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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
レックス立志編
8/50

ヴァルディア男爵領到着

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ルシアン・ヴァルツァーである! エルディナ・ヴァルディア様をお連れした! 開門を願う!」


ルシアンの声が城門に響いた。


しばらくして、重い音が鳴る。


ギィ……と軋む音。


巨大な木製の城門が、ゆっくりと開き始めた。


「ここが、ヴァルディア男爵領か……」


思わず声が漏れる。


俺はセルディア自由交易都市で育った。


だからこういう“領地の城壁都市”を見るのは、実は初めてに近い。


目の前に広がったのは、石畳の大通りだった。


道の両脇には、木造の家屋がぎっしり並んでいる。


二階建ての家。


干し草の束。


窓から吊るされた洗濯物。


そして――匂い。


家畜の匂いだ。


鶏が道を歩き回り、豚の鳴き声が聞こえる。


荷車を引く山羊も見える。


市場の方からは、怒鳴り声と笑い声が混ざった喧騒が流れてきた。


「小麦だ! 新麦だぞ!」


「ヴァルディアの山羊チーズだ!」


「小麦ビール冷えてるぞ!」


商人の呼び込みが飛び交っている。


セルディアの整った石造都市とは違う。


もっと泥臭い。


もっと生活の匂いがする街だ。


「エルディナ様!」


突然、声が上がった。


通りの店主らしい男が、帽子を脱いで頭を下げる。


「エルディナ様だ!」


「戻られたのか!」


人が集まり始める。


市場の女将。


荷車を押す若者。


子供たち。


みんな、自然に頭を下げている。


エルディナは馬車の窓から顔を出した。


そして、軽く手を振る。


「ただいま戻りました」


それだけ。


たったそれだけなのに。


「お帰りなさい!」


「エルディナ様!」


歓声みたいな声が上がった。


……すごい人気だな。


俺が感心していると、横から声が飛んできた。


「あんまし田舎者みたいにキョロキョロすんな」


ガロードだった。


腕を組み、いつもの不機嫌そうな顔をしている。


「いや、だってさ」


「こういう領地都市って初めてなんだよ」


「ふん」


興味なさそうに鼻を鳴らすガロード。


……と思ったら。


鼻が、ひくひく動いている。


視線は完全に屋台の方だった。


焼いた肉。


チーズ。


パン。


匂いだけはしっかり嗅いでいる。


「……屋台好きだよな」


「黙れ」


否定しないあたり、図星らしい。


やがて、街の中心に近づく。


二つ目の城壁が見えてきた。


外城と内城を分ける壁だ。


門をくぐると、空気が変わった。


騒がしさが消える。


石造りの建物。


広い広場。


整然とした通り。


兵士たちの姿が増える。


ここが――内城。


貴族区だ。


男爵の館。


礼拝堂の尖塔。


軍の駐屯舎。


市民区の雑多な空気とは違う。


静かで、整っていて、どこか張り詰めている。


その時だった。


横で、ガロードが片目をわずかに開いた。


耳が、ぴくりと動く。


もう一度。


ぴくぴく。


……何やってるんだ?「兄貴?」


声をかけても、返事はない。


ただ、ゆっくりと周囲を見ている。


まるで――何かを探るみたいに。


その間にも、兵士たちは自然と敬礼をしてくる。


「エルディナ様!」


「お帰りなさいませ!」


誰も迷わない。


誰も疑わない。


エルディナは軽く頷きながら、それに応えていた。


……ああ。


この人は、本当に“貴族”なんだ。


今さらだけど。


そんなことを、改めて思う。


「全体、止まれ!」


ルシアンの号令。


隊列が止まる。


馬車の扉が開いた。


ミレーネが先に降りる。


そして、エルディナに手を差し出す。


優雅な動作で、エルディナが馬車から降りた。


その先。


男爵の館の入口。


重い扉の前に、一人の男が立っていた。


落ち着いた佇まい。


整えられた貴族服。


鋭い眼差し。


エルディナが一歩進む。


「エルディナ、ただいまセルディアより戻りました」


男はゆっくり頷いた。


「ああ」


「無事で何よりだ」


アルベリオ・ヴァルディア。


その視線が――こちらに向いた。


そして。


俺たちは、ヴァルディア男爵家の当主と初めて対面することになった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



