深い闇の中で
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
深い闇の中。
そこには空も、地も存在しない。
光すらない空間。
音もない。
風もない。
ただ、静寂だけが広がっている。
その静寂の中で。
突然。
淡い光が一つ灯った。
まるで水面に浮かぶ文字のように。
光の記号が、ゆっくりと並び始める。
感情のない表示。
冷たい記録。
そこに浮かび上がる文字。
「
【個体識別:魔王】
【個体名称:ディグレイ】
【個体区分:現地調達兵器】
........................................
【脅威判定:72%】
【使用評価:70%】
........................................
【再計算開始】
」
文字列が止まる。
闇は何も答えない。
ただ。
静かに。
ゆっくりと。
計算が続いている。
遠くで何かが崩れるような。
見えない歯車が回るような。
そんな感覚だけが、闇に漂う。
やがて。
再び光が動き出した。
「
【個体識別:魔王】
【個体名称:ディグレイ】
【個体区分:現地調達兵器】
........................................
【脅威判定:72%】
【使用評価:0.6%】
........................................
【再評備考】
【廃棄決定】
【実施完了】
........................................
」
表示された文字が、静かに揺れる。
そして。
一つ。
また一つ。
光が消えていく。
最後に残ったのは。
無機質な記録だけだった。
やがてそれすら。
闇の中へ溶けていく。
まるで。
最初から何も存在しなかったかのように。
静寂が戻る。
だが。
完全な無ではなかった。
何かがいる。
何かが“見ている”。
意志のない意志。
形を持たない観測。
それが。
ただ、そこにあった。
記録するために。
選別するために。
切り捨てるために。
―― 我らは常に勝ち続ける
声ではない。
だが。
確かに、そう判断された。
闇の奥で。
何かが、僅かに揺らぐ。
次の対象。
次の計算。
次の“選別”。
光が、再び灯る。
「
【個体識別:姫巫女】
【個体名称:ノエリア】
【個体区分:計算中】
........................................
【脅威判定:85%】
【使用評価:計算中】
........................................
【計算開始】
」
数値が揺れる。
増減する。
不安定に。
まるで。
定義できない何かを測ろうとしているかのように。
一瞬。
表示が乱れる。
「
【誤差検出】
【再演算】
」
沈黙。
だが。
すぐに再開される。
冷酷に。
機械的に。
「
【補正完了】
【脅威判定:85% → 92%】
」
ほんのわずかに。
闇が、軋んだ。
あり得ない誤差。
許容範囲を逸脱した揺らぎ。
だが。
それすらも。
“処理対象”として組み込まれていく。
「
【優先監視対象へ指定】
【介入確率:算出中】
」
光が脈打つ。
まるで。
次の一手を楽しむように。
だがそこに。
感情はない。
ただの選択。
ただの最適化。
ただの悪意。
闇は再び、静寂に沈む。
しかし。
確かに。
何かが動き出していた。
誰にも気づかれない場所で。
観測されている感覚。
逃れられない視線。
世界の裏側で。
抗うことのできない計算が。
すでに、既に入り込んでいる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次回に続く。次はノエリア編。




