13話~大体確認したかな~
式守プロがゲートに入るのと入れ違いに、ゲートから自衛隊の人達が出てきた。そして、広げっぱなしだったコンテナを回収し、車に乗って帰って行った。
彼らは冒険者ではなくて、完全に荷物持ちとして来ていたみたいだ。
じゃあ、式守プロたちは今、数人の仲間と原始的な武器だけで冒険に出ているって訳か。現地調達した、魔物の素材で。
それだけ、あの超重量の大太刀が相当な業物だったってことだろうな。
小さくなっていくトラックの背を眺めていると、俺の頭に手が乗る。
警備員で、元冒険者の武藤さんだ。
「よく吠えも逃げもせずに座っていたな、お前。式守プロの魔力を受けたら、飛んでるカラスですら落ちて来るんだぞ?」
ああ、あの威圧って魔力だったのね。それで落ちてくるって、まるで某漫画の覇気みたいだな。
「もしかしたらお前も、優秀な冒険者になれるかもしれんな」
済みませんね、武藤さん。もう既に俺は、冒険に出ているんです。
野良ですけど。
暫し武藤さんに撫でられた俺は、しめ縄の神社を後にする。そろそろ夕方だから、柏神社のゲートに入れる時間だ。
なのだが、俺は途中で寄り道をしていた。商店街の路地裏で、ゴミ捨て用のポリバケツの中を覗いていた。
ん~…丁度良いのは無いかなぁ?
寄り道をしまくった俺だったが、日も落ちた頃に漸く何時もの場所に戻って来た。口には、ひびの入った折り畳み式の手鏡を加えて。
明治神宮の人達だけでなく、あの式守プロまで腰に下げていたからね。俺が思うに、これはきっと、あれで使う物だ…。
期待を胸に、俺は柵を軽く飛び越えてゲートの中へ。途端に、体が軽くなる。まるで重力1/6の月面に降り立ったかのようだ。
…月に行ったことは無いんだけど。
これが魔力かと思いながら、瓦礫の合間を潜り抜ける。月明かりが差し込む広場に到着すると、先ずは匂いを嗅ぐ。
相変わらず浮浪者のようなゴブリン臭がするけど、随分と薄くなっている。少なくとも、この周囲からは遠ざかったのかな?
安全を確認した俺は、早速手鏡を地面に置いて自分を映した。思った通り、俺の顔の周囲に文字が浮かび上がっていた。
〈ステータス
種族:雑種犬
LV:26(+1)
HP:123(+0)
MP:85(+1)
物理攻撃力:126(+1)
物理防御力:57(+0)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:45(+0)
俊敏性:138(+2)【+20】
器用性:40(+0)
スキル:瞬発力(極小)〉
なるほどね。水面でなくとも、自分の姿が映る物であればステータス確認が出来ると。だからみんな、手鏡を腰からぶら下げて冒険に出ていたんだ。
そして、ちょっとだけレベルが上がっているのは、ゴブリンヒーローを倒した影響だろう。1だけだが、オークでは上がらなくなったレベルが上がったと言う事は、それなりの強敵だったみたいだ。
武具の性能だけじゃなかったのね。
【さて】
では試してみようか。
俺はあの時の感覚を思い出す。体の内で湧き上がったあの熱を。そして、強くありたいと言う感情を。
ここはゴブリンの巣。モタモタしていると、面倒になる。だから…早めにやらねば。
【ぐっ】
来た。熱だ。
腹の底から湧き上がる熱を感じ、それが全身を包む感覚を覚える。腕が伸び、筋肉が盛り上がり、地面が見る見る離れていく。
地面に置いた鏡が、異形となった俺の姿を映し返す。
〈ステータス
種族:ワーウルフ
LV:26(+0)
HP:246(×2)
MP:105/125(×1.5)
物理攻撃力:252(×2)
物理防御力:82(×1.5)
魔法攻撃力:0(+0)
魔法防御力:65(×1.5)
俊敏性:138(+0)【+20】
器用性:40(+0)
スキル:瞬発力(極小)〉
ワーウルフ。
種族自体も変わり、ステータスも軒並み倍近い成長を遂げている。
ゴブリンヒーローとの戦闘でも爆発的な戦闘力が出せたから、かなりの物と思っていたが…まさか2倍の攻撃力とは。
能力値の伸びを見るに、恐らくこれはオークの肉の影響が強いと思う。攻撃力とHPの伸びが良く、俊敏性と器用性は全く動いていない。オークの肉を食べた時と似た方向性の反応だ。
そう言えば、あの熱が出たのもオーク肉を食べまくった時に出ていた。つまり、進化の鍵は魔物の肉。
一定数食べたからか、同じ種族ばかりを食べたからか。まだ法則性は分からないけれど、方向性は分かって来た。
そして…。
俺はステータスの一部に目を向ける。MPの欄が徐々に下がっているのだ。
〈105→104→103…〉
一定の間隔で下がっている。時計が無いので正確には分からないが、俺の脈で計ってみると、2回の鼓動でMPは3下がっていた。
犬の脈は人間より早いが、今の俺は人間と同じくらいかそれ以上の大きさだ。脈の速度も人間以下と思った方が良い。つまり60秒に40~50回くらい。1秒に約MP1の消費か。
…えっ?2分しか持たないの?俺の進化って。ウルトラ○ンより厳しいタイムリミットだな。
こりゃ、急いでMPを育てないと不味いぞ?