アルベリオ・ヴァルディアは、まずエルディナ様と短い言葉を交わした。


「道中、ご苦労だった」


「問題はありましたが、無事に戻れました」


それだけ。


思ったより、ずっと事務的だった。


……もっと、こう。


「よく帰った」


とか、感動の再会みたいなものがあるのかと思ってたんだけど。


貴族って、こういうものなのかな。


僕は少し首を傾げながら、その様子を見ていた。


やがてアルベリオさんは、セルディアから来た特使の方へ歩いていく。


僕と兄貴――ガロード兄貴は、その後ろに並んでいた。


「ヴァルディアへようこそおいでくださいました」


アルベリオさんが、丁寧に頭を下げる。


「こちらこそ、お招きありがとうございます」


特使も落ち着いた声で応じる。


二人の会話は、とても滑らかだった。


言葉の一つ一つが、きちんと形になっている感じがする。


……なんていうか。


大人の会話だ。


僕なんかが口を挟んだら、場違いになりそうだな。


そんなことを思っていると。


アルベリオさんの視線が、こちらに向いた。


「この若者たちは?」


僕のこと……だよね。


すると特使が、にこやかに説明する。


「オルグラード様のお弟子様たちでいらっしゃいます」


「ほう、オルグラード卿の」


アルベリオさんの目が、わずかに細くなる。


「若いですが、よく鍛えられております」


「先の襲撃事件でも、エルディナ様を守る活躍をしました」


……いやいや。


そんな大げさな。


僕は思わず視線を泳がせた。


困るなあ、こういう紹介。


僕、そんなすごいことしてないと思うんだけど。


アルベリオさんは、ゆっくりこちらに向き直った。


落ち着いた動きだった。


「アルベリオ・ヴァルディア」


「ヴァルディア男爵領で外交長官をしております」


丁寧な声。


僕たちに、きちんと向き合ってくれている。


すると――。


隣で、兄貴が一歩前に出た。


「私はガロードと申します」


……え? 兄貴?声の調子が、いつもと違う。


「オルグラード閣下の元で修行をさせていただいております」


「若輩者ですが、よろしくお願いします」


すっと頭を下げる。


姿勢も綺麗だ。


声も落ち着いている。


礼儀正しい。


……え? 誰だ、この人。


僕は思わず横顔を見た。


本当に兄貴だよね?


兄貴、変なもの食べた?


そんな錯覚を起こすくらい、普段と違った。


その時だった。


特使が、こっそり耳打ちしてきた。


「オルグラード卿が、礼儀教育を叩き込んだのですよ」


小声で続ける。


「社交の場では、必ずこの態度を取るようにと」


……なるほど。


それでセルディアから派遣されたのか。


今さらながら納得する。


アルベリオさんは、満足そうに頷いた。


「オルグラード卿の弟子らしい振る舞いだ」


そう言って、手を差し出す。


兄貴は迷いなく握手を返した。


その時だった。


――ふっ。


空気が、少し変わった。


ほんの一瞬。


だけど、確かに。


僕は周囲を見回した。


兵士。


従者。


役人らしい人たち。


……視線が集まっている。


なんだろう。


これは――。


敵意?いや、違う。


でも。


歓迎されている空気でもない。


なんだろう、この感じ。


僕が戸惑っている間にも、二人は握手を終えていた。


アルベリオさんは特に気にした様子もなく、今度は僕に向き直る。


「君は?」


柔らかい声だった。


僕は慌てて一歩前に出る。


「あ、えっと」


変に緊張してしまう。


「レックスです」


「よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げた。


ちゃんと挨拶できたかな。


僕なんかで大丈夫かな。


少し不安になりながら顔を上げると。


アルベリオさんは、穏やかに微笑んでいた。


「こちらこそ」


「レックス君」


その言葉は優しかった。


だけど――。


なぜか僕は。


この人の目の奥に、何か別のものがある気がして。


ほんの少しだけ。


背筋が伸びた気がした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「これは、叔父上どのは『魔王国』の方と握手をなさるのか」


