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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
レックス立志編
4/51

運命の出会い

◇◇◇ ◇◇◇



「お言葉ですが、先生」


僕は思わず口を開いていた。


オルグラードは机の向こうで腕を組んだまま、静かにこちらを見ている。


その視線を受けながら、僕は机の上に広げられた地図を見た。


セルディア。


そして王国。


その境目。


そこにある名前。


――ヴァルディア男爵領。


僕は地図を見るのが好きだ。

鍛冶場の休憩時間にも、よく眺めている。


だから分かる。


その場所は――


遠い。


「ここまで、徒歩で一週間はかかります」


僕は言った。


「その距離を……」


一度、ガロードを見る。


「僕と兄貴の二人だけで護衛するのは、さすがに無理があります」


正直な意見だった。


護衛というのは人数が要る。


道中の警戒。


夜の見張り。


交代要員。


普通なら、最低でも十人は欲しい。


「当然、他にも護衛の人がいるんですよね」


そう聞いた。


すると。


「おらん」


オルグラードが即答した。


……え?


一瞬、言葉が止まる。


横を見る。


ガロードも目を丸くしていた。


さすがに予想外だったらしい。


「そもそもだ」


先生は淡々と続ける。


「儂の自由が利く手勢がおらん」


そして、はっきり言った。


「だから、お前らを手配した」


衝撃の事実だった。


つまり――


人手不足。


ただ、それだけの理由。


僕たちが選ばれた理由。


それが、これだった。


「……師匠」


ガロードが眉をひそめた。


「手勢は他にもいるだろ」


確かにいる。


オルグラードの配下には、腕の立つ連中が何人もいるはずだ。


だが。


先生は首を横に振った。


「別件で動かしておる」


短い答え。


「帝國方面」


「魔王国方面」


それだけ言う。


つまり。


セルディアは今、三方向に人を出している。


余力がない。


……なるほど。


僕は少しだけ背筋が寒くなった。


それって。


かなり危ない状況じゃないのか。


そんな空気を感じ取ったのか。


オルグラードは軽く息を吐いた。


「安心しろ」


そして言う。


「幸い、良い話もある」


良い話?


僕とガロードは顔を見合わせた。


先生は地図を指で軽く叩く。


「今回の継承の儀式」


「これまでの功績が認められ」


「ヴァルディア男爵は昇爵する」


昇爵。


つまり。


「子爵になる」


それはかなりの出世だ。


王国貴族の中でも、立場が一段上がる。


「その祝いも兼ねた儀式だ」


先生は続けた。


「そして」


少し間を置く。


「現在、セルディアに留学している」


「ヴァルディア家の孫娘」


「その令嬢も儀式に参加する」


……令嬢。


貴族のお嬢様。


なんとなく場違いな響きがした。


「当然、護衛が付く」


オルグラードは言う。


「だが」


少しだけ口元が動いた。


「向こうも人数不足らしい」


ガロードがニヤッと笑う。


「なるほどな」


先生は頷いた。


「セルディアの特使は、その護衛隊に便乗する」


「足りぬ戦力を補う」


「無償でな」


……無償。


僕はゆっくり理解した。


つまり。


その無償戦力。


それが――


僕と兄貴。


「つまり」


ガロードが肩をすくめた。


「無料で護衛をしろってことか」


「そうじゃ」


オルグラードは迷いなく頷く。


そして付け加えた。


「向こうで飯でも食える程度の小遣いはやる」


……小遣い。


それだけ。


僕はガロードを見る。


ガロードは僕を見る。


数秒。


沈黙。


そして。


二人同時に、ため息をついた。


ここまで話を聞いたら。


もう断れる空気じゃない。


それに。


オルグラードの目を見れば分かる。


最初から。


僕たちに拒否権はない。


僕は小さく頷いた。


ガロードも肩をすくめる。


「分かりました」


それを確認すると。


オルグラードは小さく鈴を鳴らした。


チリン。


澄んだ音が部屋に響く。


隣の部屋で待機していたのだろう。


すぐに足音が近づいた。


コン。


軽いノック。


「失礼します」


女性の声だった。


扉が開く。


僕は振り向く。


そして――


扉が開いた瞬間、部屋の空気が少し変わった。


彼女と出会った。


◇◇◇ ◇◇◇


僕は思わず扉の方を見た。


その瞬間だった。


扉が、ゆっくりと開く。


軋む音はほとんどない。

静かな動きだった。


そして――


一人の女性が入ってきた。


……あれ?


