あたしの答えを言うわ
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「ヴァーミリオンの騎士とは、戦いを広げないための抑止です」
スカーレットは静かに語った。
そのために必要なのは、何よりも力だった。
魔王国には、強さを誇る種族がいくつも存在する。
しかし、魔王を名乗るほどの個体が存在したとしても、その種族すべてが魔王級の力を持つわけではない。
魔王が倒されれば、その種族そのものが弱体化する。
そんな例も、決して珍しくはなかった。
「ですから、理想とされたのです」
スカーレットは淡々と言葉を続ける。
「永遠に強く、どれだけ憎まれても、こちらを憎まない敵。種族としての歴史を必要とせず、自分たちとは異なる存在」
その行き着いた先に、生み出されたもの。
「自らの意志で動く、自動機械人形――オートマタです」
スカーレットの言葉には、誇りも悲しみもなかった。
「ゼンマイが切れなければ、休む必要もありません。戦いが起きれば、勝者を守るために戦う。それだけの存在です」
それは、あまりにも完成された仕組みだった。
「生命ではありません。ですから、壊れても誰かが悲しむ必要はない。種族が怨嗟を抱くこともありません」
淡々とした説明が続く。
「ヴァーミリオンの騎士と戦っても、そこから何かが生まれることはない。戦いを挑んだ者だけが傷つくのです」
そして、スカーレットは小さく息を吐いた。
「毒だと分かっていて、それをわざわざ飲む者は稀でしょう?」
スカーレットはアウレリアを見る。
「これがヴァーミリオンの騎士であり、私というモノの説明です」
アウレリアは、何も答えなかった。
レオニスもまた、すぐには言葉を返せなかった。
戦いを止めるための制度。
そして、それを可能にする騎士。
話だけを聞けば、恐ろしいほど合理的だった。
戦争は良いものではない。
ならば、その矢面に立つ存在を一人だけ用意すればいい。
それが人間ではなく、人形ならば。
壊れても、誰も悲しまない。
殺されても、復讐する者はいない。
一人を犠牲にすることで、多くの人々が血を流さずに済む。
理不尽な悲しみさえ、なくせる。
レオニスの背筋に、冷たいものが走った。
確かに、それは正しいのかもしれない。
戦争を終わらせる時、人は時に言う。
――もう、これ以上の流血はたくさんだ、と。
その言葉を実現する方法が、目の前にある。
ならば。
その方法を選ばないということが、本当にできるのだろうか。
レオニスは答えを出せないまま、ただスカーレットを見つめていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「でも、レイラは言ってたわ。『ヴァーミリオンの騎士』の制度は廃止されたって」
アウレリアは、まっすぐスカーレットを見た。
「……それは何故?」
「……わかりません」
スカーレットは静かに首を横に振った。
(そうだった)
レオニスは、アウレリアの言葉で思い出した。
ヴァーミリオンの騎士としてスカーレットは存在している。
だが、その制度そのものは、現在の魔王国から消えている。
レイラでさえ、その理由を知らなかった。
(この合理的な答えを、魔王国は否定したんだろうけど……)
では、なぜなのか。
レオニスには、その答えがまだ見えなかった。
「まあ、そんなことは、正直どうでもいいことだから」
アウレリアは、あっさりと言った。
「別に、あたしはそれを知りたいわけじゃないのよ」
そして、スカーレットへ向き直る。
「そんじゃ、スカーレットの問いに対する、あたしの答えを言うわ」
先ほど投げかけられた問い。
――あなたは、これでも私を助けたいと考えるのですか?
「もちろん。スカーレットが望むなら助けるわよ」
迷いのない声だった。
「あたしから言い出したんだから」
「……」
「いったい何を言われたのか、よくわからなかったけど」
アウレリアの表情には、悩む必要があるのかという困惑すら浮かんでいた。
むしろ、問いを投げたスカーレットのほうが驚いている。
「私は、人ではないのですよ!」
「うん」
「……うん?」
「まあ、気が付かなかったかな?」
「あのですねぇ!」
スカーレットの声が、初めて大きくなった。
「いや、そんなこと言われても、あたしたちが困るのよ」
アウレリアは困ったように頭を掻く。
そして、隣にいるフィデリアへちらりと目を向けた。
「あたしは気にしないけど、フィデリアは人間じゃないらしいのよ」
「え!?」
スカーレットの目が見開かれた。
「だから、人間じゃないってことを理由にされても、今更って感じなのよ」
「…………」
言葉を失ったスカーレットを前に、アウレリアは本当に困った顔をしていた。
(……確かに、今更だが)
レオニスは心の中で呟いた。
(困る)
グラーディスも、イシュリアンも同じことを考えていた。
完全に忘れていた。
自分たちはすでに、人間とは異なる存在と共に旅をしている。
その存在を仲間として扱い、笑い、悩み、時には支え合ってきた。
ならば。
スカーレットの問いに対して、自分たちが答えを持っていないはずがない。
少なくとも――。
アウレリアには、最初から答えがあったのだ。
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(大きく考えることが大事なのか。小さく考えることが大事なのか。それすら気にしないことが大事なのか)
レオニスは、苦笑するしかなかった。
難しい理屈など必要ない。
大切にするものは何なのか。
その答えを、アウレリアは当たり前のように口にしている。
「あ、言っとくけど」
そんなアウレリアが、スカーレットへ釘を刺した。
「スカーレットが間違ってるって、あたしが思ったら、助けるのはなしだからね」
「……」
「そうなった時は、あたしはスカーレットを敵として止めるから」
スカーレットは、しばらくアウレリアを見つめていた。
そして、呆れたように小さく笑う。
「……わかりました」
その表情には、先ほどまでとは違うものがあった。
「アウレリアという人が、少しわかった気がします」
それからスカーレットは、勇者一行を見回した。
そこには、どこか同情するような視線があった。
「貴方達は、苦労しますよ」
冗談めかした言葉だった。
レオニスは、無言のまま視線を返す。
(実際、苦労していますよ)
そんな思いを込めて。
だが、アウレリアに対する抑止の役目を負う二人は違った。
「……そうですね」
イシュリアンが生真面目な表情で頷く。
「アウレリアが間違ったことをしないように、よく見張っておきます」
「まあ、アウレリアなら、そういったことはないと思うがね」
グラーディスも苦笑する。
(……そんなことになられては、困る)
二人とも、それが本心だった。
ただ一人。
フィデリアだけは、何も言わなかった。
そんな一行を見つめてから、スカーレットはゆっくりと剣を掲げた。
「……もし、私がアウレリアの目から見て、間違ったことをしたと判断したなら」
その声は静かだった。
「必ず止めてください」
「わかった」
アウレリアも聖剣を抜く。
白銀の刀身が、静かに光を返した。
「では、改めてアウレリアにお願いします」
スカーレットは、まっすぐ彼女を見る。
「この街に対する脅威を排除するために、私に力を貸してください」
「うん。わかった」
短い返事だった。
けれど、それで十分だった。
アウレリアとスカーレット。
二人の剣が、誓いを交わすように軽く触れ合う。
甲高い金属音が、静かな教会に響いた。
それは、王国の勇者と魔王国の騎士。
異なる立場にある二人が結んだ、同盟の証だった。
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