退場
短めの幕間回です。
アウラVSカルド・ミレス
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
レックスとシンの戦いが、炎の向こうで激しさを増していた頃。
別の一角では、戦いはすでに終わっていた。
地面には小鬼の死骸が幾重にも転がり、折れた槍や砕けた盾が散乱している。
夜風が血の匂いを薄く運び、燃え残る荷車の火だけが赤く明滅していた。
その中央に、アウラは立っていた。
黒いメイド服に乱れはなく、靴先にすら泥はついていない。
両手のフレイルは静かに垂れ、まるで掃除を終えた使用人のような落ち着きだった。
「……あらかた片付きましたね」
淡々と呟き、残敵の気配を探る。
そこへ、拍手の音が響いた。
「やあやあ、見事だ。実に見事だよ」
薄笑いを浮かべて現れたのはカルド・ミレスだった。
貴族風の外套を翻し、わざとらしく肩をすくめる。
「さすが姫巫女ノエリア様の従者」
「いやあ、僕など出る幕もなかった」
アウラはカルド・ミレスになど興味はない。
「ええ」
「ありませんでした」
即答だった。
一片の遠慮も、社交辞令もない。
カルドの笑みが引きつる。
「……随分と手厳しいな」
「事実を述べただけです」
アウラは視線すら向けない。
カルドのこめかみに青筋が浮いた。
蒼天盟約軍の中でも軽んじられてきた男にとって、侮蔑には敏感だった。
しかも相手は、ただの侍女に見える女だ。
――舐めるな。
胸の奥で膨れ上がった劣等感が、すぐに殺意へ変わる。
周囲に他者はいない。
今なら誰にも見られず始末できる。
「君のような危険人物はね、ここで退場してもらう」
カルドは音もなくレイピア型の人造聖剣を抜いた。
細身の刀身が炎を映して赤く光る。
「恨むなら、自分の無礼を恨め」
背後から一歩、また一歩。
喉元を貫ける距離。
そして突き出した。
必殺の一撃。
だが。
「遅いですね」
耳元で声がした。
カルドの全身が凍る。
振り向く間もなかった。
肘が鳩尾へめり込み、息が潰れる。続けて膝が砕ける音がした。
「が……ぁ!?」
崩れ落ちた身体を、アウラは無造作に蹴り返す。
数メートル転がったカルドは、何が起きたか理解できない顔で血を吐いた。
「人を後ろから刺す時は、呼吸どころか気配も消しなさい」
静かな説教だった。
「殺す覚悟もない者が、刃を向けるべきではありません」
「き、貴様……!」
這いながら聖剣を伸ばす。
その手首に、くないが突き立った。
悲鳴。
さらに二本、肩と太腿へ。
「ぎゃああああ!」
「うるさいですね」
声の抑揚が消える。
次の瞬間、アウラの瞳から感情が消えた。
底冷えする無機質な冷たい色。
「識別完了」
「王国製人造勇者、低品質個体」
声音まで別人のようだった。
「排除対象。処理します」
カルドは本能で悟った。
目の前の女は、人間ではない。
逃げようとした足首が断たれた。
喉にくないの切っ先が触れる。
「ま、待て……俺は勇者になるはずだった……!」
「その程度で、ですか」
淡白な一言。
赤い線が走った。
カルド・ミレスという男は、そこで終わった。
数秒後。
夜風が吹き、アウラは小さく瞬いた。
アウラの瞳に感情の色が戻る。
「……ん?」
手にした”くない”を見下ろし、首を傾げる。
足元には肉塊と化した何か。
「誰か、いましたか?」
記憶が曖昧に霞んでいる。
「まぁ、気に掛ける程もものでもないでしょう」
アウラは自分を納得させる。
「ノエリア様の元に、そろそろ戻ります」
黒いスカートが優雅に翻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