その声は、わざとらしく大きかった。


振り向くと、ひとりの青年がこちらへ歩いてきていた。


後ろには護衛が二人。


上質な貴族服。


細い目。


どこか人を見下すような笑み。


――アルヴィン・ヴァルディア。


たぶん、この人がそうだ。


その言葉を聞いた瞬間、僕はやっと理解した。


……ああ。


そういうことか。


兄貴――ガロードは獣人だ。


魔王国出身。


そして、この国は勇者を輩出する国。


勇者は、魔王を討つ存在。


つまり。


魔王に従う者と、勇者の国の人間。


その二つが握手する。


さっき周囲から向けられていた視線は――。


嫌悪感。


それそのものだったんだ。


「無礼な言葉だ」


静かな声が響いた。


アルベリオさんだった。


「非礼を詫びろ、アルヴィン」


「客人に失礼であろう」


その言葉を聞いたアルヴィンは、鼻で笑う。


「失礼?」


まるで、詫びるつもりなど最初からないという顔だ。


その瞬間。


ぴくり。


横で、兄貴の耳が震えた。


ほんのわずか。


だけど、僕にはわかる。


……やばい。


兄貴は今、表面上は礼儀正しい若者の顔をしている。


でも。


中身は。


完全に、限界寸前だ。


怒りが溢れかけている。


兄貴の爪が、わずかに掌に食い込んでいた。


アルベリオさんが、舌打ちを小さく漏らす。


そして何か言おうとした。


その時だった。


「アルヴィン・ヴァルディア様でございますね」


穏やかな声が割って入る。


セルディアの特使だった。


「お初にお目にかかります」


丁寧に一礼する。


アルヴィンは眉をひそめた。


特使は続ける。


「アルヴィン様は勘違いなさっているようですが」


「セルディアは魔王国ではございません」


静かな声。


でも。


なぜか空気が重くなった。


「王国の貿易を担う重要な地方都市です」


「このヴァルディアにも、様々な物資を供給させていただいております」


淡々と語る。


だけど。


一言一言が、重い。


「その領主たるオルグラード閣下のお弟子様を侮辱なさるということは」


一拍。


特使の目が、まっすぐアルヴィンを見た。


「我らセルディアを侮辱なさるということで、よろしいですか?」


……うわ。


僕は思わず息を飲んだ。


この人、普段はすごく穏やかなのに。


圧がすごい。


とんでもない。


先生がこの人を特使に指名した理由、ちょっと分かった気がする。


特使は静かに続けた。


「私は閣下より、ある程度の裁量をいただいております」


「私が良いと判断すれば、自由に行動してよいと」


その言葉を聞いて。


アルヴィンの顔が、少し変わった。


一歩。


後ろへ下がる。


その瞬間。


「非礼を詫びろ!」


雷みたいな声が落ちた。


振り向く。


そこに立っていたのは。


大柄な男だった。


軍服。


厚い眉。


岩みたいな顔。


圧が――違う。


アルベリオさんの威圧感を、さらに上から押さえつけるような存在感。


グレイヴァス・ヴァルディア。


エルディナ様の叔父。


そして。


アルヴィンの父親。


その鋭い視線が、息子を射抜く。


「客人だ」


「謝れ」


短い言葉。


逃げ場はなかった。


特使。


アルベリオさん。


グレイヴァスさん。


三人の視線に晒されたアルヴィンは――。


しばらく黙ったあと。


「……失礼する」


それだけ言って、踵を返した。


謝罪ではない。


逃げだ。


護衛を連れて、そのまま立ち去っていく。


場に残った空気が、少し緩んだ。


その時。


ぽん、と。


兄貴の肩が叩かれた。


特使だった。


「よく我慢しましたね」


まるで褒めるみたいに言う。


兄貴は、ふん、と鼻を鳴らした。


だけど。


怒りは、まだ消えていない顔だった。


そして。


僕は改めて気づく。


僕たちは今。


ヴァルディア男爵領の軍事を司る男。


グレイヴァス・ヴァルディアと。


