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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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15/60

15話〜こいつは、貯めとくか〜

【グオォ~!グァ、グァ、グァ】


 楽しそうに声を上げながら、カバ達はゴロンゴロンと泥浴びをする。まるで泥沼で藻掻いているように見えるが、あれが彼らの泥浴びスタイルなのだろう。

 そんな中、1匹だけ激しく泥の中にダイブする個体が居る。

 俺と対峙した個体だ。そいつだけは、声も上げずに泥沼の中を転がり回っている。周りのカバが迷惑そうにしていてもお構いなしだ。

 

 良いぞ。その無様な様子を見るに、やはりお前はそれが弱点なんだな。

 俺は悪い笑みを浮かべながら、ジワジワと奴らに近付く。そうして、奴らのテリトリーへと侵入していく。

 すると、また同じカバが反応した。たんまりと泥の着いた体を起こし、こちらへと大きな口を開ける。

 そして、走り出す。

 爆走してくる。


【グオォァア!!】


 うわっ、もうあんな元気になって。

 俺はくるりと反転し、全速力で逃げ出す。それに、カバは付いてくる。十分に稼いだと思われたカバとの距離も、次第に詰められていった。

 

 くっ、さっきより速い。それだけ怒っているのか。

 仕方ない。加速!

 俺は足に力を込めて、スキルを発動する。あとちょっとで噛み付かれそうだったけど、なんとか凌いだ。

 

 そうして逃走していると、目先からは俺の臭いが強く漂って来る。目印だ。自分だけが分かる様、あそこにマーキングしておいたのだ。

 俺はそこ目掛けて走り込み、そして、大きくジャンプした。


 その途端、速度が落ちる。辛うじて保っていたカバとの距離が 、また詰められた。

 俺の後ろ足を、カバの大きな口が捉え…。


 ズボッ!

【グァアア!!】


 捉えられる直前、カバの体が落ちた。そこには、俺の仕掛けた落とし穴が掘られていたのだった。

 俺は犬だからね。穴掘りは大得意だ。掘っている内に楽しくなっちゃって、少々掘り過ぎたが…まぁいいだろう。その結果、足の短いカバには出られない程の大穴になったみたいだし。


【グオォ!フゥ、フゥ、グオォ…】


 加えて、カバはスタミナが切れたみたいだ。鼻をヒクつかせて、必死に酸素を吸おうとしている。

 チャンスだ。


【進化(ワォオオン)!!】


 ワーウルフになった俺は、カバの上に乗る。奴は必死に体を揺するが、勢いが無い。

 観念しろ!

 ガブッ!


 俺の牙が、分厚い皮を貫通する。

 成功だ。やはりこいつ、肌が乾燥していると防御力が下がるんだ。

 俺は噛み付きながら、カバの肌を見る。泥浴びで纏った泥は、風と太陽の熱でカピカピに乾燥していた。

 防御力が落ちるから、あんな必死に泥浴びをしていたと言う訳だな。


【グォ…】


 やがて、深手を負ったカバは力尽きて動かなくなった。そうなると、進化しなくても牙が通る様になった。

 カバの肉。思ったよりも脂肪分が少なくて食べ易いな。ちょっと臭いけど、ネズミやゴブリンに比べりゃ丁度良いアクセントだ。こいつは良い。


 久しぶりのご馳走に、俺は当初思っていたよりも食べ過ぎてしまった。

 腹半分くらいで止めようと思ったのに、満腹まで食べてしまった。

 うっぷ。


 食べ終わり、俺は一旦湿地帯を離れて河原へ行く。そこで泥と汗を流し、水面を覗き込む。

 …戦闘中に、現実世界から持ってきた鏡を割っちゃったんだ。今度から、何処かに埋めて置くようにしよう。

 さて、ステータスはどうだろうか?


〈ステータス

種族:雑種犬

LV:28(+2)

HP:124(+1)

MP:41/89(+4)

物理攻撃力:134(+8)

物理防御力:60(+3)

魔法攻撃力:0(+0)

魔法防御力:47(+2)

俊敏性:144(+6)【+20】

器用性:41(+1)

スキル:瞬発力(極小)〉


 うぉお。攻撃力が跳ね上がってる。何気にMPも上がってるし、魔防も少しだけど上がった。

 もしかして泥パックて、魔法の一部だったのか?

