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名もなき犬、異界の地にて名を馳せる  作者: イノセス


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14/60

14話~ああ、ダメか~

 川の上流にはマンモス達が居たので、俺は下流へと向かって走っていた。川は随分と蛇行しており、長雨の時は相当な暴れ川になるのかもしれない。

 そんな事を考えながら下っていると、視界に気になる物を捉えた。モゴモゴと、岩が動いているのだ。

 何だろうと近づいてみると、それは大きな亀だった。


【グワァオ!】

【グオォ!】


 トドの様に太い鳴き声を轟かせ、川辺で日向ぼっこをしている。背中に背負った鈍色の甲羅はとても厳めしく、遠目では大岩の様に見えてしまう。

 そして、その群れに近付いて行くと、彼らの体がとても大きい事が分かる。中型犬が見上げるくらいの大きさ。

 乗用車くらい?いや、2tトラックくらいあるんじゃないか?


【ムオォ~!】


 俺が近くで見上げても、亀たちは呑気に欠伸をしている。俺を脅威と見ていない。つまり、それだけ自分の防御力に自信があると見える。

 いいねぇ。その防御力。是非とも俺の糧になって頂きたい。そして、俺の背中にこの拳に、その頑強な岩石を顕現したいものだ。

 

 俺は亀の周囲を回りながら、見事な甲羅の造形に心を躍らせる。何処かに付け入る隙は無いかと探し、後ろでプラプラしていた尻尾に目を付ける。

 こいつなら、何とか噛みちぎれるんじゃないか?

 そう思った俺は、早速食らいつくぁっ!硬っ!口からガキンッ!って、有り得ない音がしよったぞ。

 岩で出来とるんか?この尻尾。


 痺れる顎をパクパクしながら、水面に顔を突っ込む亀を恨めし気に見る。そのまま、俺も彼の横に並んで水面を見た。こんなに硬い奴の物理防御力は一体、幾つなんだと思って。

 でも、


【ああ(ウゥ)、ダメか(フウ)】


 水面に映る亀のノペーッとした顔の周りには、何も映らない。情けない顔の犬の周りには、いつもの数値が浮かんでいるのに。

 どうやら、ステータスは自分の物しか見えない様だ。

 こりゃ、あれだな。何か特殊なアイテムや、鑑定のスキルとかがないと他人のは見えないんだろう。

 

 仕方がないので、俺は進化する。これで3回目?4回目になるが、ちょっとコツを掴んで来た気がする。もっと魔石を集めて、進化の練習もしないとな。

 新たなタスクを心のメモに書き止めてから、俺は亀の尻尾に齧りつく。さっきと一緒で、牙は全然入らない。でも、さっきと違って弾かれたりはしない。このままギリギリと押し通して行けば、何時か皮膚を食い破れるかも。

 そんな風に思っていると、不意に尻尾が逃げる。ヒュッと、素早く甲羅の中に入ってしまった。次いで、ノペーッとした亀の顔がこちらを振り返る。その目は「邪魔だよ」と言っている様に見えた。


 まぁ、そうだよな。彼らも生きているんだから、むざむざ尻尾を食べられるまで待ってはくれない。それは足でも顔でも一緒だろう。

 俺は試しに、亀の背中によじ登って甲羅に牙を突き立てる。案の定、甲羅は更に防御力が高く、進化後の牙でも弾かれてしまった。

 分かった。今の俺は、こいつらを食うに能(あた)いしないんだ。もっと強くなってからじゃないと、歯も立たない。


 俺は亀の捕食を一旦諦めて、亀の群れから離れる。更に南下して、俺でも勝てそうな魔物を探し始めた。

 出来れば、オークより攻撃力が高い奴が良い。そんな見た目の奴は居ないかな?

 そうして暫く歩いていると、沼地が広がっているのが見える。そこで、大きな泥の塊が動いていた。

 なんだろうな?またデカい生き物っぽいけれど。


【グオォ~!グァ、グァ、グァ】


 一瞬、カエルか?と思ってしまう鳴き声だったけど、沼から立ち上がったそのフォルムは、明らかにカエルではない。

 象…じゃないし、サイ?いや、長い鼻も角もないし、あれは……カバか?


【グォオオ〜】


 カバの群れが、気持ち良さそうに泥浴びをしていた。

 うん。良いかも。カバって、それほど防御力もあるように思えないし、でも攻撃力は高そうだ。何せ、サバンナではライオンすら逃げ出す重戦車だって聞いた事あるからね。

 ただ…あいつら魔物なのか?普通のカバに見えるけど?