俺が危機感を覚えていると、周囲でガサゴソと音がする。次いで、生乾きの嫌な臭いが鼻を突く。
【ギャギャ】【ギギ】
ゴブリンだ。丁度良い。
顔を出したゴブリン2匹に、俺は襲いかかる。罠だとは分かっているが、今の俺なら多少の奇襲くらいはどうって事ない。
そう思ってゴブリン2体を始末したが、特に追撃が来る様子はない。前回ならここで弓矢が飛んできたと思ったが、何処からも殺気が飛んで来なかった。
もしかして、ボスをやられたから連携が弱体化している?今のゴブリン軍団は烏合の衆なのか?
分からないが、襲って来ないのは好都合。俺は落ちた2つの魔石を拾い、1つを口の中へ放り込んだ。
ほいっ。パクっ。ガリガリ。ゴクンッ。
すると、MPの欄で変化があった。
〈MP:82→81→90→89…〉
ふむふむ。ゴブリンの魔石はMPの回復量が10か。思ったより少ないけど、定期的に魔石を食べれば進化は継続出来る。
魔石を何処かに貯められたら、もっと進化し易いんだけど…。
俺は進化を解除し、周囲を探索する。すると、泥だらけの巾着袋を見つけた。取り敢えず、探索中に倒したゴブリンの魔石をその中に入れて、口に咥える。そして、悠々と廃墟を出た。
先ずは河原を目指そう。巾着袋を洗って、ついでに体も洗いたい。現代日本だと、丁度良い川や噴水が少ないからね。こっちで飯と風呂を堪能するんだ。
やってきたのは、前回と同じ河原。進化したらワニは何とかなると思うから、あとは頭上から赤龍が飛来するのを注意したら良い。
俺は川に入り、巾着袋と体を洗う。十分綺麗になったら、一旦河原に戻る。そこで再び進化した。
安全なここで、実験の続きだ。魔石も十分にあるし、この姿なら魔石を掴むのも楽にできる。
俺は手鏡を片手に、自分のステータスを確認する。
先ずは、消費MPの確認からだ。
【ふんっ!せいっ!】
拳を振るい、シャドーボクシングを行う。
どうだ?
〈MP:88→87→86…〉
ふむ。変わらない。全ての行動で魔力を使う訳ではないか。
なら…爪を短くして、牙に集中!
どうだ?
〈MP:85→79→78…〉
ほうほう。やはり魔力の移動はMPを使うのか。なら、今度は進化を解除して…もう一度進化!
どうだ?
〈MP:76→55→54…〉
おお。一気に20も減った。
これは廃墟で進化した時と同じ量。つまり進化に必要な魔力は一定…かどうかは分からんな。ワーウルフだから20なだけかもしれないし。
では次は、スキルを使ってみようか。
俺は進化した状態のまま、野原を掛ける。途中で足に力を入れて、スキルを発動する。
すると…。
〈MP:45→44→43…〉
減らない。スキルでもMPは減らない。スキルって、魔法じゃないのか。
そんな風に驚いていると、ちょっと寒気を感じる。MPを見ると…31。およそ3割で体調に変化が生じるみたいだ。
俺は急いで河原に戻り、巾着袋を拾い上げる。そこから魔石を1粒摘みして…食べずに手鏡を凝視する。MPがジワジワ減っていき、徐々に頭が痛くなってきた。
今のMPは22。約2割で頭痛が始まった。そして、1割を下回ると…。
【ぐぅっ!】
頭痛が激しくなり、目が霞んできた。寒気で毛が逆立ち、徐々に力が抜けていくのが分かる。
退化だ。1割以下で、進化は強制解除されるらしい。
MP0でどうなるのか、知りたくもある。でもここは過酷な大自然のど真ん中。そんな事をして気絶なんてしたら大変だ。
俺は用意していた魔石を幾つか平らげる。すると、一気に症状は改善する。MPも50まで回復していた。
【さて、大体確認したかな】
MPと進化、それにMP残量による体調の変化を把握することが出来た。
残るはやっぱり、進化のトリガー。
ワーウルフより先に、進化があるのかの検証だ。
俺は下流に向って駆け出す。次の進化に適した、魅力的な魔物と出会う為に。




