15話〜こいつは、貯めとくか〜
【グオォ~!グァ、グァ、グァ】
楽しそうに声を上げながら、カバ達はゴロンゴロンと泥浴びをする。まるで泥沼で藻掻いているように見えるが、あれが彼らの泥浴びスタイルなのだろう。
そんな中、1匹だけ激しく泥の中にダイブする個体が居る。
俺と対峙した個体だ。そいつだけは、声も上げずに泥沼の中を転がり回っている。周りのカバが迷惑そうにしていてもお構いなしだ。
良いぞ。その無様な様子を見るに、やはりお前はそれが弱点なんだな。
俺は悪い笑みを浮かべながら、ジワジワと奴らに近付く。そうして、奴らのテリトリーへと侵入していく。
すると、また同じカバが反応した。たんまりと泥の着いた体を起こし、こちらへと大きな口を開ける。
そして、走り出す。
爆走してくる。
【グオォァア!!】
うわっ、もうあんな元気になって。
俺はくるりと反転し、全速力で逃げ出す。それに、カバは付いてくる。十分に稼いだと思われたカバとの距離も、次第に詰められていった。
くっ、さっきより速い。それだけ怒っているのか。
仕方ない。加速!
俺は足に力を込めて、スキルを発動する。あとちょっとで噛み付かれそうだったけど、なんとか凌いだ。
そうして逃走していると、目先からは俺の臭いが強く漂って来る。目印だ。自分だけが分かる様、あそこにマーキングしておいたのだ。
俺はそこ目掛けて走り込み、そして、大きくジャンプした。
その途端、速度が落ちる。辛うじて保っていたカバとの距離が 、また詰められた。
俺の後ろ足を、カバの大きな口が捉え…。
ズボッ!
【グァアア!!】
捉えられる直前、カバの体が落ちた。そこには、俺の仕掛けた落とし穴が掘られていたのだった。
俺は犬だからね。穴掘りは大得意だ。掘っている内に楽しくなっちゃって、少々掘り過ぎたが…まぁいいだろう。その結果、足の短いカバには出られない程の大穴になったみたいだし。
【グオォ!フゥ、フゥ、グオォ…】
加えて、カバはスタミナが切れたみたいだ。鼻をヒクつかせて、必死に酸素を吸おうとしている。
チャンスだ。
【進化!!】
ワーウルフになった俺は、カバの上に乗る。奴は必死に体を揺するが、勢いが無い。
観念しろ!
ガブッ!
俺の牙が、分厚い皮を貫通する。
成功だ。やはりこいつ、肌が乾燥していると防御力が下がるんだ。
俺は噛み付きながら、カバの肌を見る。泥浴びで纏った泥は、風と太陽の熱でカピカピに乾燥していた。
防御力が落ちるから、あんな必死に泥浴びをしていたと言う訳だな。
【グォ…】
やがて、深手を負ったカバは力尽きて動かなくなった。そうなると、進化しなくても牙が通る様になった。
カバの肉。思ったよりも脂肪分が少なくて食べ易いな。ちょっと臭いけど、ネズミやゴブリンに比べりゃ丁度良いアクセントだ。こいつは良い。
久しぶりのご馳走に、俺は当初思っていたよりも食べ過ぎてしまった。
腹半分くらいで止めようと思ったのに、満腹まで食べてしまった。
うっぷ。
食べ終わり、俺は一旦湿地帯を離れて河原へ行く。そこで泥と汗を流し、水面を覗き込む。
…戦闘中に、現実世界から持ってきた鏡を割っちゃったんだ。今度から、何処かに埋めて置くようにしよう。
さて、ステータスはどうだろうか?
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:28(+2)
HP:124(+1)
MP:41/89(+4)
物理攻撃力:134(+8)
物理防御力:60(+3)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:47(+2)
俊敏性:144(+6)【+20】
器用性:41(+1)
スキル:瞬発力(極小)〉
うぉお。攻撃力が跳ね上がってる。何気にMPも上がってるし、魔防も少しだけど上がった。
もしかして泥パックて、魔法の一部だったのか?
