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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の動乱編
220/235

あたしの答えを言うわ

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ヴァーミリオンの騎士とは、戦いを広げないための抑止です」


スカーレットは静かに語った。


そのために必要なのは、何よりも力だった。


魔王国には、強さを誇る種族がいくつも存在する。


しかし、魔王を名乗るほどの個体が存在したとしても、その種族すべてが魔王級の力を持つわけではない。


魔王が倒されれば、その種族そのものが弱体化する。


そんな例も、決して珍しくはなかった。


「ですから、理想とされたのです」


スカーレットは淡々と言葉を続ける。


「永遠に強く、どれだけ憎まれても、こちらを憎まない敵。種族としての歴史を必要とせず、自分たちとは異なる存在」


その行き着いた先に、生み出されたもの。


「自らの意志で動く、自動機械人形――オートマタです」


スカーレットの言葉には、誇りも悲しみもなかった。


「ゼンマイが切れなければ、休む必要もありません。戦いが起きれば、勝者を守るために戦う。それだけの存在です」


それは、あまりにも完成された仕組みだった。


「生命ではありません。ですから、壊れても誰かが悲しむ必要はない。種族が怨嗟を抱くこともありません」


淡々とした説明が続く。


「ヴァーミリオンの騎士と戦っても、そこから何かが生まれることはない。戦いを挑んだ者だけが傷つくのです」


そして、スカーレットは小さく息を吐いた。


「毒だと分かっていて、それをわざわざ飲む者は稀でしょう?」


スカーレットはアウレリアを見る。


「これがヴァーミリオンの騎士であり、私というモノの説明です」


アウレリアは、何も答えなかった。


レオニスもまた、すぐには言葉を返せなかった。


戦いを止めるための制度。


そして、それを可能にする騎士。


話だけを聞けば、恐ろしいほど合理的だった。


戦争は良いものではない。


ならば、その矢面に立つ存在を一人だけ用意すればいい。


それが人間ではなく、人形ならば。


壊れても、誰も悲しまない。


殺されても、復讐する者はいない。


一人を犠牲にすることで、多くの人々が血を流さずに済む。


理不尽な悲しみさえ、なくせる。


レオニスの背筋に、冷たいものが走った。


確かに、それは正しいのかもしれない。


戦争を終わらせる時、人は時に言う。


――もう、これ以上の流血はたくさんだ、と。


その言葉を実現する方法が、目の前にある。


ならば。


その方法を選ばないということが、本当にできるのだろうか。


レオニスは答えを出せないまま、ただスカーレットを見つめていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「でも、レイラは言ってたわ。『ヴァーミリオンの騎士』の制度は廃止されたって」


アウレリアは、まっすぐスカーレットを見た。


「……それは何故?」


「……わかりません」


スカーレットは静かに首を横に振った。


(そうだった)


レオニスは、アウレリアの言葉で思い出した。


ヴァーミリオンの騎士としてスカーレットは存在している。


だが、その制度そのものは、現在の魔王国から消えている。


レイラでさえ、その理由を知らなかった。


(この合理的な答えを、魔王国は否定したんだろうけど……)


では、なぜなのか。


レオニスには、その答えがまだ見えなかった。


「まあ、そんなことは、正直どうでもいいことだから」


アウレリアは、あっさりと言った。


「別に、あたしはそれを知りたいわけじゃないのよ」


そして、スカーレットへ向き直る。


「そんじゃ、スカーレットの問いに対する、あたしの答えを言うわ」


先ほど投げかけられた問い。


――あなたは、これでも私を助けたいと考えるのですか?


「もちろん。スカーレットが望むなら助けるわよ」


迷いのない声だった。


「あたしから言い出したんだから」


「……」


「いったい何を言われたのか、よくわからなかったけど」


アウレリアの表情には、悩む必要があるのかという困惑すら浮かんでいた。


むしろ、問いを投げたスカーレットのほうが驚いている。


「私は、人ではないのですよ!」


「うん」


「……うん?」


「まあ、気が付かなかったかな?」


「あのですねぇ!」


スカーレットの声が、初めて大きくなった。


「いや、そんなこと言われても、あたしたちが困るのよ」


アウレリアは困ったように頭を掻く。


そして、隣にいるフィデリアへちらりと目を向けた。


「あたしは気にしないけど、フィデリアは人間じゃないらしいのよ」


「え!?」


スカーレットの目が見開かれた。


「だから、人間じゃないってことを理由にされても、今更って感じなのよ」


「…………」


言葉を失ったスカーレットを前に、アウレリアは本当に困った顔をしていた。


(……確かに、今更だが)


レオニスは心の中で呟いた。


(困る)


グラーディスも、イシュリアンも同じことを考えていた。


完全に忘れていた。


自分たちはすでに、人間とは異なる存在と共に旅をしている。


その存在を仲間として扱い、笑い、悩み、時には支え合ってきた。


ならば。


スカーレットの問いに対して、自分たちが答えを持っていないはずがない。


少なくとも――。


アウレリアには、最初から答えがあったのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(大きく考えることが大事なのか。小さく考えることが大事なのか。それすら気にしないことが大事なのか)


レオニスは、苦笑するしかなかった。


難しい理屈など必要ない。


大切にするものは何なのか。


その答えを、アウレリアは当たり前のように口にしている。


「あ、言っとくけど」


そんなアウレリアが、スカーレットへ釘を刺した。


「スカーレットが間違ってるって、あたしが思ったら、助けるのはなしだからね」


「……」


「そうなった時は、あたしはスカーレットを敵として止めるから」


スカーレットは、しばらくアウレリアを見つめていた。


そして、呆れたように小さく笑う。


「……わかりました」


その表情には、先ほどまでとは違うものがあった。


「アウレリアという人が、少しわかった気がします」


それからスカーレットは、勇者一行を見回した。


そこには、どこか同情するような視線があった。


「貴方達は、苦労しますよ」


冗談めかした言葉だった。


レオニスは、無言のまま視線を返す。


(実際、苦労していますよ)


そんな思いを込めて。


だが、アウレリアに対する抑止の役目を負う二人は違った。


「……そうですね」


イシュリアンが生真面目な表情で頷く。


「アウレリアが間違ったことをしないように、よく見張っておきます」


「まあ、アウレリアなら、そういったことはないと思うがね」


グラーディスも苦笑する。


(……そんなことになられては、困る)


二人とも、それが本心だった。


ただ一人。


フィデリアだけは、何も言わなかった。


そんな一行を見つめてから、スカーレットはゆっくりと剣を掲げた。


「……もし、私がアウレリアの目から見て、間違ったことをしたと判断したなら」


その声は静かだった。


「必ず止めてください」


「わかった」


アウレリアも聖剣を抜く。


白銀の刀身が、静かに光を返した。


「では、改めてアウレリアにお願いします」


スカーレットは、まっすぐ彼女を見る。


「この街に対する脅威を排除するために、私に力を貸してください」


「うん。わかった」


短い返事だった。


けれど、それで十分だった。


アウレリアとスカーレット。


二人の剣が、誓いを交わすように軽く触れ合う。


甲高い金属音が、静かな教会に響いた。


それは、王国の勇者と魔王国の騎士。


異なる立場にある二人が結んだ、同盟の証だった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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