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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
ノエリア編
59/131

退場

短めの幕間回です。

アウラVSカルド・ミレス

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



レックスとシンの戦いが、炎の向こうで激しさを増していた頃。


別の一角では、戦いはすでに終わっていた。


地面には小鬼の死骸が幾重にも転がり、折れた槍や砕けた盾が散乱している。


夜風が血の匂いを薄く運び、燃え残る荷車の火だけが赤く明滅していた。


その中央に、アウラは立っていた。


黒いメイド服に乱れはなく、靴先にすら泥はついていない。


両手のフレイルは静かに垂れ、まるで掃除を終えた使用人のような落ち着きだった。


「……あらかた片付きましたね」


淡々と呟き、残敵の気配を探る。


そこへ、拍手の音が響いた。


「やあやあ、見事だ。実に見事だよ」


薄笑いを浮かべて現れたのはカルド・ミレスだった。


貴族風の外套を翻し、わざとらしく肩をすくめる。


「さすが姫巫女ノエリア様の従者」


「いやあ、僕など出る幕もなかった」


アウラはカルド・ミレスになど興味はない。


「ええ」


「ありませんでした」


即答だった。


一片の遠慮も、社交辞令もない。


カルドの笑みが引きつる。


「……随分と手厳しいな」


「事実を述べただけです」


アウラは視線すら向けない。


カルドのこめかみに青筋が浮いた。


蒼天盟約軍の中でも軽んじられてきた男にとって、侮蔑には敏感だった。


しかも相手は、ただの侍女に見える女だ。


――舐めるな。


胸の奥で膨れ上がった劣等感が、すぐに殺意へ変わる。


周囲に他者はいない。


今なら誰にも見られず始末できる。


「君のような危険人物はね、ここで退場してもらう」


カルドは音もなくレイピア型の人造聖剣を抜いた。


細身の刀身が炎を映して赤く光る。


「恨むなら、自分の無礼を恨め」


背後から一歩、また一歩。


喉元を貫ける距離。


そして突き出した。


必殺の一撃。


だが。


「遅いですね」


耳元で声がした。


カルドの全身が凍る。


振り向く間もなかった。


肘が鳩尾へめり込み、息が潰れる。続けて膝が砕ける音がした。


「が……ぁ!?」


崩れ落ちた身体を、アウラは無造作に蹴り返す。


数メートル転がったカルドは、何が起きたか理解できない顔で血を吐いた。


「人を後ろから刺す時は、呼吸どころか気配も消しなさい」


静かな説教だった。


「殺す覚悟もない者が、刃を向けるべきではありません」


「き、貴様……!」


這いながら聖剣を伸ばす。


その手首に、くないが突き立った。


悲鳴。


さらに二本、肩と太腿へ。


「ぎゃああああ!」


「うるさいですね」


声の抑揚が消える。


次の瞬間、アウラの瞳から感情が消えた。


底冷えする無機質な冷たい色。


「識別完了」


「王国製人造勇者、低品質個体」


声音まで別人のようだった。


「排除対象。処理します」


カルドは本能で悟った。


目の前の女は、人間ではない。


逃げようとした足首が断たれた。


喉にくないの切っ先が触れる。


「ま、待て……俺は勇者になるはずだった……!」


「その程度で、ですか」


淡白な一言。


赤い線が走った。


カルド・ミレスという男は、そこで終わった。


数秒後。


夜風が吹き、アウラは小さく瞬いた。


アウラの瞳に感情の色が戻る。


「……ん?」


手にした”くない”を見下ろし、首を傾げる。


足元には肉塊と化した何か。


「誰か、いましたか?」


記憶が曖昧に霞んでいる。


「まぁ、気に掛ける程もものでもないでしょう」


アウラは自分を納得させる。


「ノエリア様の元に、そろそろ戻ります」


黒いスカートが優雅に翻った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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