僕は一瞬、目を瞬かせた。


令嬢と聞いていたからだ。


王国の貴族の娘。

そういう人は、もっと華やかなドレスを着ているものだと思っていた。


だが。


彼女は違った。


淡い金糸色の髪。

光を受けて柔らかく輝く。


肩のあたりで整えられた髪が、すっと揺れる。


瞳は青。


澄んだ湖のような色だった。


そして服装。


ドレスではない。


軽めの軍服だった。


装飾はほとんどない。


だが、仕立ては上等だ。


身体にぴったり合っている。


動きやすそうな作り。


腰には細身の剣。


レイピア。


……戦える人だ。


それは一目で分かった。


背筋が伸びている。


歩き方が静かで、無駄がない。


まるで訓練された騎士みたいだ。


その女性は、まっすぐこちらを見ていた。


青い瞳。


逃げない視線。


そして――


僕たちの前で立ち止まった。


一礼する。


動きが美しい。


優雅。


だけど、作り物の優雅さじゃない。


訓練された人の動きだ。


……なんというか。


絵画みたいだった。


整っている。


オルグラードが口を開いた。


「紹介しておく」


低い声。


「ヴァルディア男爵家の孫娘」


「エルディナ・ヴァルディア嬢だ」


女性はもう一度、軽く頭を下げた。


「初めまして」


落ち着いた声。


きれいな発音だった。


「エルディナ・ヴァルディアと申します」


丁寧。


でも硬すぎない。


不思議と聞きやすい声だった。


オルグラードが僕たちを顎で示す。


「これがガロード」


「こっちがレックス」


「儂の弟子だ」


……雑だ。


あまりにも雑な紹介だった。


僕は慌てて姿勢を正す。


エルディナの方を向く。


「は、はじめまして」


……噛むな、僕。


「レックスです」


声が少し裏返った。


顔が熱い。


横でガロードが肩をすくめる。


「ガロードだ」


気楽な調子だった。


「よろしくな」


エルディナは軽く目を瞬かせる。


そしてオルグラードを見る。


「こちらのお二人が」


「先ほどオルグラード様が話されていた」


「護衛に参加する方ですか」


丁寧な口調だった。


だが、その目はしっかりしている。


ただの令嬢じゃない。


そう感じた。


オルグラードは短く答える。


「鍛えてある」


「そこらの兵士より使えるぞ」


……相変わらず言い方が乱暴だ。


でも嘘ではない。


たぶん。


僕は慌てて頭を下げた。


「は、はい!」


そして言った。


「一生懸命尽くします!」


……言ったあとで気づいた。


言い方、ちょっと重かったかもしれない。


エルディナは一瞬、目を丸くした。


そして。


くすっ。


小さく笑った。


口元を軽く押さえる。


「まあ」


少し楽しそうだった。


「真面目なお弟子様なのですね」


僕はさらに顔が熱くなる。


ガロードが横でニヤニヤしていた。


部屋の空気が、少し和らぐ。


さっきまでの緊張が、ほんの少しだけ軽くなる。


……良かった。


怖い人じゃなさそうだ。


そう思った瞬間だった。


「お待ちください、エルディナ様」


後ろから声がした。


僕は振り返る。


そういえば。


エルディナは一人で入ってきたわけじゃなかった。


扉の近く。


もう一人の人物が立っていた。


その人物が、一歩前に出る。


「その話」


低い声だった。


「少々、確認させていただきたい」



