第14話:剥がされた札
載っていない品を、数えるのではなく、探すことにした。
数えれば、増える。奥へ近づくほど、数が合わなくなる。ならば、増えた品が、どこに"いる"のか。私は、区分外収蔵庫の見取り図を描いて、棚を、区画に分けた。手前から順に、一区画ずつ、品の数と、台帳の記載を、突き合わせていく。地味な、記録の仕事。怖いときほど、手が、手順を思い出す。
手前の三区画は、合った。台帳どおり。
奥の、四区画目。ここで、数が、一つ、多くなった。
私は、その区画の棚を、端から検めた。すべての品に、整理番号の札が下がっている。KG-0455、KG-0461……。番号の順に、並んでいる。けれど、KG-0461 の隣に、一つ、妙な隙間があった。品と品のあいだが、拳ひとつ分、不自然に空いている。何かが、あるべき場所。
私は、綿手袋の手を、その隙間に差し入れた。
指先が、硬いものに、触れた。
そこに、品が、あった。目には、見えにくかった。棚の影に沈むように、あるいは、見ようとする目を、するりと逃げるように。私は、それを、両手で、そっと引き出した。
古い、木彫りの、小さな像だった。掌に乗るほどの。仏でも、神でもない、名づけようのない形。そして——整理番号の札が、下がっていなかった。
正確には、下がっていた跡が、あった。札を結んでいた紐が、途中で、ちぎれている。誰かが、この品の番号札を、むしり取ったのだ。
私は、台帳を開いて、この像を探した。木彫りの像。掌大。——記載が、ない。どこにも。四百十八点の中に、この像は、いなかった。
けれど、それだけでは、なかった。
桐谷さんの遺した、古い員数点検の台帳。私は、それを、めくった。そして、指が、止まった。
一枚、ページが、抜けていた。
破り取られたのではない。もっと丁寧に、カミソリのような刃で、根元から、切り取られていた。前後のページの記載から、抜けたページには、KG-0461 の次の番号——KG-0462 前後の、いくつかの品が、記されていたはずだった。切り取られて、なくなっていた。
誰かが、記録を、消している。
品の札を、むしり取り。台帳のページを、切り取り。この区分外収蔵庫から、いくつかの品の記録を、消している。品そのものは、棚に残したまま。記録だけを、なかったことにして。
背筋が、ぞくりとした。怪異が、勝手に消えたのではない。人の手だ。誰かが、意図して、これを、"載っていない品"に、してきた。
そして、私は、思い出した。宮下さんの言葉を。桐谷さんのことを。「載せちゃいかん品を載せたんじゃない。逆だ。載せなきゃならん品を、載せ損ねた」。
載せ損ねたのではない。載せさせて、もらえなかったのだ。
私は、木彫りの像を、作業台に置いた。番号をなくされ、記録を消された品。こういう品が、いま、区分外に、いくつある。数えるたびに増えるのは、増えているのではない。私が、奥へ、それに近づくたびに、消された品が、一つずつ、「ここにいる」と、数に、名乗り出ているのだ。
記録して、と。
私は、綿手袋を、嵌め直した。まず、この一体から。新しい調査記録票を、切ろう。KG の、空いている番号を、与えよう。来歴を、辿ろう。
ペンを、取ったとき。
背後で、穏やかな声が、した。
「須藤さん。それは、記録に残さないほうがいい」
館長の、三上さんだった。いつのまにか、区分外収蔵庫の入口に、立っていた。穏やかな笑顔の、その下に、いつもの、事務的な冷たさを湛えて。
「その部屋の品はね」三上さんは、ゆっくりと言った。「一部、"無い"ことにしてあるんだ。台帳にも、載せない。……君も、余計なことは、しないように」
札を剥がしたのが、誰か。ページを切ったのが、誰か。私は、もう、分かってしまった。
載っていない品の正体――誰かが、記録を、意図して消していた。品を残したまま、番号札を剥がし、台帳のページを切り取って。そして、それをしていたのは。次回、第三章の山「載っていない品」。記録を消すと、封じた品は、どうなるのか。組織が怪異を"無い"ことにする、その代償が、明らかになります。