 あと、何気にレベルも2こ上がってる。もうオークでは上がらなくなっていたから、カバはオークよりも上位個体だったんだろうな。

 さて、じゃあ次はこいつを試すか。

 

 俺は袋から、水色の小石を取り出す。こいつはカバの魔石。牙と一緒に落ちていたので、拾って持ってきた。

 さっきの戦闘でMPが減っているし、どれ程回復するかテストだ。


 そう思って食べた魔石だが…なんとMPは全回復してしまった。

 う〜ん。これでは、魔石の真価が分からんな。48以上回復させる効果なのか、100%回復させるのか。

 まぁどっちにせよ、ゴブリンの魔石よりは回復するって事だ。大きさは然程変わらないから、これからは色の濃い魔石を集めた方が効率が良さそうだな。


 ああ、あと。レベルアップしてもMPが回復しないのも発見出来た。

 出来たけど…つくづくレベルアップの意味が薄い世界だな、ここは。


 では最後に、このドロップした牙を食べ…て、これ食べられるのか?

 俺は一度、進化せずに齧ってみた。でも、全く歯が立たない。進化したらガリガリ削れる様になったけど…MPが足りない。先に魔石を集めないと。


【こいつは(ウゥ)、貯めとくか(ワフゥ)】


 俺は地面に穴を掘り、牙を隠す。分からなくならない様にマーキングしようとして…やめとこ。後で食べるんだろ?自分のだとしても気持ち悪いわ。

 俺は目印に長い枝を突き刺し、離れた所にマーキングしておく。

 そして、走る。また腹ごなしの為に草原を駆ける。

 腹ごなしと、出来たらスキルが成長して欲しい。そろそろ極小じゃ物足りなくなってるから。



 それから数日。俺はカバを狩り続けた。食べられる容量が少ないので1日数頭程度だが、着実にステータスは上がっていった。

 だんだんカバの肉に飽きてきて、浮気しそうにもなったけど…その度にステータスを見て、気持ちを奮い立たせた。

 俺の腹に、カバ以外の肉を入れるスペースは無いんだぞ?


 そうして頑張った結果、カバを食べてもステータスが上がらなくなる。

 俺は水面を覗く。そこに映った犬が、誇らしげな笑みを返してきた。


〈ステータス

種族:雑種犬

LV:40(+12)

HP:130(+6)

MP:120(+31)

物理攻撃力:230(+96)

物理防御力:70(+10)

魔法攻撃力:0(+0)

魔法防御力:70(+23)

俊敏性:165(+24)【+50】

器用性:47(+6)

スキル:瞬発力(小)〉


 圧倒的ではないか、俺のステータスは。

 途中から進化しなくても牙が通る様になったし、スキルを使わなくても追い付かれなくなった。そのスキルもランクアップしたし、移動もよりスムーズになっている。

 まぁ、俊敏性はレベルアップの恩恵だけど。


 さて、次は亀に挑戦…する前に。

 俺は地面を掘り返す。そこには、大量のカバの牙が眠っていた。

 この牙を食べて、更なる強化を目指そう。ウサギの角も有用だったけど、カバはそれ以上だと願いたい。

 …不味いだろうから、気乗りはしないけどね。


 俺は牙に齧り付く。僅かには削れたけど、やはり進化前だと厳しい。

 でも大丈夫。牙だけでなく、魔石もたんまり集めたから。


 俺は進化し、牙を食べる。味は殆どないけど、バキバキと煎餅の様に割れる感覚は楽しい。そして、この先の能力アップを考えると更にワクワクする。

 俺は何とか全てを平らげて、水面に姿を映す。


〈ステータス

種族:雑種犬

LV:40(+0)

HP:130(+0)

MP:31/120(+0)

物理攻撃力:250(+20)【+20】

物理防御力:70(+0)

魔法攻撃力:0(+0)

魔法防御力:70(+0)

俊敏性:165(+0)【+50】

器用性:47(+0)

スキル:瞬発力(小)、剛腕(極小)〉


 攻撃力が、250まで跳ね上がった。しかも、スキルまで発現するなんて。

 剛腕ってなっているけど、絶対に顎の力だ。だって牙を食べるのに、顎を酷使したからね。


 俺はウキウキで、ボロ袋から魔石を出す。そして1粒だけ口に放り込む。

 コリコリ。

 さて、MPはどうかな?


〈MP:31→81〉


 よしよし。これで水色魔石の真価が分かった。MP50回復ね。2個あれば全回復するから、かなり有用だ。

 俺はもう1粒食べようとして…止める。

 今までMPの回復を魔石だけに頼ったけど、自然回復も試してみよう。


 俺は深呼吸したり、寝転んでみたり、ただジッと夜空を見上げたりした。

 でも、一向に回復しない。こうなると、あとは寝るくらいしか思い付かない。


 俺は草むらに穴を掘って、そこに埋まる。これなら発見されにくいし、上空からの攻撃も無効化出来る。

 泥だらけにはなるけど、起きたら風呂に入れば良い。

 それじゃあ、おやすみなさい。

 俺は目を瞑り、明日に期待した。

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