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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
ガロード編
40/50

幕間 ―― 頑張って ――

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



片腕を失った。


血は止まっている。


だが、骨の奥にまで染み込むような痛みが、脈打つたびに身体を揺らす。


「あの悪魔……」


掠れた声が漏れる。


ガロードを戻した少女。


そして――覇王。


「……覇王まで……」


岩壁に背を預ける。


呼吸が浅い。


視界が歪む。


だが。


終わりではない。


まだ終われない。


手を伸ばす。


剣を握るために。


だが。


空を掴んだ。


そこにあるはずの腕は、もう存在しない。


「……そうか」


小さく呟く。


「剣も……無くなったか」


ならば。


新しい剣が要る。


守るための剣が。


奪わせないための力が。


その時だった。


―― あなた、お帰りなさい ――


柔らかな声。


背後から、確かに聞こえた。


身体が止まる。


ゆっくりと振り返る。


そこにいた。


変わらぬ場所に。


変わらぬ姿で。


「……ああ」


口元が緩む。


「ああ、ただいま」


そこには、愛しい妻が立っていた。


血の匂いが消える。


戦場が遠ざかる。


静かな日常が戻る。


「少し怪我をしたけど……大丈夫だよ」


妻は眉を寄せる。


―― 疲れているなら、お休みになられては? ――


優しい声。


変わらない声音。


「大丈夫だ」


首を振る。


「心配しなくていい」


その瞬間。


眼が、鋭く細まる。


来る。


気配がある。


近づいてくる。


殺意。


こちらを狙う意志。


「……誰だ」


低く呟く。


―― あなた、また魔王国の人達が ――


妻の顔が、怯える。


その表情。


その震え。


それを見た瞬間。


胸の奥で、何かが弾けた。


怒り。


憎しみ。


守らなければならないという衝動。


「大丈夫だ」


微笑む。


安心させるように。


「怖がらなくていい」


立ち上がる。


軋む身体を、無理やり起こす。


「すぐに追い払う」


妻は、小さく頷いた。


―― はい。あなた ――


その笑顔。


あの日と同じ。


あの家の中で。


あの食卓で。


並んで笑っていた日々。


―― 頑張って ――


「ああ」


頷く。


その瞳に宿るのは。


明確な殺意。


「分かっている」


魔王国。


あの連中は、また奪いに来た。


何度でも。


何度でも。


俺からすべてを奪う。


ならば。


「敵は、すべて倒す」


一歩踏み出す。


満身創痍の身体。


片腕。


それでも。


歩みは止まらない。


守るために。


失わせないために。


世界を壊すために。


その背中を。


静かに見送る存在があった。


妻ではない。


別の何か。


影のように。


音もなく。


―― そうだ


低く。


愉悦を含んだ声。


―― がんばれよ


歪んだ響き。


―― 魔王


ディグレイは振り返らない。


聞こえていないかのように。


ただ。


前だけを見て進む。


その足取りは。


確かに重い。


だが。


止まらない。


止まることができない。


背後で。


“それ”は笑った。


音にならない笑い。


誰にも届かない声。


ただ。


確かに存在している。


―― いいぞ


―― そのまま壊れろ


囁きが、夜に溶ける。


そして。


誰もいないはずの場所で。


確かに。


“悪意”だけが、そこにあった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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