◇◇◇ ◇◇◇


さっきの声は、エルディナだけが気づいていたらしい。


僕は今になって気づいた。


エルディナの後ろに――もう二人いた。


扉の近く。


壁際に控えるように立っている。


そのうちの一人が、一歩前に出た。


背が高い。


僕よりも頭一つ分は高いだろう。


黒髪の短髪。


顔立ちは整っている。


だけど、柔らかさはない。


硬い。


騎士の顔だ。


全身を覆う鉄の鎧。


肩には青いマント。


そこには、ヴァルディア家の紋章が縫い込まれている。


腰には長い剣。


バスタードソード。


片手でも両手でも扱える騎士剣だ。


立ち方だけで分かる。


……強い。


かなり鍛えられている。


男は僕たちを見た。


そして、はっきりと言った。


「やはり私は反対です」


静かな声だった。


だが、迷いはない。


「若すぎます」


視線が動く。


ガロードを見た。


「それに……素性も知れない若者を護衛に加えるのは危険でしょう」


空気が少し冷える。


僕は横を見る。


ガロードは肩をすくめていた。


怒っている様子はない。


むしろ、慣れている顔だ。


……そうか。


王国の人間は。


基本的に、獣人を嫌う。


ガロードは魔王国の出身だ。


だからだろう。


エルディナが口を開いた。


「ルシアン、無礼な言い方を――」


だが、その言葉は途中で止まる。


「儂の推薦する二人では不服かね」


オルグラードだった。


声は低い。


だが、それだけ。


それだけなのに。


空気が変わった。


さっきまで堂々としていた騎士が、わずかに言葉を詰まらせる。


……格の違い。


そんな言葉が頭に浮かんだ。


騎士は数秒黙った。


エルディナが静かに言った。


「その話は先ほど終わったはずです」


視線が鋭い。


「謝罪なさい」


騎士は完全に押されていた。


少しだけ悔しそうな顔をする。


その時。


もう一人の人物が口を開いた。


「謝罪をお勧めします、隊長」


女性だった。


冷ややかな声。


僕はそちらを見る。


彼女は軽騎士の装備だった。


鉄鎧より軽い装備。


動きやすそうだ。


髪は薄い灰色。


銀にも見える。


肩までのボブ。


整った顔立ち。


緑色の瞳。


クールな印象の美人だった。


だが、その目には少しだけ呆れた色がある。


「これ以上は」


淡々と言う。


「恥の上塗りでしょう」


……容赦ない。


騎士――ルシアンと呼ばれた男は、小さく息を吐いた。


「分かっている」


そして改めてこちらを見た。


「先ほどの発言は撤回します」


短い。


だが、はっきりしている。


オルグラードは、ふっと笑った。


楽しそうだった。


「よかろう、若いの」


そして僕を見る。


嫌な予感がした。


「儂の弟子が役に立つと証明しよう」


……やっぱり。


嫌な予感は当たる。


「レックス」


指を壁に向けた。


「壁の剣を持ってこい」


そこには装飾用の剣が飾られている。


僕は一瞬固まる。


「お前の力を見せる」


……え?


ちょっと待ってほしい。


突然すぎる。


僕はガロードを見る。


ガロードはニヤニヤしていた。


助ける気はないらしい。


オルグラードが続ける。


「簡単な話だ」


そう言ってルシアンを見る。


「お互い剣を構える」


「そして一撃」


「相手の剣を受ける」


それだけ。


……それだけ?