 俺はよく見ようと、カバの群れに近づく。でも、それが悪手だった。近づく俺を、一匹のカバがジッと見つめてきた。そして、その大きな口をガバッと開けて、こちらに突進してきた。


【グォオオオオ!】


 激昂。

 まだ距離はある筈なのに、見る見るカバの姿が大きく鮮明になってきた。怒った途端に、彼の背中や首から魚のヒレみたいなものが飛び出した。

 うん。あれは魔物だ。そしてこの状況…かなり不味い。確かカバって、メチャクチャ足が速かったんじゃないか?

 

 俺は踵を返して逃げ始める。でも、後ろから聞こえるズンズンと言う足音が、徐々に近くなり始めた。怒りの声も大きく聞こえ始めたし、振動まで感じる様になった。

 気になり、ちょっとだけ振り返ると…。


【グォオオオオ!】


 うぉお!やべぇ!弾き殺される!

 このままでは追いつかれると思った俺は、進化する。そして逆に、迫り来るカバに立ち向かった。

 ただ逃げても殺されるなら、対峙して僅かな活路を見出す!

 そう思って構えたが…。


【グォオオオオ!!】


 迫り来る圧倒的な物量を前にすると、強烈な死を意識してしまう。

 こいつは無理だと、俺の体は勝手にステップを踏む。カバの突進を、ギリギリで躱した。

 すると、目の前には無防備なカバの胴体が。

 チャンス!こいつでどうだ!

 俺は瞬時に爪を生やし、カバの皮膚に突き立てる。

 突き立てようとした、だが、突き刺さるより先に、俺の爪は根元からポッキリと折れてしまう。


 なにぃっ!?

 折れた衝撃で弾き飛ばされ、俺は地面を転がる。そして急いで立ち上がると、丁度カバが急停止するところだった。

 その分厚く弾力のある皮膚には、僅かに俺の爪痕が残されているだけだった。


 くっ、こいつ、思ったよりも防御力が高い。あんなゴムみたいな肌をしていたなんて。

 どうするか、俺は考える。速度は俺と同等以上で、防御力もある。何より当たれば一撃でお陀仏となる圧倒的な攻撃力。

 どうする?逃げるか。こいつらも諦めて、もっと弱い相手を探す?いやでも、全く効いていない訳じゃない。リスクがあるからと避け続けたら、何時まで経っても強くはなれないぞ。

 何時かじゃない。今だ。この瞬間だ。俺が踏ん張るべきは、ここなんだ。こいつの肉を食らい、俺は強くなるんだ。

 

 自分に言い聞かせ、俺は構える。

 でも、なかなかカバは突っ込んで来ない。俺が長考していても、襲って来なかったし。

 なんだ?何故、急に立ち止まった?もしかして、怒りが収まった?


【グォオオ!】


 あっ、ダメだ。全然収まっていない。

 再び突撃して来たカバに、俺は構える。

 あれ?でも、さっきよりも速度が遅いぞ?これなら、余裕で躱せる。

 俺はタイミングを見計らい、カバを避ける。さっきと同じように、横っ腹に爪を立てる。

 驚いた事に、今度は爪が刺さった。僅かだけど、爪先がカバの分厚い皮膚を切り裂いたのだった。


【グボォオオ!!】


 それでも、カバは止まらない。ノッシノッシと重い体を揺すって、沼地の方へと走って行った。

 俺は一瞬、奴を追おうかとも思った。でも、考え直す。今の変化を整理しようと思った。


 1回目の突進と、2回目の突進は大きく違った。先ずスピードは、2回目が明らかに落ちていた。今の奴も体が重そうに見えるし、もしかしてカバって、そんなにスタミナが無いのか?

 そして、2回目の突進は防御力も落ちていた。これはどう説明が付くだろう?スタミナが、防御にも影響している?それとも、何かまだ見落としがあるのか?


 俺は進化を解除して、ボロ袋から魔石を取り出し食べる。残る魔石は、数える程。

 考えろ。きっと次に進化をしたら、また魔石集めに出なければいけない。

 考えて、次のアタックで仕掛けるんだ。

 

 俺は泥浴びをするカバをジッと見つめる。ここで奴の弱点を見つけ、必勝法を編み出すのだと前のめりになる。

 そして、違和感を覚える。

 …なんか、泥浴びが長くない?随分と手間取っている風に見えるな。


【…待てよ(ワフ)】


 もしかして、そう言う事か?

 俺はカバ達から離れ、少し走った場所で穴掘りをする。

 もしも俺の予想通りなら、これでいける。

 俺の頭の中で、カバ討伐の作戦が練り上げられていった。

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― 新着の感想 ―
鈍重とトレードオフに見える防御力の取り込みにチャレンジか…龍鱗の無い世界ではやっぱり強殖装〇化?w 爪の再生は進化のリセットごとに自動充填(要魔石)か、ホーンラビット角とか使うのか え、カバさんもし…
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