あと、何気にレベルも2こ上がってる。もうオークでは上がらなくなっていたから、カバはオークよりも上位個体だったんだろうな。
さて、じゃあ次はこいつを試すか。
俺は袋から、水色の小石を取り出す。こいつはカバの魔石。牙と一緒に落ちていたので、拾って持ってきた。
さっきの戦闘でMPが減っているし、どれ程回復するかテストだ。
そう思って食べた魔石だが…なんとMPは全回復してしまった。
う〜ん。これでは、魔石の真価が分からんな。48以上回復させる効果なのか、100%回復させるのか。
まぁどっちにせよ、ゴブリンの魔石よりは回復するって事だ。大きさは然程変わらないから、これからは色の濃い魔石を集めた方が効率が良さそうだな。
ああ、あと。レベルアップしてもMPが回復しないのも発見出来た。
出来たけど…つくづくレベルアップの意味が薄い世界だな、ここは。
では最後に、このドロップした牙を食べ…て、これ食べられるのか?
俺は一度、進化せずに齧ってみた。でも、全く歯が立たない。進化したらガリガリ削れる様になったけど…MPが足りない。先に魔石を集めないと。
【こいつは、貯めとくか】
俺は地面に穴を掘り、牙を隠す。分からなくならない様にマーキングしようとして…やめとこ。後で食べるんだろ?自分のだとしても気持ち悪いわ。
俺は目印に長い枝を突き刺し、離れた所にマーキングしておく。
そして、走る。また腹ごなしの為に草原を駆ける。
腹ごなしと、出来たらスキルが成長して欲しい。そろそろ極小じゃ物足りなくなってるから。
それから数日。俺はカバを狩り続けた。食べられる容量が少ないので1日数頭程度だが、着実にステータスは上がっていった。
だんだんカバの肉に飽きてきて、浮気しそうにもなったけど…その度にステータスを見て、気持ちを奮い立たせた。
俺の腹に、カバ以外の肉を入れるスペースは無いんだぞ?
そうして頑張った結果、カバを食べてもステータスが上がらなくなる。
俺は水面を覗く。そこに映った犬が、誇らしげな笑みを返してきた。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:40(+12)
HP:130(+6)
MP:120(+31)
物理攻撃力:230(+96)
物理防御力:70(+10)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:70(+23)
俊敏性:165(+24)【+50】
器用性:47(+6)
スキル:瞬発力(小)〉
圧倒的ではないか、俺のステータスは。
途中から進化しなくても牙が通る様になったし、スキルを使わなくても追い付かれなくなった。そのスキルもランクアップしたし、移動もよりスムーズになっている。
まぁ、俊敏性はレベルアップの恩恵だけど。
さて、次は亀に挑戦…する前に。
俺は地面を掘り返す。そこには、大量のカバの牙が眠っていた。
この牙を食べて、更なる強化を目指そう。ウサギの角も有用だったけど、カバはそれ以上だと願いたい。
…不味いだろうから、気乗りはしないけどね。
俺は牙に齧り付く。僅かには削れたけど、やはり進化前だと厳しい。
でも大丈夫。牙だけでなく、魔石もたんまり集めたから。
俺は進化し、牙を食べる。味は殆どないけど、バキバキと煎餅の様に割れる感覚は楽しい。そして、この先の能力アップを考えると更にワクワクする。
俺は何とか全てを平らげて、水面に姿を映す。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:40(+0)
HP:130(+0)
MP:31/120(+0)
物理攻撃力:250(+20)【+20】
物理防御力:70(+0)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:70(+0)
俊敏性:165(+0)【+50】
器用性:47(+0)
スキル:瞬発力(小)、剛腕(極小)〉
攻撃力が、250まで跳ね上がった。しかも、スキルまで発現するなんて。
剛腕ってなっているけど、絶対に顎の力だ。だって牙を食べるのに、顎を酷使したからね。
俺はウキウキで、ボロ袋から魔石を出す。そして1粒だけ口に放り込む。
コリコリ。
さて、MPはどうかな?
〈MP:31→81〉
よしよし。これで水色魔石の真価が分かった。MP50回復ね。2個あれば全回復するから、かなり有用だ。
俺はもう1粒食べようとして…止める。
今までMPの回復を魔石だけに頼ったけど、自然回復も試してみよう。
俺は深呼吸したり、寝転んでみたり、ただジッと夜空を見上げたりした。
でも、一向に回復しない。こうなると、あとは寝るくらいしか思い付かない。
俺は草むらに穴を掘って、そこに埋まる。これなら発見されにくいし、上空からの攻撃も無効化出来る。
泥だらけにはなるけど、起きたら風呂に入れば良い。
それじゃあ、おやすみなさい。
俺は目を瞑り、明日に期待した。