思わぬ形で、対面していた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「申し訳なかった、特使」


「そして――ガロード君、でよかったかな」


低く落ち着いた声だった。


グレイヴァス・ヴァルディアが、わずかに頭を下げる。


「先ほどの件は、私の不行き届きだ」


「あれには後できっちり注意しておく」


言葉に嘘はなさそうだった。


横で特使が静かに頷く。


「お任せしますよ」


その返事は、さっきまでの圧とは違う。


もう問題にはしない、という態度だ。


どうやら、本気でヴァルディアと事を構えるつもりだったわけじゃないらしい。


グレイヴァスさんは、次にアルベリオさんの方を見た。


「迷惑をかけました、兄上」


そう言って、きちんと頭を下げる。


それを見て、アルベリオさんは腕を組んだ。


「まったくだ、グレイヴァス」


「今は重大な時期だ」


「手綱は握っていてくれ」


言葉だけ聞けば、少し厳しい。


だけど――。


二人の顔は、険悪ではなかった。


むしろ、どこか穏やかだ。


……普通の兄弟みたいだな。


僕はそんなことを思った。


グレイヴァスさんは、改めてこちらに向き直る。


「グレイヴァス・ヴァルディア」


「ヴァルディア軍の最高司令官です」


丁寧に一礼。


その立ち姿は、一目で武人とわかる。


肩幅が広い。


体も大きい。


でも、その礼儀はしっかりしていた。


さっきのアルヴィンとは、まるで違う。


その後、グレイヴァスさんは特使と二、三言葉を交わした。


内容は難しくてよく分からない。


軍の話っぽかった。


やがて特使は、またアルベリオさんの方へ戻る。


外交の話らしい。


兄貴も、なぜかその会話に混ざっていた。


……すごいな、兄貴。


さっきの礼儀モード、まだ続いてる。


僕がぼんやり見ていると。


「レックス君だったか」


突然、声をかけられた。


振り向くと、グレイヴァスさんがいた。


「は、はい」


思わず背筋が伸びる。


「ルシアンとミレーネから聞いた」


「なかなか腕が立つらしいな」


……え?そんな話、されてるの?グレイヴァスさんは続ける。


「もちろん、ガロード君もだが」


「オルグラード卿の薫陶の賜物かね」


その視線が、少しだけ鋭くなった。


……値踏み、されてる?僕なんかで大丈夫かな。


ちょっと緊張する。


何か答えようとした、その時だった。


「閣下」


グレイヴァスさんの後ろから、兵士が小声で呼びかける。


耳打ち。


グレイヴァスさんは、短く頷いた。


「わかった」


そして、僕に視線を戻す。


「すまないな、仕事だ」


さっきまでの厳しさが、少し和らぐ。


「滞在中は、ゆっくりしたまえ」


それだけ言って、去っていった。


大きな背中だった。


僕はしばらく、その後ろ姿を見ていた。


……あんまり悪い人じゃなさそうだ。


むしろ、ちゃんとした軍人って感じだ。


気がつくと。


アルベリオさんと特使の会話も終わっていた。


アルベリオさんが、近くの従者に何か指示を出している。


「特使殿と、その同行者の方々を客室へ」


「丁重に案内してくれ」


従者が頭を下げる。


特使は、こちらに向いた。


「継承の儀は四日後です」


「それまでは、この領地に滞在することになります」


軽く肩をすくめる。


「その間は自由にして構いませんよ」


……自由? 僕は思わず兄貴を見る。


護衛任務はどうなるんだろう。


すると特使は、僕たちの視線に気づいたらしい。


ふっと笑う。


そして、自分の腰の剣に手をかけた。


「安心したまえ」


「私もオルグラード閣下に鍛えてもらっている」


さらっと、とんでもないことを言う。


……え、この人、戦えるの? 僕はちょっと驚いた。


どうやら僕たちは。


思わぬ形で、自由時間をもらうことになったらしい。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