ルシアンが眉をひそめる。


「受けるだけですか」


「そうじゃ」


オルグラードは笑う。


「それで分かる」


僕は壁の剣を見る。


そして、自分の手を見る。


……やるしかない。


証明しろ。


そう言われた気がした。



◇◇◇ ◇◇◇



「レックス、剣は二本持ってこい」


オルグラードの声が飛ぶ。


僕は壁際に向かった。


装飾として掛けられている剣が二本。

どちらも見た目は立派だが、鍛冶屋の見習いとして分かる。


これは実戦用じゃない。


刃は丸められている。

装飾兼、稽古用だ。


「一本は、ルシアン殿に渡してこい」


僕は頷き、剣を手に取った。


そして歩いていく。


「どうぞ」


ルシアンに差し出す。


彼は無言で受け取った。


オルグラードが補足する。


「装飾用だ。刃は潰してある」


それから、ゆっくり言った。


「とはいえ」


「ここを血で汚すな」


軽い言葉。


だが冗談ではない。


僕は唾を飲み込んだ。


ルシアンが口を開く。


「条件を確認します」


落ち着いた声だった。


「互いに一撃」


「相手の剣を受ける」


「それで力量を見る」


彼はオルグラードを見る。


「そういう話でしたね」


オルグラードは椅子に座ったまま頷いた。


ルシアンは鞘から剣を抜いた。


シャリン。


金属音が響く。


そして数度、剣を振る。


空気が裂ける音。


ヒュン。


ヒュン。


……重い。


振り方が違う。


僕も剣を構えた。


いつもの棍棒と違う。


軽い。


軽すぎる。


手に馴染まない。


だが、今さら言っても仕方ない。


「まずは」


オルグラードが言う。


「ルシアン殿の打ち込みを、レックスが受ける」


ルシアンが僕を見る。


黒い瞳。


まっすぐだった。


「加減はしません」


淡々と言う。


「構いませんか」


……普通に考えれば。


答えは決まっている。


体格差。


筋力差。


僕は細い。


ルシアンは騎士だ。


同じ剣をぶつければどうなるか。


火を見るより明らかだ。


オルグラードは何も言わない。


ただ頷いた。


それだけ。


横を見る。


ガロードはニヤニヤしている。


楽しそうだ。


エルディナは心配そうだった。


青い瞳がこちらを見ている。


ミレーネは違う。


冷静な顔でルシアンを見ていた。


その視線は言っている。


――余計なことをするな。


――オルグラードを怒らせるな。


そんな感じだ。


僕は剣を構えた。


足を開く。


膝を少し曲げる。


呼吸を整える。


いつもの感じ。


兄貴とやる時と同じ。


集中。


ヒュン。


空気が鳴る。


ルシアンが剣を構えた。


「いくぞ」


一歩。


踏み込んだ。


速い。


床板が鳴る。


ドン。


そして剣が振り下ろされる。


重い。


速い。


真っ直ぐ。


騎士の斬撃。


僕は剣を出した。


受ける。


瞬間。


ガンッ!


金属音が響いた。


剣と剣がぶつかる。


……来た。


重い。


腕に衝撃が走る。


だが。


僕は体を少しだけずらす。


腰を落とす。


衝撃を逃がす。


流す。


そして。


止まった。


ルシアンの剣が。


僕の剣に受け止められていた。


部屋が一瞬、静かになる。


「……何?」


ルシアンが驚いた。


僕も驚いていた。


いや。


受けられるとは思っていた。


でも。


こんなに綺麗に止まるとは思わなかった。


ルシアンの顔が近い。


黒い目が見開かれている。


彼の腕に伝わっているはずだ。


力が。


殺されている。


押し切れない。


そんな感触。


……だろうな。


ガロードが後ろでニヤリとした。


(そりゃそうだ)


ガロードは心の中で思う。


(普段から俺の蹴りを受けてるんだからな)


