16話〜なんだ?こいつ〜
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泥だらけの犬の横に、そんな数字が浮かんでいた。
映った犬が、ニヤリと笑う。
なるほど。寝たら回復するのね。じゃあ次は、何時間寝たら回復するのかを検証しよう。
…時計をゲットしてからの話だけど。
俺は朝日を浴びながら、川で体を洗う。十分に泥を落としたら、河原でブルブルと体を震わせる。
なかなか乾かないな。毛が伸びてきたし、トリマーしたい。
ワーウルフの爪で切っちゃう?いやダメだ。絶対に悲惨な事になる。そう言う事は、自分が一番分かっているんだ。
諦めて、俺は走り出す。走っている内に乾くだろうと思う。
目指すは、亀達が日光浴をしている河原。いよいよあいつらの鉄壁を手に入れて、もうワンランク上の力を手に入れる。
あわよくば、更なる進化なども期待したいが…カバでは進化しなかったもんな。もしかして、ワーウルフが最終進化系?
あれはあれで強いし使い勝手も良いんだけど…折角の進化システム。もっと色々と派生して欲しい。
そんな事を考えながら走っていると、突然大きな音が遠くから響いた。
音の方角は…森の中。びっくりした鳥達が慌てて飛び去る。
ん〜…何だろうな?爆発音に聞こえたし、誰か居るのか?少し偵察しようかな?無視して行くと、後で挟撃されるかもしれんし。
俺は決心し、音のした方へと進路を変える。周囲の臭いに気をつけて、耳も四方を警戒する。
そうして森に入ると、様々な臭いが襲ってくる。
沢山の獣の匂いに、何かで焦げた様な臭い。その中に若干、人間の物も含まれていた。
人間の方は、血の匂いも濃い。もしかしたら負傷しているのかもしれん。
弱肉強食の世界だから仕方ないけど、出来たら助けてやりたいよな。森の中だし、もしかしたら式守プロって可能性もないか?
俺は更に森の奥へと入っていく。徐々に臭いは強くなり、戦闘音らしき物も聞こえ始めていた。
そして、人間の話し声も聞こえた。
「…して、…るんだ!」
「了解!…ます!お願…!」
まだ微かにしか聞こえないが、複数人の声が様々な方向から聞こえる。俺は歩みを止め、周囲を警戒する。何処かに身を潜めようかと考える。
でも、そうするより先に、足音を捉える。次いで、爬虫類特有のコケっぽい匂いも。
何か近付いてくる。そう理解すると同時、太い木の裏から影が飛び出した。
【ギャウゥ?】
【なっ!】
飛び出した影が俺の目の前で止まり、首を傾げてこちらを見下ろす。それに、俺は驚いた。
全身を灰色の鱗で覆い、手と足には長い鉤爪が生えている。瞳はトカゲの様に縦に割れ、口にはワニの様に鋭利な牙が生え揃っている。
恐竜?ラプトル?まさか、こんな絶滅生物まで生き残っている世界だとは…。
【ギャウィ!ギャウィ!】
俺が固まっている内に、ラプトルは俺を獲物と認識した様子だった。大きく口を開けて、俺に飛び掛かって来た。
うわぁっぶねぇ!
何とか転がって躱すも、向こうは追撃の構えを見せる。
速いな。俊敏性は俺と同等かそれ以上。格上と思った方が良いだろう。
ならば、出し惜しみはナシだ。
【進化!】
ワーウルフとなって威圧するも、相手は構えを解こうとしない。そのまま、俺に鋭利な爪を突き立ててきた。
迎撃!
爪に魔力を送り込み、その一撃を受け止める。今の俺より一回りも大きいラプトルの体を、何とか受け止めることが出来た。
だが、押し返せない。物理攻撃力が500に届く俺に対し、全く引けを取らない肉食恐竜。
やっぱり強いんだな、恐竜って。是非ともその力、欲しいものだ。
俺はラプトルの力を受け流す。そして、奴の足が地面につく前に、その小さな頭を思いっきり殴り飛ばした。
おら、食らいな!振り下ろしパンチ!
