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博物館寄贈品室の怪異台帳 〜いわく付き収蔵品は、正しく記録すれば祓える〜  作者: 黒木 あん


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6/12

第6話:増える人

──────────────


収蔵品調査記録票(区分外)/整理番号:KG-0446


・品名:古写真(台紙貼付、集合写真、鶏卵紙)

・寄贈受理日:令和七年五月二十三日

・寄贈者申告:「昭和初期の親族の集合写真。裏に撮影者の署名あり」

・状態:セピア調、四隅に劣化。写る人物、十一名。


──────────────


 古写真の来歴は、たいてい、写っている人の名前で辿る。


 このKG-0446の経緯書は、よくできていた。よくできすぎていた。撮影年、撮影地、写場の名前、写っている十一人の続柄まで、几帳面に書き込まれている。普通、集合写真の寄贈で、ここまで正確な情報が添えられることはない。人は自分の曾祖父母の名前すら、あやふやなものだ。


 私は、その丁寧さに、逆に引っかかった。丁寧すぎる来歴は、たいてい、作られた来歴だ。本当のことは、もっと歯抜けで、もっと生っぽい。


 区分外の照合をかけて、私は息を止めた。


 この写真も、過去に受理されていた。平成二十七年。同じ集合写真。同じ台紙。けれど、写っている人数が、違った。


 平成二十七年の記録では、写る人物、十名。


 今日のKG-0446は、十一名。


 私は二枚の写真を、拡大して並べた。十人までは、完全に同じ配置、同じ顔だった。増えていたのは、いちばん端、後列の右。前の記録にはなかった一人が、今日の写真には、写っている。少しぼやけて、輪郭が周りより淡い。まるで、あとから紛れ込んだように。


 写場の記録も辿った。もっと古い受理もあった。平成十六年、写る人物、九名。


 九名、十名、十一名。


 この写真は、寄贈されるたびに、写る人が一人ずつ、増えている。


 その夜、宮下さんは写真を一目見て、「ああ」と低く言った。


「これは、増えるやつだ。触った者が、入るんだよ」


「触った者……?」


「来歴を、偽った者だ」老人は言った。「この写真をな、嘘の由緒つけて手放した奴が、順番に、後ろに写り込む。手放したのに、離れられんのさ。嘘をついた分だけ、写真に居残る」


 嘘をついた者が、写真に居残る。九名、十名、十一名。増えた二人は、元の親族ではない。この写真を偽って手放した、二人の"寄贈者"だった。


 だとすれば。十一人目の、いちばん新しい、輪郭の淡い一人。それは、平成二十七年にこれを手放した誰か、だ。


 私は、平成二十七年の寄贈者の記録を見た。名前が書いてあった。「安田克彦」。連絡先を辿ると、電話は使われておらず、住所は空き地だった。


 ——覚えのある、手触りだった。


 田辺一夫。手鏡を「祖父の遺品」と偽って持ち込んだ、あの偽名の紳士。使われていない番号。存在しない住所。丁寧すぎる、作られた来歴。


 安田克彦。田辺一夫。字は違う。けれど、同じ癖の嘘だと、私の"来歴の矛盾が気持ち悪くなる眼"が言っていた。同じ人が、名前を替えて、品を捨てに来ている。手鏡も、この写真も。


 私はメモ帳に、二つの偽名を並べて書いた。田辺一夫。安田克彦。そして、その下に線を引いて、こう書き足した。「同一人物の疑い。偽の来歴を作るのが、うますぎる」。


 台帳のペンを取った。今日の仕事は、写真を封じることだ。


KG-0446 は、寄贈のたびに来歴を偽られ、その偽装者を後列に取り込んで増殖している。真の被写体は九名(平成十六年時点)。以後に写り込む二名は、当該品を虚偽の来歴で手放した者に由来する。正しい来歴——本写真が親族の手を離れ、以後は"手放したい者"の間を渡ったこと——を以下に記録する。


 私は、九名の本当の続柄と、二人の偽装者が入り込んだ経緯を、一つずつ書いた。増えた二人にも、「これは元の親族ではなく、来歴を偽った寄贈者である」と、はっきり注記した。嘘を、嘘として、台帳に載せた。


 書き終えて、写真を見た。


 十一人目の、輪郭の淡い一人が、うっすらと、薄くなっていた。まるで、居場所を失ったように。


「正しく書くと、居残れんくなる」宮下さんが、鍵束を鳴らして言った。「嘘だと、書かれちまうからな」


 翌々週。私はもう一度、写真を確認した。写る人物は、九名に戻っていた。増えた二人は、どこにもいなかった。


 私は、少しだけ、背筋が寒くなった。封じたことにではない。もし私が、あの丁寧すぎる経緯書を鵜呑みにして、十一人ぶんの偽の来歴を、そのまま台帳に写していたら。


 嘘を、正しい記録として、載せてしまっていたら。


 ——きっと、十二人目は、私だった。


 古写真の一件でした。手鏡と写真、二つの品に、同じ癖の"偽の来歴"。名前を替えて品を捨てに来る誰かの輪郭が、少しずつ見えてきます。次回は日中の博物館、ナナミの"表側"の同僚・和泉さんが登場します。区分外を知らない人たちの、明るい博物館。その明るさが、少し、怖い。


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