レックスは細い。


だが。


弱くない。


棍棒で、ガロードの蹴りを受け続けている。


普通なら腕が折れる。


だがレックスは違う。


柔らかい。


足腰が。


そして目がいい。


受けているように見えて。


本当は違う。


力が乗り切らない位置を見切っている。


今もそうだ。


真正面で受けていない。


少しだけズラしている。


だから止まる。


ガロードはゾクゾクした。


面白い。


本当に面白い。


今まで誰も気づかなかった。


レックスの才能。


それを、今。


初めて他人が見ている。


剣が離れる。


ルシアンは一歩下がった。


僕を見る。


さっきとは違う目。


完全に、試す目だった。


「……なるほど」


小さく言う。


そして剣を構え直した。


「次は」


僕を見る。


「君の番だ」



◇◇◇ ◇◇◇



ルシアンの黒い瞳が、まっすぐ僕を見ていた。


さっきの防御。

あれが偶然かどうか。


確かめるつもりなのだろう。


ルシアンは剣を構え直した。


姿勢が変わる。


今度は受ける側。


騎士らしい、正統派の構えだった。


重心が低い。

剣は身体の前。


隙がない。


……やっぱり、強い人だ。


一方の僕。


剣を軽く振る。


やっぱり軽い。


いつもの棍棒とは全然違う。


どう扱えばいいのか、まだよく分からない。


それでも、呼吸を整える。


さっきは止めるだけだった。


今度は――攻撃する番。


……まあ。


奥の手はある。


あるけど。


僕は内心で苦笑した。


あれを使ったら、たぶん怒られる。


先生も見てるし。


今日はやめておこう。


封印だ。


僕は剣を構える。


やや右斜め下。


自然に体が動いた。


奥では、エルディナとミレーネがこちらを見ている。


二人とも真剣な顔だった。


……緊張するな。


でも。


今はそれどころじゃない。


集中する。


余計なことは考えない。


兄貴と戦う時と同じだ。


ただ一つだけ。


今出せる。


最大の一撃。


それを出す。


難しく考えない。


踏み込む。


床が鳴る。


ルシアンの剣が動く。


受ける体勢。


僕はその剣に――打ち込んだ。


ガンッ!!


重い金属音が部屋に響いた。


空気が震える。


衝撃が腕を通る。


そして。


ルシアンの体が、わずかに後ろへ下がった。


一歩。


床板が軋む。


それを見ていたエルディナが、目を見開く。


ミレーネも驚いていた。


普通ならあり得ない。


軽い方が。


重い方を。


正面から押し返した。


「……ぬぅ」


ルシアンが声を漏らした。


剣から衝撃が腕に伝わる。


痺れる。


手の感覚が一瞬鈍る。


(何だ……これは)


彼は内心で驚いていた。


剣の重さは同じ。


体格は自分が上。


筋力も上。


それなのに。


押し負けた。


(オルグラード卿の教え……か?)


ルシアンはレックスを見る。


細い。


鍛えてはいるが、騎士の体ではない。


だが。


今の一撃。


ただの力ではない。


その様子を見ていたガロードは、目を輝かせていた。


……なるほど。


そういうことか。


ガロードは理解した。


レックスの攻撃の秘密。


ルシアンの剣は腕の剣だ。


腕力。


肩。


体重。


そこに剣の重さが加わる。


騎士の剣。


だが。


レックスは違う。


足。


腰。


背中。


それら全部が、バネみたいに連動している。


さらに体幹。


全身の力が一つにまとまり。


剣の重さと速さを作る。


だから。


同じ剣なら。


レックスの方が重い。


ガロードの口元が、ゆっくり歪んだ。


牙が少し覗く。


……面白い。


本当に面白い。


あいつはまだ気づいてない。


自分がどれだけ変な戦い方をしているのか。


そして。


それがどれだけ強いのかを。


部屋の奥。


椅子に座るオルグラードが、小さく笑った。


「ほう」


低い声だった。


そして言う。


「もう一度やるか?」


ルシアンは剣を握り直した。


腕の痺れが少し残る。


だが。


目はさっきより鋭い。


「……いいえ」


ゆっくり言う。


「十分でしょう」


それから剣を下ろした。


僕を見る。


さっきとは違う目だった。


騎士が、戦士を見る目。


「レックス君」


低い声で言う。


「先ほどの非礼、改めて謝罪する」


僕は慌てた。


「い、いえ!そんな!」


ルシアンは小さく笑った。


ほんの少しだけ。


硬い顔が緩む。


「なるほど」


小さく言う。


「確かに……そこらの兵士より使える」


オルグラードが鼻で笑った。


「だから言ったじゃろう」



◇◇◇ ◇◇◇


少年レックスと少女エルディナとの出会い。

これは、レックスの未来を変えていくのか

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