案内された部屋は、僕と兄貴――ガロードの二人で使う客室だった。


扉が閉まった瞬間、思わず「わあ……」と声が漏れる。


広い。


まずそれが最初の感想だった。


部屋の中央には、深い赤の絨毯。


壁には落ち着いた色のタペストリーが掛けられている。


窓際には木製の丸テーブルと椅子が二脚。


その横には、背の低い飾り棚。


棚の上には、銀細工の燭台や小さな装飾瓶。


どれも、いかにも貴族の屋敷って感じだ。


そして奥には、大きなベッドが二つ。


ふかふかそうな白い寝具。


正直、僕が今まで泊まった宿のベッドとは比べものにならない。


……すごいな。


ちょっと緊張する。


特使様の部屋は別らしい。


すぐ隣の部屋だと説明された。


案内してくれた従者さんが丁寧に頭を下げて、扉を閉める。


静かになった部屋の中で。


兄貴は、ふう、と長く息を吐いた。


肩の力が一気に抜ける。


さっきまでの礼儀正しい貴族対応は、どこへやら。


完全にいつもの兄貴だ。


「……疲れた」


ぼそっと呟く。


そりゃそうだよね。


僕だって緊張してた。


だけど、兄貴はすぐに姿勢を正した。


耳がぴくりと動く。


「……誰か来る」


次の瞬間。


コンコン、と扉が叩かれた。


侍女さんだった。


「ガロード様をお呼びでございます」


兄貴が眉をひそめる。


「誰が?」


「アルベリオ様です」


アルベリオさん。


外交長官。


しかも、ヴァルディアの後継者候補の一人。


兄貴は一瞬だけ僕を見る。


「……僕なんかが言うのも変だけど、大丈夫?」


そう聞くと。


兄貴は小さく笑った。


「平気だ」


そして、また礼儀モードに戻る。


さっきまでの砕けた雰囲気は消えた。


すごいな、この切り替え。


侍女さんが続ける。


「特使様にはすでに許可をいただいております」


どうやら正式な呼び出しらしい。


「わかった、行く」


兄貴はそれだけ言って、部屋を出ていった。


扉が閉まる。


静かになる。


……一人だ。


僕はしばらく、部屋の中を見回した。


立派な家具。


きれいな絨毯。


整えられたベッド。


でも。


なんだろう。


あまり落ち着かない。


調度品を見ても、あまり興味がわかない。


むしろ――。


時間を持て余す。


しばらく椅子に座っていたけど、じっとしているのも落ち着かなかった。


僕は立ち上がる。


そして、扉を開けた。


廊下に出ると。


すぐ近くに、若い召使いの人が控えていた。


たぶん、僕たちの見張り……じゃなくて、世話係かな。


「あの、外に出てもいいのかな?」


僕が聞くと。


召使いの人は少し驚いた顔をした。


「少々、お待ちください」


そう言って、ぱたぱたと廊下を走っていく。


たぶん偉い人に確認しに行ったんだろう。


数分後。


息を少し弾ませて戻ってきた。


「お待たせいたしました」


「屋敷内で、外交や軍事に関わる場所でなければ、自由にしてよいとのことです」


……なるほど。


つまり。


うろうろしすぎるな、ってことだね。


「それなら……」


僕は少し考える。


「身体を動かしても問題ない場所ってある?」


召使いの人は、少し考えたあと頷いた。


「ございます」


「ご案内いたします」


そう言って歩き出す。


僕もその後ろについていく。


廊下をいくつか曲がり。


広い階段を降り。


長い回廊を抜ける。


やがて、大きな扉の前に出た。


扉が開く。


外の空気が流れ込んできた。


そこは――。


男爵邸の裏庭だった。


広い芝生。


訓練場のような、開けた場所。


僕は、なんとなく。


ここで何か起きる気がした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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