【ギャゥイッ!】
見事、脳天に打ち下ろされた俺の右拳に、ラプトルは悲鳴を上げながら地面を転がる。直ぐに立ち上がるも、一歩、二歩と足取りが怪しくなっていた。
よしよし。攻撃は通っているみたいだ。つまりラプトルのステータスは、攻撃と俊敏性が高く、防御力はそれ程ないってことかも。とは言え、今ので倒れないだけのHPと防御力も兼ね揃えていると。
良いねぇ。亀を食べる前に、更なる攻撃力の底上げが出来そうだ。
俺は期待に胸を膨らませる。もう、ラプトルの肉を自分の物の様に考えていた。
それが浅はかだったと、直ぐに思い知る。俺の鼻が、別の匂いを捉えた。別の個体の、同じような臭い。
目の前の奴とは違う、別のラプトルの匂いを。
なっ!?
【ギャゥウ!】【ギャイィ!】
俺の後ろに、もう2体のラプトルが現れた。
くっ、しまった。ラプトルは群れで狩りをする。そんな初歩的な事を忘れていたなんて。
形勢逆転。前後を囲まれてしまった俺は、窮地に立たされる。
どうする?…いや、考える時間は無い。今は少しでも早く、相手より早く動くんだ!
奴らが動く前に、俺は飛び出す。狙うは、前の1体。
仲間が来て安心している奴の首に目掛けて、俺は噛み付いた。
ガブリッ!
カバの牙で強化された俺の牙は、硬い鱗で覆われたラプトルの首筋に深々と刺さり、奴の息を完全に遮断する。
【ギャゥイ!】【ギィイ!】
後ろの2匹が叫ぶ。仲間がやられそうなのを見て、慌てて俺へと駆け寄る。跳び上がり、凶悪な後ろ脚の爪を向けてきた。
獲物を離さないと、避けられないと思っているのか?甘いな!
俺は渾身の力で首を振り、口にしたラプトルを振り回す。すると、ラプトルの体もブンッと振り回され、その長い尻尾が空中のラプトル2体を叩き落とした。
よしよし。流石は攻撃力500のステータス。自分よりも大きな物でも、こんなに軽く振り回せるとは。
2匹のラプトル達が地面を転がっている内に、俺は口にしたラプトルの肉を食らう。
1口、2口。気のせいだとは思うけど、肉を呑み込む度に力が湧いて来る気がする。ラプトルの肉は、味的にも能力的にも美味しいかも。
これは是非、目の前の2匹も胃袋に収めたいものだ。
俺は食べかけのラプトルを咥えたまま、構える2体のラプトルに対峙する。
既に仲間が息絶えているのを理解しているのか、先ほどのような分かり易い攻撃は仕掛けて来ない。じわりじわりと、立ち位置を調整している。俺の死角に入ろうと、虎視眈々と狩る準備を進めていた。
流石は狩人。頭が良い。距離も少しあるから、下手にこちらから仕掛けたら、仕掛けられなかった方が襲ってくるだろう。とはいえ、このままだと挟撃されて俺が死ぬ。
ふむ…勿体ないけど、この死体を放り投げて注意を逸らすか。
俺は死体を右手で鷲掴みにし、後ろのラプトルに投げつけようとした。
でも、投げられなかった。
投げるよりも先に、そのラプトルの背中に羽が生えたから。
スパンッ!スパッ、スパッ、スパッ!
違う。羽じゃない。こいつは矢だ、矢の羽根だ!
俺が漸く気付いた時には、ラプトルの頭にも矢が飛来し、目玉を射貫かれて絶命した。
【ギャァ!】
後ろでラプトルの叫び声。振り返ると、もう1体の肩にも矢が生えていた。
そして、その脅威は俺にも向く。殺気が俺を貫き、次いで風切り音。
俺は咄嗟に死体をそちらに向けて、ガードする。すると、持っていた死体が幾度が震えた。
【ギャァ…ゥ】
バサリッと、2匹目のラプトルが地面に倒れる。彼の体にも、無数の矢が生えていた。
頑丈なラプトルの鱗をも貫く弓矢。間違いなく、人間達が放った物だろう。
周囲に人間の匂いが濃くなっていくのを感じながら、俺は歯を食いしばる。
この感じ、逃げ場はない。完全に包囲されている。
「うわっ!なんだ?こいつ」
どうやって包囲網を抜けようかと考えていると、藪を掻き分けて男性が現れた。
式守プロと似たフォルムの、灰色の鱗に覆われた鎧。手にはクリーム色をした分厚い太刀。
人間の冒険者だ。
「人狼って奴か?ここいらじゃ見かけない、珍しい魔物だけど…俺達の獲物を横取りしようってなら、容赦しないからな?」
そう言って、男は俺に剣を向けてきた。




