りも大きいラプトルの体を、何とか受け止めることが出来た。

 だが、押し返せない。物理攻撃力が500に届く俺に対し、全く引けを取らない肉食恐竜。

 やっぱり強いんだな、恐竜って。是非ともその力、欲しいものだ。

 

 俺はラプトルの力を受け流す。そして、奴の足が地面につく前に、その小さな頭を思いっきり殴り飛ばした。

 おら、食らいな!振り下ろしパンチ(チョッピングライト)!


【ギャゥイッ!】


 見事、脳天に打ち下ろされた俺の右拳に、ラプトルは悲鳴を上げながら地面を転がる。直ぐに立ち上がるも、一歩、二歩と足取りが怪しくなっていた。

 よしよし。攻撃は通っているみたいだ。つまりラプトルのステータスは、攻撃と俊敏性が高く、防御力はそれ程ないってことかも。とは言え、今ので倒れないだけのHPと防御力も兼ね揃えていると。

 良いねぇ。亀を食べる前に、更なる攻撃力の底上げが出来そうだ。

  

 俺は期待に胸を膨らませる。もう、ラプトルの肉を自分の物の様に考えていた。

 それが浅はかだったと、直ぐに思い知る。俺の鼻が、別の匂いを捉えた。別の個体の、同じような臭い。

 目の前の奴とは違う、別のラプトルの匂いを。

 なっ!?


【ギャゥウ!】【ギャイィ!】


 俺の後ろに、もう2体のラプトルが現れた。

 くっ、しまった。ラプトルは群れで狩りをする。そんな初歩的な事を忘れていたなんて。

 形勢逆転。前後を囲まれてしまった俺は、窮地に立たされる。

 どうする?…いや、考える時間は無い。今は少しでも早く、相手より早く動くんだ!


 奴らが動く前に、俺は飛び出す。狙うは、前の1体。

 仲間が来て安心している奴の首に目掛けて、俺は噛み付いた。


 ガブリッ!

 カバの牙で強化された俺の牙は、硬い鱗で覆われたラプトルの首筋に深々と刺さり、奴の息を完全に遮断する。


【ギャゥイ!】【ギィイ!】


 後ろの2匹が叫ぶ。仲間がやられそうなのを見て、慌てて俺へと駆け寄る。跳び上がり、凶悪な後ろ脚の爪を向けてきた。

 獲物を離さないと、避けられないと思っているのか?甘いな!

 俺は渾身の力で首を振り、口にしたラプトルを振り回す。すると、ラプトルの体もブンッと振り回され、その長い尻尾が空中のラプトル2体を叩き落とした。

 よしよし。流石は攻撃力500のステータス。自分よりも大きな物でも、こんなに軽く振り回せるとは。

 

 2匹のラプトル達が地面を転がっている内に、俺は口にしたラプトルの肉を食らう。

 1口、2口。気のせいだとは思うけど、肉を呑み込む度に力が湧いて来る気がする。ラプトルの肉は、味的にも能力的にも美味しいかも。

 これは是非、目の前の2匹も胃袋に収めたいものだ。


 俺は食べかけのラプトルを咥えたまま、構える2体のラプトルに対峙する。

 既に仲間が息絶えているのを理解しているのか、先ほどのような分かり易い攻撃は仕掛けて来ない。じわりじわりと、立ち位置を調整している。俺の死角に入ろうと、虎視眈々と狩る準備を進めていた。

 流石は狩人。頭が良い。距離も少しあるから、下手にこちらから仕掛けたら、仕掛けられなかった方が襲ってくるだろう。とはいえ、このままだと挟撃されて俺が死ぬ。

 ふむ…勿体ないけど、この死体を放り投げて注意を逸らすか。


 俺は死体を右手で鷲掴みにし、後ろのラプトルに投げつけようとした。

 でも、投げられなかった。

 投げるよりも先に、そのラプトルの背中に羽が生えたから。


 スパンッ!スパッ、スパッ、スパッ!

 違う。羽じゃない。こいつは矢だ、矢の羽根だ!

 俺が漸く気付いた時には、ラプトルの頭にも矢が飛来し、目玉を射貫かれて絶命した。


【ギャァ!】


 後ろでラプトルの叫び声。振り返ると、もう1体の肩にも矢が生えていた。

 そして、その脅威は俺にも向く。殺気が俺を貫き、次いで風切り音。

 俺は咄嗟に死体をそちらに向けて、ガードする。すると、持っていた死体が幾度が震えた。


【ギャァ…ゥ】


 バサリッと、2匹目のラプトルが地面に倒れる。彼の体にも、無数の矢が生えていた。

 頑丈なラプトルの鱗をも貫く弓矢。間違いなく、人間達が放った物だろう。


 周囲に人間の匂いが濃くなっていくのを感じながら、俺は歯を食いしばる。

 この感じ、逃げ場はない。完全に包囲されている。


「うわっ!なんだ?こいつ」


 どうやって包囲網を抜けようかと考えていると、藪を掻き分けて男性が現れた。

 式守プロと似たフォルムの、灰色の鱗に覆われた鎧。手にはクリーム色をした分厚い太刀。

 人間の冒険者だ。


「人狼って奴か?ここいらじゃ見かけない、珍しい魔物だけど…俺達の獲物を横取りしようってなら、容赦しないからな?」


 そう言って、男は俺に剣を向けてきた。

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― 新着の感想 ―
え~・・・辛勝でも勝てそうな時に、介入されるのってムッチャ萎えるわ~。 まぁコイツ等にしたら魔物同士の抗争を一網打尽、漁夫の利!なんだろうけどさぁ・・。 だが、敢えて言おう。「何だコイツ?」「獲物の横…
ラプトルでは無かったが、変身二足恐竜の強敵相手に拳闘で勝負がつかなかった事への雪辱戦ですかw(いつ? 咬合力・首を回すための筋肉・僧帽筋その他へ連動してる?カバさんからもらったスキルの使い方としては…
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